表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/724

オッサンたちの苦悩

三日連続一日二回更新最終日。次回更新は夕方四時です。じゃなかった、今回は四日連続の一日二回更新です。

 私はリュウ。姿かたちは坂本龍馬。そして装備はタスキのみ。腰に木刀二本差し。これだけで天下のド突き合いゲーム、『王国の刃』に挑む者。そして今日は出稽古の最中、士郎先生率いる陸奥屋鬼組の活躍を拝見したところ。槍組、抜刀組、吶喊組といった十八名の猛者を相手にあっさりと勝利。


 そう、陣形がみるみる崩れてゆく、といった風に勝利したのだ。

 そしてさきほどまで士郎先生とともに闘っていた若い二人。小柄なフィーさんと巨漢のダイスケくんだ。この二人に稽古をつけてもらいたいと、士郎先生は言う。

 フィーさんは甲冑を脱いだ。白い稽古着に朱の袴。流れるように長い銀髪、そしてどう見ても小学校高学年か、中学一年生といった幼い顔。


「もう一戦ですか、士郎先生?」


 身長よりもはるかに長い薙刀を抱えている。

 そしてもう一人は巨漢。こちらも甲冑を外して親しみやすい笑顔を向けてきた。


「リュウ先生ですね? お噂はキョウくんからうかがってます」


 こちらの得物はスパイクのついたメイスである。


「リュウ先生、お手数ですが彼らに一手御教授を……」




 士郎先生の申し出とあれば、断る訳にはいかない。では、と言って練習場に降りる。さきほどまで闘っていた二人は、甲冑など着けず革防具でついてきた。練習場は直径六メートルのリング。いわゆる一対一仕様だ。


「では、どちらから?」

「俺が」

「私が」


 タッチの差で、まずは巨漢のダイスケくんから。

 六歩の間をおいて、たがいに蹲踞。目の前に得物を横たえて、両手の指先を地面につける礼。そこから互いに見合って得物を取る。まだ……まだ立たない。ダイスケくんの気迫の充実を待って……ハッキヨイ! 立ち合った。


 ダイスケくんは正眼……得物を水平に構えている。私は下段ダイスケくんをよく見る。……ふむ、ウチの小隊の誰よりも強そうだ。よく稽古している。以前立ち合ったユキさん、キョウちゃんもそうだったが、鬼組メンバーは誰もがウチのメンバーよりも稽古している。つまり、強い。


 ひとつ、構えに隙が無い。ひとつ、肉体の練度が高い。ひとつ、脱力の加減がよろしい。では、その身体ならびに得物の操作はどうか? ジリ……とだけ前に出る。ダイスケくんの気配が変わった。反応もよろしい。ウチのメンバーでは敵わないと言ったが、それは先輩後輩というようなモノで、単に士郎先生に出会ったのが少し早かったものである。



 つまり私はダイスケくんの中に、いまだ戦士になり切れていない部分を見た。キョウちゃんは戦士になり切ろうとする気概が強すぎたように見えたし、ユキさんは戦士たろうという気概が薄く思えるのに隙が無い天然ボケ。「あんた練度高いですやん」とツッコミたくなるボケ。


 ダイスケくんはまだ自分の力量になれていないような、そんな一面があった。ならば伸ばしてやろう、その力量を。

 グッと重たく殺気をのしかけてやる。ダイスケくんの殺気も強くなった。跳ね返そうとしてくる。まだまだ、もっと伸びて来い。切っ先に殺気を、さらに強く……。突いてきた。そのメイスを木刀で巻き込みながら落とす。そしてグッと前に出た。下段に下げられたダイスケくんのメイス。彼はそのまま後退。さがる姿にも練度の高さを見せられた。


「さあ、もうひとつ!」

「はい!」


 いくらでも突っかかって来い! 遠慮などいらんぞ。そうした気構えで対する。ダイスケくん、八相。私は変わらず下段。間合いにスッと入ってやる。躊躇なく振り下ろされるメイス。私は後退。そこからまた突いてきた。木刀ひとつでよけてやる。まだまだ来い、という形。間合いも外してはいない。


今度は石突による突き技。ダイスケくんを中心に円を描くように避ける。間合いは同じ。私が逃げようとする場所へ、横殴りにメイスを振ってくる。それは木刀で受けた。完全に受け止めたところで物打ちを走らせた。小手、一本である。


「さあ、もっと来い!」

「はい!」


 ここから先は足を使わず、木刀で受けて受けて、ドンドンと手を出させた。程よいところで、士郎先生の止めの声。礼をして分かれる。


「次はフィー先生」

「はい」



 先生と呼ばれるからには、指導にでも立っているのだろうか?

