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悪玉トリオの実力

ずんぐりとした体型ではあるが、ウデも脚も丸太のように太い。そして大男である。口ひげの下で唇は不機嫌そうにゆがみ、眼差しは睨みつけるような感じ。


東洋人的な顔つきで、弁髪以外はすべて剃り上げていた。この男もまた、ショートタイツ。肩には槍を担いでいる。そんな古典的でステレオタイプな風俗は、我が国には残っていない!

撤回しろ! とお叱りを受けそうだが、これはあくまでもギミック。そのようにご理解いただきたい。



勇猛果敢な戦士、男性を表現しているだけである。しかしそんな私の配慮も、消し飛ばしてしまうのが鬼将軍あのバカである。



「こちらもミチノックコーポレーションからの志願者、キング・カーンだ!」



どこのプロレス会場だよ、ここはよ。

思わず私もやさぐれてしまいそうになる。ただ、実力のほどは不明だが視線は引きつけられてしまう。そして強い、というのであれば確かに強そうな雰囲気である。ともすればその風貌だけで、お客さんがつくかもしれない。



「そしてミチノックコーポレーションから第三の刺客!」



まだいるのかよ。



「悪魔のごとき戦士二人をまとめる司令塔、ライ・ザ・サンダーボルト、っっカマーーン!!」


第三のギミック戦士が、スモークの中からせり上がってきた。……が、小柄だ。痩せっぽちである。華奢な体型から女性だと知れた。こわい髪を結い上げたポニーテールを、ゆっさりと揺らして登場した。


そんなチビ助が、一人前に迫力満点で斬馬刀を担いでの登場である。シルエットが実射となり、どこかで見たような顔が浮かび上がった。



褐色の肌、少年のような顔立ち。そして挑みかかる眼差し……。思わず背後を確認した。


いる、ウチの小隊長トヨムは、メンバーに混ざってそこにいる。だが、あまりにも似ている。トヨムはベリーショートの赤髪。だが、ライ・ザ・サンダーボルトは黒髪とポニーテール。……トヨム、お前いつからミドリムシのように増殖分裂するようになった?

私の疑問をよそに、鬼将軍ミスターあほたれは得意気に語り出した。



「チームGO WESTの乙女たちよ、君たち三人だけでは人気が必ず頭打ちになる」

「なにをっ!!」



悪のラスボスに噛みつく戦隊ヒーローのように、ヒカルさんが吠えた。



「何故なら君たちにはライバルがいない。そして三人のままでは、まともに六人制試合にも出られない」

「くっ!!」



いや、ヒカルさん。そこで退いたら鬼将軍アレは図に乗るぞ?



「そこで私から、君たちに困難ライバルをプレゼントしようではないか! 先生方、その実力をお試しあれ!」


いいのかよ、こんな暴挙を許して? 誰かあの鬼将軍アウトオブベースを止めるヤツはいないのか? そうだ、こんなときこそもう一人の頭目、天宮緋影だろう。



「リュウさん、それは駄目なようだぜ」



士郎さんの指さす先で、頼みの綱である天宮緋影は鼻ちょうちんを浮かべてコックリコックリと舟を漕いでいた。


このアマぁ、肝心なときに居眠りブッコキやがって……。しかし、そんな眠りを覚ますような声で、ライ・ザ・サンダーボルトに食いつく者がいた。


我らが小隊長、トヨムである。



「姉ちゃんっ!! どうしたんだよ、こんな所でっ!!」



なにーーっっ!? やっぱりお前ら肉親かっ!?



「妹よ、遂に私はここへ来たっ!! 実家の貧乏は私にまかせて、お前はキャンパスライフを満喫すると良い!!」



ライの返答に、あちこちから驚きの声があがった。



「えーーっ!!?? トヨム小隊長って、大学生なのーーっ!?」



事実の発覚は衝撃的に、まるで最終回のような展開だった。というかトヨムが大学生だと知ってたのは、私だけなのか? みんなに言ってなかったっけ?



