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最終日 カエデさんの決着

本陣 カエデ視点


いよいよ今年の冬イベントも、残り時間が少なくなってまいりました。熟練格新兵格の大半は、『災害認定』の先生たちをお手伝い。なんとなんと、無敵甲冑の英雄格を足止めしたり転ばせたりと、大健闘です。

そして小隊長たちネームドプレイヤーは、新兵格とはいえ泰然流免許皆伝のみなさんと寸止めマッチ。たっぷりと稽古をつけてもらってます。

……えっと、こっちにいる十二人。暇そうにしてるけど、何してるんだっけ?

「あの、カエデさん? もうそろそろ万里と幸♡兼定は来ないんじゃないかと……」

あ、あの二人を待ってたんだ? うん、もうそろそろどうでも良いんじゃないかな?

「みなさんも災害認定の先生方のお手伝いに向かってください。ありがとうございました♪」

「よろしいんですの、カエデさん?」

「まあ、よろしいのではないかと。どうせ万里さんと幸♡兼定さんでしょ?」

それでは私もお姫さまドレスを脱ぎ捨てて、いつもの革鎧に変身です!

すると、みなさまお待ちかね。万幸軍の生き残りふたりが、肩で息をしながら現れました。

「よ、ようやく見つけましたよ……カエデさん……」

「か、カエデ……そんなチーム抜けて、また俺と組もうぜ……」


素朴な疑問をぶつけてみましょう。

「何故私が、トヨム小隊を抜けなければならないんでしょう?」

「カエデは弱いから、どうせチームの中でお荷物扱いされてんだろ? 俺もカエデと組めれば助かるし。お互いに良いことしかないじゃねーか」

ふむふむ、確かに戦闘という分野に限って言えば、万里さんは弱くはありません。ただ、その強さを活かす頭脳が足りていないだけです。逆な言い方をすれば、万里さん程度の強さなら、頭の弱さを突いてやれば初心者でも勝てるというのが実情。そして以前のゲームにおいても、私が彼に劣っていたことは無いと自負しています。ただ単純に、私が成績や数字、結果というもので実力を示さず、縁の下の力持ちをやっていただけでした。

追撃するように申し上げるなら、嫌だなぁ、自分の手柄話をするみたいで。万里さんと幸♡兼定さんに、縁の下の力持ちの存在というものは見抜くスキルが無かったようです。

さらに言うならば、私が縁の下の力持ちを受け持ったのは当時リーダーであった万里さんと副官役の幸♡兼定さんが、本来やらなければならない仕事にまったく気づかず、戦闘で遊び呆けていたからです。

ここで明言しておきますが、当時でも今でも私は万里さんごときに負けたものではありません。そして万里さんと組んだら、また裏方仕事にこき使われることは明白です。裏方仕事をまったくしていなかったから、三倍の戦力で私たちに負けたのですから。


「あー、万里さんはまだ私が弱いっていう夢を見てるんですねー……」

「なによカエデ、まるでアンタ万里さんよりも強いみたいな言い方じゃない。笑わせるんじゃないわよ」

ハイ、出ましたね? 他の男性が見ていないところでは口の悪くなる本性。

「強いみたいな言い方じゃありません。前のゲームでも王国の刃でも、私は万里さんよりも強いですよ? そんな私を迎え入れて、また下働きでもさせるんですか?」

「なんだとカエデ! 俺はお前が良かれと思って……」

「大きなお世話ですね。私は私の小隊が好きですし、連合や同盟が大好きなんです。そしてそれを捨ててまで万里さんと組む旨味が、まったくわかりません。好き勝手言わないでください」

万里さんの雰囲気が一変。それまで私に憐れみを向けていたはずなのに、今度は敵対心をぶつけて来ました。

「そうかよカエデ、だったらこの場で俺と勝負して、お前が負けたらウチに来てもらうぜ」

ね、読者のみなさん。勝手にルールまで変える感性の鋭さ。これが万里さんなんです。そして誰一人としてそのルールを飲む者がいないというのに、彼の中では決まったルールなんです。

ついでに言うなら、万里さんが負けたときの条件を提示しないでルール確定するところが、万里さんの万里さんたる由縁なんです。


「じゃあ、行くぜ……カエデ……」

「はぁ、そうですか?」

あまり気乗りはしませんが、刃を向けられた以上はヤルしかありませんねぇ……。

わざと丸楯に身を隠します。こうすれば万里さん、嵩にかかって攻撃一辺倒になるでしょうから。案の定、万里さんは地面を蹴って飛びかかってきました。片手剣でカウンター。まずはクリティカルで胴の防具を破壊。同時に丸楯を突き出して、幸♡兼定さんの兜を破壊。そして一歩後退。二人の攻撃は空を虚しく斬ったのみ。

というか、タイマン勝負の雰囲気を出しておきながら二人掛かりでくるという辺り、相変わらずだなぁ、と。っていうか、出来が悪いし。

「チッ……いきなりクリティカルかよ。……ずいぶんと鍛えられたみたいじゃないか、カエデ……」

もちろん小隊稽古で技量はめちゃくちゃ上がってはいるけれど、以前プレイしていたゲームでもこのくらいのことはできましたが。正直もう面倒くさいだけなので、真相を口になんかしません。

「だけどな、勝負はこれからだぜ……!」

あ、これは二人掛かりで必殺技をブッパする気だ。知ってる知ってる。じゃあ先手を打って移動!

