表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

391/724

白星と苦戦

スコアはイーブン、状況は六人対五人。


ここで姉ちゃんは敵陣へ一直線。モヒカンはさっき自分が蹴倒した相手が立ち上がってきたので、そいつを相手にする。姉ちゃんが敵陣に飛び込んだのは、撤退した相手が復活してくるからだ。


そうなると敵陣コーナーで敵と切り結んでいる、ヨーコとさくらが危ない。だけど、今までの『勝つだけの試合』なら、復活してきた敵を討つのが正しい。少なくても不利にはならないだろう。


だから姉ちゃんはあえてヨーコを助けに行った。実力からすれば全然助ける必要の無いヨーコを、フォローした。超低空ドロップキック、敵のヒザに命中。切り結ぶことに集中していた敵は、見事にひっくり返った。



ここはヨーコがトドメを刺す場面だが、しかし。ヨーコのトドメが姉ちゃんに誤爆。フレンドリーファイアは無いから、姉ちゃんにはなんのダメージも無い。無いのだが、しかし。そこでヨーコに突っかかっていくのが、チーム『悪羅漢』。ヨーコを突き飛ばし文句をたれて、コケた敵に背中を見せていた。


無防備な状態で。姉ちゃん、口論の末ヨーコにドロップキック。そして空中にいる時点で背後の敵から一発。墜落の衝撃は投げ技と同じ効果のため、ワンショットワンキルを取られてしまった。


同時にモンゴリアン・カーンが撤退。ポイントはふたつ開いてしまった。


そこへ復活した敵が駆け寄る。復活した敵、目の前の敵。そしてカーンを葬った敵の三人がヨーコを狙う。どうする、ヨーコ?



素早く立ち上がりまずは後退、ヨーコ。復活した敵が迫って、さらに後退。そして退路は、カーンからキルを奪った敵が塞いでくる。


繰り返すけど、ポイント差はふたつ。敵は焦る必要が無い。のだけれど、中央のヒカルが敵に体当たり。足も引っ掛けて転倒に持ち込む。その隙にヨーコを救援する。それでも状況は三対二。いや、コケた中央の敵も入って四対二。



「これ以上はポイントを離されたくありませんね」



カエデは当たり前のことを当たり前に言った。



「じゃあカエデなら、どんな指示を出す?」

「この二人が討ち取られると四ポイント差。ですから復活してくるカーンさんとライさんとで、まずはモヒカンさんの相手を葬って、三ポイント差に詰めます」



その間に敵の四人はさくらを仕留めるよ?



「う〜〜ん……それなら……」

「簡単なことさ、さくらとモヒカンがキルを取ればいい」

「あ、そっか! そういえばこちらのメンバーは、実力派なんですよね?」



そうだ、カエデでさえ目がくらむほど、この試合は熱戦になっていた。


観客までこの一戦に引き込まれている。敵を応援する者は、あの『GO WEST』に土をつけられる、と。こちらを応援する者は、さあ頑張れ逆転だ、と。なんでこんなことになっているのか?


簡単なことだ。『悪羅漢』という撤退できるメンバーが組み込まれているせいだ。



今までのメンバーは三人娘だけ。誰ひとりとして撤退はできない状況。だから圧勝するしかできなかった。それがどうだ、今は良い意味で足引っ張り。そのくせ実力は折り紙付き、勝つことはわかっていても、ピンチを演出できるメンバーがいる。


そしてモヒカンはさらに演出を加えていた。ジリジリと敵を追い込んでいたんだ。ヨーコの囲まれている方向へ。で、合流。


これで状況は五対三。不利には変わりないけど、孤立しているよりはずっといい。そこへ姉ちゃんとカーンが復活。カーンはヨーコたちの元へ、姉ちゃんは敵陣奥深くで闘うさくらの元へ。さくらをヨーコの元へ走らせる。


ヨーコサイドが五対五のイーブンになるかと思いきや、さくらとカーンが合流するより早く、敵が仕掛けてきた。


まずはモヒカンが楯になる。敵の攻撃をトマホークと手甲で弾き飛ばした。背後の敵はヨーコとヒカルが担当。正面はモヒカンが二人を相手にしている。たかだか手斧に過ぎないトマホーク。それと手甲という全然余裕のない装備で、二人の敵を相手取っている。


そうしてるちに、カーンとさくらが囲みを外から食い破る。ほぼ同時に2キル獲得だ。あまりにもあっけなく思うかもしれないけど、目の前にヒカル、ヨーコ、モヒカンというキルが三つ並んでいるんだ。背中のことなんか気にしてられなかったのさ。


