新兵格リーグ戦!
リュウです。
師走のチャンピオンカーニバルとでも申しましょうか。プロ選手たちの年末の祭典として企画されたリーグ戦。各階級のナンバーワンを決める決定戦。いよいよ開催です。
しかもしかも、今回のリーグ戦には賞金がかかっており、優勝者がすべてを獲得する方式。
我ら『2MB』(陸奥屋まほろば部屋)としては、当然のようにヒカルさんを推すものと思いきやさにあらず。賞金をかけたスポンサーであり、我らが総裁である鬼将軍が『シュート』を指示。
賞金を欲するならばそれに相応しい鍛え方をせよ、との仰せ。一切の台本無し。真剣勝負で当たらねばならなくなった。
これまでの経緯をかいつまんで説明するならば、私、士郎さん、フジオカ先生の三チームでさくらさん、ヒカルさん、ヨーコさんをそれぞれ鍛えることとなった。さてその結果やいかに?
「さすがに緊張してしまいます」
白上衣に朱色の袴。手甲すね当ても朱で揃えたさくらさん。
なびく黒髪をポニーテールに結い上げている。
「さくらの実力なら、予選は確実さ」
「そーそー、私や小隊長だけでなく、小隊メンバーが色んな得物で稽古つけたんだから。ヨユーヨユー♪」
トヨムとシャルローネさんが励ましている。
決勝リーグではヒカルさんとヨーコさんが相手になるはずだ。そのように決め打ちして、トヨムとシャルローネさんが胸を貸し続けてきた。
だけではない、他のメンバーも予選での取りこぼしが無いようにと、様々な得物で相手をした。得物の提供者にしてセコンドのカエデさんが、それぞれの得物の弱点を解説、指導していた。
「赤、2MBさくら選手。準備してください」
アナウンスが入る。
「じゃあ行ってきますね」
セコンドのカエデさんがさくらさんを連れてゆく。私たちは客席だ。予選は一本勝負、決勝リーグは三分間の試合でどちらのキル数が多いかを競う。
予選は3ブロック、決勝は巴戦になり先に二勝した者が優勝となる。で、さくらさん。上衣以外は朱に固めて、鉢巻きもタスキも朱色である。
長身ではあるが少し童顔の眼差しを一生懸命に強張らせて、いざ試合開始である。対戦相手も手槍、このゲーム世界に長槍は存在しない。リーチの差が生じすぎるからだ。
ジリジリ間を詰めてくる相手の槍を、巻いて弾き飛ばしてひと突き。防具を破壊すると追い打ちのもうひと突き。「一本!」あっという間の勝利だった。
ま、順当なところだ。ガッチリと鍛えてきたさくらさんだ。元から槍の有段者でもある。彼女が予選で負けることなど、そうそう無いであろう。
「まーこんなもんかなー、さくらは。カエデにまかせても大丈夫そうだから、アタイはヒカルの偵察に行ってくるね」
トヨムは同じブロックの選手を見渡して、早くもさくらさんに敵無しと踏んだようだ。さくらさんの予選試合に興味を無くしている。
「じゃじゃじゃじゃあ、私はヨーコさんのとこ行ってきまーす」
シャルローネさんもトットコと旅立ってしまった。まあ、野生の女王と天才児にとっては、予選などさくらさんの朝食を眺めているかのようなもので、面白くもなんともないのだろう。
「お!? ダンナ! ヒカルの対戦相手が面白いぞ! サルだサル! サル対サルだ! まんきぃアタックだよ!」
何が起こっているのか?
