表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

390/724

チーム『W&A』、熟練格デビュー戦

よ、アタイだよ。嗚呼!!花のトヨム小隊隊長のトヨムだよ。


今日はウチの姉ちゃんが所属するチーム『悪羅漢−ARAHAN』のデビュー戦だ。それもいきなり熟練格でのプロデビュー。ネット界隈じゃあちょっとした話題として取り上げられていた。


しかも、しかもだ!ウチの大将である総裁鬼将軍のたくらみで、先にデビューを果たしていたチーム『GO

WEST』と組んで、六人制試合に出るってんだからお笑いだ。



「姉ちゃんが善玉ベビーフェイスと組むのかよ、世も末だな……」



控え室、アタイが言うと姉ちゃんは笑って答える。



「そりゃそうさ、私たちはプロマッチが面白くなるようにって、社長……じゃなくて会長から選抜されたんだからね」

「へぇ〜、姉ちゃんいつの間にお笑い芸人になったのさ?」

「芸人じゃないよ、プロのエンターテイナーだ」



いや、姉ちゃんは絶対にお笑い芸人だ。アタイは思ったけど、口には出さない。



「そんじゃアタイはダンナ……じゃなくってリュウ先生とセコンドについてるから。モヒカンとモンゴリアンのお二人、暴走機関車の姉をよろしくおねがいします」



チームメイトをしてくれる二人に頭を下げて、控え室を出る。ここからは、チーム内だけのミーティングだ。



「様子はどうだった?」



控え室の外、通路の壁を背にしてダンナは待っていた。



「憎たらしいくらいに、余裕綽々だったよ」

「勝負慣れしてるというか、場慣れしてるのかな?」

「なんだかんだで三人とも、社会人だからねぇ」



そうだ、こういうときには社会人ってヤツは強い。プロとはいえ、ゲーム世界。実社会にはこのデビューするよりも過酷な試練は、いくらでも存在している。そんな荒波に揉まれてるんだ、デビュー戦のひとつやふたつ、どうってことは無いんだろうな。



「ダンナも社会人デビューだったけど、王国の刃デビュー戦は緊張したかい?」



試合場への通路に、セキトリやシャルローネといったメンバーたちが集まり始める。



「どうだったかな? デビュー戦の印象よりも、試合後に初顔合わせのキュートな女の子から、逆ナンパされた方がキョーレツな印象だったからねぇ」



ほい? ダンナのデビュー戦ってアタイも一緒だったよな? アタイの他はプレイヤーが全員抜けたはずだから、キュートな女の子ってのは……アタイ!?


ちょ、待ってくれダンナ! 当たり前みたいな顔して、そんなこと言うなっ!! アタイそういうのには慣れてないんだぞ!



「小隊長、小隊長。間もなく試合が終わります。チームの出撃準備に入ってください」



あ、試合場のカエデから無線だ。返事しなきゃ。



「え〜〜、カエデちゃんカエデちゃん。なんでか知らないけど、小隊長は日焼け顔を真っ赤にしてゆでダコ状態でぃっす。代わりにマミちゃんに行ってもらうね?」

「シャルローネ……あんたナニやったのよ?」

「なんにもしてないってば! カエデちゃん出し抜いてそんなことしたら、予習のノート写させてくれないでしょ!?」



……わかっているならばよろしい。カエデの声は深く静かな怒りが込められていた。とりあえずアタイはシャルローネに介抱され、どうにかテレテレ状態から復活。会場にいたカエデも合流する。


2MB選手たち六人が出てきた。円陣を組んで大声を出すようなマネはしない。せっかく充実した気合いを、吐き出したりはしない。そういうことはお客さんの前ですることだ。


そう、六人の選手はプロなんだから。待機中、通路には赤ランプが灯っている。それが消えて、入場開始だ。通路にまで入場曲が聞こえてくる。



「ホルストの『火星』ですね」



アタイの後ろについたカエデが教えてくれる。分厚い扉が開かれて、会場に入る。


先頭はアタイ、続いて白百合剣士団の三人。それから悪羅漢の大男に姉ちゃんが続き、GO

Westの三人。セキトリと続いてダンナがシンガリ。会場全体が真っ赤な照明に浮かび上がり、戦争の雰囲気を盛り上げている。


六人制チームは、W&Aとアナウンスされている。GO

WESTと悪羅漢の意味だろう、わかりやすい。花道は観客にふさがれていたけど、アタイが近づくとすぐに道ができた。背後でモヒカンとモンゴリアンが得物を振り回して、群がる観客を散らしていたからだ。


アタイが試合場の下に到着しても、二人はまだ観客にアピールを続けている。姉ちゃんが到着、だけど試合場には上がらず、ヒカルたち三人を先にインさせていた。


ヒカル、ヨーコ、さくら。ひとりずつ試合場で一礼。歓声が沸き起こる。モヒカンとモンゴリアンが登壇すると、歓声はブーイングに変わった。二人は怒りの声をあげたが、観客はさらに煽る。


