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両軍、燃ゆ

リュウ視点。


三個小隊に囲まれた私、そして白樺兵は私たちを避け、左右に分かれて陣内へとなだれ込んでゆく。マミさん、トヨム。シャルローネさんにセキトリが、これをせき止めようと奮戦しているが、こちらも妨害を受けているようだった。


前衛としては、敵によるこれ以上の侵入は妨げたいところである。可及的速やかにだ。



まずは私を囲む小隊のうち、左の六人を討った。最初に二人、かかってくる者をひとり。ワンショットワンキルの死人部屋送りだ。勢いそのまま、なだれ込もうとする白樺軍も討った。


一人二人、後退してまた一人。囲み役割分担の二個小隊と半分。これが釣られたように前へ出てくるので、討つ。囲みの陣形は崩れた。


なだれ込もうとする兵が間合いに入る。これを木刀で斬り斃しながら、また後退。マミさんと合流する。三人を向こうに回して、マミさんは踏ん張っていた。このうち一人を斃した。



「マミさん、動けるようならトヨムたちの救援に回ってくれ」

「わかりました! いま行きますよ、小隊長ーー!」

「おう、早いとこしてくれマミ!」



さて、これで私の一人舞台だ。


残る二個小隊へと踏み込み、これをまず片付ける。これで私も自由に動ける。まずは足掛け、一人を転倒させると勢い付いた敵兵は将棋倒しに崩れる。さらに投げ技、捕らえては投げ捕らえては投げ。


一度敵の流入は勢いが衰える。あちこちで将棋倒し、群衆なだれが発生していたからだ。流入兵の中には、私に突っかかってくる者もいたが、ひと呼吸で打ち斃し突き殺した。


敵の勢いが止まる。トヨムが自由になり、セキトリも動きが出てくる。そしてシャルローネさんとマミさんで二人一組、キルや負傷者をこしらえてゆく。



「カエデ、二陣形は大丈夫か!?」



トヨムが訊く。



「現在力士隊抜刀隊、槍組突貫組が応戦中! 負傷者を出すことで防衛してます!」



それだ、こちらの陣地内で歩けなくなり戦えなくなれば、それだけで敵の人数は減る。衛生兵が負傷者を回復させるかもしれないが、そこは歴戦の陸奥屋一党、心得ている。まずは衛生兵を討ち取り、それから負傷者を生んでいた。


そして新兵格、熟練格。こちらは勢い付いた敵兵を、それでも食い止めていた。さすがである、歴戦も新兵もそして、随所で飛ばすカエデさんの指示がである。



生徒会長視点。


副会長のイッちゃんが悲鳴をあげる。



「止められたっ!? 二〇〇人は突入できたはずよっ!! どこまで層が厚いのよっ、あの連中!!」



私のマップも、白樺兵の勢いが止まったことを表示していた。それだけじゃない、二〇〇の兵が突入して蓋をされたのだ。


何人かは死人部屋送りにされて死に帰りが期待できるけど、そのほとんどが手足を打ち砕かれて人質状態。有効兵力が五〇〇に減ったことになる。



「どうしましょう、生徒会長!!」



これは第二副会長。



「会長っ!」



書紀ちゃんまで……。どうする、どうする私!?

こんなときこんな場合……。イッちゃんまで私にすがるような目を向けて……。とにかく、とりあえず……全体無線をオンにした。



「敵陣に捕らわれた負傷兵のみんな、聞いてるかしら! みんなのことは絶対に助け出すから、少しだけ時間をちょうだい! 敵主力と交戦中のみんな、一時撤退!

一時撤退よ! 負傷兵も見捨てないで、できるだけ回収してちょうだい!」


「会長、追撃されてしまいます!」

「戦闘不能をさらに出してしまいます、会長!」

「指示を撤回してください!」

「会長っ!!」



わかってる、わかってるわ。参謀のイッちゃんの方が戦さ上手。そのイッちゃんがやめて止めてと言っているんだ。悪手だなんて、最初からわかっている。そのときだ、意外な無線が聞こえてきたのは。



「一年三組第一小隊! 士郎先生を押さえるから、お先に逃げてください!」

「三年一組第五小隊、シンガリを務めるわ! みんな緑柳師範から逃げて!」

「リュウ先生を押さえるのは、二年六組第四小隊! 怪我してピクピクしてるだろうから、後で救出ヨロシク!」



兵力を維持するために、殿……つまり犠牲志願が次々と名乗り出てくれる。



「な〜に、ここで死んだところで本当に命まで取られる訳じゃないからさ!」

「ほら、さっさと行って! 達人先生相手に、あんまり時間は稼げないよ♪」

「後は頼んだよー♡」

「絶対に、みんなで勝とうぜ!」



イッちゃんが全体に指示を出す。



「生き残りは、絶対に振り向かないで! 全速力で本拠地前に集合、駆け足……始め!」



いつの間に……いつの間にこんな娘たちになったの……。そりゃあ、犠牲志願はありがたい。とっても助かる。だけど私たち生徒会役員に『殿シンガリ命令』、死ねと言わせない気遣い。


いつの間にできるようになったの?

