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ナイショで参謀会議

さて、私が誰かというとチーム『迷走戦隊マヨウンジャー』の参謀格、ホロホロです。


これからチームメイトにもナイショで、参謀会議です。ですから私は恋人(きゃあ♡)のベルキラにもナイショで、茶房『葵』へ赴いています。


え? 何故? どうしてなの? そういった疑問もあるでしょうけど、ひとまずここは店内へ。



「いらっしゃいませなのですよ〜♪」



いつものように茶店の看板娘、歩ちゃんが迎えてくれます。

そして来客が私だとわかると、「はい、ホロホロさま〜♪ お二階へどうぞなのですよ〜♪」すぐさま私を二階へ案内してくれました。


ギシギシと階段を鳴らして上がらせていただきましょう。お二階貸し切り、まほろば陸奥屋連合参謀会議さまの表示と、関係者以外立ち入り禁止の札。


そして警備の手なのでしょうか、参謀会議という場にはまったくといって相応しくなさそうな、『まほろば』の若き剣豪白銀輝夜さんが立っていました。



「まほろば陸奥屋連合御預り、迷走戦隊マヨウンジャー参謀のホロホロです」

「ホロホロどのでしたか、お入りください」



そう言って通してはくれるんですけど、どうも表情に切れがありません。

どちらかと言えば「私はここで何をしているのか?」とか、「階下は葵どのが守っておるのだから、私の警備など不要ではないのか?」と戸惑っている感じ。


ですが輝夜さん、貴女がここを守ってくれるから私たちは会議に専念できるんですよ? お務めご苦労さまです。



ということで貸し切り二階の広間。襖を外してぶち抜きの形。各小隊の参謀格はすでに集結していました。上座は当然のように、参謀長の出雲鏡花さん。両脇を固めるのは、陸奥屋本店の参謀であるヤハラさんと大矢さん。



「遅くなりました、迷走戦隊マヨウンジャーのホロホロです」



お辞儀をして中に入ります。



「お待ちしておりましたわ、ホロホロさん。これでみなさま揃いましたわね」



鏡花参謀長が、いつものまとわりつくような微笑み(別名鬱陶しい微笑み)で迎えてくれました。



「それではこれより、プロゲーマーによる総当たり戦の会議を開催しますわ」



そう、今回の集まりはプロ新兵格の総当たり戦についての会議です。まずはリーグ戦に出場するヒカル選手を鍛えている、陸奥屋鬼組の参謀であるフィー先生からの報告。



「まずヒカルさんの育成担当は、士郎先生」



それだけの報告で、会場に集まった参謀たちから「おお……」というどよめき。



「育成方針としてはヒカルさんの防御の甘さや突撃主義を否定せず、むしろ長所として伸ばす方向です。おかげで私が相手をしても、カウンターが取り難くなってきました」



フィー先生の実力は、令和御前試合でも証明済み。その技量の高さを目にしているので、もう一度どよめきが起こりました。



「さすがは士郎先生」

「これはリーグ戦も荒れそうですな」



口々に感想を述べ合います。続いては、トヨム小隊の参謀であるカエデさん。担当は槍使いのさくらさん。



「私どものところではノッポのカッパ……ではなく、長身のさくらさんを担当していますが、仮想敵をヒカルさんとヨーコさんに絞って特訓中です。ヒカルさん役にはウチのトヨム小隊長を、ヨーコさん役にはシャルローネを配置して、仕上がりは上々です」



またまた場内がざわつきます。



「やはりさくらさんが本命かな?」

「いやいや、ヨーコさんの仕上がりを聞かぬうちは判断できますまい」



新兵格リーグ戦、この優勝者を占うのが、今回の議題。


でもでも、問題はヨーコさん。こちらは鬼神館柔道のフジオカ先生が受け持っています。

が、鬼神館柔道には参謀がいません。何故ならあそこのメンバーは全員脳ミソが筋肉でできているからです。


そこでヨーコさんの仕上がりを報告するのは、ヤハラ参謀。なんでもあそこのメンバーには『仲良しのお友だち』がいるそうで、よく遊びに行っては仕上がり具合を拝見しているそうです。



……う〜ん、そのお友だちとはBLな仲だと面白いのですけど。しかも屈強な男子を智将が組み伏せるという、下剋上な関係とか。……推せる!

その展開は胸熱すぎます!



