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ファーストコンタクト

リュウ視点、続き。


シャルローネさんの奇襲攻撃、成功。続いて先頭を走るトヨムが、敵の前線とコンタクト。急接近によりプレッシャーをかけ、敵から不用意な攻撃を引き出す。


それをからめ取るのが護手鉤のマミさんだ。敵をひきずり倒すとマミさんは、白樺女子のヒザを踏みつける。負傷者発生である。


突撃一番、トヨムとマミさんを守るのは、久しぶりにメイスを振るうセキトリだ。そして……。そのセキトリの傍らに立つのが私である。私の姿を見るや、白樺女子たちも一瞬たじろぐ。


しかし意を決して突撃してきた。その手槍を一本からめ取り、隣の手槍にからめて跳ね上げてやる。少女二人は尻もちをついた。



「ヤーーッ!!」



まだ来る、三人である。まずは二人の拳を砕いた。そして真ん中のひとりに体当たり、よろめかせて無傷な相手に衝突させた。さらに三人。ここからは木刀で手槍を受け流し、小手を極めて振り回してやる。


バタバタと白樺軍をなぎ倒し、倒れた者は可能な限りヒザへ関節蹴り。戦闘不能を量産した。



「ドリャァアァーーッ!!」



白樺軍の女子が水平に飛んで来た。トヨムが放り投げてきたものだ。私が襲われているものと、救援のつもりだろう。



「ヒィイイィッ!」



もう一人、今度の少女は転がってきた。マミさんの強烈な足払いで転がされたものだった。



「トヨム、マミさん! 張り切り過ぎて孤立するな!」

「わかったよ、ダンナ!」

「セキトリはマミさんとタッグだ、場合によってはキルを取ってもかまわん!」

「おうさ!」



トヨムは機動力を活かしていた。とにかく前後左右へ動き回り、敵に狙いをつけさせない。



「ヤーーッ!!」

「もらった!」



そして敵の攻撃を誘い出し、素早いパンチで伸び切ったヒジを砕くのである。セキトリは豪快だ、相手の脇の下といわず股間といわず、メイスを差し込んでは放り投げている。ここではどうしてもキルが出てしまうが、セキトリの手数が増えるならばそれもヨシ。



「カエデさん、すまないが少々のキルは出てしまっている」

「問題ありません、相手を走らせるのも手です!」



無線で同意された。



「それよりも第二中隊のみなさん、ネームドチームの隙間を抜かれないようにしてください! 若干ではありますが、復活してくる敵兵もいます!」

「了解、『情熱の嵐』は緑柳師範の壁に出ます!」



うむ、指示に従うも良いが自ら行動を選ぶ姿勢が、またヨシ。事実、情熱の嵐チームが抜けた隙間は、すぐに新兵格熟練格が埋めている。陸奥屋まほろば連合軍、いまや組織としてその質は、最高位に達しているのではないか。



白樺軍生徒会長視点。


えぇい、やっぱり普段から運動してる娘たちには敵わないわね。私たち生徒会も生徒たちにまかせっきりではなく、この過酷な戦場に突入していた。



「会長、前線部隊が敵軍と接触しました!」



第二副会長の緊迫した声。その声からすると、接触の結果はあまり芳しい結果にはなっていないようね。



「多数の負傷者が出ています!」



やっぱり……でも取るべき処置は指示しておかないと。



「すぐに衛生兵を派遣して、各小隊は衛生兵の通路を確保すること」

「それが、会長……」

「どうしたの?」


「まとまっていた衛生兵たちが五名、戦死しました……。現在死に帰りで現地へ走っている最中です」

「なんですって!! ど、どういうこと!?」

「奇襲攻撃でした。シャルローネさんが大鎌を棒高跳びに使って、そのまま衛生兵の群れに……」



なんてこと……でもこんな序盤から挫けてなんかいられないわ!

「近くにいる衛生兵へ通信、一人でも多く戦場へ復帰させて!」

「了解!」

「最前線、突破されました! 中央から単身、トヨム小隊長です!」



書紀ちゃんが悲鳴をあげる。早い、早すぎよトヨム小隊長!