「感動の再会もそこまでだ、トヨム小隊長。まずは先ほども述べたとおり、先生方に彼らの実力を試していただこうじゃないか」



そうだ、変態男がその配下から選抜した怪人たち。まずはその力量を試させていただこう。



「とは申せ閣下。まずは三人ずつ当たっていただいて、彼らに我らが流儀を味見していただこうかと」



士郎さんが言った。上手い、というか他流慣れをしている。こうした初見、あるいは武者修行との立ち合いは、いきなり上位者が出てゆくものではない。まずは中堅どころを当たらせて、その力量を計るものである。



「リュウ先生も、それで御異存はありませんかな?」

「はい、まずはチーム『まほろば』から近衛咲夜を出してみたいと思います」

「そこにミスターモヒカンを当てるのは、ツライかな?」

「かまいませぬ」



鬼将軍とのブッキング交渉は成立した。金髪碧眼、お人形さんのような近衛咲夜が立ち上がる。朱袴に白の稽古着、朱のタスキ。防具は朱の手袋にかねを打ったもの。それだけである。背丈は目測で、一五五センチをいくらか越えたところ。体重は五〇キロを切ったくらいか。



対するモヒカン青年、身長は一八五はある。それをどれだけ越えているか? 目方は一〇〇キロ? それを下回っているのだろうか?

とにかく現実世界では、あまりお目にかかったことのない『筋肉の城』である。


つまり、身長差三〇センチ。体重差にいたってはほぼ倍、あるいは計測不能。


単なる肉弾戦ならば、勝負にならない体格差だ。……単なる肉弾戦ならば。近衛咲夜は真剣実刀を腰にたばさんで立ち上がる。そのまま開始線へ。モヒカン青年は吠えながら開始線へ。審判、フジオカ先生。緑柳師範は上座、鬼将軍と天宮緋影の傍らに控えた。



「勝負は真剣実刀を用いたものと想定し、一本のみとします! 身体のいずれに触れても勝敗を決するので、こころして……始めっ!」



ドン! と太鼓を叩いたのは白銀輝夜、真剣一本勝負の始まりである。


しかし近衛咲夜は刀を抜かない。おそらくは素人と目されるモヒカン相手に、居合勝負を申し込むつもりだ。


気合い一発、モヒカン青年はトマホークと丸楯をかざして大きさをアピール。巨体に似合わぬ滑らかな足さばきで、剣士に迫っていった。モヒカンも近衛咲夜も、ノーガードである。真剣勝負にガードなど無用、命のやりとりなど最初ハナから込み込みという覚悟か。


だがモヒカン、間合いに入ると急に胴の急所をかばい始めた。勝負の勘どころは心得ているようだ。だが思い出したように素人同然、大きく吠えてトマホークを振りかぶった。


テレフォンパンチだ。近衛咲夜は丁寧に、刀を鞘走らせてこれを受け流す。そのまま切っ先を鯉口から走らせて、モヒカンの袈裟に一刀。残念、これは丸楯に阻まれた。


ん? 居合の初手を阻んだということは? 俄然モヒカンの有利である。それでもトマホークは受け流されていた。体勢も崩されている。が。



「コナクソ!」



丸楯ごとの体当たり。華奢な近衛咲夜は弾きとばされた。しかし何とか場外ぎりぎりで着地、土俵を割ることはなかった。モヒカンはここで蓄勁、今一度必殺の力を蓄える。



「あのモヒカン、やるな……」

「まあ、そうですな。居合の初手を受けましたわ」

「知ってるな、居合を」

「あの体格で技を覚えられたら、手がつけられん」



もっとも、それはモヒカン本人にその意思があれば、の話しだが。体格に恵まれた者は技を求めない。筋力に自信のある者は技を求めない。身体能力を自慢にする者は技を求めない。面白いもので、そういうモノである。


求めない理由は簡単、『売り』があるからだ。ものすごく単純に言おう。男子という生き物が『戦い』を求める生き物だということを前提に。何故男子は『戦い』を求めるのか?

女の子にアピールするためだ。


何故アピールしたいのか? これも簡単に決めつけをしてしまおう、『種』を残したいからだ。下世話な表現をすると、『イイ女をモノにしたい』からである。



そんな単純明快な男ども。他のオスどもを出し抜くためのセールスポイントがあるのなら、技など苦労してまで求めたりはしないだろう。


そして私たちのように年を取り、視力も衰え筋力も落ち込んで、ようやく本物の技が身につくのである。そして汚い技で若者を陥れ、コテンコテンに転がしたあとで先生然として言うのだ。これが兵法というものだ、なんてね。



おっとイケナイ、独身の愚痴が口をついて出るところだった。モヒカンくんのファイトに集中しましょう。士郎さんは「居合を知っている」とモヒカンくんを評したが、その間の詰め方はいただけない。地面を踏み鳴らしてドタバタ。


ブルドーザーもかくや、という騒がしさで接近したのである。いや、注目グラマラスめる、という点では合格なのだけど……。


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