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少女たちの踏み出すひと足が道となる

味方を餌にして戦況を有利に運ぶ。正直に言えばそれは戦法として有効だろう。そして私たち白樺女子軍は、作戦を選んでなんていられない。それはわかるんだけど、頭では理解しても気持ちがモヤモヤする。


何故なら餌が餌でしかなく、まったく火力を有しない非戦闘員だからだ。


これを前面に押し出すなんて、戦時国際法でもジュネーブ条約でも決して許さないはずだ。つまり、それだけ非人道的作戦だということ。自己紹介が遅れたわね、前回に引き続き私、白樺女子高生徒会長の町店立海マチタナタツミよ。



今回もまた、私視点で進行させてもらうわね。いま言った通り、第一副会長のイッちゃんに薦められた『囮作戦』に、私はやり切れなさを感じちゃうのよね。


『ゲームなんだから別に良いじゃん』って、貴方は言うかしら? もちろんおっしゃることはごもっともよ?

だけど貴方は、『イベントの三日間、合計六時間。ずっと囮をしていてネ』なんて言われて、納得できるかしら?


受け取り方によっては、『お前は囮しかできない役立たず』宣告されてるようなものよね?私としては、そりゃないよ〜な気分になると思う。



「なにかお悩みですか、会長?」



演出用の陣幕をめくりあげて、第二副会長のニイちゃんが入ってくる。



「お悩みもお悩み、絶賛お悩み中よ。どうしてこんな作戦裁決しちゃったのかしら、私!」

「会長は囮作戦がお嫌いですか?」

「嫌いよ、納得できないわ! イベント期間ずっと座ってるだけ、みたいな扱いなのよ! なんのために王国の刃に登録したってのよ!」


「……別に会長が囮になる訳ではありませんよ?」

「囮に指名される生徒のことを言ってんのよ! 私なら断固として抗議するわ!」



私が拳を振り回して怒りをあらわにすると、ニイちゃんはクスクス笑ってくれたわ。



「あ、これは失礼。つまり会長は、自分が一般生徒の立場なら、学園の危機に絶対奮戦する、と」

「当たり前じゃない! ここで立たないならいつ立ち上がるって言うのよ!」


「だから貴女は、学園でただひとりの生徒会長なんですよ」

「?」

「生徒たちは、いえ、人類の大半は会長。貴女とは違うんです」


「どゆこと?」「生徒の大半は戦闘をしなくて良いのなら、戦闘をしない方を選ぶでしょう。そして味方に回復ポーションを配り回るはずです」

「そなの?」

「そなの。何故なら誰も好き好んで、困難に挑みたくはないからです」



よくわからないこと言うわね、ニイちゃん。今回のイベントは、いわば『この夏のヒロイン』になるチャンスなのよ?



「ヒロインになるなら楽になりたい、苦労するならヒロインなんてなりたくない。それが一般的な考え方です」

「つまんない人生ね」

「だから誰も彼もが、何もしないクセに文句だけは一人前なんですよ? それに」



それに?



「会長が気の進まない作戦というのなら、指示命令は私たち副会長が発しますのでご安心を」



それこそできないわよ! みんなが気持ちよく仕事できる環境造り、それが生徒会長の仕事なのよ!



「そうおっしゃるのでしたら、会長の口に苦い命令を出すのが副官の仕事です」



む〜〜……。



「良いんですよ、会長。私はいま、土方歳三気分でノリノリなんですから♪」

「悪いわね……」

「お気になさらず、どうせ生徒たちの中には、戦闘よりも囮の方が良いっていう者もいるでしょうから」



……そこまで読んでたの? なんだか私、手の平でコロコロじゃない……。



「大将というものは、それで良いんです。仕事は私たちがやりますから」

「それじゃあ私、座ってるだけのお姫さまじゃない?」

「そうですが、ご不満でも?」


「学園の危機に颯爽と立ち上がり、みんなと戦う方が良いわ」

「それは騎士ナイトさまや王子さまの仕事です、というか根っからの王子さま気質なんですね、会長♡」



だって私には似合わないわ。玉座を暖めて「余は王族ぞ」なんてふんぞり返ってるのは。



「それではそんな会長に、お仕事をお願いしたいのですが」

「なになにっ!? どんなこと!?」


「矢尽き刀折れ、こんなの絶対に勝てないよという状況のとき。誰もが絶望に打ちひしがれて、諦めてしまったとき。ただひとりになったとしても、旗を掲げ鬼の四先生方に立ち向かってください。誰ひとり後に続く者がいなくても、戦即斬を何度となく繰り返しても、イベント終了の銅鑼が鳴るまで単独突撃を繰り返してください」


