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着火

リュウ視点。


私の檄が効いた、などと慢心したことは言わない。だが結果として白樺女子兵は前に出てきた。ジワリジワリ、時間を稼いでいる。その間に負傷者を救助しているのだ。


それに、フレンドリーファイアが無いとはいえ負傷者がそこら中に転がっていては足場が悪い。


そうか、足元不如意か。……それならば。


投げ飛ばされて、まだ息のあるもの。あるいは小手やヒジにしかダメージの無い者。これらを選んでヒザやスネを折って回る。負傷者の中でも『移動不能』の重症者を作ってやった。自力帰還ができない、つまりこうした負傷者は救助を待つしかないのだ。敵の手を煩わせるという意味では有効である。



私を取り囲むように、手槍を構える女子兵士たち。その間合いは一足一刀では届かず(私の一足一刀の間合いは、常人よりも遥かにある)、そして彼女らの足元には負傷者が転がっていた。手槍の兵士に守られながら、他の女子兵や衛生兵が負傷者を回収している。


だが、負傷者を回収すればするほど間合いはつまる。あるいは衛生兵が危険を冒しながら、私の間合いに入り込もうとしていた。



うん、ニラメッコをしていても始まらないな。お見合いをするには相手の年齢が若すぎる。と思っていると、手槍兵の陰から人数が飛び出してきた。


一気に間合いを詰めてきて、というか負傷者たちを乗り越え飛び越えして、私に突き込んできた。一度に襲いかかる人数は、三人まで。それ以上の人数はお互いを邪魔して効率が悪い。しかしそれは現実世界の話である。


フレンドリーファイアが存在しないゲーム世界、自分の刃で味方を傷つける心配など無い。五人で襲いかかってきた。兵法の定義に則って、各個撃破をねらう。


まずは右端の者を小手打ちから。あふん♡ とヨロめいたところを電車道、木刀で押さえつけて押し込んでやる。これだけで三人がコケた。


コケた兵士のヒザを、イチニっサン!

と踏み砕いて、四人目は木刀で手槍を巻いてやる。少女兵士は私に振り回され、五人目と衝突。蹲踞になった私は、木刀で脚を叩き折ってやった。



……十秒はかかってしまったかな?

二人一組、五チーム以上で負傷者を回収していれば、白樺軍の黒字。しかしこれを繰り返していては、試合時間という視点で大赤字になる。どうする、白樺軍。私は待っているだけで黒字を稼げるぞ?



「なんのっ、敵陣はリュウ先生ひとりだ! 突っ込めっ!!」



果たして、それはどうだろう? 勇を鼓して覚悟を決めた途端、号令をかけた少女兵が宙を舞った。



「おんやぁ〜〜? リュウ先生そっくりな人がいますよ?」

「私だよ本物だ、シャルローネさん」



そう、私ひとりに殺到していた白樺軍は、陸奥屋一党により包囲されていたのだ。それがいよいよ数を減らし、私の元へ到着している。その一番槍がシャルローネさんだったのだ。



「早かったね、シャルローネさん」

「武器が武器ですからねー♪ スネ刈りヒザ刈りには持って来いなんですよ」



死神の大鎌をかざして、ニュフリと笑う。とにかく、これで私はひとりではなくなった。



「死神シャルローネだっ!」



叫んだのは、白樺女子の……小隊長なんだろうな。退け、退け! と号令を飛ばしていた。



「ダメです、退路にも『災害』先生とネームドプレイヤーたちが!」

「切り拓けっ!! 退路を切り拓くんだ!」



なかなかの恐慌状態のようである。とはいえ、退却は正解だ。達人先生を含んだネームドプレイヤーたちの包囲陣、一度この陣に包まれてしまったなら、負傷者が増える前に退却した方が良い。包囲の中こそ、デスゾーンに他ならないのだから。


それくらいに、我々と彼女らの戦力差は絶対的なものであった。



「今度は逃さないぞ、行こうシャルローネさん!」

「ホイ来た、リュウ先生♪」



私たちは逃げ惑う白樺兵士を背後から打ち据えた。



私ひとりに狙いを絞っての果敢な突撃。それ自体は良い作戦と言える。いたずらにあちこち手を出すよりも、一点突破の方が効果的である。


しかし、兵をただ突っ込ませるだけというのはいただけない。そのおかげで白樺軍は四〇〇まで戦力を減らしてしまった。……私ならばどうするかな?

