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無法者の影

緑柳老人VS三〇人の刺客……FIGHT! GONG!!! GONG!! GONG!

 〇年寄り(02:00 全員四回コカされる)三人の刺客●…………………。



「おい、リュウさん」



訊くな、士郎さん。



「なにがどうしてこうなった?」ヒロさんも、でんぐり返しに転がされていた。



「それがわかっていれば、こうはなってないだろうな」



鬼神館柔道の若者たちも、山積みになっている。その最下層、小さめの足がふたつ見える。ナンブ・リュウゾウだろう。野郎の肉体の下敷きになって、筋肉の布団蒸し状態だ。うむ、ヤツには相応しい死に様だろう。



「アタタ……一体なにが起こったんですか?」



タフネスを絵に描いたような女子、『マヨウンジャー』のベルキラさんが立ち上がった。私たちも達人と呼ばれる先生さまだ、いつまでも転がっている訳にはいかない。むっくりと身を起こす。



「ニッポンでも数少なくなった『本当に技を使える達人』が、牙を剥いたのさ」



もちろん達人が本当に技を使ったりしてはいけない。そんなことは重々承知している。だが、令和ニッポン。未だにその技は息をしている。生き残っているのだ。



ここでちょっとだけ、私なりの解釈を。達人には二種類いると思う。ひとつは緑柳師範のような、本当に技を使える達人。


そうした達人の技を観察し研究して、誰でも習いやすいように翻訳するのが、もうひとつの達人の形。動画サイトには様々な達人がいらっしゃるので、そうした分類をしながら技を拝見するのもおもしろいのではなかろうか? そして前者に分類される達人、緑柳師範がカッカッカッと笑う。



「お前さん方はスピードが足りねぇよ。ここぞ、というときに力を集中させるスピードがよ」



うるせぇよ、ジジイ。心の中でだけ悪態をつき、内心不貞腐れてはいたが、士郎さんが目に入る。ヒロさんもそこにいた。この二人がジジイの言うことを素直に聞いて、技に磨きをかけたなら……。


冗談じゃない、三人の中で私がドベなどゴメンだ。私は立ち上がった。同時に二人も立ち上がる。腹の中は三人とも同じだったのだろう、得物を構え直して「もう一丁お願いします!」と立ち直ってしまった。



「先生たちは元気だなぁ……」



のんきな声は忍者のものだ。



「私なんて骨盤がヒン曲がるくらい叩きつけられたぞ」



サボっている暇は無い。この達人技があと何年残っているものか? 時間は限られているのだから。……急げ!





同じ頃……とある拠点でプロ試合の動画を再生している者たちがいた。プロジム『2MB』(陸奥屋まほろば部屋)が抱える、チーム『W&A』の試合であった。


六人全員が男、年の頃は二十代後半から四十まで、といったところか。



「へぇ〜〜、コイツらがプロの一番人気かよ?」



中でも一番若そうな男が言った。顔面にまでタトゥーが入っている。



「女の子らしいねぇ、キレイな闘い方してるじゃん。っつーか、それしかできてねぇケド?」

「まあ、この程度の連中なら、それでも通じるだろうけどな」



二番目に年嵩な男が応える。



「だけどこっちの三人はどうよ? ピエロか、こいつら?」



若い男は『悪羅漢』の三人を指さして笑う。



「笑うモンじゃねぇぜ、カツヤ。この三人だって、ヤルもんだ」



そう言ったのは、三番目に年嵩の中年男。体格も良く、堅気には見えない雰囲気を醸し出していた。



「そうは言うけどよ、アニキ。所詮はダンナ芸の姫さま芸だ、俺には踊りにしか見えないぜ」



ヒャッヒャッヒャッと耳障りな笑い声を立てる。どいつもこいつも目が死んでいる。実際に存在されたら、そこにいるだけで人を不快にさせる存在であった。


チーム名は『無礼王』。服装はスーツにスウェット、軍隊のような迷彩柄を着込んでいる者もいた。そして首筋、Tシャツの者は上腕から前腕にかけて。見せびらかすかのようにタトゥーまみれである。若い者ほど線が細く見えた。というか、年嵩の者ほど恰幅が良い。


そして貫禄を出すためか、笑わない、動かない、喋らない。



「まあ、カツヤの言う通り『本当に人を刺したこと』は無いだろうな」

「そうだろ、若頭? これで金になるんだから、ネットゲームってのはチョロいもんさ。これまで通りに圧かけてよ、どいつもこいつも滅多刺しにしてやりゃぁ仕事は終わり、ってな」



これまでがそうだった、睨みを効かせて威圧して、足がすくんだり冷静さを失ったところから仕事を始める。そのようにして、『無礼王』たちは熟練格に昇格してきたのだ。チャレンジマッチを経て。そう、チーム『W&A』とともに。


