ミニイベント、捕物帖
いつもの講習会、いつものメンバーたち。そして時々新顔。
その中には真面目に稽古に通ってくる、白樺女子高校生徒会もあった。彼女らにはただただ、出て突きひいて突きばかりを教えている。
覚えはよろしくないだろう。しかし彼女らの情熱は失われることなく、冷めることなく、地道な稽古を重ねられている。
そんな折、「あぁ、今年もやるんですねぇ。このミニイベント……」カエデさんが呟いた。そう、昨年の今頃の時期、私の鈍足を披露してしまったミニイベント。
捕物帖が開催されるという。私は白樺女子高校生徒会のメンバーを集めた。
「ここ数日の内に、運営からのミニイベントが開催されるようだが、どうだろう会長。参加してみるかい?」「はい、是非に! 今の自分たちがどれだけ腕が上がったか、確かめてみたいと思います!」
正直、ファーストチャレンジでも苦労しそうだ。だが、何事も経験だ。これで心が折れるならば、それまでの情熱とするしかない。
荒療治だが、より熱心な経験をと考えるならばこれしかない。なにしろ時間が足りない。そして彼女らが越えなければならない峠は、遥かに険しいのだから。
「まずは情報収集だ。状況はどんな感じかな?」
私からのアドバイスだ。まずは情報収集、それから策を練る。しかし彼女たちは混乱した。
「どんな感じって、え!? えっ!?」
「会長、私たちはどのイベントに参加するんですかっ!?」
「ちょっと待ってください副会長!! そこから迷っていると私たちも動きようがありません!」
少女たちはウィンドウを開いて、脂汗を流していた。そうだろうそうだろう、いきなりイベントに参加しろと言われて、うろたえない初心者はいない。
六人の新兵たちはそれぞれがウィンドウを開き、あーでもないこーでもないと騒いでいる。
「王国の刃 ミニイベントで検索してごらん?」
チームとしての熟成はまだ足りていないようだ。大人が手助けしなくてはならない。
いや、『王国の刃 ミニイベント』の検索でなしに、別ルートで副会長1が情報に到着したようだ。
「ありました、会長。どうやら屋内戦で、賊を捕縛もしくは斬殺することが目的のようです」
会長はすでに副会長1のウィンドウを覗き込んでいた。きっと真面目な検索はしていなかったのだろう。副会長2、ならびに書記たちも自力で情報ページにたどり着いたようだ。
「このステージは宿屋でしょうか、酒場でしょうか? うん、下手人のいる席まで教えてくれてますね」
「待って、ファースト。この下手人、すごく素早いみたいよ?」
「失敗例まで書かれてます、う〜〜ん……初手にエースプレイヤーを当たらせるのは得策じゃないみたいですね〜〜……」
「あ、見てください会長。ステージをクリアするごとに、景品で無地のノボリがもらえるみたいですよ?」
ほほう、今年はノボリか。去年はマントが景品だったな。
だが、オマケというのは人の心に火を点けるものだ。そして彼女たちも俄然やる気を見せ始めた。
「副会長1さん、こちらに成功例がありますが参考にしてはどうでしょう」
「ふむ、一番弱い者が賊を探索、出入り口には弱者ニ名を配置。強いプレイヤーを窓の外に配置する、か。まあ二人が踏ん張っている出入り口より、窓から逃げるのが普通だな」
どうやら副会長1さんは、参謀向きのようだ。
「だけど副会長1、よく見てくれないか。このファーストステージでは、賊を殺害してはいけないとある。私たちは手槍しか持ってないぞ?」
「あ、本当だ。それならば……リュウ先生のように木刀を持つか? いや、それでも頭を打ったら死んでしまいそうだな。じゃあ手足を打つ? いや、そもそも私たちは剣が未熟だ……うん、この長そうな棒を使うか」
昨年の私と同じように、副会長1さんは杖を選んだようだった。
今年はノボリが景品のミニイベント。私たちトヨム小隊は後見人という形で、白樺女子高校生徒会ぼ出陣に付き合う。私たちは辻々に配置。
彼女たちの奮戦を見守った。まあ、すでに正解が出されているゲームだ。なにも問題は無いのだが……。
「ありゃ? ……ダンナ、下手人ジェリーが逃亡したよ」
「うむ、なにがあったんだろうな?」
ウィンドウを開いて、動画で確認。まずは会長が店の者に声をかける。
「この宿に手配書きのジェリーはいますか?」
すると店員は階段の上に向かって叫んだ。
「お客さま、旅客改めですよっ!」
あ、ここが肝だな。店員の罠にかかって、みんな階段や二階に顔を向けている。バーのカウンターで飲んでいた下手人ジェリーは、その隙をついて窓を突破。逃亡を果たしたのである。
ここで改めて、状況を整理。捕物帖イベントのファーストステージ、韋駄天ジェリーの捕縛。舞台は西洋風の宿屋。一階が宿のフロント兼バー。二階が宿泊用の部屋である。
バーのカウンターで店員に声をかけるところから、シナリオは開始される。
今回の配置は会長が声かけ役、書記三人が正面出入り口を固め、左右の窓は副会長二人が構えている。しかしこのポジションが甘い。副会長1はジェリーに突き飛ばされ、窓からの逃走を許してしまったのだ。
さて、その辺りに気がつくかどうか?