幸♡兼定さんの陰に隠れます。つまり必殺技の命中空間から抜け出たんですが、兼定さんは釣られるように必殺技をお漏らし。虚しく空振りさせまくり。その頭部へ、片手剣の斬撃をザクリ♡

万里さんは私を追いかけて来たようですけど、返す刀で胴を払うカウンター。またカウンターをもらっちゃってますねぇ、万里さん。二人仲良く死人部屋へ直行となりました。


え? 必殺雲龍剣ですか?

使いません使いません、普通に闘って勝てる相手に、必殺技なんて使う必要無いじゃないですか。あ、ダメですよ読者さん。同じゲームで遊んでくれるプレイヤーを、『雑魚』とか『クソ雑魚』なんて言ったりしちゃ。ゲームの技術に上下巧拙はあるんですから、罵りたいときは相手の人格を罵りましょうね。

「お見事でしたわ、カエデさん」

拍手をしながら鏡花さんが現れました。そう、私が闘っているのを『見ていただけ』の鏡花さんです。罵るのならこうした下衆女を罵るべきではないでしょうか?

「これであの万里とかいう輩も、カエデさんはもう手に入らないのだと理解していただけると助かるのですが」

「理解かぁ〜……」

「そこ、万里とかいう輩に一番縁遠い言葉ですね、という顔をしない!」

「違いますよ鏡花さん、『万里とかいう輩』ではなく、『万里と幸♡兼定』が正解です」

まあ、二度と私達前に現れないでくれとか、もう関わりたくはないという気持ちに偽りはありませんけど。そして二人とも、今回の一件から何も学んでいないんだろうなぁ、というのだけはわかります。

「これから先、あの二人はどうなさるのでしょう? カエデさん……」

「え? 普通に『集まるはずのない』メンバーを募集して、チームの立て直しを計り、サービス終了の日まで『王国の刃』をプレイしてると思いますけど?」

「3:1の戦いで惨敗しているのにも関わらず、ですの? わたくしでしたら恥ずかしくて引退しますわよ?」

「それは鏡花さんに恥の概念と学習能力があるからです。そのふたつが欠如した人間って、存在するんですよ?」

「言いますわね、カエデさん……」

「事実ですから……」

なんだかやりきれない気持ちになってきました。


「あら、イベント終了の花火が上がりましたわ」

「参加者全員にとって、実りあるイベントだったのなら喜ばしいですね」

「カエデさんは万里さんのことを語る時だけ、辛辣になりますわね」

「鏡花さん、私は一言も万里さんや幸♡兼定さんのことだとは言ってませんよ?」

三々五々と、イベント会場から参加者が姿を消してゆく。そして、気がつけば闘技場前の広場。

白百合剣士団のメンバーに小隊長、セキトリさんとリュウ先生がそばにいる。そして陸奥屋まほろば連合は、凱旋するようにまほろば本殿へ。この冬イベントの反省会だ。

すでに総大将鬼将軍は、縛り上げられ猿ぐつわを噛まされている。

そこで天宮緋影さんがみんなの前に出ました。

「この度のイベント、みなの活躍により同志カエデを守り切ることができました。心から礼を申します。しかしまだ見ぬ強豪、悪辣な不正者は数多くいるはずです。これに苦杯を舐めさせられぬよう、今後の精進に期待します」

大変に不満そうな鬼将軍をさておき、反省会はとっとと幕をおろしてしまいました。


「さて、カエデも無事だったことだし、アタイたちも拠点に帰るか!」

小隊長の一声で、私たちは拠点に帰還。だけど、みんな私に訊きたいことがあるはず。

過去と決別できたの? って。だけどみんな訊きにくそう。だから私から口火を切ります。

「さてみなさん、今回のイベントで、私は万里たちとの過去を精算できたでしょうか?」

そう言うとまずリュウ先生が挙手。「そうであって欲しい、という願いを込めて……」ということだそうです。

するとみなさんおずおずと挙手。

「そうでなきゃダメだろ? って意味を込めて……」

「それが正しい道ってもんじゃい」

「マミさんはどちらかといえば、祈りを込めてですねぇ……」

「で? 結局のところどうなのかな、カエデちゃん?」

シャルローネ、みんなが心暖まるコメントをつけてくれてんだから、あなたももうちょっと、こう……ね。まあ、シャルローネにそれを望むのは酷か……。

「では、実際のところどうなのか?

発表しますね。おそらく万里は私のことを諦めてなどいないでしょう。ただし、だからといって具体的に何かができるということは無いでしょう。因縁そのものは残ってますし、いつ息を吹き返してくるかわかりません。結論として、アレを憂いて日々を過ごすのは、バカバカしいってところでしょうか?」

みなさん笑顔になりましたが、なんでしょう? こんな笑顔は久しぶりの感じ。

それだけみんな、私のことを案じてくれてたんですね。


ありがとう♡


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