まずは意外なほど立ち姿が美しいのに驚かされる。子供ではないかとうたがうような顔立ちと体型だが、うむ。間違いない。フィー先生も有段者だ。それも初段二段ではない。キョウちゃんやユキさんクラスの使い手。キャリアは十年ほどだろうか? こなれている。


 礼を交わして、いざ立ち合い。薙刀をピッと伸ばしてくると、堂々としたものだった。切っ先を合わせて、正中を奪い合う。手の内もなかなかに出来ていた。わざと正中を与える。左の小手を狙ってきた。脇構えにとってそれを避ける。今度は面を斬ってくる。そこをすくい上げるような小手打ち。カウンターでの一本だ。


 技が素直である。変な殺気に溺れていない。純粋な技の結晶体。それがフィー先生の武である。この娘も伸びる。私も技に集中した。力ではなく、速度でもない。ただ、技に。体の左右を入れ替えて、軸線を崩さぬように。サッと打ちパッと引く。前後左右に、動くときはスルスルと流れるように。決してドタバタとはしない。品の無い殺気は捨てて、ただ技にのみ集中する。フィー先生もまた、決してドタバタとはせず、見苦しい真似もせず。技の純度を上げてゆく。

 そしてかかる止めの声。


 良い稽古であった。ダイスケくんも、フィー先生も。闘う者としての稽古。そして技を繰り出す者としての稽古。若くまだまだ伸びる者を相手にする喜び。実に清々しい気分であった。



 観客席から声がきこえてくる。


「すげぇ……」

「ダイスケくんもフィー先生も、子供扱いかよ……」

「どんだけ強いんだよ、リュウ先生ってよ……」


 はて、子供扱いだったかな? それはいけない。私は二人を伸ばす稽古をしなくてはならないのだ。それがドッというため息に包まれてしまうとは。


「実りはあったかな、二人とも」


 士郎先生が二人に訊く。


「はい、人間を相手にしてる気がしませんでした」

「私は、武術ってもっと伸びるものだと感じました」


 対した二人には、それなりに伝わっているみたいだ。うむ、良しとしよう。本来ならばここで私と士郎先生の稽古、となるのだろうが互いに立場のある身。あるいは私たちが立ち合うなら、それは総裁、鬼将軍の前、ということなのだろう。その場は立ち合うことなく別れた。


 さて、ウチの連中だが。ダイスケくんやフィー先生のような技を見せられると、私も少し欲張ってみたくなる。どんな稽古をつけてやるか? どんな剣士戦士に育ててみようか? 少しばかり夢を見たくなった。



 少なくとも彼らはひとつのチームとなりつつある。いまこのバランスを崩すのはもったいないが、しかし。個人個人の技量は、さらに伸ばしてみたい。

 そうだなぁ……長得物の二人、セキトリとシャルローネさんには受けからの攻め。カエデさんの片手剣は攻めの中の受け。間合いの近いマミさんとトヨムには、さらなる攻撃だろうか?


 とにかく私の技を少しでも役に立ててもらいたい。少しでもこのゲームに生かして楽しんでもらいたいと思う。人生は楽しむものであり、その人生をより良くする指針が兵法にあるのだ。兵法とは陰の面では人をいかに効率よく殺めるか、であり陽の面ではいかによく生きるかというものなのである。

 故に私はこのゲームに参加しているのだ。



 そして若者たちは自ら指針を見出し、力強く前進しようとしている。自らの意思で。そうだ、私たちはただ壁となればいい。若者たちが乗り越えがたい、そんな壁としてそびえていれば良いのだ。ただし、我々を乗り越えるという希望を潰さぬようにだ。

 さて、ということで。


「本日はお相手いただきありがとうございました」


 士郎先生にお暇の挨拶。


「本日の稽古を糧にますます精進いたしますので、本日はこれにて」

「リュウ先生、若者たちは宝です。よくよく育てあげ、導いてやってください」


 同じ視点だ、士郎先生という人は。同じものを見て同じ憂いを抱き、そしてここにある。もしかしたら、同じ和装で木刀の二本差しということで、王国の刃という世界フィールドに対して、彼なりのメッセージを送っているのかもしれない。

 安易な装備、なにするものぞ。我が身ひとつが装備なり、と。

 古流、いまや牙を抜かれ爪を剥がれなければ居場所すら無い存在。




 私も士郎先生も、いかに生きていかに継承していくべきか? 大きな問題を抱えている。


ブックマーク登録ならびにポイント投票誠にありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