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この波に乗る

リュウ視点。


白樺軍が陣形を整え、突撃命令が下された。やはり、かかってきた。猛然と、勇敢に。しかし、今度は勝手が違う。五〇〇人にもなる白樺女子たちは、一直線に私目掛けて突撃してきたのだ。



「リュウ先生中心、包囲陣! 包囲殲滅陣!!」



カエデさんの号令が飛ぶ。私へと迫る敵の軍勢、しかしその一部が分離した。



「トヨム、気をつけろ!!」



私の耳に「みぎゃっ」、という悲鳴。トヨムは六人の白樺兵におしくらまんじゅうにされてしまった。動けない、つまりそこが隙となった。またもや白樺兵が前線を突破した。



「二陣は突っかからないで、今度の突撃は負傷者回収でしかありません!! 下手に動くと二陣まで突破されてしまいます!」



その通り、ここはガッチンコの正面衝突をする場面ではない。敵は戦力を回復するのが目的。こちらとしても敵が戦力回復したところで、開幕序盤に戻るだけ。なにも痛いところはない。


むしろ、これだけ必死の戦闘を繰り返して戦果の無い、白樺軍に精神的負担が大きいはずである。


私たちの損害といえば、せいぜい二度の突破を許した、というだけのこと。それでさえ、これからいくらでも挽回できるのだ。


二人一組で負傷者を引きずり、あるいは素早く回復ポーションを与え、白樺兵たちは逃げ去ってゆく。


私たちは一点突破態勢の白樺軍を押さえるので手一杯。逃亡兵たちからすれば、安全な帰り道といえた。私たちとしては手土産持たせてお見送り、というのは面白くない。しかし、それは敵も同じ。


すぐ手の届くところに鬼将軍の姿を見ていながら、指をくわえて帰還しなければならないのだ。そう、両軍ともここは我慢の展開なのだ。


そして私たち、前衛部隊も同じだった。ここで脚のひとつも蹴り折ってやれば、負傷兵の数を出せるのにそれができない。敵は密集しているので負傷兵はすぐに後方へ戻されるし、回復ポーションを使われてしまう。そんなことに気を取られるよりも、キルを稼いだ方が話が早いのである。


すると、白樺軍はまたも撤退してゆく。振り返って背後を確認すると、先ほどまで蠢いていた負傷兵たちが、キレイさっぱりといなくなっていたのだ。



「白樺軍撤退、一度負傷者と欠員の確認をします!」



カエデさんの声だ。タイミングが良い。敵の目的を達成させてしまった感で締めるのではなく、こんな突撃を受けても我が軍に揺るぎなし、と締めるつもりなのだ。当然のように、私たちに負傷者はいない。相撲で言えば敵に散々暴れさせて上で、取り直しの軍配をあげさせたのだ。


そして総獲得ポイントでは、私たちは圧倒的優位に立っているのである。というか、まともなダメージはもらっていない。白樺軍に対して私たちはパーフェクトゲームを遂行中なのだ。



カエデ視点。


みすみす敵の戦力を回復させてしまったけど、私たちの優位は変わらない。今回敵の作戦が功を奏したのは、攻撃を仕掛けて来なかったからだ。


ただただ負傷者の回収に専念し、戦闘そのものは放棄していたからにほかならない。


ということで、最終的な目的である鬼将軍の首級をあげ、四先生を討ち取るという部分に近付けたのは、ただの一度きり。最初の前線突破を許したところ。あの一点しかない。


それとて二陣と前衛によって頓挫した作戦だ。敵としては、やはり四先生を倒さなくては目的を達成できないと踏むはずだ。事実、その通りなのだから。



「とはいえ、頑張るではないか……白樺兵は」



鬼将軍は感心している。私からすれば、陸奥屋一党に勝てる手などそうそう有りはしないのに、策をちょっと見せびらかし過ぎなマヌケ参謀がいるとしか考えられない。そうでなければ、熱くなり過ぎなのではないかと。



「確かに、素晴らしい精神力です」

「そこに敬意を表して、今一度徹底的にわからせてやるというのはどうだろう? 念入りに、かつ執拗に」



そうね、明日は朝一番から狼牙棒部隊を編成して、手も足も出ないうちに叩きのめすのが良いわね。



「かしこまりました、明日は朝一番から狼牙棒部隊を編成し、徹底的にかつ執拗なまでに敵を粉砕してくれましょう」



ほら、ヤハラさんもああ言っている。早速編成準備にかからないと。



「参謀長、君は本気で言っているのかね?」



へ? ナニ言ってるの、鬼将軍?



「ここは君たち参謀に対してだけの言い方だ……。狼牙棒部隊など編成していては、負けるぞ!」

「あんたこそ本気で言ってんの、鬼将軍!? 狼牙棒部隊こそはこれまでの戦いを有利に運んでくれた、最強部隊じゃない!」



あ、思わず言っちゃった……。だけど狼牙棒部隊って、実質私が考えたようなものだし、それを否定されちゃかなわないわよ!

