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鍛えよ! 仮想敵!!

「さて、各々おのおのがた……」



その切り出しは忠臣蔵である。


そのくらいは知っているだろうに、カエデさんはあえてそのように切り出してきた。ちなみにイマドキの若い子は忠臣蔵を知らない。若い女の子ならば、なおさらだ。


つまりカエデさんはどこかおかしい。いやいや、今のナシ無しイマノナシ。


……コホン、では改めて。我が小隊の参謀のお言葉を聞こう。



「ここまではさくらさんの強化に励んできましたが、対戦相手となるヒカルさんヨーコさんはどうでしょう?」



そう、彼を知り己を知れば百戦殆うからず、である。ヒカルさんやヨーコさんはどのような進化をして、さくらさんの前に立ちはだかるのか?


そこを想定しなければ、さくらさんのひとり相撲としかならない。



「そこで小隊長!」

「お、おうっ!」


「小隊長は仮想ヒカルさんとしてリュウ先生にシゴかれ、レベルを上げてください!」

「お、おう……悪くないな……」



歯切れが悪いぞ、トヨム。そんなに私とのマンツーマンが嫌か?

デビュー以来のバディじゃないか、釣れないぞ?



「それからシャルローネ?」

「おうっ♪」

「貴女は仮想ヨーコさん。シャルローネもリュウ先生にビッシビシとシゴかれてね?」

「Oh……(ションボリルドルフ)」


「ではリュウ先生、お願いしますね♪」

「はいよ、じゃあどっちから来る?」

「「アタイだ私からっ!!」」



それでも同時に手が挙がる。なんと勇敢おバカな我がメンバーか。

だがそこは大人の余裕で。



「一度にふたりの女の子を相手にするのは、濃い教育ができん。ジャンケンで先を決めなさい」



先行を決めるジャンケンポン♪ 別な言い方をすれば、人が地獄の釜へ落ちるのを眺めることなく、自ら率先して終焉を迎えるという楽を渇望した醜い争い。


鬼気迫る表情で、二人はジャンケン。


結果、先鋒シャルローネさん。次鋒トヨム。ということでまずはヨーコさんに見立てたシャルローネさん。


シャルローネさんもその気になっているのか、アバターの胸をマミさん級にまで増量していた。

そのうえで、ニュフリと両方の口角を釣り上げた。



「おぉっ、胸が重たいですねぇ」

「邪魔ではないかい?」



私が問うと、「いえいえ、これはこれで重い打ちができそうでしてね〜〜♪」



ゴング!



これまでのシャルローネさんとは、雰囲気が違う。自信か、あるいはこれが『人を斬ったことのある者』の雰囲気か?


よもや乳を大きくしただけで、女子はかくも態度がデカくなるとは……。


迂闊に木刀を抜き放たなくて良かったかもしれない。これは居合を用いるべき相手と見た。

シャルローネさん、薙刀よりは短いメイスを構えて、中段。


私、腰の木刀に左手を添えてはいるが、右手ダラリ。今日この日まで、何千回何万回何十万回と剣を執ってきたのだ。右手を添えておかずとも、1ミリも狂いなく抜ける。


そして殺気は慎む。こちらの『抜く気配を消すため』だ。


殺気を慎むというのなら、シャルローネさんも殺気を放たない。ただ陽気に、そしてメイスを構えたまま無邪気に近づいてくる。ただ無邪気に武を振るう行為、その三昧の境地にも似た世界のなんと邪悪なことか。


殺気立つことすらなく、必殺の一撃を振るうのだからこれはもう狂気としか表現のしようがない。そんな世界からシャルローネさんを救い出すべく。



「えい」



ザックリ。シャルローネさん以上になにも考えずなにも感じぬ、宗家クラスの狂気をもって仕留めた。



「あいや〜〜、さすがにリュウ先生には敵いませんやぁねぇ〜〜♪」



復活してきたシャルローネさんはあ、頭をポリポリと掻きながら笑う。


「いやいやどうして、シャルローネさんもまた一段腕を上げたみたいだね」



ということで、次はトヨム。オウッと言って開始線に立つが、右手には袋竹刀がにぎられている。

一応トヨムにも無双流の初伝くらいは教えている。そのことは以前お話したと思う。


しかしやはり今回も自由剣術、というか『王国の刃流派戦闘術』とでも言うべき、フリースタイル。



袋竹刀片手に背筋を垂直に立てて、柔らかなヒザと足首とつま先。いつでも動けるという、軽い身のこなしを予感させてくれる。


が、両手で袋竹刀を執り、切っ先を私へ突きつける。……そこから八相。



ふむ、ちょっとは剣術をする気になったか?



