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二日目終了

リュウ視点。


手槍を構えた白樺軍の一人が叫んだ。



「鬼が出たぞーーっ!! 鬼が出たぞーーっ!」



そうだ、イベント二日目最前線陣地に、鬼が出た。傷ついていても手加減はしない、女子であろうと容赦はない。ひと度刃を向けられたなら、敵と見なしてすべて斬る。それが剣士という鬼なのだ。



「遅れるなっ、会長に続けーーっ!!」



さらには、待機していたはずの白樺軍生還者四〇〇まで突っ込んできた。なにか理由があって待機していたのだろうが、それで良い。そこで突っ込んでこなければ、戦士を名乗る資格は無い。


イノシシ武者というのは、賢明なる読者諸兄ならば忌避すべき存在であろう。だがそれも、時と場合による。征くべきとき、征くべき場合においては、征かなければならない。そのときに立てぬ者は、怯懦卑怯と罵られても仕方ないのである。



「孤立しないでください! 必ず近くに味方を置いて、突っ込み過ぎないでください!」



カエデさんからも指示が飛んでくる。この展開が予想外だったのか、切羽詰まった声だった。トヨムを見た、が、敵に遮られて姿が見えない。

それでもフラッシュの演出エフェクトで、生存が確認できた。時折敵兵も垂直に打ち上げられていた。


他のメンバーは!? 隙をみて周囲を見渡す。


マミさんは敵の槍を絡め取って、囲みを作ろうとする敵の目的を挫いていた。セキトリはメイスを横に構え、押し込んでは引いて引いたと思えば、出てくる敵をホームランにしている。


シャルローネさんは?



「うひゃっほ〜〜い、狩り放題だよ〜〜ん♪」



まあ、心配はなさそうだ。


そうなると私だ。敵は前に右に左に、決してこの場を突破はさせていないが、それでも次々とわいて出てくる。これを情け容赦なく撃ち倒し、なぎ倒した。


が、なかなかに手強い。イベント最中にも関わらず、時間経過だけで成長しているかのようだ。開幕当初は「突きに気合いが乗っているな」という程度の腕が、一端いっぱしの陸奥屋戦闘員に達している。


段位のひとつくらいならば、持っていきやがれと言いたくなるほどだ。


ただし、技が無い。それを仕込むには彼女たちの条件が厳しすぎたのだ。なんでもいいから、とにかく四先生を倒さなくてはならない。


そして総大将の御首みしるしをあげなければならなかったのだ。その条件であるのなら、さらにド素人の集団をまとめて教えるということで、細かな技など仕込むことはできなかった。


ただ気迫、そしてやり抜くのだという根性。これを磨くしか手は無い。


そして手塩にかけて育てた少女たちを、いま私は打ちのめしている。小手だ胴だと遠慮はできない。一人前の兵士として扱い、死人部屋へと送り込んでいる。



まったく矛盾した話だが、手加減していてはこちらが飲み込まれてしまうというものだ。彼女らはそれほどまでに育っていた。そして撤退の度に、強さを増している。



「若いって奴はよ……」



鍛え続けてきた日々、そして一心不乱という恐ろしさに、私も舌を巻いていた。



「マミヤさん撤退! 槍組から一名、応援を出してください!」


なにっ、『マヨウンジャー』のマミヤさんが死人部屋へ?


ついに前線から撤退が出たか。指揮を執るカエデさんの声が教えてくれた。



「よっしゃーーっ、コリンちゃんのとなりは、俺が守ってやるぞーーっ!!」



コリンちゃんというのは、度々本編に出演いただいている『マヨウンジャー』メンバーのひとり。幼さの残る金髪オールバックのお姫さま、小柄で華奢な女の子だ。


陸奥屋一党軍においてはロリコンのプレイヤーたちに大人気である。ということで喜び勇んだ態度を示したあの槍組メンバーはロリコン確定である。もしかしたら陰で組織されている、コリンちゃん親衛隊のひとりかもしれない。



そして私の前には、白樺軍の二個小隊が。



「一年五組第二小隊っ、正面からいきます!」

「わかった、第三小隊は左へ回り込むぞ!」


ほ、どうやら無謀無策だけでなく、私を討ち取るために考えているようだな。それで良い、私がいくら達人とはいえ、正面の敵を相手していれば側面は隙ができる。そこを突けば良い。


