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一般プレイヤーヒナ雄くん、出陣

 さて、僕たち『情熱の嵐』は様々な練習を経て、いよいよ六人制試合に出撃だ。控え室で革防具姿のメンバーに声をかける。


「いいかい、まずは落ち着いて状況を見る。闇雲に打ち合うんじゃなくって、必ず二人がかりで間合いを取りながら。そして囲まれた仲間は必ず救出する。いいね?」

「とか言って、リーダーが一番緊張してるように見えるぜ」

「そりゃそうだよ、爆炎。わざわざ新しいクランを建ててまで練習してきたんだ。初戦からコケたらみんなに合わす顔が無いよ」


「まあ、俺のことは気にしないで、思う存分働いてみな」

「そーそー、爆炎センパイの救助は、このキラにおまかせってことで」

「なんだよオイ、俺囲まれること前提かよ!?」

「フ……みなまで言わせるな……」


 布陣は応援のNPCを後ろに、センター爆炎。両サイドにダインとキラ。最翼端に僕と蒼魔。

 まずは両チームリングイン。そしてカウントダウン。試合開始の銅鑼。


「よっしゃ行くぜーーっ! ダインもキラも俺に続けーーっ!」


 さっそく爆炎が飛び出した。ダインとキラはわざとだろう、遅れて続く。センパイである爆炎を餌にする、というのではなさそうだ。状況を作るのが爆炎、その状況を見て対応するのがダインとキラ。ということだと思う。僕と蒼魔もさらに遅れて続いた。期せずして一点突破型の陣形となった。





 イノシシ武者とばかり駆け出した爆炎だったけど、案外冷静。敵の間合いには飛び込まず、一度ストップ。まずは空振りを誘っていた。そこへフイと振り降ろす長ナタ。まずは小手の防具をいただき、クリティカルだ。敵が爆炎に飛びかかろうとするところを、ダインとキラで兜割り。

またもやクリティカル。ここでダインとキラが後退、代わりに爆炎が前に出た。


「ホイホイ♪ まずはキル一丁!」


 袈裟と逆袈裟にポンポン、と軽くクリティカルを入れて、簡単にファーストキル。追いついた僕と蒼魔は、爆炎を囲もうとする敵の防具を剥ぎ取る。小手、上腕。場合によっては太ももの防具。あっさりとクリティカルを許した敵は、頑張ることなく後退。まったく闘志というものを感じない。


 不利となれば即、逃亡。そして集団で一人を追い回すのは、『王国の刃』では名物の光景である。

 つまり今回は復活ありの試合。恐らく爆炎がキルを奪った最初の犠牲者が復活してくるのを待って、捲土重来を計っているのだろう。つまりこの二人は、爆炎たちが相手をしている三人を見捨てたのだ。





 爆炎が上手い。ヒット&ラン。ショット&ラン。自分の間合いでだけ闘って、あとはからかうように足を使っている。そして爆炎が楽しんでファイトしていると知ってか、新人であったダインとキラがこれまた上手に爆炎を動かしていた。爆炎が後退、敵は出てくる。そこへダインとキラのカウンター。


 僕と蒼魔は、きりきり舞いさせられてる敵から、鎧を剥いでいればいいだけだった。

 そしてファーストキルの敵が復活。逃亡した二人が合流して、こちらへ駆けてくる。


「爆炎、敵の数が増えるよ!」


 そう警告した途端、ダインがテイクキル。キラもキルを奪う。少し引き付けてから、爆炎もキルを奪った。


「それにしてもよ、リーダー。あの逃亡した二人、いま死んだ三人といっしょに闘って、五対五の状況を作ろうとしないのかね?」

「爆炎、私と領主の防具破壊があまりにも華麗だったので、戦闘の継続は不可能と考えたのだよ」


 というか、爆炎にツッコまれるとは……敵も気の毒なものだ。しかし五対五でダメなものが、三対五でなんとかなる訳がない。防具を失った部位をダインとキラに攻撃されて、あの二人の敵は手足の欠損が生じた。そこを僕と蒼魔でキルへと導く。最初の犠牲者となったあのプレイヤーは、またもや爆炎のキルポイントになってるし。なんとも残念なプレイヤーたちだった。




 というか、僕たちはNPCを含んでの六人。敵は勢ぞろいの六人。これで僕たちに試合が傾いてるって、どうさ? いやいや、これもみんなの努力の成果。きっちりクリティカルを入れられるというのが、どれだけ敵にプレッシャーを与えるか? という証明だ。

