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最強の挑戦者

引き続き、カエデです。陸奥屋まほろば連合講習会は、いつもの大本殿道場で。しかし私たちも夏至イベントに向けた訓練を開始します。


まずは稽古方式を説明しましょう。


センターは達人先生Aがひとり、それを護衛するA小隊メンバーたちが、囲むもヨシ。前衛として並ぶもヨシ。対する仮想白樺チームは、熟練格をBCDの三個小隊。これで達人先生とネームドプレイヤーのA小隊を突破する方式。



しかし達人先生がいてネームド小隊とは言え、所詮は一個小隊。ネームドプレイヤーとネームドプレイヤーの隙間をすり抜けられてしまい、本陣と鬼将軍が危うくなってしまう。そこで後衛に熟練格、もしくは新兵格のA小隊を配置。仮想白樺軍を足止め、あるいは撃破することを目的とする。


その一戦が終わったら、達人先生Bを中心に、B小隊で護衛に就き後衛を熟練格B小隊でカバーする、という形で順繰りに訓練する体勢です。



「では、稽古方式の言い出しっぺですのでトヨム小隊とリュウ先生、稽古場にはいってください」

「ん〜〜、やっぱカエデが抜けると、物足りない気分になるなぁ」

「仕方ありませんよ、小隊長。私は本陣に詰めないとならないんですから」


さて、まずはリュウ先生は放っておいて、ざっとネームド小隊たちに稽古していただきましょう。パターンとしては1、ゴッチャリとした集団で襲いかかってくるパターン。2、小隊単位で波状攻撃をしてくるパターン。


それぞれの小隊で基本は『戦闘不能の欠損を与える』ことを念頭に、ときには撤退させながらの試運転。

その感想は、愛されるべき人物であるラブリー・マイ・エンジェルなトヨム小隊長に代表して語っていただきます。



「アタイ個人の感想は、ゴッチャリ襲いかかってくる方が対応しやすかったね。得物持ちの連中がゴチャゴチャして動きも鈍いから、関節を取る余裕があったよ。逆に三段攻撃だと得物を振るってくるから、ちょっとだけね。ちょっとだけ面倒を感じたかな?」



このご意見は、なるほどごもっとも。では鬼組からも感想を。長得物を振るったフィー先生、いかがでしたか?



「小隊長の正反対。ゴッチャリ襲いかかって来られたら、間を置くために後退しないと技が限定されましたね。逆に小隊単位で来た場合は、小手なりスネなり勝手自在♪」



では中間距離の刀では? 鬼組代表でユキさん、おねがいします。



「日本刀が進化を発揮したのが、幕末の市街戦というのがよくわかりました。野っ原、戦さ場、合戦場。無尽蔵の大人数で戦闘するには、集団で来れば間を取れず、波状攻撃には刀が届きにくい。とにかく中途半端を感じちゃいました」



貴重なご意見、みなさまありがとうございました。ちなみに鬼神館柔道のみなさんにお話をうかがわなかったのは、その戦闘理論が高尚過ぎるが故に、万人向けではないと独自で判断させていただいたからです。悪しからず。


では、考え方を変換。ゴッチャリ型と波状型、それぞれでやり難い点はあったでしょうが、やり難い中でも良かった点。やりやすい中でも悪かった点を挙げてください。まずはトヨム小隊長から。



「波状型の良かった点……そうだね、やっぱアタイは軽装だからさ。足を使って動き回れるのは、なんだかんだで助かったよ。距離や間合いが遠いと、それだけ相手の予備動作モーションも見えやすかったしね」



では、ゴッチャリ型の悪かった点を。



「大勢の敵を相手にするには、キル取るよりも負傷させろ。これが大原則なんだけどさ、あんまりにもボディも顔も隙だらけでさ、ついついキルになりそうなんだ。あとは、やっぱり数の圧力。それを生で感じるのはゴッチャリ型だったよ。疲労度はゴッチャリ型が上かな?」



ではフィー先生、波状型の嫌な点を。



「んーー……そっだね、トヨム小隊長とは逆に、波状型は終わりが見えにくいのが難点かな? 次々と敵が湧いてでてくるから、ウンザリ度数が上がるよね。逆にゴッチャリ型の良いところは、敵も長得物を使い難いってところ。ゴチャゴチャ集まったところで、その中から私に攻撃できるのは、せいぜい三人。結局のところは何をしてもおなじってこと?」



良いことおっしゃってくださいました。『結局は何をしても同じ』、ぜひとも講習会場の隅で聞き耳を立てている、白樺女子軍に聞かせてあげてください。ではユキさん。



「ん〜〜日本刀の場合、この戦闘には向いてないって言ったけど。それはあくまで練度が問題なだけ。あるいは目標設定かな? 例えば敵を引きつける、達人先生をお守りするっていうなら遠間の方が引きつけやすいかな? 逆にゴッチャリ型だと敵の腕も脚も、目の前に来てくれるから欠損部位を作りやすいですね」

