乙女たちの視点
会長視点
本当のことを言えば、出来っこないと分かっていた。古流武術の達人、そして柔道で名を馳せている四先生たちを倒して、陸奥屋まほろば連合に勝つだなんて。
私は武術の素人、残る生徒会メンバーもみんな素人。
たった六人の素人で、剣豪とか猛者とかいう称号がピッタリな四先生を相手にするなんて、絶対に無理だと分かっていた。でも、やらなくちゃいけない。私は生徒会長なんだ。私が立ち上がらなかったら、誰も立ち上がることはできないんだ。
良いでしょう、OG会のオバさま方。オバさま方が腹立ちまぎれに学園を廃校にするとか言うのでしたら、高々ちっぽけな島国の全国大会に出ろとか言うのでしたら、私たちはそれ以上のことをやってのけますわ!
世界配信という舞台で、前人未到の偉業を達成してみせますから、吠え面をかく準備をしてくださいませ♪ってところよ!
まさしく売り言葉に買い言葉。これ以上ないってくらいに啖呵切ってやったわよ。
オバさま方、「フン、どうせ出来っこないでしょうよ」ってなカンジで見下すような一瞥くれただけだったけど、そうね……割と無謀が過ぎたみたい。
だって、倒すべき標的のひとり、リュウ先生なんてどうよ。
アレ!? 向き合って木刀を構えられただけで、ヒザがガクガク背筋はブルブル。震えないでよ、私のバカ! 自分自身を叱りつけてしまったわ。
いやいやいやいや、それがリュウ先生ひとりならまだしも、さらに凶暴な鬼がいたわ。士郎先生よ。
「鬼かよ!?」って思っていたリュウ先生に、輪をかけて恐ろしいやら恐ろしくないやら。
十七歳の乙女は思わず昇天、旅立ちそうになったわよ!
ですが読者のみなさま、これでまだわたくし、二鬼しかクリアしてませんのよ?
続く三鬼もまた酷い。柔道着を着て手には得物を持ってなかったんだけど、「始め!」の号令で消えるのよ!? 眼の前から!!ちょwwwオマwwww陳腐な表現だけど、ホントそんなカンジ。
何をどうやったら二メートル以上ある距離で人が消えるのよ!? で、気がついたら風景が真っ逆さま。後で知ったんだけど私、そのとき投げ技を食らってたって。
しかもしかも、そのまま床板に叩きつけられるでなく、そっと着陸させてもらうという大サービス。
「キルになると復活までの時間がもったいない。さあ、もう一本だ」
ですって。完全にオモチャ扱いってことよ。
さらに手に負えないのがおじいちゃん先生。槍で突いたら死人部屋にいるんだもん!
どういう理不尽よ、これって!! 思いのほか高かった四先生の壁、正直言って『わからせられた感』で一杯。こんなの無理よ、ってヒザを抱えそうになったわ。
だけどヒーローやヒロインっていうものはいつも遅れてやってくる♪ 幼なじみのナッちゃん。生徒会長と剣道部主将にわかれて、今ではあまりお話もできないけど、それでも私たちの窮地に現れてくれた。
そうそう、悪のオババーズ軍団に立ち向かう正義のヒロインって、やっぱりこうでなくっちゃね♪ もちろんナッちゃんにとっても四先生の壁は厚く、高い。
だけど重要なことは、「私たちに味方が現れた」っていう事実。自分たちのやっている事に理解を示してくれる人がいる。私のことを信じてくれるともだちがいる。ただそれだけで、生徒会役員は無敵になれるのよ!