そして、姉ちゃん入場。真っ黒なビキニアーマー、スパイク付き。そして大将の真似をしたようなマント。顔には悪党らしいペイントが施されている。モンゴリアンとモヒカンの二人も、悪役らしいペイントだけど、こちらは吊り目に見える演出だ。



会場は『ゴー・ウェスト』コール一色。そこへ相手チームのテーマ曲が流れると、歓声は二分した。あちらを応援する声も高い。まったく、悪羅漢デビュー前に、どんな印象操作をしたもんだか。試合前からヒール扱いじゃないか。


試合前に中央で両陣営の顔合わせ。モンゴリアンとモヒカンは、しきりと挑発的な言葉を口にしてる。



「お前らなんざ顔立ちじゃねぇんだ!」

「そのケツひっ叩いてハワイ旅行させてやるからな!」

「ちゃんと俺たちに有り金賭けてきただろうな?」

「損をしたけりゃお前たちに賭けておけ!」



両軍それぞれのコートに戻ったところで、会場の熱気は最高潮。歓声を割るようにして、銅鑼が鳴る。試合開始、先陣切って飛び出したのは『悪羅漢』の三人。モヒカンは短いトマホークで敵の得物を押さえつけ、そのまま電車道。コートの外まで押し出した。


モンゴリアンは手槍を相手の脚にからめ、見事にゴロゴロと転がした。姉ちゃんも上手い、長い鞘を敵の足止めにからめてこちらはその場ゴケ。すかさず足で踏みつける。


まるでプロレスのストンピングだ。防具や体力を削ることはできないけど、相手は立ち上がる隙が無い。そこへひと仕事終えたモンゴリアンが合流、二人掛かりでストンピング攻撃。



モンゴリアンが転がした敵は、モヒカンが蹴散らしていてこちらも立ち上がれない。反則ではないんだけど、『王国の刃』史上初の暴力的攻撃に観客は大ブーイング。そこへ敵の残り三人、味方を救出とばかりモンゴリアンと姉ちゃんに襲いかかった。


二人はよろめいたけれど、上手い。きっちりガードしていて大したダメージにはなっていない。もちろんモヒカンも襲われて打たれているけれど、急所を外しているからこちらもダメージは少ない。


そしてラフファイトなら、悪党の領域だ。悪羅漢の三人は、ダメージ最小限に殴り返す。


その反撃もラフなものだから、敵へのダメージは少ない。盛大な打ち合いなのにろくなダメージが入っていないという、奇妙な試合になっていた。



ここでようやくヒカルたちも試合にからむ。モヒカンの寄りで場外に押し出された選手、踏みつけにされてた二人。これを相手に戦闘が始まる。


まずはヨーコが薙刀で敵の得物を押さえつけ、相手側のコーナーに押し込んだ。さくらも相手側、もうひとつのコーナーに敵を押し込む。ヒカルは試合場中央、派手な打ち合いを繰り広げていた。


そして体格差で転がされた姉ちゃんは、アタイたちの目の前まで後退。よく見ると、それぞれの選手はそれぞれのポジションで殴り合いをやっている。会場に足を運んでくれたお客さんは、さぞかしファイトが見やすいだろう。


観客はそれぞれ贔屓の選手、チームの応援で声を枯らしている。というか、物凄い声援だ。そんな中、モヒカンが連打を浴びる。


小手から面、面から胴。もうひとつ面!優勢になった敵陣応援団は俄然盛り上がる。しかしモヒカンも反撃、小手、小手、小手の三連打!


しかし打ち勝ったのは相手選手、遂に面のダメージでモヒカンを撤退させる。手の空いた敵は、試合場中央で切り結ぶヒカルに接近。しかしその脇腹に、褐色の弾丸が飛び込んだ。姉ちゃんだ。


目の前の敵をすり抜けて、手空きの相手を押さえ込んだ。今度は姉ちゃんを追い込んでいたヤツが手空きになる。なるんだけど、その背後に迫るのが復活したモヒカンだ。


トマホークを使って、後ろから敵のノドを締め上げる。それは強引にふりほどかれたけど、すぐに腹部へ踏みつけるような蹴り。上から下へ。ダメージを与えるための蹴りじゃない、尻もちをつかせる蹴りだ。


モヒカンはリング中央、姉ちゃんの元へ駆けつける。チビでも柔道の黒帯に押さえ込まれた敵は、袈裟固めからのがれようとバタつくけど、モヒカンから復讐の一撃を頭部にお見舞いされてしまった。手は撤退、スコアはイーブン。振り出しに戻った試合は、どちらが取るかわからなくなってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