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若手の目

若手指導員の稽古を、ひとまずユキさんとキョウちゃん♡にまかせた。トヨムが戻ってきたのだ。


お久しぶりです、トヨムが戻ってきたというのなら、私も帰って来ました。貴女のリュウです。まずはトヨムに、白樺女子校軍の様子を訊く。



「心底ヘコんでたよ、なんのとガンバって立ち上がってはいたけどさ。心は間違いなくボキ折れてた」

「可愛そうというなら可愛そうだろうな。だが、仕方ないというのなら仕方ないことだ」

「普通に言うねぇ、ダンナ」

「成人式のようなものだからな、本物を身につけるための通過儀礼だ」



人は憧れから武門を叩く。そして最初に思い知らされるのだ、『自分はいま現在、この中で一番の下っ端なのだ』と。そして身体がまったくついて行かないという現実。そう、一番最初に心を挫いてくるのは、体力フィジカルの問題だ。


『技は力の中にあり』という問題、最初は誰しもここから始まる。否も応もなく、現実がのしかかってくるのだ。憧れというファンタジーから、現実へ。そういう意味では白樺女子、貴重な第一歩を踏み出したと言って良い。



「で、心挫けた少女たちに、小隊長はどんな言葉をかけてやったんだ?」

「脇役なんてひとりもいないって意味でね、全員が本気になってアタイの首を掻きに来いって」

「トヨム、怪我人の手術はメスを使ってやるものだ。ノコギリやトンカチを使おうとするな」



思わず苦笑してしまう。



「だが、それで良い」

「明日、何人残ってるかな……白樺女子……」



様子を見てきたトヨムは、脱落者を危惧しているようだった。が、生徒会長が先頭に立って声を出している。



「白樺女子ーーっ、声出していくよーーっ!」

「「「応っ!」」」

「いくよっ!」

「「「応っ!」」」

「いくよっ!」

「「「応っ!」」」



用事だなんだと稽古に出られない者もいるかもしれない。だが、あの様子なら大丈夫そうだ。まだまだ挫けてはいないだろう。その証拠に、「小娘ども、ウルサイぞ!」と緑柳師範が叱りつけると、「師範先生がもっと元気を出せとおっしゃっている! ガンガン行くよっ!」「「「応っ!」」」などとさらに合戦ムードを高めていた。



「まあ、トヨムみたいなのがいるから、白樺女子は大丈夫だろう」「え? そんな美少女いたっけ?」

「言うねぇ、キミ……」



とはいえ、私たちも弱い者いじめが好きな訳ではない。もっと鍛えてもっと強くなってもらうためにも、今しばらくはトヨムに面倒を見てもらうことにする。


さて、キョウです。ただいま若手指導員たちで稽古をしています。思いのほか成長していた白樺女子校軍の面々。


練習試合ではまるで歯が立たないかのような負けっぷりではあったけど、それはあくまで外面。攻撃面での熱心さ一途さは舌を巻くほどの成長と、俺には見えた。



「おやおやキョウちゃん♡、どうしたのかな、女の子たちに熱い視線を向けたりして? 誰か気になる娘でもいるのかな?」



おどけるように話しかけてくるのは、チーム『まほろば』の薙刀使い御門芙蓉さんだ。



「いえ、気になるというほどではありませんが。先ほどまでドン底まで落ち込んでいた白樺女子が、もう立ち上がっていつもの稽古を再開していると思いましてね」

「う〜〜ん、昨今のアイドル集団を例えに出すまでもなく、女の子の群れってそれだけで華やかだもんねぇ〜♪」



なんだろう、この『日本語が通じてない感』は?



「でもこれでお姉さんも安心したよ。年頃の男子がカノジョのひとりも拵えず、朝から晩まで剣術にのめり込んでいるんだから。若くして機能が衰えているのか、決して多数派とは言えない趣味の持ち主かと疑う日々で、悶々としちゃってたからさぁ♪」



……何を言っているのだろうか、このヒトは?



「俺からすれば、彼女たちの打ち込みの鋭さに驚くばかりなんですが、芙蓉さんにはどう映りましたか?」



あ、あくまでも武のお話ね? と断りを入れてから、芙蓉さんは真顔になった。



「確かににね、攻撃面では格段の進歩を遂げたと思うよ。でも小隊長ちゃんが言ってた通り、まだまだ甘ちゃん。っていうかどこか主役感が無いっていうか、アナタ任せ感があるっていうか……。これで四先生方を倒すのは、程遠い目標ではあるよね」



そこまでは俺も同じ感想。父やリュウ先生、フジオカ先生や緑柳師範にはまだまだ遠く及ばないだろう。しかし……。「化けることは可能だよね♪ なにしろ最高の指導をされて、目的への最短距離を突っ走っているんだから」



