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視察

アタイだよ、トヨムさ。今日はカエデに言われて、ちょっと白樺女子校軍団の稽古を視察に来ているんだ。


やってるね、熱心だ。ダンナや士郎先生がいないのに、たるむことなく稽古に励んでいる。カエデはコイツらの熱心さに、『ナニか引っかかるものがある』とか言ってたけど。


そうだな、今どきゲーム世界でのファイトやバトルに挑むにしちゃ、熱心過ぎると見てもいいかな? でもそれだって、自分たちの学校がなくなるかどうか? 学校存続を賭けての戦いってんなら、わからないでもない。


カエデは何が引っかかるってんだろ?



「おや、小隊長どのも視察ですかな?」

「おう、白銀輝夜か。ウチのカエデがどうにも気になるって言うからね。アタイの目で見ているんだけどさ。……何がどう引っかかるのかまでは見抜けないな」



まったく、そう言って白銀輝夜は笑う。



「稽古に熱心なのは良いこととしか、私にも見えません」

「んで、夏至までに急成長するかどうか? って話なら、ちょっと見込みは無いだろうね」

「左様、一部剣道部員。あるいは薙刀部員は伸びるでしょうが、それでも天井は知れています」


「それ以外でも……言っちゃ悪いが素人が頑張ってる程度。講習会に参加してない一般プレイヤーと比べたらブッチギリだろうけど、せいぜいがそこ止まり。気になる存在とは言えないだろう」

「私の見立ても、小隊長と同じです」



だけどアタイはカエデに言われて来たけれど、コイツは誰に言われて視察に来たんだ?



「近衛咲夜か?」



アタイは白銀輝夜の相棒、アタイとはあまりからみの無い、金髪お嬢ちゃんの名前を出してみた。お人形さんのような見た目で、剣は使えるけどあまり達者ではない。



「隠せませんな、小隊長には。左様、咲夜めに言われて見に来ました。アレもこうした『努力する者』が大好きでしてな。咲夜の中では大変に評価が高い」

「それにコイツら、やる気に満ちあふれてる。そうした点は見逃せないぞ?」

「その点は、まったく」



白銀輝夜の目がギラリと輝いた。なんでもかんでもぶった斬ってやる、と言う目だ。



「斬れるか、白銀輝夜? コイツらをさ……」



試しに訊いてみる。「造作もなく」という言葉が返ってきた。



「カカシでも斬るように、容易なこと」

「そっか……カカシか……」



……………………。



「何をお考えですかな、小隊長?」

「熊本の河上彦斎だっけ? 人斬りで有名なの」

「達人だったそうですな」


「あれが佐久間象山を斬ったとき、『初めて人を斬ったという気がした』って言って、それからは暗殺を辞めちまったらしいなって……」

「それが、いかがしたかな?」


「お前は今、カカシのように斬れると言ったけど、人間として立ち向かってきたときは、どうかな? ってな……」

「手向かい致すは斬り捨てる」

「そうだ、そうでないと戦さは勝てん。その信念だ」



白銀輝夜は動じていなかった。そして、半分くらい聞く耳を持たないんだろうな。それくらいにコイツと剣は必殺の一撃でつながっている。だが、アタイは? 人間を叩きのめすことができるだろうか?


なんとなくでしかないけど、漠然としたものでしかないけど、不安が胸をよぎってしまう。



「どうしましたか、筆頭小隊長?」



帰り道、ひとり思い悩んでるときにコイツが現れた。熱い男、正義の男『チーム・ジャスティス』リーダーのジョージ・ワンレッツだ。



「ん? あぁ、アタイに人間を打ちのめすことができるだろうかってね……」

「いつも打ちのめしてるでしょう、と戯けるには深刻な表情ですね。よかったら話を聞きますよ?」



そっか、なら聞いてもらおうかな。アタイは漠然とした不安をポツポツ、雨だれみたいに打ち明ける。もちろん正体不明な不安を説明するんだ、上手く話せる訳が無い。話は前後したり跳んでみたり。また戻ってきて同じ話をしたりになった。


う〜〜んと唸って、ジョージは首をひねった。



「これが正解、とは言えませんが」



前置きをして、ジョージもまたたどたどしく説明をする。



「俺たちが今まで挫いてきたのは、同志カエデを掌中に納めんとする欲望。トニー少年の大人もひれ伏せという野望。簡単に決めつけるなら、悪を討ち取ってきただけです。じゃあ次の敵は悪か? 悪などではない、心を持ったサムライ、つまり志ある者たちです。それを筆頭小隊長は『人間』とみているのではないでしょうか? だから迷いが生じる」


「ジャスティス・ジョージ、あんたには斬れるかい? あの女の子たちを」

「『もうダメだーーっ! 勝てる訳無いよーーっ!』と投げ出すようなら、最後まで斬り刻むかな? だけど……」


「だけど?」

「最後まで諦めず、立ち向かってくる姿には、俺も『人間』を見るかもしれない……」

「……………………」


「さっきの話では、有名な人斬りでさえ人を斬れなくなったんだよな? だったら俺たちが彼女らを葬れなくなることだって普通さ。その時は素直に、『俺はもう斬れません』って言うかな?」



人間を斬る、夢や希望を打ち砕く。その目標を挫く、そんな真似ができるだろうか?

