一般プレイヤーヒナ雄くんの発見
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自分のクラン、『情熱の嵐』が立ち上がりました! さらに仲間も増えて、順風満帆な立ち上がり!
キルを取れないこともあるけれど、そこは対戦ゲーム。プレイヤー全員が必死なんだから仕方がない。
だけど運命という奴は残酷で、ときに試練を与えてくれる。とうとう試合場で対決することになったんだ、元白百合剣士団。僕の憧れというか目標というか、シャルローネさんたち。現在は『嗚呼!!花のトヨム小隊』とかいうクランに所属しているみたいだけど。まあ、僕たちにもデコピンショットという必殺技があるんだ。防具のひとつくらいは……。
大惨敗でした! えぇそりゃもう、笑っちゃうくらいに!
トヨム小隊というクランは、とにかく連携プレイというか、入れ代わり立ち代わりに対戦相手が変化して。みるみる防具が剥がされたり欠損部位が生じたりと、しかも全員が手練というか弱い相手が一人もいない。まさに精鋭部隊のような練度だった。
「うお〜〜っ! やられたやられた!」
そう叫ぶ爆炎くんだけど、どこか満足そう。
「うむ、じつに歯ごたえのある敵だったな!」
蒼魔くん、対等以上の空気出してるけど、僕らボロ負けだからね?
「ですがリーダー、まさかこうまで一方的にやられてしまうとは、正直信じられませんね」
新人くんは首を捻っている。
「フフ……そんな相手もいる、ということさ……」
こちらは新人ちゃん……というか新人さんだろうか? ものすごく美形なんだけど、どこか少年のような面立ちの不思議な娘。
「そーそー、敵が強かった。俺たちが弱かった。ただそれだけのことよ、なあリーダー」
「うん、爆炎の言うとおりなんだけど、それでもリプレイで試合を振り返ることも大切だよね?」
「そうだな、領主の言うとおりだ。……みな、拠点で反省会と行こうではないか」
あ、蒼魔の言う領主って、僕のことね。みんな呼び方がバラバラだけど、チーム情熱の嵐のリーダーは僕なんだ。ということで、拠点。応接間のようなソファでスクリーンを開くと、即座に僕たちの試合動画を再生。
まずは陣形、情熱の嵐は僕を中心に経験値の高い者がセンター。
つまり爆炎と蒼魔が両サイド。翼端は新人の二人で少し後方。そして野良プレイヤーが僕の背後。敵陣のトヨム小隊は壁役の二人が先頭、続くは青いウルト〇マン娘と、これはタスキをかけた坂本龍馬……だよね? そして後列にシャルローネさんと茶色くて小柄な男の子。うん、この子はブラウニーと呼んであげよう。
まあ、僕たちは一点突破型の陣形で、トヨム小隊はオーソドックススタイルってとこ。そして開幕の銅鑼。両陣営接近。
「みんな、このとき何を考えてた?」
「僕は敵を押し包むか、蒼魔さんに続いて敵陣へ斬り込むか? 変化に応じようと思っていました」
「私も同じです、ボス。爆炎さんについて行こうかどうか?」
「僕は正面の敵、壁役を止めることを考えてたんだよね」
そうしたら? 壁役の背後から現れた坂本龍馬。これに目が行った。そして蒼魔が防具を剥ぎ取られていた。え? と思っていたらいつの間にかブラウニーが急接近。ボディーから腰への連打で、僕がファーストキルにされた。
「ここは一歩後退して、壁役とまともに当たらないことを選択すべきだったかな?」
「いや、最初から一点突破陣形なんだ。リーダーは間違っちゃいねぇよ」
という爆炎だけど、壁の二人をまともに相手することになっている。こちらも防具を剥がれて散々な目に遭い撤退。そして坂本龍馬と闘う蒼魔、防具を剥がれながらも奮戦。そこへ新人くんが応援に駆けつけた。
「だけど僕はウルト〇マン娘に妨害されちゃったんですよね」
そう、シャルローネさんの登場だ。
そして新人ちゃんは、青いウルト〇マンと一騎打ち……と言えば聞こえはいいけど、どんどん防具が剥がれてゆく。蒼魔、ついに力尽きる。なんとなく、ではあるけどこの坂本龍馬、腑に落ちない。
「どこがかな、領主?」
「うん、僕が復活して爆炎もやられたのを見てたんだけどさ、トヨム小隊は僕たちを一人ひとり斃している気がするんだ。僕の復活、次に爆炎、そして蒼魔。復活が順序よくいくと、一人ひとりで敵に向かわないといけなくなる」
「各個撃破かな、隊長?」
新人くん、巡りがいい。
「だから僕は装備を改めて体力や欠損を回復して、爆炎を待ったんだ」
「順序よくやられてるから、蒼魔までは待てなかったよな」
「そう、蒼魔がやられるのを待ってたら、その次にやられる者も待っていないといけない」
各個撃破、これはなかなか厄介な戦法だ。