だとしたらおじさん嬉しいぞ。ならば私も……八相に構えさせてもらおう……。


両者必倒必殺の構え。トヨムが地面を蹴って出てきた。私は地面を蹴らずに、崩れ落ちるようにして前進する。トヨムの間合いを潰すためだ。


さて、左の胴でもいただこうか。そう思った途端、トヨムが後ろへ飛び退いた。野性的な勘だろう、私の攻めに気づいたようだ。


トヨムは一撃必殺戦法を諦めたようだ。中段に構えを直す。私もそれに習った。それでいてトヨムは、いつもの無手の戦法のようにスッスッと足運びを見せた。私の間合いに近づいては離れ、離れては近づくを繰り返す。



さて、どうするトヨム? トヨム本人ではなく、トヨムの構えに訊く。トヨムは肩の力が抜けていた。これはもしかすると、キルを狙って来ないのでは?


それが証拠に、トヨムは前に出てきた。先ほどのように地面は蹴らない。


影のような足さばきでするりと出てきた。そして左手一本で打ってくるお手本のような小手打ち。しかし私は一歩後退でこれを外す。



「ずいぶんと上手になったな、トヨム」

「おっと、イケネ。アタイはヒカルの代役だったもんな。ヒカルの性格なら、こう……」



やはりトヨムは八相、そしてギリギリと地面に足指を食い込ませる。

やっ、とひと声。頭から突っ込んできた。鋭い踏み込みである、もしかするとこれまでで一番の立ち合いかもしれない。剣体気、すべてが一丸となって襲いかかってきた。



が、私の木刀が頭で鳴る。



「いまの踏み込み、ヨシ!」



撤退してゆくトヨムは、満足そうな顔をしていた。そして復活。今度は中段、腰を低くして構えている。明らかに一撃離脱を狙っていた。ガッと噛みつくようにして出てきた初めの二歩は、いつものトヨム。


しかし三歩目からは足に芸を見せる。突然影の足に変えてきたのだ。



ならば、シュルリと竹刀を巻き取って霞の構え、切っ先はトヨムの水月に狙いをつけて。竹刀という壁をいなされたトヨムは、無防備なまま木刀の切っ先へと飛び込んできた。

……撤退。



「よし、わかったよダンナ!

次はこうだ!」



トヨム、八相。ガリガリと地面を削るように駆けてくる。



そうだ、トヨム。それが一番お前らしい!



このひと太刀に命を賭けて、そんな攻撃を二の太刀、三の太刀と攻撃一辺倒。


賢明な読者諸兄ならば、「おいおい、少しは防御も考えようよ」とおっしゃるだろうが、ここはトヨムの好きにさせていただきたい。



死にたくない、キルを取られるのは恥ずかしい。そのように感じるのは当然のこと。しかしトヨムならそのお言葉に、格好良く答えるだろう。



「……防御じゃ勝てないんだよ、お兄さん」



バカになれなければ、トヨム小隊には入れない。だが、考える力無くして古流武術は覚えられない。考えて迷って悩んで苦しんで、結局これしか道は無いと選択した道。


それがトヨムの攻撃一辺倒なのだ。勝たなくては、倒さなければ、打ち破らねば、生きてゆけないのだ。「その結果が、WW2の大敗じゃん」……そうだよ。その通りだ。それで? 他に何か手はあったのかな?



当時の国民性、世界観、環境。一切現代の価値観などを入れずに考慮して、最適解を導き出すのなら、どのような方法があっただろうか?


むしろ当時の有力者にも、日米開戦を回避しようと尽力した者はいたはずだ。だが、数で押し切られた。民主主義(多数決)だからだ。



それならば現代知識を有した者が開戦十年前にでも生まれ変わり、戦争回避の人数をコツコツ揃えて歴史を変えるしか方法は無いだろう。まあ歴史論など本題ではない。


ものすごく簡単に言うならば、サムライという戦闘種族は、インテリジェンスを有したバカだということを肝に命じておいていただきたい。


そして剣士剣客剣豪と呼ばれる者たちは、そこにプラスして「汚さ」を有している者なのだ。



トヨムの話にもどろう。遺憾なく発揮される攻撃精神、次々と繰り出される必殺の太刀。


だがそこに見せ技捨て技、誘いの攻撃などという思想はこれっぽっちも無く、バイタルを外れた小手打ちであろうとも一撃死を狙うような、基本設定さえ無視したような勢いで攻撃してくる。



それで良い。何事も段階を踏まなければ本物にはならない。どうやらトヨムも初伝や切紙を卒業のようである。


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