……もう、言っちゃったものはしょうがないわね、私は鬼将軍を睨みつけるしかない!



「ふむ、同志カエデには説明が必要か。無理もない、狼牙棒部隊は君が私を叩きのめすため、懸命に考え抜いたものだからね」



なによ、わかってるじゃない。でも、一度睨みつけたもの、引っ込みがつかないじゃない!



「狼牙棒部隊こそは必勝最強の編成、私もそこに異論は無い。しかし今回は私の予想以上に、相手が悪いのだよ」



……相手が悪い? 白樺女子会が?



「今回のイベントを振り返ってみたまえ。序盤こそ戦闘不能者の量産、衛生兵を死人部屋送りにすることで、優位に立っていたではないか」



そりゃそうよね、プラン通りなんだから。



「では一陣、前衛を突破されたのは?」



鬼将軍が檄を飛ばして……キルを取るようになってから!?



「彼女らは精神力を武器に戦っている。死に帰るたびに、強くなっているのだ」



リュウ視点。


状況はどうか?マップを開いて、一度確認を取る。



「どうやらまた、突撃してくるみたいだね、ダンナ」

「それしか教えていないからな、トヨム」



トヨム小隊五人で、意志を統一する。小さな単位にすぎないが、目的を一致させることは大切だ。そこへ全体無線が入った。カエデさんからの通信だ。



「作戦変更、作戦変更。これまでのキル稼ぎ中心の作戦を終了します。序盤戦のように、前衛で負傷兵を量産して敵の士気を挫いてください」

「なんじゃい、また神経を使う戦いかい!?」



セキトリがこぼした。



「気疲れするのはこちらも承知していますが、なにぶん相手は数がいますので油断ができません。よろしくおねがいします」

「やっぱり数かい、それならカエデさんの言うとおりじゃのう」



そうだ、なにより数が厄介だ。そしてその数を減らすのに有効なのが、キルではない。負傷兵の生産なのだ。個人個人で回復ポーションも所持しているかもしれないし、なにより衛生兵がすみやかに負傷者を回復させている。


だが、死に帰りよりははるかに良い。討ったその場所でのたうち回るか、回復まで戦闘不能になってくれるからだ。数は、確実に減る。



「白樺軍、動き出しました!」



カエデさんからの報告。私たちはマップを閉じて戦闘態勢にはいる。



「よーし! それじゃあイッパツ良い仕事しようか!!」



トヨムが声を出す。陸奥屋一党は「応っ!!」と勢いよくこたえた。そして白樺軍が迫ってくる。必死必殺の意志はこれまでと同じ。しかし二日目だ、疲労の色が見え隠れしていた。



「白樺軍っ、突撃ーーっ!!」



そしてまたもや突撃である。先の戦法と同じく、誰かひとりを動けなくしてその隙間から突入を試みるようだ。

今回はマミさんに狙いをつけたようだ。



「それはさっき、アタイが食ったよ」



素早くトヨムが応援に回る。その隙間は、私が仕事することになった。コケさせるコケさせるコケさせる、小手を打つ。またコケさせて、ヒザを砕く。



「おうっ、リュウ先生! 今回は衛生兵の姿が見えませんのう!!」



なるほど、セキトリの言うとおり。衛生兵の姿が見えない。そのかわり前線の兵士たちが負傷者を回収して、後方に運んでいるのが見かけられた。



「衛生兵は後ろに温存してるみたいですね〜〜♪ こりゃシャルローネさん、お仕事がありませんわ」

「大車輪飛びでも無理そうかい?」

「ちょっとあの距離じゃあねぇ、道中死人部屋送りになっちゃうかも。シャルローネさんってばか弱い乙女だし……」


……………………。

「チッ!」


「あーリュウ先生ひっどーーい!! 私に舌打ちしたーーっ!」

「違う、私じゃない! 信じてくれっ!」

「じゃあ誰の舌打ち?」

「ワシじゃよ」


緑柳師範でした。



冗談はさておき、大車輪は私たちの方だった。先ほど申し上げたとおり、キルばかり取るのではなく手足を狙いうち、破壊してまわるからだ。そのためには時に上段をガラ空きにして、スネやヒザを破壊しなければならない。


それも、負傷者の回収+回復までの時間より手早く仕事しなければ意味が無いのだ。俄然、回転が上がる。ヒザ小手ヒザスネ投げ技、小手小手ヒザスネヒザ。間合いに入ってくる者を討つだけでは足りぬ。自ら間合いに飛び込んで襲いかからなければ、仕事は捗らない。


さすがに白樺兵たちも、足を止めた。



「どうしたどうした、ヘバるにはまだ早いぞ!」



私自身檄を飛ばしてやる。そうしなければ白樺兵の動きが鈍り、負傷者の生産ペースが落ちてしまうからだ。しかし彼女たちの足が止まるのも仕方のないこと。


まだ年若い娘たちが、ネームドプレイヤーたちの殺気を浴び、『災害先生』たちの殺気を全身で浴びているのだ。動きが鈍るのは当然のことと言える。


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