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B級ライセンス

さて、またまた視点戻りまして、私です。甘い恋の狩人ハンター、貴女のリュウです。


『王国の刃』初、B級ライセンスのプロテスト会場です。新兵格をすっ飛ばして、いきなり熟練格デビューのできるこのライセンス。それを取得しようとする『悪羅漢』の三人。たかだかプロテストだというのに、会場は大入りの満員。


さらには生中継、公式配信のアクセス数もそうそう見られないような数字を叩き出している。


おそらくは鬼将軍、ネット界隈企業関係、あるいはマスコミなどにも声をかけて注目を『稼いできた』ものと思われる。



「悪羅漢の三人しかプロテストを受けないのに、大げさですよね?」



カエデさんが呆れたように言う。



「しかしカエデさん、これがプロの世界というものさ。プロは目立ってナンボ、注目されてナンボの世界さ」

「ダンナー! ダンナーー!」



向こうでトヨムが私を呼んでいる。



「記者さんたちが、『初のB級選手』を育てたダンナに話を聞きたいんだってさーー!」



トヨムはウィンドウを開いたままだった。おそらくマスコミ関係から、メールが山のように届いて質問責めに遭っているのだろう。私は公務員、あまりマスコミの前には出たくない。例えアバターの顔であろうと、あまり晒したくはないのだ。


とはいえ、我らが小隊長が困っている。少しだけマスコミの相手をしてやろうか。



【質問】史上初、B級ライセンスへの挑戦ということですが難関だとは思いませんでしたか?

【返答】初見の動きが『出来て』いましたから、これならばイケると思いました。


【質問】そもそもどのような経緯で、彼らを指導することになったのでしょう?

【返答】連合のトップがスカウトしてきたというか、連れて来ました。モノにしてやってくれと。


【質問】もう『出来て』いたんですよね? それでもモノをしてやってくれと?

【返答】古武道的な動きはできていました。が、『王国の刃』というゲームでは素人です。その溝を埋めるための稽古でした。


【質問】三人の選手、どのような選手でしょうか?

【返答】自慢話のようで申し訳ありませんが、いま現在のプロ試合は『GO

WEST』一強という塩梅です。彼女たちの前に立ちはだかる、大きな壁になれるものと思ってます。



まあ、このような感じで受け答えしたのだが。このインタビューは後に、士郎さんから0点をいただくことになる。せっかくの注目選手、もっと吹かして紹介してやらないと、という評価だ。……そんなマネがすぐにできるなら、公務員など辞めてプロレスの悪役マネージャーにでもなっている。無理を言わないで欲しい。


それは悪羅漢の三人も同じであった。



「今日の仕事はライセンスを取得することさ。いきなり熟練格でも通用するってトコを見ていてくれ」

「俺たちの照準はプロ試合に絞られている。だから今日は派手な勝ち方はしないぜ、お楽しみはデビュー戦までお預けだ!」



ここまではライとモヒカンのコメント。しかしカーンは悪役らしく、カメラを睨みつけ指さして言う。



「俺たちのB級ライセンスが、無理だとか失格するとかヌカしてるやつがいるらしいな!! その目を見開いて、よく見ておけ! これが悪羅漢のファイトだ!」



うむ、実にプロレスラーっぽい発言だ。早速会場の欧米プレイヤーたちから、ブーイングを浴びている。


プロテストは簡単な筆記試験。そしてエラーなどによるシステムへの対処、あるいは試合動画のアップ方法。三分1R制もしくは二本先取の三本勝負。実技審査である。


いわゆるプロテストの実技、採点項目は攻撃性のある試合運びか? つまりビビリではないか? 防御はできるか? つまり攻撃一辺倒の素人ではないか?

攻防の基本技術はしっかりしているか? つまり素人にプロを名乗らせるつもりは無い、と。


簡単にまとめると、プロ選手に相応しい技量を持っているか? というのが採点のミソなのだ。



さらには現在に至るまで、web上でなにかと物議をかもしている『不適当発言』をしたりしないか?