誰だって活躍したいよね?

誰だって胸を張りながら『学園は私の活躍で取り戻したんだ』って思いたいよね?


それなのに……。



「ありがとう……必ず助けてあげるからね……」



そして、みんなで勝って……学園を取り戻すんだ!



カエデ視点。


そうね、ここは撤退が取るべき策だわ。だけどそれは一時しのぎに過ぎない。二〇〇もの捕虜は私たちの手中にある。そして敵の勢力はかなり削った状態。敵は兵力温存の策に逃げた。


有利不利でいけば、俄然私たちの有利。なのに、ギリッという音が。


……鬼将軍の歯ぎしりの音だ。



「おのれ、白樺軍!! そう来るかっ……!」



確かに、我が身を捨てるような殿兵が私たちの主力を抑えたせいで、敵を追撃することはできなかった。



「参謀長、これは……来るな?」

「はい、確実に負傷兵を取り返しにくるでしょう。私たちの有利な展開です」

「ほう、私はまたこの機に乗じて一手打ち込んでくるかと思ったが?」

「団結のさらなる強化、敵はそれを目的としているのでしょう。先生方やネームドプレイヤーたちの壁を越えるには、まずそれが必要です」



団結の強化か、なるほど確かに。ウチの壁を超えるにはまだまだ白樺女子軍、足りていないものはある。


ん〜〜……ここで秘策を打ち出してくるかもしれないけれど、そうなると後が無いよね? どうするつもりかしら、白樺軍たち。



「それならば参謀長、秘中の一手を打ってくるかね?」

「私なら打ちません、後がなくなりますから」

「私ならば打つ!」



鬼将軍は力強く言った。



「その上で、勝利ももぎ取る!!」



リュウ視点。


殿を務める兵は打ち捨てた。しかし敵軍のほとんどは無傷で逃してしまった。しかも敵の本拠地まで。とてもじゃないが、追撃するような距離ではない。


マミさんにマップで確認してもらう。死に帰りした殿兵たちは、逃走した白樺軍本隊に合流している。これは現場の手抜かりだ。脚のひとつもへし折っておけば、本隊の勢力をわずかながら削ることができていた。


しかし瞬時の判断では、それもままならない。



「さあ、もう一発かましてくるかな?」



トヨムが腕を撫して笑う。



「来ると思うかい、トヨム?」



そう、トヨムは一発をくらわせに来ると言っている。しかしそうポンポンと出し惜しみもなしに、策を出してくるだろうか?



「来るね、絶対に。仲間を救い出すためだからさ、アタイならそうする」

「出し惜しみしなさすぎだろ、それじゃ」

「出し惜しみしてて勝てる陸奥屋じゃないからね、くるさ絶対に!」



背後では白樺女子軍の負傷者が、呻くようにして這いつくばっている。



「そうだな、くるだろう!」

「あぁ、ダンナは仲間を見捨てる教育はしてないからね」



そのときだ、総裁鬼将軍からの檄が飛んだのは。



「敵軍に深刻な損害を与えたものの、かの士気いささかも衰えず。いや、むしろ意気軒昂なり! 同志諸君、敵による次の突撃! いささかも気を緩めるな!!」



フジオカ視点。


おう、そうさな。大将もそう見るか、そうに違いない。さすが戦さの機微を心得ている。その理由は……。


リュウさんを見た、士郎さんを見る。そして緑柳師範も、まさに「合戦いまだ序盤、勝敗決するはこれから先!」という面構えだ。



「なるほどな、ヤツら全然ヘコたれちゃいねぇってことかい」



ナンブ・リュウゾウの目がギラリと輝いた。そして後方に声をかける。



「よっしゃ、気合いハメて行こうぜーーっ!!」

「「「オォーーッ!!」」」



軍が一気に沸いた。そうだ、気を抜いて良い場面ではない。最終最後の最後まで、今回のイベントで気を抜いて良い場面など、ひとつも無いのだ。



「よくわかったな、リュウゾウ。敵が根性出してくると」

「ヘヘッ、ちょいとね。オイラの背中がまだ総毛立ってやがるからさ。ヤツらの殺気を、まだビンビンと感じてるのさ」



さすが鬼神館柔道の野生児、そうした感覚は獣のように鋭い。そして、白樺軍の少女たちは動き出した。負傷者を回復させ、『仲間のために』という旗のもと、駆け足ではなく歩きで行進してきた。突撃一回分の距離で足を止め、陣形を整え始めた。槍を構えている。ギラついた目つきは、突撃を告知していた。敵陣から号令が届く。



「白樺軍、突撃ーーっ!!」


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