「さらに中央は鬼組ユキ、キョウ、フィー先生! あぁっ、左翼からは鬼神館柔道です! 最前線は崩壊しています!」

「救援の衛生兵に護衛をつけて、衛生兵が負傷したら、最優先で救助!」



ファーストコンタクトから三〇秒、あまりに脆い前線だった。



リュウ視点。


最前線のネームドチーム、シャルローネさんと合流完了。つまり敵の最前線部隊を切り崩し、第二陣を引きずり出したことになる。



「敵の死傷者は八〇名、第一線を突破しました。あまり深追いしないでください」



状況をカエデさんが伝えてくれた。そして深追い無用とも。その通りだ、敵の目的はまず私たち災害プレイヤー。そして鬼将軍なのだ。


待っていれば向こうから攻め込んでくれる。



「前線後退、前線後退!」



トヨムが声を出す。鬼軍は最後尾の『まほろば』たちから、次々と後退した。



「ここは私が引き受けよう、トヨムから後退してくれ」

「わかったよ、ダンナ」



まずはトヨムを退かせてから、私も後退する。セキトリも後退してマミさんがさがった。



「ちょっと待って、みんな置いてかないで〜〜っ!」



シャルローネさんだ。



「でもーシャルローネさんなら、大車輪飛びで帰ってこられますしー」



マミさん、あんた鬼か。



「とりあえず逃げ道はアタイたちが作っとくから、早く帰ってこいシャルローネ」

「小隊長のお情け、涙が出るねぇ〜」

「さっさと帰ってこないと、逃げ道放棄するぞ?」

「今いくすぐ行くさっさとします!」



ということでシャルローネさんも復帰。

私たちが退いた分だけ、白樺軍は前に出てきた。つまり負傷者を回収している。



「前線突撃ーーっ! 攻撃目標は復帰した衛生兵、回収された数だけ負傷させてください!」



高級参謀カエデさんによる、鬼の指揮だ。私たちは突撃して、最優先で衛生兵を討ち斃す。そして無傷だろうとなんだろうと、それまで以上の負傷者を生み出した。



「後退ーーっ! 後退ーーっ!」



そしてまた退く。これを繰り返せば、敵はジリ貧だ。確かにそうなる。だが本当に、それで済むかな?それで済んでしまったら、私たちの指導はまったく活きていないということになるが。



「さすがですね、先生方!」



そら出てきた。



「ですがこの程度と思われては迷惑千万! まだまだ勝負は序盤も序盤、遠慮なく行かせていただきます!」



生徒会長だ。手槍をさらに短く持ち、高々と掲げて振り下ろした。



「行きますよ、白樺軍! 突撃ーーっ!!」



御大将自らが、先陣切って飛び出してきた。



「気をつけろ、みんな。今度はちょっと勝手がちがうぞ!」



トヨムが警戒したが、それは正解だ。今回の突撃は気迫が違う、生徒会長自らが突撃することによって、生徒たちの士気が跳ね上がったのだ。



「飲まれるな、押し返せーーっ!」



士郎さんだ。



「来たぞ、討ち取れーーっ!」



私も声を励ます。各ネームドチーム、それぞれで声をあげて白樺軍を迎え撃った。私も手槍と手槍の間をすり抜ける。年若い少女たちの必死の形相を間近にとらえた。


しかし、右に小手、左にスネ。左右と言わず上下も問わず、とにかく打って打って打ちまくった。一秒間にひとりなどという、ヌルいペースではない。その間にも脇の下をすくい上げ、股間をすくい上げて人間を放り投げる。


肩を横薙ぎにして、隣の人間に押しつけて隊列を崩す。先ほどと同様、前線は崩れた。しかし敵軍の突進は止まらない。



「数減らしです、先生方。一度大量キルをお願いします!」



カエデさんからの指示だ。確かに、なにしろ敵の数は倍だ。一時であっても、少し数を減らした方が良いだろう。ワンショットワンキルの浸透勁の打撃を久しぶりにお見舞いした。するとさすがに歴戦の常勝軍団。一瞬で白樺軍は数を減らした。それから一度後退である。後退も油断はできない。敵軍の負傷者がまだ息をしているのだ。


これに討ち取られる訳にはいかない。そして倒れてもまだ、白樺軍負傷者は戦意を持っていたのである。立てる者は投げた。投げて山積みにする。そうすれば負傷者の返り討ちは無くなるからだ。



「闘志がみなぎっているな、敵軍は」

「あぁ、ダンナたちが鍛えに鍛えたからな。なんでこんなに鍛えたんだよ」

「弱音か、トヨム?」

「まっさか、来たよダンナ!」



トヨムの警告通り、白樺軍が突っ込んできた。闇雲に、ただひたすらに。知恵者を自認する方はそれを笑うだろう。もっと上手くやれと。しかし利口はバカに勝てないものだ。利口で通るならば、人類はもっと進歩してるし、世界平和もとうの昔に実現している。



はっきり言おう。人間に心がある以上、人間は利口にはなれないのだ。そして利口はバカの一念の敗れるしかないのである。ではそのバカの一念を敗るには?

それ以上のバカになるしかないのさ!



「いくぞ、トヨム! キル・エム・オールだ!」

「まかしとけ、ダンナ!」



山積み負傷者を回収している者たちを襲った。これもまたちぎっては投げちぎっては投げ、と表現したくなるような惨状となる。


白樺軍としては、そこいら辺の転がる負傷者に、衛生兵が回復ポーションを与えて回る。そんな図を予定していたのだろうが、そうはいかない。


君たちが戦況を有利にしたいなら、私たちとて状況を有利に運びたい。ということで、この『油小路作戦』である。現場で思いついたアドリブだ。


それでも君たちは、負傷者回収の手に人を割かなければならないだろう。どうする?



「さあ、黙って見てても負傷者は回収できないぞ! アタイを討ち取って仲間を助けてみろ!!」



ちんちくりんで痩せっぽち、褐色肌で男の子にしか見えない鬼が、白樺軍に吠えていた。


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