「う〜〜ん……申し訳ない」
副会長1が手を合わせる。
「どうにも店員が叫んだとき、そちらに目が行ってしまった」
「あ、それ私もだ。動いているものって、目を引き付けるみたいよね」
ほう、早速気がついたか。良いこと言った。人間は動くものに目が行く気が行くものなのだ。
「それと、副会長1ちゃんの立ち位置も甘かったかな?」
会長はウィンドウに図面を描く。
「下手人ジェリーはカウンターのここにいたから、窓へ一直線となると、1ちゃんの肩をかすめる形になるわよね。窓全体を隠すような立ち方が良いと思うの」
上出来上出来、生徒会としてみんなの上に立つだけあって、考えがあるようだ。
「そうなると私が店員に声をかけるタイミングも見直さなきゃね。みんなでジェリーを目視。確認が済んで配置を万全にしてから、シナリオをスタートさせた方が絶対に良いよね」
そう、これはゲームなのだ。シナリオは準備万端整ってからでもスタートできる。『警察24時』などで放映されている、実際の逮捕劇でもわかる。警察官の突入は、準備が整ってからなのだ。
それでは生徒会ズによる二度目のチャレンジ。下手人ジェリーのポジションを確認。窓辺の副会長たちは良い角度に配置。書記の三人も互いをすぐに応援できる位置だ。
「ちょっと良いかしら?」
会長がシナリオをスタートさせる。
「この宿に手配の下手人、ジェリーは泊まっているかしら?」
バーテンダーが動く、叫ぶ。「お客さま! 旅客改めでございます!」
ジェリーが動いた、会長が杖で殴る。まだ弱い打ちだ、ジェリーはそのまま逃亡をはかる。副会長1の方角だ。1さんは槍のように腹を突く。
効果あり、ジェリーの足が鈍る。が、まだ逃走しようとしていた。書記1さんも戦闘に参加する、同じように腹を突いた。
「ぐぅっ!」
ジェリーは背中を丸めてうめいた。そこに会長が追いついた。
そしてこともあろうか、男子最大の急所金的を打ち上げた。……下手人ジェリー、撤退。
そりゃそうだ、いやしくも男として生まれたなら、そこばかりは決して打たれてはならない場所を打たれたのだから……。
捕物帖ファーストステージ、二度目の挑戦は下手人ジェリーの死亡により、失敗。「みんな、ゴッメーーン!!」今度は会長が手を合わせて謝る。
「ハッハッハッ、いまのは男としてちょっと笑えない失敗だったね」
私も反省会に参加した。というか、トヨム小隊の顔触れがすべて揃っている。
「私たちから見て、失敗の原因はなんだと思う?」
「ズバリ、パワー不足ですね。打撃力に自信が無いから急所攻撃を誘われてしまう。そんなところでしょうか?」
カエデさんはダイレクトだ。だが、言っていることに間違いは無い。
本来ならば会長のファースト・コンタクト。これで決めなければならない。それができなかったのは、女子の体力。というかカエデさんは西洋剣術、シャルローネさんは古流経験者。マミさんは柔道経験者だしトヨムはケンカ番長。それと比べれば、生徒会ズは非力である。
「パワー不足は思い切りで補うべきかな?」
トヨムはアドバイス。
「死ぬか生きるかで殴らないと、相手には効かないぞ? お前たちはそれくらい力不足だ」
うん、ポンコツアドバイスだったな。
人間、というか女の子なのだから、そうそう死ぬか生きるかの戦いなどできる訳が無い。
「杖しっかり握ってのう、体当たりなんぞはどうじゃい?」
セキトリは力士らしいアドバイスだが、思い切り当たるのも、女子にはキビシイだろう。
「ん〜〜とりあえず今は、勝つことが大切ですから〜〜。リュウ先生のように椅子でも投げつけてはいかがでしょーかー?」
それは上策かもしれない。そこで「あっ!」と会長が声をあげた。
「椅子を投げつけるのが有効なら、テーブルを押して逃げ道をふさいだらどう!?」
「なるほど会長、冴えています。でしたらあらかじめ正面出入り口にしか逃げられないようにテーブルを配置して、そこに四人を配置しては?」