で、形成は一気に逆転。しかもスコアをタイに持ち込んだんだ。三対五の状況で、姉ちゃんが斬馬刀でひとり死人部屋送りに。


やった、これで逆転。


というところで試合終了の銅鑼が鳴り響く。示し合わせたかのような、終了間際の逆転勝利。「ここで一発出れば」というときの一発を、見事に演出していた。


会場は大歓声、そして敵方のサポーターはまずため息。それから選手たちに労いの言葉をかけていた。


実際のところ、接戦であったことにはちがいない。ただ単に、それをはるか格上の『W&A』が演出を加えていただけの話だ。ヤラセとかビズ(ビジネス)とかジョブとかいうレベルの話じゃあない。


残り試合時間一〇秒で逆転の一本を取れるかどうかの真剣勝負、って言えばわかるかな? とにかくW&Aのデビュー戦は、『真剣勝負』の上での大事逆転勝利と、アタイは考える。


せっかくのユニットチーム『W&A』。デビュー戦も白星で飾ったということで、さらに試合を重ねる。


今度の相手も、もちろん熟練格六人組。戦績は勝ちが六割、負けが三割。引き分けが一割ってとこ。では対戦相手の分析を、『王国の刃』評論家のカエデさん、どうぞ。



「はい、まずこちらのチームの基本的な装備を見てみましょう。槍としては短い片手槍に丸楯という、あまり見かけない武器が三名。残りは長剣ニ名に片手剣と丸楯が一名。ディフェンスに重きをなしたチームと考えられるかもしれません。事実、決定打とも言えるテイクキルの数が歴戦の割に少ないです。しかしながら貫頭衣に鎖帷子、額に鉢金という軽装備でありながら与えたキル数が少ないです。これは『固いチーム』と判断するのが妥当でしょう」


「カエデさんならどのように攻め込みます?」

「そうですね、時間をかけてひとつのキルを大切に取っていくでしょうか?」

「なるほど、では相手チームを指揮するなら、チーム『W&A』。どのように攻略しますか?」


「先ほどのファイトを参考にするならば、狙いところは悪羅漢の選手でしょう。とかく突っ込みたがる傾向にあるので、ここを孤立させてワンキル。ポイントを大事に守って、さらにワンキルといった形が理想かと」

「ありがとうございました」



カエデ相手に敬語は疲れる。だけどここはもうひとり。



「もうお一方、達人リュウ先生。この一戦をどのように占いますか?」

「W&Aサイドとしては、まずは初手。ここで敵の陣形を崩しておきたいでしょうな。そしていち早くキルを獲得する、とにかく先手必勝。これに尽きます。対する相手チーム、こちらはどのようにしてW&Aの猛攻を凌ぐか? そこがポイントになってきそうですね」



そうこうしているうちに、両軍分かれて場内の声も三分割。GO WESTに対する声援と相手チームに対する声援。


そして生意気にも熟練格デビューだけでなく白星発進までした悪羅漢に対するブーイング。熱気うず巻く中、試合開始の銅鑼ゴング


相手チームは前衛片手槍三人、中堅は長剣ふたり。後衛を片手剣で陣形を組んでいる。それに対して、ヒカルさくらヨーコの三人娘が突っかかった。打ち合いは一合のみ、あとは地下足袋の足裏で敵の丸楯を蹴る、蹴る、蹴る。


とにかくまずは陣形を崩そうという姿勢。その間に長剣、片手剣の三人が展開。W&Aを囲もうとする。しかしこれは悪羅漢の三人が対応、背後からの攻撃を食い止めにかかる。


状況は囲む相手チーム、囲まれたW&A。


どちらかといえば、W&Aが防戦を強いられている形。



「ん〜〜、これはW&Aとしては面白くない展開でしょうね」



お、ダンナの積極的発言。



「W&Aとしては先制打、先取点が欲しかったところですが、まず相手チームがそれを阻止。上手いこと主導権ペースを握りましたよ」



そうだ、Wの三人娘は片手槍たちの丸楯を蹴りまくっているけれど、まだこれを突破できていない。そして悪羅漢の三人も剣士三人に釣られて、引きずり回されている。


……引きずり回されている? とここでカエデが解説。



「まずW&Aが手こずってる理由は、蹴りが不得手でアタックパワーに劣る三人娘が突入班を務めていること。本来は悪羅漢のパワープレイヤーたちが担当したかったですね。では何故担当を交代できないのか? それは相手陣営の剣士三人、これがキルを狙わないヒット&ランで、悪羅漢をきりきり舞いさせているからです」



なんだかチームW&Aのピンチを解説してるみたいになってきたな。この音声、そのまま配信動画に使ったら動画が盛り上がりそうだ。とか思ったら、ウィンドウにRECの表示。ちゃっかり美人秘書の御剣かなめが、すでに録音してやがる。抜け目の無い女だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