ガンバレ私! そして今日も明日もガンバラナクチャ♪だけどそんな私たちの心を折るような現実。
「会長撤退っ! さよ〜なら〜〜♪」
「副将も撤退しますっ! 御免っ!」
そう、私たちの実力では、四先生どころかその護衛のみなさんにやっつけられ通し。まったく歯が立たないのよ、トホホ……。
主将視点
廃校。
その二文字が突然つきつけられた。正直言って、なにがどうなっているのかすらわからない。朝のホームルーム、担任の先生がそう告げただけ。
そして再就職先の選定に気持ちが行ってしまっているのか、ダルそうに教室を出ていってしまう。
いつ? どんな形で? なにもかもが分からない。
後の発表で、OG会の強権が発動されたものとわかる。体育会系、特にチーム競技の娘たちが怒りをあらわにしていた。せっかくのチーム、今まで一緒に汗を流してきた仲間。それらと離ればなれになることに、納得がいっていないという雰囲気だ。
だが、誰ひとりとして行動に出ない。もちろん私にも何もできない。
ただただ漠然とした、『廃校は避けてもらいたい』という思いを抱いているだけだった。誰もが『自分たちは普段、偉そうに大人に逆らっているが、その実、何もできないただの子供』という現実に打ちひしがれているとき、みっちゃんが立ち上がった。
みっちゃんだけが動き出したんだ。……なにかが起こりそう。小学生の頃からそうだった。みっちゃんが動くと、学校の帰り道やいつもの教室。同じ風景が急に輝きだしたりする。
そんな女の子だから、きっと生徒会長になってしまったのだろう。
制約の多い生徒会、その中でもみっちゃんは頑張っていた。
「面白きこともなき世を面白く」だっけ? そんな一句がよく似合う。
どう頑張ったところで何も変わらないわよ、なんてスカした考えや生き方は、彼女の辞書には存在しない。面白くないなら立ち上がれ、不満があったら動き出せ。それがみっちゃんの生き方だ。
面白いも満足も、誰かが与えてくれることじゃない。自分で作り出すものさ。口笛吹きながら、そんなことを平気で言う。それがみっちゃんなんだ。
だけどあの娘が立ち上がって数日、その動向はまったく掴めなかった。ナニしてんだろ?私に何か手伝いはできないかな?同期や後輩から情報を集める。そしてようやく捕まえた。
「主将、生徒会は会長を中心にネットゲームをしているそうです!」
ネットゲーム? なんで? 謎過ぎる行動に面食らったけど、お昼休みには部室で剣道部緊急会議。そこで知る、みっちゃんの恐るべき計画とVRMMOゲーム、『王国の刃』。
現実世界でできる動きは、すべて再現可能という臨場感を売りに、西洋甲冑を身に着け武器を持ち殺し合うゲーム。そんな世界で一度も殺されず、それどころか負傷すらしていない猛者、『災害』と恐れられた四人の猛者がいた。
その猛者を四人とも倒し、所属するチームを壊滅させる。そのことを廃校撤回の条件に掲げて、校長先生に掛け合ったというのだ。
たかがゲームじゃん、と同期のひとりが気楽に言った。その言葉を、情報を獲得してきた一年生が否定する。
「お言葉ですがセンパイ、年二回のイベントでは五万六万の人数が集まる合戦で、傷ひとつ負っていない怪物なんです。それを倒すだなんて、オリンピックで金メダルよりも難しいかもしれません」
「まさか……」
「そのまさかです。何しろベテランになればなるほど、反則上等な不正者が増えるんですから」
「じゃあ、その災害認定の四人も不正してんじゃないの?」
「いえ、それがどうやら不正無しでバシバシ敵や不正者を狩る、クリーンなプレイヤーだそうで。……噂では、古流剣術の達人だとか」
同期はゴクリと生唾を飲んだ。私もゴクリと生唾を飲む。顧問の先生は剣道五段、私たちなど足元にも及ばない。だけどそんな先生でも、万の素人を相手に無傷で帰られるかどうか。
いや、ノーキルでさえ難しいかもしれない。顧問の先生以上の、剣の達人。みっちゃんはそんな怪物に戦いを挑むのだ。
そして、やって来ました王国の刃。
「で、主将? その場の勢いにまかせてゲーム機持ってるメンバーでインしたは良いけどさ、会長たちを探すところから始めるんでしょ? どこ探すの?」
しまった、まさかこんなに大きな世界で、こんなに大勢でプレイしてるだなんて!
「しかも主将、会長たちのプレイヤーネームもわからないんでしょ?」
うわ、どうするどうする、私?
「ついでに言うなら、主将もやったでしょうけどこのゲーム世界、姿形を自分でデザインするからすれ違っても生徒会長だとわからないですよ?」
し、しまったぁあぁぁっ!!
「……仕方ないですねぇ、勢いだけで行動する人なんだから。まずは敵情視察、陸奥屋まほろば連合が講習会を開いて技術講習会してるそうですから、そこに行ってみましょう」
できることから始める。そうしないと何も始まらない。そう言わんばかり、副将がみんなを率いてゆく。道中、妙な噂話を耳にした。
なんでも六人の女の子が、『災害』に認定された四先生方に闘いを挑んだとか。
「すみません、その話をくわしく!」
私はすぐに食いついた。だけど噂話の主もくわしいことは知らないようで。せいぜいがところ、今はその災害連中に手ほどきを受けているとかなんとか。
「行こう! 災害認定の元へ!」
場所はまほろば軍拠点、西洋騎士が闊歩する世界観を台無しにするような、純和風な神殿。別の言い方をすれば神社。その本殿である。だけど、雰囲気はあった。
参道を歩いているうちに、激しい気合いが耳に届いてくる。稽古着に稽古袴の連中がものすごい数。どこの大規模大会か? というくらいに所狭しと稽古にはげんでいた。
そしてようやく見つけたんだ、町店立海。みっちゃんの姿を。アバターを使ってたって私にはわかる。元気一杯、だけどどんくさい動き。そんなみっちゃんを、ようやく……。