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挫けぬ者、敗れざる者

リュウ視点。


出てきたね、白樺兵は。


そうだろうそうだろう、なにしろもう三日目。泣いても笑っても、イベントは今日一日。残り時間はスタートした時点でニ時間を切っているのだ。


打てる手は打てるうちに打っておかなければならない。その打てる手というのが、ネームドプレイヤー狙いか。先ほどまでは私たち『災害先生』を狙っていたというのに。とんだトーンダウンだ。そこから導き出される解は?



「いよいよ窮したか、白樺軍!!」



目標の下方修正、それは『あれだけ攻め立てて先生方を討ち取れなかった。故の目標変更』としても構わないだろう。事実、彼女らは総攻撃を仕掛けておきながら、災害先生のひとりも討ち取れなかったのだ。


軍としての士気の維持を目的としているのだろう。今さら勝利条件の足しにもならない、ネームドプレイヤーを狩っているのは……。



『と、私は思うのだが士郎さんはどう思う?』



個人無線で意見を訊いてみる。



『あぁ、ここへ来てジャリ相手とは何考えてんだ、って思ってたが。それなら合点がいく。だがリュウさん、そう見せかけてということもある。油断は禁物だぞ』

『おうよ、なら死に帰りが復帰してくるまで、負傷者を余計に拵えておくかい?』

『だな、いちいち死に帰られては面倒だ!』




生徒会長視点。


マップに動きがあった。



「先生方、出てきました! 負傷者が発生してます!」



書紀ちゃんたちの報告。



「人数を割いて、先生方の邪魔をして!」



これまで通りの指示が飛ぶ。だけどそれでも、いくらネームドプレイヤーを狙いうちしても直接勝利条件には影響しない。そしてネームドプレイヤーの数が減ったところで、先生方にはなんら影響を及ぼせないだろう。そんなことは知っている、わかっている。だけどそれを私の口から言う訳にはいかない。


イッちゃんたちが立てた作戦。私はそれを信じて黙っているしかないんだ。参謀たちが立てた作戦を、疑うようなことをしちゃいけない。彼女たちが困ったときにだけ、私は立ち上がればいい。各隊から悲痛な叫び声が届く。



「第一小隊長、負傷っ!!」

「まだ負傷などしていない! 槍を杖にすれば、まだ立てるっ!!」

「やられましたっ!」


「小手をやられただけなら、槍を脇に挟んで立ち上がれっ! まだ戦えるぞ!」

「壁になる! 私たちが壁になるから、健在な小隊はまだ突っかかるな!」

「トヨム小隊長を囲めっ!! ……って、動きが速すぎです! 捕らえられません!」



負傷者たちも立てる者は立ち上がり、壁になってはまたやられている。数が……優位であった数の面でさえ、先生方に削り落とされてゆく。




カエデ視点。


強い、やはり先生方は……。窮地と見えても即座に対応、危険と見れば速やかに芽を摘む。そして思うがまま、リクエストの通りに、敵を痛めつけてくれる。



「何故そんなに強いんですか?」



私が問うたならば、リュウ先生は答えてくれるだろう。



「毎日稽古してるからね」

「何かを犠牲にしましたか?」



私が訊いたなら、士郎先生はイヤそうな顔をするだろう。



「カエデさんはそういうことを訊く」



でもフジオカ先生は、目を細めて答えてくれるはず。



「なにかを犠牲にしたかもしれないけど、気がつかないくらい夢中になって稽古してたなぁ」

「稽古はどこまで続いて、どれだけ強くなりたいんですか?」



きっと緑柳師範が言うんだろうね。



「寿命がきたら、稽古はお仕舞さ。それまではどこまでも強くなりたいんじゃよ」

「何故そんなに強くなりたいの?」



そう訊いたなら、先生方は待ってましたって顔で答えるんだ。



「「「だって俺たち、男なんだもん」」」



でもね、先生方。世の中は先生方のような『男の子の時代』じゃないんですよ?

『強い? プププッwww』

『お前らが腕力振るったら、ソッコー刑務所じゃん』

『っつーか、それしか出来ないんでしょ』



世界はもう、鬼や怪獣の居場所が無いんです。


だから、『王国の刃』という世界にやってきた。生涯を懸けて磨いてきた技術を、思う存分振るえる世界に。そして存在意義を掴んでいる。

ただ強いというだけでなく、『こんな技術もあるんだよ?』『こんなことできたら楽しいよね?』『君たちはまだまだ強くなる!』って、ホメてくれて伸ばしてくれて。私たちにとって、かけがえの無い先生であり続けてくれている。


武ってなんですか? 強いってどういうことでしょう? だれもが考える、当たり前の疑問。



『熱心であればあるほど面白え』



士郎先生は言うんだろうな。



『悩め悩め、迷え迷え。……まるで、恋みたいだな』



フジオカ先生は笑うでしょうね。



『百人いたら百通り、それが武であり強さじゃろ?』



緑柳師範なら、そう言って私たちに丸投げ。

じゃあ、リュウ先生は? 腕を組んでウンウン唸って、ひとりひとりに違う答えを出そうとしたりして。


以前言ってたなぁ、リュウ先生。友人と飲んでたときにぐうの音もでないくらいに、古流の存在意義の無さを説かれて。それで『王国の刃』にやって来たって。


だけど私は簡単に言っちゃうかな?


