みんなで必殺技
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「そういえば旦那?」
今日もやはり、なにかおかしなことを言い出すのはトヨムであった。私たちの拠点である、練習場である。一対一の稽古、カエデさんとセキトリが当たっている最中であった。
「アタイとセキトリは必殺技を作ったけどさ、シャルローネたちはまだだったよね?」
「あぁ、そういえばそうだったな。もしかしたらあのゲーム内オートの必殺技。そろそろみんなもできるようになってるかもしれないな」
「おやおやリュウ先生、なんの話ですか?」
シャルローネさんが首を突っ込んできた。
「以前ね、トヨムがオリジナルの必殺技を作ってみないか? って言い出してね。それで私もゲーム内必殺技をオートじゃなくマニュアルでやってみたんだ」
「マニュアルってことは、自力で?」
「そ、自力で」
「できるモノなんですか!? あれって……」
「やっぱりオートにはかなわなかったけどね、一応は。迅雷って技だったんだけど」
ほほ〜、とシャルローネさんは目を細める。興味津々という表情だ。
「それって私たちもできるものなのでしょうか?」
「稽古次第ではね。だけどオリジナルの必殺技の方が、命中率は高いと思うよ。マニュアルの必殺技はオートほど素早く打ち込むことはできない」
「オリジナル!?」
生えた! またシャルローネさんに犬耳と尻尾が生えた!
「既存の必殺技の劣化版よりも、自分だけのオリジナル必殺技の方が命中率は高い。わかるよね?」
「はい、自分しか知らない必殺技ですからね」
「そういう技を作って遊んだことがあったんだ」
より詳しく説明する。あのときトヨムとセキトリは、普段着けないリングシューズやサポーターを着けて、プロレス殺法を披露していた。まあ酷い闘いと言えば酷い闘いではあった。
う〜〜む、とシャルローネさんは考え込む。あまり変なことは考えないように。出会った頃のきみは女の子と大人の狭間を揺れ動く美少女だったのに、トヨムの影響かどんどんお笑い路線に引きずり込まれているようにおじさんは感じているぞ?
「ですが私たちもプロレス技じゃあ芸が無いですよね〜〜ウムム……」
それ! その発想! 芸とかなんとかって言う発想がもう美少女じゃないから!
「できれば武器を使った技がいいですよね〜〜……」
よし、まともな路線に戻ってきたな。
「どんな技がいいでしょうかねぇ?」
稽古中のカエデさんを見る目が鋭くなった。明らかに何かをたくらんでいる目だ。
「はい、セキトリとカエデさん、止め。マミさん、一丁手合わせしようか?」
私は逃げるように練習場に入った。しかしこの日の稽古が終わると、女の子三人はそそくさ、という感じで白百合剣士団の拠点へと帰って行った。
「なんかあったんかいのう、リュウ先生?」
「うむ、実はな……」
ことの成り行きを説明する。
「そういやワシもビッグブーツの必殺キックが不発じゃったのう」
しまった、いらぬことを思い出させてしまった。
そして翌日、六人制の熟練格で出撃。私は悪い予感しかしていなかったのだが、そうした予感ほど的中するものである。
マミさんがボロボロのコートを身にまとって現れた。手には園芸バサミを携えている。園芸バサミを掲げて両手で広げる。
「バンボロ〜〜ッ!」
「やめいっつーの! ホント怒られるからな! 絶対ぇに怒られるからよ!」
「仕方ありませんねぇ……ゴソゴソ……」
「マミさん、エ〇ム街の悪夢もアウトだからな」