っと、いけないいけない。ヤハラ参謀からの報告を聞かなくては。



「基本的に『まほろば』の薙刀使い、御門芙蓉さんと比良坂瑠璃さんによる指導がメインです。得意である薙刀の技に磨きをかけて、実戦では自由に振る舞わせる方針のようですね」



ヤハラさんのことです。言っている意味は『基本の見直し』。『そこから導き出される、薙刀の長所と短所の自覚』。それを踏まえた上での自由戦闘。という意味でしょう。


それを踏まえているあたり、さすが各小隊の参謀格。



「これは穴馬かもしれんな」

「穴とすれば大穴だぞ」

「ワンチャンに張るかどうか、それが問題だな」



相変わらずざわつくのが大好きな参謀集団です。


さて、先ほどから私たち参謀集団が何をざわついているかというと、そこは出雲鏡花さんの口から。



「それではみなさま、ベットする選手はお決まりでしょうか!! ゲーム内通貨、一口金貨千枚から受け付けますわよ!」



そう、今回のロクデナシ参謀たちによるロクデナシ会議の議題は、『新兵格リーグ戦で誰が優勝するか、賭けてみましょう!』というものでした。


そしてこれを企画した最高級ロクデナシの出雲鏡花さんが、ゲーム内通貨である金貨の山をズイッと押し出しました。



「わたくしはヨーコさんに三十口、金貨三万枚をベットしますわ!」



ここはあくまでもお遊び。ゲーム内通貨など、連合所属のプレイヤーにとっては有り余るほどありすぎる、石ころ同然の代物。ですが石ころ同然のコインであっても「出るものは舌だって出したくない」人種はいます。


そうした方々(主に参謀長)にとっては真剣勝負同然でしょう。そこに参謀長は大口をベットしてきているんですから、かなり強気な賭けだと読み取れます。



「ウチはヒカルさんに十口。万枚をベットしよう」

「俺はさくらさんかな、五千枚」



次々と賭け金が提示されて、そのたびにホワイトボードへマーカーで記入。私もヒカルさんに十口賭けました。


残る参謀さんは……高級参謀、トヨム小隊のカエデさんだけ。アゴを撫でて、目を閉じたまま考え込んでいる様子。


閉ざされた瞳は、決意を秘めて開かれました。グッと力強く、金貨の山を押し出します。



「まずはヨーコさんに、十口」



その少額なベットに、どよっと驚きの波が起こります。



「そしてさくらさんに十五口。それからヒカルさんに二十口」



ふむ……確実に取れる作戦で来ましたか。すると五口分だけ賭け金の少ない鏡花さんが熱くなりました。



「ヨーコさんに十口上乗せしますわ!」



レートが変動します。



「他に追加はありませんか?」



ヤハラ参謀の声に、みなさん動き出します。



「よし、保険でさくらさんに五口!」

「ウチは新規でヨーコさんに十口追加!」

「俺も新規! ヒカルさんを五口買っておこう!」



俄然熱を帯びた茶房二階。間もなく投票の締め切りというところで、やはりカエデさんが動きました。



「さくらさんに五口追加」



ここで受け付けは締め切り。最終的な配当は即座に計算されて、一番人気はヒカルさん。配当は二.二倍。対抗はさくらさん、三.四倍。穴馬がヨーコさんの四.六倍となりました。



参謀会議、終了。オッズ表と投票券を手にした参謀たちが、ゾロゾロと店を後にします。その流れに逆らいながら、私はカエデさんを捕まえました。



「動かしましたね? 安全牌が大好きな参謀たちを」



そう、カエデさんが複数の投票をすることによって、場はにわかに活気づきました。そこでレートにも変動が生じたのです。



「いえ、特にそういう積りは……」



カエデさんは照れくさそうに笑います。



「私は配当を眺めながら、損が少ないように損が少ないようにって考えてただけですから」



まあ、カエデさんって高校生くらいにしか見えないから、賭け事には馴れてないんでしょうね。思ったほど大きな賭けには出ていなかったし。



「結局さくらさんが優勝しないと、儲けにはならないんだから、ヘボ軍師でしかありません」



いえいえ、真の軍師は博打の張り所を見極めている者ですから。今回は参謀たちのお遊びに付き合っているだけのカエデさん。痛手を被らないように、との配慮は正解です。



もしかして鏡花さん、今回のお遊びから真の軍師は誰か? を見ているのでは? ……それは考えすぎかな?

カエデさんの参謀スキルの高さは、もうみんなの知るところなんだから……。


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