「各個撃破というのでしたら領主、爆炎がやられた状況。一人で二人の壁役を相手にさせられる。これも小乗の各個撃破では?」
「正しくそれだね、どこかで誰かの足止めをして、どこかで誰かが二人を相手にしないといけない。……僕たちにできないかな?」
「見たところ、トヨム小隊ってのは全員猛者。コイツらみたいな化け物相手に勝ち上がるには、絶対に必要だな。チームプレイ……」
「おや? 一番熱くなる男がチームプレイを語るかな?」
「うっせぇぞ、蒼魔!」
「冗談抜きにして、リーダーと爆炎さんが前線に復帰して来ましたよ?」
その頃にはキッチリと、蒼魔撤退。新人くんも撤退。つまり壁役二人に襲われる野良プレイヤーと、ブラウニーと青いウルト〇マン娘を相手にさせられる新人ちゃんしか残っていない戦場だ。
「二人を見捨てるって訳じゃないけど、ここで蒼魔たちを待ってた方が良かったかな?」
「いえ、ボス。もう遅いですよ」
シャルローネさんの攻撃、そして坂本龍馬。これが爆炎にふりかかる。そして僕には壁役の男女が。防戦だけで手一杯。もうこの辺りからは同じ展開だ。じっくり防具を剥がれて、タイミングを見計らうようにしてキルを取られる。そして復活してきたメンバーが、同じ憂き目に遭う。常に二対一を強いられていた。
「う〜〜ん……敵のキーマンって結局誰だったんだろう?」
「俺はあの茶色いゴキブリ小僧って見るかな? なんだかんだであいつの一発は厳しいぜ」
「私は三人のウルト〇マン娘だな。とにかく男連中のそばにあって、嫌なタイミングで攻撃してくる」
「ボクは壁役二人を押すかな? 壁に前へ前へ出られたら、ちょっと厳しいです」
「私は……女の子四人は全員処女と見るかしら?」
コラコラ新人ちゃん、舌なめずりしないの。って女の子四人?
「ウルト〇マン娘は三人だよな?」
「あとは全員男ですよね?」
「ふむ、まさかあのデカブツが女とか言うまいな?」
「あの小さい茶色の娘。あれ、女の子よ? 可愛らしいわね……」
「なぬっ! あのブラウニーが!?」
「あのゴキブリが女だってのかよ!?」
「……信じられん、なんと不幸な身の上か……」
二人とも、言い方! っていうか僕らたいがい失礼だよね。
「しかし負け戦さでも学ぶところは多いな……」
「蒼魔の言う通り、個人技術はまだまだかもしれないけど、僕たちにはやるべきことが多いね」
「俺は個人的に、あの木刀ってのが気になってんだけどよ……」
「爆炎さんの野生のカンですか?」
「だけどなんかこう、繋がんねーんだよなー」
「カンに理屈を求めても上手く行かないわ」
それは無駄な努力と言いたいのかな、新人ちゃん?
「とにかく連携プレイはどんどん磨いていくってことで、方針を決めておこう」
「ならば領主の相棒は私だな」
「いやいや、ヒナ雄を守るのは俺の役割だろ?」
「ブンブン丸に領主は任せられん」
「なんだよ? 火力は攻撃、力はパワーだ! って格言も知らねーのか?」
「爆炎……宿題は済んでるのか? 勉強はしておくものだぞ……」
「しみじみ言うなよ……」
ということで、僕たちの方針は決定した! だけどこれから、具体的にはどうしようか?
こんなときは疑問をひとつずつ解決していくことだ。
「ねえ爆炎、さっき木刀がどうとか言ってたよね? 僕もあの坂本龍馬はちょっと引っかかってたんだ」
「あぁ、木刀な? ほら、なんてーのかこのゲーム木刀なんてカス武器扱いなのに、なんであんなにクリティカル取れるのかなって……」
「そりゃああの坂本龍馬が剣術の達人で、僕たちは素人……」
ん? なにか引っかかる。
「そうですね、このゲームのシンクロ率の高さは有名ですから。握ったこともない真剣よりも、より手に馴染んだ木刀の方が有効な人間もいるでしょうね」
そこだ、新人くん!
「ってことはよ、真剣振り回すよっか、木刀の方が強くなるってことか?」
「そうとも言えまい。ゲームというものは数値だ。数値ばかりは絶対だろう」
「だけど初心者が真剣振り回すよりも、木刀の方が適正武器かもよ?」
僕はすでに木刀を五本注文。
「まあ、これだけで眼を見張るような結果が出るとは思えないけどね」
注文の木刀は、すぐに届いた。一番納得していなかった蒼魔が手に取る。
「む? ……これは?」
「どうですか、蒼魔さん?」
片手で立てた木刀。蒼魔は鍔元から切っ先まで、じっくりと眺めていた。
「軽い……」
「もしかしてボクたちの鎧も、案外無用の長物かもしれませんよ?」
まさか、と笑いかけて、途中で笑顔が凍りつく。クラン『嗚呼!!花のトヨム小隊』。あそこのメンバーはせいぜいが革防具。坂本龍馬はタスキがけだけ。ブラウニーはほとんど平服。
これはちょっと……笑い事ではなくなってきたぞ……。