あるいはカエデさんならどうするだろう。


そう、カエデさんだ。過去に私たち『災害先生』四人からキルを取った、唯一のプレイヤー(ただし非公式)。



彼女は私たちが『人間である』ということを証明してくれた。そしてここが現実世界ではなく、『ゲーム世界』であることを利用していた。忘れてはいけない、私が倒せる相手は『一度に一人きり』なのだ。それを補うために投げ技を使っている。崩し技はそのために使っているに過ぎない。


私を始めとした四先生というのは、神さまではないのだぞ。それを忘れないでもらいたい。壁というのは建築中ならばいざ知らず、出来上がってしまった壁ならば乗り越えられないということは無いのだから。


いや、私とて建築中に違いない、ただ建築速度以上の速度でよじ登る必要があるだけだ。敵も思案しているに違いない。動きが止まってしまった。



生徒会長視点。


緊急招集、白樺女子軍作戦会議っ!! って、ホントはそんな立派なものじゃない。みんなが一斉に口を開いてくる。



「やっぱりダメです、生徒会長っ!!」

「あんな怪物手に負えません!」

「もう半分近くやられちゃったじゃないですかっ!!」



恐れていた事態だ。あれだけ狂気の突撃を繰り返していたみんなが、心折られて普通の女の子に戻ってしまっている。



「どうするんですかっ、生徒会長っ!」

「なんとかしてくださいっ!」



私は全員の訴えを聞き尽くした。ただ、聞くことにのみ専念した。そしてみんな言葉を出し尽くしたところで。



「……言いたいことは言い尽くしたわね?」



みんなを見る。……誰も何も言わない。



「よかった、みんな現状をなんとかしようという意志はあるのね? 誰ひとりとして、負けたとか逃げようとか言ってない」



そうだ、私たちは現状をどうにかしようとしている。ただ、その手段を見つけられないだけなんだ。



「標的を変更、護衛がすこしだけ弱い緑柳師範を狙うことにするわ」

「いや無理無理無理」

「この突撃で勝つことは、ね。でも弱点を見つけ出すことくらいはできるかもよ?」


「お言葉ですが会長、それは兵を消耗するだけかと」

「だから、私ひとりで行く! みんなは緑柳師範の穴を見つけてちょうだい」



リュウ視点。


手槍片手に、チンチクリンが一人出てきた。……生徒会長だな、あれは。他の生徒たちは、後ろに控えている。彼女は手槍を突き立てて胸を張った。



「これよりっ、白樺女子軍の突撃を行うっ!! 構えーーっ!」



……構えたな。



「突撃ーーっ!!」



突っ込んでくる、私にではなく緑柳師範目掛けて。どういうことだ? 他の生徒は見ているだけじゃないか。


そして、ぽーーんと弾き返される。まあ、当然のことだ。よく飛んだ、五メートルは弾き返されたか。しかし起き上がった生徒会長は、再び手槍を構えて突っ込んでくる。



カーーンという乾いた音、そしてまたも弾き飛ばされた。地面に叩きつけられて、ピクッと一度痙攣。しかしムックリと起き上がり片手で手槍を取った。小手をやられたのだ。



「なんのっ! まだまだーーっ!!」



十分に生徒会長を引きつけて、ボキッという音からの投げ技。また五メートル飛ばされて、生徒会長の墜落。手槍を杖に、片足で……ヨロめきながら立ち上がった。



「まだよっ……まだまだっ……!!」



驚いた、まだやるというのか? しかもだ、何度投げ飛ばされても立ち上がる生徒会長に応えるように、脚を砕かれた兵士たちが起き上がりだしたのだ。



それもだ、回復のために自軍へ戻るのではない。槍を杖に脚をかばいながら、前進してくる!



「……ダンナ、どうする?」

「緑柳師範の獲物だ、手を出すことはできん……」



つまり、配置を放り出すことはできないという意味だ。というか、本音を言えば生理的に関わりたくない敵である。


だがしかし、だとしてもだ。



「あのー、リュウ先生ー。大変に申し上げにくいのですがー……」



マミさんがくちごもるが、前方を確認して、私も戦慄した。


白樺軍負傷兵たちが、私にも向かってきたのだ。士郎さんにも、ヒロさんにも。


これは……両脚を折るか? いや、それだけでは足りん。こいつらは全員、這いつくばってでも手向かいしてくるだろう。



敵に腕をやられたら、蹴り殺せ。脚もやられたら噛み殺せ。歯もやられたなら睨み殺せ。それもダメとなれば、死して敵を七代まで祟り殺すのだ。確かに、そのように教えた。


それが戦いであると鍛え抜いた。心まで鋼とするために。


そのツワモノが、私たちに刃を向けてきたのだ。



「来たぜ、トヨム……。過去最強の軍団が、俺たちの命をねらってやがるぜ……」



口調まで変えられてしまう、殺気。



「トヨム、号令をかけてくれ、みな殺しだってよ……」

「わ、わかったよ、ダンナ……」



前線小隊、『災害』先生たちとネームドプレイヤーたちへの一斉送信。



「キル・エム・オール!! キル・エム・オール! みな殺しにしろっ! こいつら今までで一番の強敵だ、やっちまえーーっ!」


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