『NO LIFE.NO MUSIC』。音楽無ければ死んだも同然、そんな言葉がまかり通ってるんだから『NO LIFE.NO

武術』っていうのもアリなんじゃない?


好きだからやってる、好きだから技術も磨く。役に立つ、立たないじゃなくって、好きだからやってんだ。そういうのがイイと笑うは思うなぁ。とにかく、ダラダラ語っちゃったけど、今すぐ先生方は世界でイチバン頼もしい四人組なんだ。





リュウ視点。


叩きのめした、打ちのめした。七〇〇いた白樺軍、そのことごとくを負傷させ這いつくばらせた。残るは、生徒会長を中心とした本陣。そしてそれを護る一部の小隊だけだ。


討つか……私たちは前に出た。


正直、苦杯をなめるように這いつくばった白樺兵たちで、足の踏み場もない。



しかし、私たちを追い抜いて、奴は颯爽と現れる。黒いマントをなびかせて、黒光りするブーツを見せつけて、真っ白な軍服を輝かせて。


陸奥屋まほろば連合総裁、鬼将軍だった。


奴の眼差しは、わずかに残されたひと握り……いや、それ以下のひとつまみほどの生き残りを、真っ直ぐに見据えていた。



「これでおしまいかっ、白樺の乙女たちよ!!」



刺すような物言いだ。確かに、学園の存続を目指して立ち上がったのは彼女たちだ。そして勝利を掴むための準備期間は十分にあり、熱心に学んでいた。


だからこそ、これで諦めるのは勿体ない。このように無惨とも言える状況はあってはならないことだ。しかしその反面、私たちを相手によくぞここまで戦ったとも評価したい。


まがりなりにも、一度は私たち『災害』が番を張る前線を抜いたのだ。このようなことは過去に例が無い。だからこそ、奴は心を鬼にして言うのだ。



「望みを叶えたくば、立ち上がるしかないのだっ! 寝ていてひっくり返っていて、叶う望みなど存在はしないっ!!

学園を残したいという思いがウソでなければ、さあ立ち上がれっ!!」



檄だ、励ましだ。そして『もうダメだ』というところから、本当の戦いは始まる。そのことを、この男は知っているのだ。


戦いの味、それを知っていればこそこの惨状での奮起を期待する。力ではない、技でもない。策略でもない。もちろん正直のためにはどれも必要だ。


だが自分たちたちよりも強い者は、世界には数多い。それらの強者をなぎ倒さなければ、望みは叶わないものである。では己よりも強い者に対して、君たちはどうする、どう戦う。


力で負け技で負け、策略も通じない。それでも勝つためには……! 勝つためには? その答えを、白樺の乙女たちは自ら示した。


槍を杖に、剣を杖、そして薙刀を杖に。白樺の乙女たちはまた立ち上がる。



「ふざけるな鬼将軍っ!! 何様のつもりで能書きたれてるのよっ!」

「そうだそうだっ! ちょっと休んでたくらいで焦れちゃうなんて、あせり過ぎなんじゃないのっ!?」

「中二男子そのまんまじゃん、待ってなさい! お姉さんがいま、可愛がってあげるから!」



「立ち上がっただけではホメてはやらんぞっ!! 見事に先生方を葬り、この私の首を落としてみよっ!!」



そう言い残して、鬼将軍は本陣へとさがる。帰り道も立ち上がった乙女たちで一杯だ。だからかなめさんが護衛についていた。さあ、合戦本番のようだな。


杖をついてまでして立ち上がった白樺兵たち、生半可な攻めでは諦めてはくれないぞ。死人部屋へと送るか?

それとも手足をボキ折って、立つも這うもままならないようにしてくれようか。


……決定、血も涙もないように思うかもしれないが、私の仕事は……彼女たちの意志を挫くことである。さらなる困難を与えるため、私は……徹底的に手足をへし折る!



『おう、リュウさんはどうする?』



個人通信で、士郎さんが訊いてきた。



『決めたよ、手足を折って這いつくばらせる』

『俺も同じことを考えていた。変に死人部屋へ送ったら、こいつらピンシャンして帰ってくるからよ。油断はいけねぇ』



ヒロさんと緑柳師範にも訊いてみた。もちろん答えは同じである。



「さあ、かかってこい」



背後の敵にも注意を払い、私は木刀を構える。背中を守るように、トヨムがピタリと背中合わせ。



「ダンナ、どうする? こいつらいくらブチのめしても、立ち上がってくるよ」

「うろたえるな、トヨム。白樺兵にはもう、それしかないのだ。的確に手足を折ってやれ」



くカエデさんからも、同じ指示を受ける。やはりここは丁寧に、決して油断することなく仕上げなければならないのだ。


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