ただし私も経験値というものがある、正面の敵も回り込んできた向かって右側の敵も相手にせず、黙って左側の敵を打ち据えた。ほらね、いただろ? 隠し玉が。


衛生兵を除いた一個小隊が、私の左側にこっそりと忍び寄っていたのだ。そこから一閃二閃、電光のように木刀が疾走る。さらに体当たり、十五人掛かりの攻撃陣を切り崩した。



「クッ、これもダメか!!」

「どこまで強いんですかっ、あの男っ!!」



口惜しいだろう口惜しいだろう、考えれ考えれ、悩め悩め。自分が必死なら相手も必死、人と競い合う人と争うというのは、こういうことなのだ。


ということで敵も増えてきた。脇構えに剣をとる。そこから前進しながら斬り上げ胴の連打。当たるを幸い、みんな死人部屋に送ってやる。


十字掛け、柳心無双流初伝十二本目の技である。これに袈裟斬り、逆袈裟を混ぜ込むと裏十字掛けという目録技になるのだが、そこまでは見せてやらない。



「撤退命令、撤退命令っ! 可能な限り本拠地へ戻れーーっ! 負傷者は見捨てるなっ!!」



白樺女子に帰還命令が出たようだ。また殿を選出して、後退してゆくようだ。


……そうか、生徒会長が戦死、撤退したようだな。だからもう一度本拠地から仕切り直し、ということか。


だが、それはよろしくない手だ。



「敵は後退します! 数が揃わないように、脚を打ってください!」



周囲に指示するより早く、カエデさんに言われてしまった。ということで私にむらがる殿兵士は、すべて脚を奪う。負傷者たちを乗り越えて、さらに脚を打った。しかし今回は敵も逃げるのが上手くなったか、二〇〇程度しか討つことができなかった。



「防御陣形復旧、防御陣形復旧。深追いは無用です、すみやかに配置へ戻ってください。間もなく二日目は終了です」



カエデさんからの告知だ。戦うことにばかりかまけていたが、確かにもう二日目も時間切れだ。どうせなら万全の状態で、最終日のスタートを切りたい。


みんな駆け足で元の位置に戻り、二日目終了の銅鑼を聞いた。イベント会場から追い出される、追い出される、追い出される。ごった返しになった、闘技状ロビーへと。


本来ならば移動選択のふたつくらいで、『まほろば』本殿へと移動はできる。しかし陸奥屋まほろば連合は常に徒歩で帰還する。


都大路を征く新選組か、宿敵の首級を挙げて日本橋を渡る赤穂浪士のように、凱旋のような帰還をするのが常であった。おそらくは鬼将軍の趣味なのだろうが、まあその程度の趣味ならば付き合ってやってもかまわない。



『のう、リュウ先生や』



小隊無線でセキトリが話しかけてきた。つまりこの通話はトヨム小隊のみに聞こえるものである。



『いよいよ敵も圧力をかけてきましたわい。こりゃ狼牙棒部隊の復活ですかいのう?』

『フフフ、セキトリは狼牙棒が好きだなぁ』



私は鬼将軍を囲む四先生たちの一角を担っている。当然会話は小声であった。



『そういう訳ではないんじゃが、これだけキル取りに作戦が傾いとるんじゃ。狼牙棒を使った片足が早かべぇ、と思いましてのう?』

『マミさんもそう思いますよー? そろそろ大きく突き放して、敵の士気を挫くべきだと思いますー』

『シャルローネはどう思う?』



トヨムが訊いた。



『ん〜〜……言い分なるほどごもっとも。だけど反対の意見を聞いてもごもっとも、って思いそうですねぇ?』

『なるほど、アタイも半々ってとこだね。なにしろ本陣から、まだ号令が出てないからさ。ダンナはどう思う?』



トヨムに話を振られた。では率直な意見を述べさせてもらおうか。



『私はトヨムの意見に近い。だがもう少し深掘りするならば、この無線が聞こえてるはずのカエデさんが、なにも言ってこない。……なにか事情があるのかもしれないね』



ということで、この話題は中途にして、まほろば拠点本殿道場に上がる。


小隊ごとに固まり、正座した。いわゆる達人先生を含んだ小隊は、最前列である。登壇した鬼将軍と、天宮緋影も着座。全員で一斉に座礼。




「私という男は、なんと愚かであることか」




意外な枕で、二日目終了のお言葉が始まった。



「私はほんのイタズラのつもりだったのだ。檻の中から、可愛らしい仔猫を野に放ったつもりであった。しかし、それは間違いだった」



おう、あんまり空気をヒリつかせるなよ大将。しかし鬼将軍の鋭い眼光は、一五〇の精鋭たちに緊張を強いた。



「おそるべきかな、白樺女子軍。彼女らは可愛らしい仔猫などではなく、獰猛な虎だったではないか。それも突撃撤退を繰り返す度に、より強くより獰猛に成長してゆく白い若虎だよ」



後方に座する若い同志たちが、ザワつく。彼らは白樺女子とほとんど交戦していないからだ。


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