「それで良いの?」

「その時のための貴女です」



というか、鬼の四先生方を向こうに回してるんだから、そういう準備も必要よね? 先生方の用心棒である、ネームドプレイヤーだってそのくらい強いんだし……。



「わかったわ、その役割、私が引き受ける。バカみたいと指さされても、ピエロだと笑われても、最後の最後まで戦い続けるわ」

「これができるのは、会長の貴女だけですから」



そして実戦的な稽古。いつものように講習会で基本基礎を練り、拠点に帰ってきてから対陸奥屋まほろば(アンチMM)作戦の訓練。


拠点の稽古場っていうのは、六人制試合用に空間を広げることもできるのね。もっと直球ダイレクトな言い方をすると、まほろば本殿道場より広くすることだってできる。


何が言いたいかというと、三〇〇人の白樺女子軍全員を集めた稽古をするっていうこと。稽古方法は割と単純、紅白に分かれた小隊同士で行うものなの。


例えば白組が先生役を一人出したら、紅組は衛生兵を一人前に出す。先生役が衛生兵を討ち取らないように、紅組は防御ディフェンス。あるいは先生役にひと太刀浴びせる。だけどこれじゃあ先生役が太刀打ちできないわよね?

御心配なく、白組からはネームドプレイヤーに見立てた用心棒をひとり出すっていう稽古。


これを紅白役割を入れ替えながら延々と繰り返すんだけど、これが案外役に立ちそう。ひとつ空間スペースに六人と二人。合計八人が入り乱れての作戦行動ってなると、さすがに達人先生でも身動きが取れなさそうなのね。


有り体にいうなら、『案外イケんじゃね?』という空気が、全体に満ちてくる。


これよ、この空気が大事なのよ。特に私たちは手槍を主武器メインウェポンにしているから、下手な長得物は数の暴力で押し包むことができるの。ただ、油断できないのは達人先生ってなんでもできそうってこと。


過去のイベント動画を観れば、三人四人を敵に回しても足さばきひとつで間合いを外したり、グルリ敵に囲まれても一点突破で囲みから抜け出したり。


だけど私たちも考える。足さばきで間合いを外されたら、そこに誰かが待ち伏せしているような戦法。囲みを破られたらまた囲む。とにかくしつこく、とにかく粘って粘って。達人先生の手を焼かせておけば、MM陣営にも隙ができるじゃない?


そこを突破させていただく、っていうのがこちらの作戦。


……問題は、リュウ先生と士郎先生が初のイベントで、信じられない数のキルを取ってるっていう事実。それはもう、白樺女子軍の三〇〇人でさえ追いつかない数。そんな達人先生が、あと二人もいるだなんて……。


果たして、衛生兵と護衛三人。予備二人の六人だけで仕留められるものか。いや、六人だけと考えるのは浅い。六人は十二人、十二人は十八人二十四人。私たちはそのような考えで戦わなければならない。



とはいえ今現在の稽古は六人対二人。そして現時点で掴むべきポイントは、達人先生を相手にどう振る舞うか?

である。基本である最初の六人、この立ち回りをしっかり身につけておかないと、六人も百人も同じになってしまう。



「まずは死なない、負傷しない。これが第一義です」



イッちゃんは言う。なによりの悪手というのは、何もできずに戦力外となってしまうこと。それが一番ダメだという。


せめてひと太刀。これを浴びせろというのではない、浴びないようにするのが大目標。達人先生を倒す以前に、一撃キルや一撃クリティカルをされないようにすること。これが大事だと訴える。



「まずは先生方の足止め、あるいは手を焼かせること。つまり時間稼ぎです。かといって、間合いを外したズルズルの後退でも困ります。しっかりその場に足止めすること、これを最上と思ってください」



生き残る、足止めをするだけならなんとかなるんじゃない? そう思った君は廊下に立ってなさい。


敵は先生方のみに非ず。ネームドプレイヤーたちが周囲を固めている、とイッちゃんは厳しい。まあ、そうよね。厳しいからこそ、私たちは挑んでいるんだから。


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