ウィンドウを開いてヒカルさんの試合場を映し出す。自分たちのウィンドウを開けば良いのに、セキトリとマミさんが覗き込んできた。すなわち、マミさんの胸が背中に当たっていた。そして私はそのことを咎めなかった。
ここでヒカルさんの対戦相手であるまんきぃ視点である。
《対戦相手のまんきぃ視点》
……………………。ガキの頃から悪さばかり、大人たちはみんな俺を指差して鼻をつまんだものさ。
小学生からケンカ三昧、そこいらにあるものを掴んでは相手のことを殴りつけていた。高学年にもなると文房具のカッターナイフを持ち歩いて、難癖つけてくる奴らはみんな傷つけてやったさ。
あっという間に鑑別所送り。金網つきのバスから眺めると、親父もお袋も「厄介払いができた」って顔してたよ。
チンコロのガキだったが、年上ぶっ飛ばす道具は、どこにでもある。ガキでしかなかったけど、俺はすぐに部屋のボスになった。
鑑別所じゃケンカばっかし、おかげさんで出所は遅れに遅れた。だが出所したところで、まだ義務教育。どうしても学校にゃ出勤しなきゃならなかった。
ガッコにでかけても暇な時間ムダな時間ばっか。ケンカばっかしてた鑑別所が懐かしくなったくらいさ。そんなときだよ、ゲームに出会ったのは。
『王国の刃』だってよ。武器持って好き放題に相手を殴れるんだってな。
ヘッ、しかもプロだってよ。道具使って相手ボコって、それで金もらえるんだってな。やらねぇ理由なんて無いだろ? すぐさまインしてプロになる。
だけどすぐには報酬にはありつけねぇ。試合動画に広告がつかなかったのさ、勝っても勝ってもだ。なら、優勝賞金の出るリーグ戦。こいつに出るしかねぇ。勝ち抜けば、文句なしに現金を掴めるんだからな。
俺は着のみ着のまま平服で鎧なんてつけていない。あんな動きにくいものなんて着たりしない。
その代わり武器は軽くて長くて使いやすいものを。メリケンサックに三本の爪がついた武器を両手にはめて、ストリートで練習するダンスみたいにステップを踏む。
こんなクズみたいな俺だったけど、ダンスだけは熱心にやっていた。もちろんレッスンスタジオに通ったものじゃない。真夜中の街角で、窓ガラスに映る自分を見ながら振り付けをチェックしてたのさ。
跳んで回ってリズムに乗って。ダンスは良かった、憂さを忘れることができた。
この王国の刃でも、俺がちょっとステップを踏むとそれだけで、誰もついて来られなかったんだ。……そして、賞金リーグ初戦の相手は? 赤毛のメスガキかよ。
俺と似たような平服……ニットにスカートに、白い革鎧は着てるんだな。御大層に長い剣を担いで張り切ってやがる。じゃあ、また軽く踊らせてもらいましょうかねっと。
ゴング、同時にメスガキは突っ込んでくる。怖いもの知らずかよ、ってな勢いだ。だけど俺は軽い足取りでバカを躱して、軽く攻撃させてもらう。ピッと、メスガキの腕に赤い三本の血の筋。
こいつはチョロい、イタダキな対戦相手だな。
そう思っていると、メスガキはまた突っ込んできた。今度は左、また手傷を負わせる。メスガキはしつこく、また突っ込んできた。
しょうがないアホだな、コイツは。熱血してれば勝てるってモンじゃないのよ、この世の中は。
さらに来る。このしつこさにはウンザリだ。今度は顔を狙ってやるか。……おっと、空振り。
ミスショットだぜ。それでもまだこのメスガキは突っ込んできた。なんだよ、このバカ。本気で俺に勝てると思ってんのか? と、ヤツの剣が俺の左手首に。
欠損、左に爪が使えなくなった。クソッ、恥かかせてくれやがる! いいぜ、やってやんよ! 残った右を出したが、これも空振り。
おい、腰が引けてないか、俺……。タイミングも距離もドンピシャなはずなのに、俺の爪がとどかない。ウソだろ? 俺、ビビってんのか?
いや、俺には得意のステップがある。誰にも追いつけやしないさ。
……って、追いついてきた!? そうだ、今までの対戦相手はみんなクソ重たい甲冑を着込んでいた。このチビは平服同然。イヤだ、負けたくねぇ!
俺は勝つんだ、勝って賞金を掴むんだっ!
勝負あり、ヒカルさんの勝ちだった。
文句無しである。お相手してくださった負け役くん、ありがとうございました。
君の素養は悪くないが、動きがワンパターン。そのワンパターンも、磨きに磨いたものではない。街中のケンカなどでちょっと通じた動きを、ナントカのひとつ覚えのように繰り返しているだけの、詰まらないものでしかなかったというのが敗因だ。
「どうだった、ダンナ?」
トヨムが訊いてきた。
「まさにまんきぃ対まんきぃ。ナントカ言葉ひとつ覚えたいけつだったけど、鍛えに鍛え抜いた赤毛のまんきぃが順当に勝ったね」
「ナントカのひとつ覚えか。爪の長いサルもワンパターンだったけど、磨きが足りてなかったよな。その点ヒカルのひとつ覚えは、磨きがかかってた」
「そのとおり、さくらさんにとっては厄介なおサルさんだな」
「勝てるかな、さくら?」
「ヒカルさんの技は磨かれているけれど、ひとつしか無いのが欠点だ。さくらさんには磨き抜いた技がいくつもある。手数で勝負さ」
それにさくらさんにはクラッシック音楽のような、影の技がある。負けるということは無いだろう。