「お聞きの通り!」



私は白樺女子にも聞こえるように言う。



「どのような状況であろうとも、まず自分が何をしなければならないか? これを肝に銘じておくこと。そしてそのために自分が何をできるか? それを忘れないことです!」



まずはそれが基本。基礎であるところの熟練度の差は、うぬぼれなどでなく十分にある。それならば基礎を忘れないこと。これこそが必勝の鍵でしょう。


さて、白樺女子軍には迷いに迷ってもらえるよう、餌をふんだんに撒いておきました。そんな折、稽古の見分に壇上にあった鬼将軍が私を呼んだそうです。そうです、というのは士郎先生に言われたから。



「なんでしょうね?」

「さあな、アレの考えることは俺にもわからん」



いえ、ウチの先生方ならあの鬼将軍の考え方に近いのではないかと思っているんですが……。壇の下、鬼将軍の正面で片ヒザをついて頭を垂れる。



「高級参謀職ならびにトヨム小隊参謀役カエデ、これに」



すると閉じた扇子で自分の側をテシテシと打ち、「これへ」と鬼将軍が言う。控えていた緑柳師範も、「登っておいで、お嬢ちゃん」と目を細めている。


どうやらその場でズンバラリン、首と胴体が泣き別れということはなさそうです。ということで、登壇。頭の位置が鬼将軍よりも高くならないよう、膝行というヒザ歩きで近づく。だけど先生方と違って生ヒザ制服スカートの私、粗相の無いよう(スカートの中を見せないよう)に近づくのは難しいのよね。


で、側に着いて座礼をひとつ。鬼将軍は静かに訊いてきた。



「いかがかな高級参謀、出来の方は?」



鬼将軍は扇子を小開きにして口元を隠している。私もそれに合わせた声で。



「はい、稽古の充実と作戦の熟知、団結の強化。いずれを取っても万全です」

「ふむ、では白樺女子軍をどのように見るかな? 高級参謀の目から見て」



…………? これは、強がりやハッタリじゃなく、忌憚のない意見を求めてるのかしら? 迷っていると、「正直に申してみよ」とこっそり。そうね、それじゃあ本音で言わせてもらいましょうか。



「鬼組忍者の情報から察するに、白樺女子軍はいま現在良いレールに乗っているものと見えます。まずは先生方がどのくらいのペースで負傷者を出せるか? そしてそのタイムラグを利用して、先生方の側面へと回り込むことを考えております。が、我々に勝利するとなればもうひと押し」

「もうひと押し?」

「はい、達人先生ひとりに対し、雑兵二〇人あればこと足りる、という境地まで来てもらいたいところです」



これこそハッタリではない。例えば白樺女子軍が考えている、タイムラグ作戦。例として出して申し訳ありませんが、リュウ先生を相手にしたとして。まずは正面から五人。これを戦闘不能とするに、リュウ先生は五秒かかります。そこで改めて正面からもう五人。これも戦闘不能にするには、五秒かかりロスタイムは一〇秒。


それだけの時間があれば、残りの五人が右へ、残りのもう五人は左へ。リュウ先生を囲むことが可能になります。


数理の上でだけですが、決して不可能なことではありません。しかし白樺女子軍では、そこまで考えは至っていないのです。



「ふむ、同志カエデがそう言うならば、可能なのだろうな」

「そしてこのように申し上げるのは口はばったいのですが」

「ふむ?」

「何故私にそうした全てを訊いて来ないのでしょうか? 白樺女子軍のなりふり構わぬ本気、というのが私には感じられません。それとも私は軍師として、白樺女子に認められていないのでしょうか?」



これには鬼将軍も苦笑い。



「無理を申すな、同志カエデ。どこの世界に『貴方たちを倒す作戦を教えてください』と言う者がいる?」

「ですがあの娘たち、先生方には『貴方たちを倒すために鍛えてください!』と申し出ました」

「これこれ、そのような言を発すれば、私は『先生方と肩を並べたと慢ずるか』と君を叱らなければならないではないか」

「し、失礼しました!」



良い良い、と鬼将軍は笑っている。



「同志カエデ、君が言ったではないか。彼女たちは先生方に『貴方たちを倒すために鍛えてください』と申し出たと。それこそが彼女たちのなりふり構わぬ姿、覚悟ではないかね?」

「……………………」

「それに同志カエデ、君に作戦をうかがったとしてそれで先生方を倒し、この鬼将軍に勝利したと言えるだろうか? 君が采配を振るえば、白樺女子ならずとも烏合の衆でさえ我らを討ち果たしはせぬか?」



過去のゲームで遭った、苦い記憶がよみがえる。烏合の衆はどこまで行っても烏合の衆です。……じゃあ白樺女子は?烏合の衆なんかじゃありません。徐々に、そして決戦当日には間違いなく、最強の挑戦者として私たちの前に立ちふさがるでしょう。


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