などが挙げられている。先のカーンの煽りは、一見不適当発言に見えるかもしれないが、振り返っていただきたい。カーンは誰も誹謗中傷はしていない。『俺たちのファイトをよく見ておけ』と言っているだけである。


これは不適当発言には入らないだろうと、事前に御剣かなめ秘書から教えられていた。それでは、いざ実技である。


対戦相手は協会が選抜した、現役の熟練格プロ選手たちであった。先陣を切るのは、猛将モンゴリアン・カーンだ。手槍に弁髪、上半身は2MB(陸奥屋まほろば部屋)推奨の革鎧。プロレスの黒いショートタイツにスネ当てはファーをイメージしたもので、その下は目立たぬが地下足袋を履いている。



手甲はもちろんかねを呑んでおり、打撃にもそのまま使えるものだ。対するプロ選手は、得物が同じく手槍。軽装ではあるが鉄の胴に鉄の鉢をかぶっている。手甲スネ当ても金属製だ。試合場中央で、ロボット審判によるルール確認。



「よ、ルーキー」



先輩プロは、余裕を見せたいのかニヤついていた。



「B級ライセンスとは恐れ入ったな。せいぜい実力をアピールするんだぜ」

「……………………」



カーンは無言。その態度に先輩プロは少し気後れしたような顔を浮かべた。両者わかれて開始線、そして銅鑼が鳴る。


先輩プロは一歩後退して間を取るが、カーンは構わず前進。近づいてくるなという牽制の軽い突きも、簡単にペシペシと払い、さらに間を詰める。


いよいよ場外、という寸前にカーンは前進をやめた。ツ……と見合って、今度は先輩プロの攻撃。カーンはこれも軽くあしらうが、誘うように後退。


そして試合場中央までくると、横移動を始める。先輩プロを中心に、反時計回り。これは防御面をアピールしているのだ。



素人は相手が攻めてくると、ゆとりが無いので真っ直ぐ後退してしまう。『俺は素人じゃねぇぜ』というカーンのアピールなのだ。そして攻防が入れ替わる。


反時計回りに動くカーンが、細かい突きを入れ始めたのだ。これは攻撃性のある試合運び、というアピールだろう。先輩プロの攻撃を受けて反撃、反撃しては動いて捌く。十分に技術を見せたところで、一撃の突き技。見事に一本先取である。


その後もカーンは巨体に似合わぬ軽やかな足さばきと確実な受け、そこから転じる鋭い技で先輩プロを圧倒。終了間際に槍で面打ちふたつ、鉄鉢を割ってからの一撃で二本目を奪った。


私の目では、文句なしの合格だ。続くはモヒカンくん。頬に白いラインを化粧して、戦さムードをかもしている。


こちらはほぼプロレスラースタイル。グローブから続く手甲にはスパイクがあしらわれ、地下足袋にキック用のスネ当て。ショートタイツ以外は身につけていない、攻撃ガン振り型の装備が観客の目をひいた。そのくせ得物は片手持ちのトマホークというもの。防御無視で小兵器という男前路線超特急に、観客の視線は釘付けであった。



大兵マッチョのモヒカンくん、ギラリと光る眼差しで対戦相手を睨みつける。敵は中肉中背、バランスの取れたアバターを使用。


貫頭衣に鎖帷子を着込み、鉄鉢を着用。どうやらプロ界隈では、軽装が流行となっているようだった。そして得物は長剣、斬馬刀ほどではないが、カエデさんの片手剣よりは長い両手持ち。


さあ、この対戦相手にモヒカンくん、プロとしての技量をどのように見せる?

ゴング!

両者得物を合わせた位置から接近。


まずは対戦相手の剣士くんが主導権を先行。モヒカンの正中線をうばっているのか、グイグイと出てくる。


長剣ひと太刀、モヒカンくんはこれを弾いて後退。さらに剣士くんは攻撃、これもモヒカンは弾いて凌ぐが真っ直ぐ後退。



王国の刃でもボクシングでも、およそ格闘技武器武道と呼ばれるもの全般に言えることなのだが、真っ直ぐ後退というのはいただけない。敵を中心とした円運動、あるいは横への逃避をしなくては敵はどんどん前に出てくる。


判定勝負になった場合、採点が不利に働きやすい。それでもモヒカンくんは真っ直ぐ後退、もうすぐ場外へ。


……というところで、剣士の脇の下をくぐり抜けてバックを取ってしまった。剣士くん、唖然呆然。なにしろ追い詰めたはずの巨漢が目の前から消えて、生殺与奪も自在な背後を許してしまったのだから。


モヒカンくんは西洋式に優雅な一礼、それから構えなおして戦闘に戻る。迂闊には攻め込めなくなった剣士くん。そのため攻守は逆転。



邪魔な剣を押し退けながら、モヒカンが前に出始めた。剣士くん後退、いただけないと評した真っ直ぐの後退だ。あと少しで場外、というところで手甲を破壊される。


モヒカンのチョン打ちでしかなかったが、威力は抜群という判定だ。そのまま胴と鉄鉢も破壊され、剣士くんは撤退の一撃をいただいてしまう。


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