「ギクッ」
「コホーッ……コホーッ……」
「セキトリ、それは他のプレイヤーがやった。先日やったネタだ」
まったく、どいつもこいつもボケ倒しやがって。ツッコむこっちの身にもなってみろってんだ。
「リュウ先生、大丈夫。あの娘たちの暴走は、私が許しませんから」
「カエデさん、そういうセリフはせめて手にしたチェーンソーを置いてからにしてくれ……」
若い娘たちの良心、カエデさんまでこの始末だ。今回の一戦、果たしてどうなるものやら……。
しかし、意外なことに試合展開はまともなモノだった。
「トヨム式つむじ風!」
まずは敵の内懐に飛び込んだトヨムが、ボディーへのストレートから左フックの連打。これで先制のキルを奪う。しかも柳心無双流の一手、「旋風」を打拳技にアレンジしていた。まあ、剣術の旋風は頭上で太刀を旋回させるから旋風なのであって、拳技だとそうはならない、という違いはあるが、良しとしよう。……問題は、シャルローネさんであった。
「シャルローネ式、大陸間弾道弾!」
投げよった! スパイク付きのメイスを、一直線に投げつけやがった!それも二足一刀、比較的至近距離から! その距離じゃちっとも大陸間弾道弾じゃねーよ、って距離からだ。不意を突かれた敵は、腹の防具を失った。そこへシャルローネさん、サイドアームのナタを取り出して一撃。
「必殺、ナタでココ!」
ココ、とばかりむき出しの腹を打った。これがまた見事に決まるのだから、どうしようもない。
しかしこの必殺技には弱点があった。落ちているメイスをひろう姿が、とても格好悪いのだ! そして運営からの警告がブザー音とともに。
「武器は最低限片手で持っていないと無効です」
撤退したはずの敵がよみがえる。もちろん腹部への得物の投擲は無効ということで、装甲がもとに戻っていた。そして警告の減点1。シャルローネさんは腹部の革防具を剥ぎ取られた。
しかし酷い必殺技はこれだけでは終わらない。
「マミさんの、必殺ロデオガール! ヒーハー♪」
マミさんがスパイクのついた棍棒二本で、敵をベシベシと打ち据えていた。というかロデオ一個も入ってないし! むしろサンバでマラカスを振っているだけのような?
「おぉっ!? それですね、リュウ先生!!」
お前は人の心を読むな。というか、「マミさんの、浅草サンバカーニバル!」と言い直している辺りがもう頭痛の種でしかない。こうなると白百合の良心、カエデさんに期待するしかなくなってきた。
楯と一緒に片手剣を構えるカエデさん。
「秘剣、雲龍剣!」
うむ、それらしい技の名前だ。これは期待ができそうだ。カエデさんが出る。敵とすれ違った。ズバーーッ! という効果音。何故か敵は倒れている。
え? 何があったの!? どういう攻防? どうやって敵を倒したの!? 教えてくれ、カエデさ〜〜ん!
こんな漫画ならひとコマで勝利するような勝ち方、やめようやカエデさん!
「フッ……戦いはいつも虚しいわね……」
あんたナニ言ってんの!? これ闘うゲームだから! ゲームの根本理念を覆しちゃダメだから!!
「そぅい! 今回こそ発動のビッグブーツじゃい!」
デカイ足、セキトリのキックが相手の胸板で炸裂。もう驚かないぞ、セキトリ。その程度の技で私のツッコミをいただこうだなんて、そうは問屋がおろさないからな?
「そしてフライングクロスチョップじゃい!」
飛ぶなよ、巨体で! しかも結構華麗な空中殺法じゃねーか! やるなセキトリ、もしかして大学相撲部の後輩をその技でシメてんじゃないだろうな!?