 その証拠に……。


「ボス、あんな敵でもアタマは使うんですね。死者が全員復活するまで動かないつもりみたいです」


 キラの言うとおり、敵は復活してもその場を動かなかった。さらに、三人と三人に分かれて、僕たちを挟み撃ちにするようだ。


「領主、まずは右の三人に総力を注ぎましょう。キラと二人で殿戦を頼みますぞ」

「うん、じゃあ防具を剥いで仕込みしておくね」


 ということで、後ろから掛かってくる三人は、僕とキラで相手になる。できるだけ時間を稼いで、味方を楽にするんだ。Critical! Critical! Critical! 二人でドンドン裸にしていく。


「どうします、ボス? このまま防具を剥ぎ取り続けるか、いっそのこともう楽にしてあげるか?」

「そうだねぇ、対戦相手には悪いけど彼らには実戦の練習相手になってもらおうと思ってるんだ。カカシ相手じゃ狙えなかった太ももやスネ、この辺りを剥いでみようよ」


「わかりました、ではボスからどうぞ」

「ありがとね、キラ」


 ということで、まずはスネを。僕のガラ空きの頭はキラが守ってくれる。おかげでスネ一本、防具をごっちゃんできた。次はキラの番。行くぞ行くぞと圧をかけて、誘いに乗った小手は僕がいただく。その隙に、キラもスネの防具一本! それに乗じて僕も太ももの防具をお代わり!


そのときにはすでにキラは上段からの攻撃に対応。そこに僕も参加したところで、またも下段攻撃! 防具の一本はもう取り放題という状況。


「おや、隊長。こちらは一方的な展開ですね」

 ダインだ。蒼魔と爆炎もこちらにやってきた。どうやら正面の敵は片付いたようだ。




「領主、拝見したところ脚の防具を剥ぐ練習と読みましたが」

「うん、カカシ相手じゃ脚は狙えなかったからね。実地訓練さ」

「ならば私も参加させていただく、ダイン! 狙いは脚だ!」

「わかりました、蒼魔センパイ!」


 三人掛かりで勇んでいた敵にこちらは爆炎も入れて五人。防具は剥ぎに剥がれて男のストリップショーになってしまった。


「さあさあみなさま、拍手、拍手をお願いいたします。拍手が多ければ多いほど、相手チームの脱ぎっぷりもますます良くなってまいります! 本日も娯楽の殿堂、紳士の社交場。当劇場うぐいすだにミュージックホールへの多数さまのご来場、オーナーを始めスタッフならびにキャスト一同、厚く厚く御礼申し上げます」

「キラ、相手を茶化したりしないの」


 ってゆーか、なんなの? いまのセリフは。そんなことを気にかけている間もなく、敵の防具はすべて破壊。敵はただの平服姿になってしまった。しかも手足には欠損が生じて、もう逃げることすらままならないでいる。


「窮鼠猫を噛むの例えもある! みんなここからは慌てず急いで正確にね!」

「なんだよリーダー。急須が猫を噛むのかよ?」

「爆炎、あとで説明してやるから、いまは黙っていろ! というかキルを奪うのだ!」




 爆炎の勘違いに脱力仕掛けた僕たちを励ますように、蒼魔が前に出る! ここでワンキル!

 そして爆炎もキルひとつ。キラが最期の一人を斃して、この展開はひとまず終了。


「さて、また六人揃ってくるかな?」

「ボス、敵はログアウトし始めました」

「え?」


「ああ……どうやら試合放棄の方向性ですね、隊長」

「チッ……まだまだ暴れ足りないのによ……」


 敵は一人消え、二人消えして、そして誰もいなくなった。

 試合終了の銅鑼が鳴る。そして運営からのアナウンスが入った。



「チーム『赤き獅子』のメンバーが全員退出したことにより、試合放棄と判断。チーム『情熱の嵐』の勝利とします!」



 やった! 相手チームが試合放棄だなんて、初めてのことだ!

 これはスゴイぞ、なにしろ対戦相手が「試合にならない」って僕たちの強さを認めたんだ!

 そして何より、僕たちのこれまでの練習が無駄でもなければ間違いないでもなかったんだ。

 それがなによりも嬉しい。


「やりましたな、領主」

「これで俺たちも晒し掲示板の仲間入りだぜ!」

「爆炎センパイ、そんなこと喜ばないでください」


「何よりもボス、この結果はゲーム内に喧伝されます。実力者チームのチェックが厳しくなるでしょうね」

 そうだ、浮かれてばかりもいられない。この試合結果は、間違いなく僕たちを強豪チームの一角へと押し上げたんだ。そしてもう、ヘマな負け方は許されないんだ。



 シャルローネさんたちのいる、『嗚呼!!花のトヨム小隊』と対戦するまでは……。


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