運営の方針で、まだ『W&A』とは対戦していない。しかしそれも時間の問題だ。『W&A』以外のチームとはすでに対戦済み、というかもう二巡目に突入している。もちろんすべて白星で、今やプロチームの悪役とさえ呼ばれていた。


そのファイトスタイルは先に記した通り。どこのヤカラかという態度で相手を威圧し、試合中も日本語に思えるが意味不明なわめき声を挙げて、一気に潰しにかかるというもの。ある意味『実戦慣れしている』とも言えるが、品はない。


そしてこれから先、プロフェッショナル・ヴァーチャル・スポーツとして伸びてゆくべき『王国の刃』運営サイドからすれば、好ましからざる集団といえた。


一気に潰しにかかる、と言えばまだまだ聞こえは良いかもしれない。だが、重装備甲冑から技量や技術へと視点が移りつつあるプロ試合の中では、運営の天敵とも呼べる。まとめた話をするならば、『ぶっちゃけた戦い方』をする集団とも言える。


相手チームの見せ場などまったく気にせず、『ただ勝てば良い』という方針。技術も戦略も無い。鬼将軍辺りならば、『ただの野犬の群れ』と述べるだろう。その野良犬のリーダーが、口を開いたのだ。



「このお嬢ちゃんたちに勝ったらよ、2MBに移籍するってのも良いかもしれねぇな。あそこはギャラが破格だった言うからよ」

「お嬢ちゃんたちに取って代わるってのかい、ボス。たまんねぇよな」



若い顔面タトゥーは、いやらしい笑い声をあげる。



「なんにせよ、勝ち続けてればデカいシノギが向こうから歩いてくるってことだぜ、カツヤ」

「サイコーだよな、人に刃突き立てて金になるんだからよ」



一番若いカツヤは、さらに不快な笑い声をあげる。



「まあ、今はまだ傭兵に過ぎねぇがな、そのうち自分たちでジム持ってよ。入ってくる銭ぁピンハネ無しの丸取りさ。それまではせいぜい気張って、土なんかつけるんじゃねぇぞ!」



薄気味悪い連中は、さらに算段を重ねる。



「で、ボス。誰がどいつをヤルか、もう決めときますかい?」



そうだな、とボスはブタのように小さな目を動画に向けた。



「カツヤ、ジン。お前ぇたち二人はこのデカブツを片付けろ」



デカブツとは、モヒカンとモンゴリアンのことである。



「ホアン、JJ。お前たちはこのチビ二人だ」



ヒカルとライの二人だ。



「俺とスンクは、ノッポとおデブのお姉ちゃんだ……」



さくらとヨーコのことである。



「ボス、女を切り刻むときは寸刻みでも?」

「いいとも、せいぜい泣かせてやるんだな」



若いカツヤとジンは、道場でカカシの前に立った。早く人を切りたくて刺したくて、我慢できないといった風情である。そしてパッとナイフをふところから抜くと、カカシの腹に何度も突き込んだ。ジンのナイフは逆手、肩口を滅多刺しにしている。そして始めての少年が果てるような声をあげて、精神的な絶頂に達した。




そして野良犬というものは、誰彼の見境なく吠え立てるものである。

そして足を挫かれてキャンと鳴くものなのだ。




リュウです。貴女の唇を奪うために、この場へ。

しかし無粋の輩というものは、どの時代どの世界にもあるもので。その日は参加自由の講習会。緑柳師範にシメられた私たちは、いつも以上に一途に熱心に。プロ選手チーム『W&A』も同じ。イベントへ臨む私たち同様、緑柳師範効果か基本技術の錬成に没頭。


同じく基本技術であるカカシへの突撃を繰り返すのは、ちゃんと皆勤賞で稽古に来ている白樺女子軍。これもまたカカシへの突撃を繰り返している。可能な限り『ワンショットワンキル』、あるいは『クリティカルショット』の技術を広めるべく開かれた講習会だが、普段は同盟メンバーの稽古会と化している。平凡な日常、当たり前の光景で今日も夜の帳が降りてくる。


……はずだった。しかしこの日は異変が起こった。



「……………………」



若手の稽古を眺めながら、檄を飛ばしている士郎さんが、それとなく総裁鬼将軍と天宮緋影を守護する位置に移動した。ヒロさんは緑柳師範の楯になる位置だ。……仕方ない、私は道場入口で受付をしている、鬼将軍第二秘書のそばに着こう。私たち三人、そして緑柳師範は気がついている。あまりに好ましからざる気配、邪悪と表記したくなるような黒気が近づいていることに。


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