いや、アタイは小隊長筆頭なんだ。やらなければ、やり抜かないとならない。


その日の稽古、六人制試合でアタイはお恥ずかしい話だが、まったく精彩を欠いていた。さすがのダンナも声をかけてきたくらいだ。



「どうした、本調子じゃないみたいだが?」

「あぁ、ちょっと迷っててね」



アタイはこれまでの経緯いきさつ、それからジョージの話をした。ダンナは黙って聞いていてくれる。そしてアタイが語り終わるのを待って、重い口を開いた。



「若いクセに、ナマ言ってんじゃねーよ」



ありゃ? 意外と突っ放したお言葉。



「そんな悩みは『俺たち』オッサンにまかせて、力一杯ぶっ飛ばしてやれば良いのさ」



めずらし、ダンナが自分のこと『俺』だって……。ってことは、今のはダンナの包み隠さぬ本音? 悩みはオッサンにまかせて……ダンナたちもそれで悩んでんの!?


ダンナはアタイにとっちゃスーパーマン、眼の前にいる一番のヒーローだ。そんなヒーローでも、悩んだり答えが出なかったりするのか!?


そのくらい『人間』と戦うことは、大変なことなのか……?

……………………。

………………。

…………。



「え? 私ですか?」



言い出しっぺのカエデに、見てきたこと感じたこと、悩んでることを打ち明けた。

その上で、カエデなら『人間』を斬れるか? って訊いてみた。



「現実世界では無理ですね〜〜」



はぐらかすな。アタイの訊いてるのはそういうことじゃない、『人間』の志を挫いて、なお立っていられるかどうかだ。



「そういうことでしたら」



カエデは真顔になった。



「私は私の仕事をします。参謀ですから」



カエデは斬る側か……。いや、そんな単純な物言いな女じゃない、カエデってやつは。


勝ちたいならば知恵を絞れ、勝ちたいならば努力しろ。学園の存亡をこのゲームに賭けるというのなら、サイコロをもう振っちゃったんなら、なんとしてでも勝ちに来い。


それに対応するのが、参謀の仕事なんだ。


『命懸けだから面白ぇ』誰が言ったんだっけ、そんなこと。今では陸奥屋まほろば連合では合言葉みたいになってっけど、カエデだって命懸けで策を練ってくれてんだ。


勝ちの目を出そうと、毎回必死になって考えてくれている。アタイたち、いわゆる『武将』ってのは、それに応えてやらなくちゃ。


……悪いな、白樺女子のみんな。お前たちよりもアタイは、カエデの方が大切なんだ。そしてアタイは、『筆頭』の小隊長なんだ。陸奥屋とまほろばの小隊長を象徴する存在だからな……。



「どんな作戦を考えてる?」



かなり気の早い質問を、カエデにぶつけてみた。陸奥屋まほろば連合は、役割分担がなされていて、いまではかなり組織立った仕組みになっていた。


つまり、参謀長の出雲鏡花が作戦を決定するけど、実際に作戦立案をするのはカエデだったりする。だからカエデに訊いてみた。



「白樺女子にどんな作戦で行くつもりだ?」



カエデは「小隊長は気が早いなぁ」と笑っていたけど、簡単に教えてくれる。



「前面に四先生方を押し出して、その周囲をネームドプレイヤーで囲もうかと。一般プレイヤーは側面に配置、脇腹を固めてもらおうかなって」



もちろん決定稿ではありませんよ、と付け加えた。だけど、それだけ聞けば十分だ。要するにアタイたちが最前線、白樺女子とバチバチやるってことさ。


そう、悩んだり迷ったりしてるダンナたちを苦しい目に遭わせないように、アタイたちが引き受ける。そういう役割が回ってきそうな、そんな布陣。


だったら今のアタイがすることは、どんな稽古か?

迷わず打つ。迷わず叩きのめす、迷わず斃す。あぁ、白樺女子のみんながやってたな、カカシへの打ち込み稽古。人としてのタガを取っぱらって、アタイもアレ、やってみるか……。


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