芙蓉さんは武人の目を向けた。



「ほら、もう稽古にアナタ任せ感が無くなってる。打ち込みも質がひとつ上がったよ?」



うん、先ほどまではこう、「自分には出来っこない」とか、「自分は補佐役」といった雰囲気があったのだが、今はもう目の色を変えて、「自分が討ち取るんだ!」という熱気に満ちている。順番をまもって、次々とカカシに打ち込みを繰り返しているのだが、実に良い気迫と思えた。



「ずいぶんと気配が変わりましたよね、何故だと思います?」

「私は、小隊長ちゃんの導きが良かった、とだけ答えておくよ。でもね、あの生徒会長ちゃん。あの娘がみんなを引っ張り上げているのかな?」



やはり、あの生徒会長がキーマンか。しかし、女の子ひとりで背負うには、かなり重たい荷物と責任に思えるのだが……。



「そうだね、ひとりで背負うには重たすぎる。いわゆる重責だと思うよ。でもね、支えてくれるヒトがいるみたい」



生徒会役員のメンバーか? いや、それらしい行動は見て取れなかったのだが。



「ホラホラ、あの一番張り切ってる娘。剣道部の主将ちゃんだよね? 私はあの娘が注目株かな?」



なるほど、確かに。あの娘が一番、剣に勢いがある。そしてその勢いは剣道部員に伝わっているようだ。剣道部から薙刀部へ、その勢いは体育会系に波及し、そこから全体へ影響が及んでいるようだ。



「ふむ、確かに。熱心な稽古ですな」



会話に入ってきたのは白銀輝夜だ。『まほろば』の中でもっとも剣術に熱心で、相当に使う。四角四面の印象で、今も表情ひとつ変えずに白樺女子校軍に視線を送っている。



「やあやあ輝夜、専門家の目から見て、輝夜はどう思うかな?」

「彼女らですか?」

「そーそー、女子高生ちゃんたち」



白銀輝夜だ。コロコロと視点が変わって申し訳ない。緋影さまの御守刀としては先輩である、御門芙蓉どのから意見を求められた。災害認定されている四先生方を倒そうという、白樺女子校軍はどうだろう?

という問いだ。


我々の講習会を受講するようになった当初から比べれば、雲泥の差と言える。とは言うものの、まだまだ実力不足は否めないそのことを芙蓉どのに申し上げると、「輝夜はキビシイねぇ」と意見されてしまった。


しかし私としては、それ以上に考えなければならないことがある。万にひとつの可能性として、あの白樺女子校軍が四先生を突破してしまったらどうするべきか? これまでの白銀輝夜ならば、刀折れ矢尽きるまで奮闘し、最後の最後まで緋影さまをお守りするのだと鼻息を荒くしていただろう。


しかし、ふとひらめいたことがある。四先生方を突破するだけの実力を白樺女子が身につけたなら、私ごときでは緋影さまをお守りできないのではないだろうか? ここ数日、思案にふけっていたのだ。最悪のシナリオには備えておくべきだと。そこで私はひらめいた。素晴らしい考えが舞い降りたのだ。『もしもそのようなことになったら、緋影さまを背負って後方へ避難しよう』と。


なに、狙われているのは鬼将軍の首だ。あの男ならば大見得を切って華々しく、そして見せ場たっぷりに斬られることだろう。むしろそれを望んでいるに違いない。


しかし、緋影さまにそのようなことがあってはならない。なんとしてでもお守りしなければならないのだ。我が名案に満足し、思わずアゴをそすそすと撫でていると、相棒の咲夜が脇腹を突っついてきた。



「ほれ輝夜、稽古しとる振りだけでもしとかんと、士郎先生が睨み効かせとるんよ」

「おぉ、それはいかん。では咲夜、相手をしてくれるかな?」

「本気出したらいかんよ?」

「わかっている」



ヤッと伸びてくる咲夜の突きは、中段の構えから。私の木刀を押しのけるようにして割り込んでくる。それに逆らうことなく、咲夜の木刀を一周してから同じように邪魔者を押しのけながら突きを伸ばす。



「ぅおっとっと!」



咲夜は後退、しかし構えは解いていないし崩れてもいない。つまりは戦闘続行の意思あり、ということだ。そこは少しだけ意地悪を。右小手に、わざと隙をこしらえて誘いを出す。


咲夜は平素やたらと世話焼きの真似をしてくるが、剣においてはあどけない娘のようだ。疑うことなく、素直に小手を打ってきた。「その小手、ヨシ!」と言って、私は左の片手突きを胸に入れてやった。


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