まあ、人生は楽しむべきものであり、若者たちはそれぞれの楽しみ方を工夫している。それはそれでヨシとしなければならないのだが、ちょっとは相手を思いやってほしいものだ。こんなデタラメくさいというか、いい加減な必殺技で撤退したのでは、対戦相手が浮かばれん。
まあ、過去に自分たちがやった悪行を、若い連中がやらかしたとて咎め立てすることはできない。ましてその悪行のおかげで圧倒的勝利を飾ってしまったならば、何をか言わんや。
ということで拠点に帰り次第、反省会として稽古会を開く。
「まずはシャルローネさん! 残念ながら得物の投擲はルール上認められていないようだ。よって、大陸間弾道弾に代わる新技を授けてみたいと思う!」
私はシャルローネさんのメイスを借りて、カカシに対した。左手足を前にした構え、まず右手でメイスを突き出し、さらに左手一本でもうひと押し突き出す。メイス自体が元来長得物だ、それを前手一本で突き出せば、かなりの間をとることができる。
しかし大陸間弾道弾は、ナタでココ! へと繋がる技だ。つまり連続するもう一発が欲しい。
私は水平に突き出したメイスの下に滑り込む。頭上にメイスを掲げた形だ。そして石突を右手で握り、突きをもう一発。これで反則を取られることなく突きふたつをいれることができる。それでも、というときに初めてナタを使えばいい。そのときはメイスから手を離すべきだろう。
別に叱ったわけではないが、自分の生み出した技が反則とされたのが不服なのだろう。シャルローネさんは渋々私の教えた技を練習し始めた。
「続いてマミさん! 接近戦で両手のスパイク棍棒を乱打するのは良いアイデアだ。しかし今日の打ち方ではもったいない! 無双流もうひとつの打ちを授けよう!」
無双流水平打ち。これは柄頭を相手めがけて突き出し、ここ、という場所で小指を締めながら打つ、という打法だ。大きく振りかぶらない直線的な動きだからこそ、棍棒は最短距離を移動できる。つまりスパイク棍棒を使ったワンツーパンチとでも言おうか。それも、ワーン・ツーと出す攻撃ではない。
ワ・ツー! くらいのタイミングで出す、ツーの打撃がワンのおわった直後に入るため『幻の右』になるのである。少々古臭い言い方だが、それだけワンとツーの間隔が短いのだ。
本来無双流では一刀をもって一撃するのみであるが、幸いマミさんは双棍。こんな技もできてしまうのだ。
さて、セキトリ。本日のフライングクロスチョップという大技により、意外なほど身が軽いのはわかった。しかしそれは抜群の背筋力がなせる技、と私は見る。そこで鍔迫り合いになったとき、得物ごと相手を抱きしめる形でマワシを取ることを勧めた。マワシさえ取ってしまえば、もうセキトリの土俵だ。あとは煮るなり焼くなり好きにすればいい。
トヨムのつむじ風に関しては、完成度が高い。しかし欲を言うならば、つむじ風で終わらず台風のような乱打に持ち込んでも良いのではないだろうか、と思う。
現在のトヨムは小柄すぎるため、どううしてもボディーブロー一辺倒である。これを餌にして、腹から顔面へのつむじ風、顔からまた腹へのつむじ風、腹と顔を交互に打ちまくるつむじ風へと変化をさせてみたい。
そしてつむじ風という技の肝は、短時間に打撃を集められるだけ集めるところにある。ひと呼吸のうちに八連発から十連発。それを複数の敵にお見舞いしてこそ、トヨムのつむじ風は完成となる。よって、トヨムにはカカシ三体という大盤振る舞いのプレゼントだ。
「ふう……一度にたくさん教えるとしんどいな……」
「あの、リュウ先生?」
カエデさんだ。
「私には何か無いんですか?」
「あぁ、そうだね。雲龍剣って言ったっけ? まずあの技ってどんな技なの?」
「簡単に言うと、楯で相手を押さえつけておいて、動きの止まった瞬間に、こう……」
一度腹を斬って、返す刀で防具を失った腰部分を斬る技らしい。要は片手ツバメ返しである。私も第三話「デビュー戦」で二人の敵を相手に使っている。無双流の奥伝技であり、私も見境なくついつい使ってしまったのだが。カエデさんは我流でそれを編み出していた。
そのことをカエデさんに告げると、「だってそういう技を使えるようになるために、先生の稽古があるんでしょ?」とアッケラカンと言われてしまった。
若いとか、稽古の積み重ねというものは恐ろしいものだ。練度はまだまだなのだが、それでも奥伝技と同じ発想をすること自体が凄いことなのである。