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トンパチのクソガキども

烈道陸視点


災害認定の四先生方に薦められて立合ってみたが、なるほど。さすが宗家先生方の直弟子たちだ。一戦開幕となれば躊躇なく踏み込んできた。それも小柄な少年(トヨムを男の子と誤認)と、おさげの少女の連携攻撃だ。それがまた、鋭い。とてもではないが平和な時代に安穏と暮らしてきたような、手ぬるい攻撃ではない。今まで君たちは何を見て来て、どんな世界に今いるのか?

そう訊きたくなるような、『殺し』の一撃だった。

この令和の御世にそのような殺し技が必要なのか? 必要だとするならば、君たちは今までどのような人生を歩んできたんだ?

そう問いかけたくなるような、危うい生き方。それを体現しているような戦い方であった。

災害先生方から見れば、俺たちもこんな風に見えたのだろうか?

時代遅れの生き方、と言えばキレイに聞こえる。だがそうじゃない、時代ハズレ、もしくは時代錯誤な生き方というのが正解だ。ここは令和なんだよ?

もう飢える者はいないんだ。最低限の生活は保証があるし、勝ち取らなくても生きていける。

だというのに、君たちはまだ闘い続けるのか? だとすれば、君たちは何に飢えている?

生きること。

そんな解答がダイレクトに、自分に返ってきた。そう、何かを目指す者は生きることに飢えている。安穏と暮らす日々ではない、『よりよく生きる。人生を充実させる』ことに飢えているんだ。ハングリー精神という言葉は、なにも貧乏を意味するものではない。

『我は何者ぞ?』

そのように自分に問いかける者が持つ精神。それこそがハングリー精神というものなのだ。


「小隊長もユキもズルいなぁ、私とキョウどのにも試させてくれれば良いものを」

長身大柄、銀髪の美形が木刀を抜いてくる。こちらもなかなかにキビシイ気配を送ってくれる。

「陸さん、こちらもなかなかどうして……。宗家先生方はごちそう攻めで俺たちを困らせる積りのようだ。……手伝うかい?」

仲間が訊いてきた。だから答える。

「無用、ごちそうはひとりで平らげるからごちそうなんだ」

氷のように鋭い殺気、ヒュッという風切り音が耳元で。銀髪少女の突き。そしてジャニ顔青年が斬り込んでくる。カウンターをとれるほどぬるい斬り込みではない。足だけで捌く。

「ネームドプレイヤー、アタイのとこに集まれ! 面白いアンちゃんたちがいるぞ! 一手ご教授賜わろうぜ!」

アタイ? チーム無線であの小僧、アタイとか言ってたようだが……まさか、女の子?

おいおい、ちょっと待て。女の子であの攻めは無いだろう? それはあまりにも生き方が下手すぎるんじゃないのか?

というか、アレを懐に入れてる先生方、どれだけ大きいんだよ?

トンパチ人生丸出しのガキンチョども。それを受け止められるのは、それ以上のトンパチ先生ってことだよな?

令和……平成……昭和……大正……明治……幕末……。剣は代々受け継がれている。そんな想いが胸を過ぎった。


それどころじゃない。先生方のお弟子さんと思われる連中がワラワラと集まってきた。どいつもこいつも、一端の面構えをしてやがる。

「もう一度訊くぞ、陸さん。手伝おうか?」

「あぁ、どうにもごちそうが山盛りだ。さすがにゲップが出て来そうだぜ。応援を頼む……」

チームメイトが脇差しを抜いた。敵は木刀、回転が速い。それに対応するために、仲間は脇差しを抜いたのだ。間合いを犠牲にしてまでも。

「さて、誰が出て来る?」

「じゃあ私が出ようかな?」

小さな女の子が薙刀の木刀を担いで出てきた。どう見ても場違い感が拭えない。プレイヤーネームは『フィー』と言った。

「で、相棒は?」

「必要だと思う?」

いきなりスネ斬り。もちろん普通の薙刀技なのだが、どことなし底意地の悪さを感じてしまう。

そしてウチの者もスネ斬りの奇襲を躱していた。

「……ふぅん、真面目に剣術だけやってた訳じゃなさそうだね」

そう、俺たちは自流の看板をあらゆる者たちから守ることを考えて稽古を積んできていた。その努力がいま、実を結んでいた。

「ちょっと待ったフィー先生、われわれのお客さんを勝手にさらってもらっては困るな」

「左様、ここは我々の出番だぞ」

ジャニ顔青年と銀髪少女が前に出てきた。油断していると、ヤラれそうだ。


そう察したか、ウチからもう一人出る。こちらは太刀を抜いた。

「ごちそうはみんなで分け合って食べるものだ。そうだろ、虎之助さん」

「あぁ、そうだな隆一郎。ジャニ顔くんはまかせたよ」

そのジャニ顔くんが出た。命知らずのように勇敢だ、面と言わず小手と言わずどんどん出て来る。そしてその度胸と気迫が素晴らしい。この剣風は、あの士郎先生のものだろう。技は気迫の中にあり!

一にも二にも気迫、気迫、気迫。そしてよく技も出ている。隆一郎も反撃はしているのだが、それを恐れることなく猛然と返してくる。

隆一郎は脇差し、とはいえ太刀の代わりになるような長寸。やや動きが重たい。

「よし、待った! キョウさん、選手交代だ。俺の他にも君たちと手合わせしたい者がいる。そちらもそうだろ?」

隆一郎の方が、先に音を上げた。正しい判断だ。得物の差がある。お互いに一撃必殺を狙える技量ならば、得物は軽い方が有利だ。

ではもう一方、虎之助と銀髪少女はどうか?

こちらは動かない。虎之助の八相、銀髪少女輝夜さんの脇構え。大きく間を取って見合っている。どちらもビリビリと、しびれるような殺気を放っていた。


ジリッ……ジリッ……と間が詰まる。そして一閃、輝夜さんはすくい上げる胴打ち。体を入れ替えながらだ。しかし虎之助もそれを読んでいた、躱した輝夜さんの面に……両者は寸止め。先に太刀が届いたのは……。

「参りました」

白銀輝夜さんが木太刀を引いた。

「ふう、あぶないあぶない」

勝った虎之助も大汗をかいている。それほどまでに緊張感あふれる一戦であった。ただ、この一戦により勝負は寸止め、キルまで追い込まないというルールが自然発生する。おかげで陸奥屋まほろば連合のごちそうをたらふくいただくことができた。剣術、薙刀、槍。相撲に柔道にボクシングに柔術と、戦闘技術のデパートと言える。

「ふぉっふぉっふぉっ、どうかのう? ウチの若い連中は、というか『王国の刃』は? 堪能できましたかな?」

緑柳翁が現れた。好々爺のように見せかけて、眼光は鋭い。正直、気配だけで勝てる気がしない老人だ。

「はい、年若いですがいずれも使い手。しかもバラエティに富んでいる。どのようにしてこれだけの人材を集められたのですか?」

「勝手に集まったんじゃよ、どいつもこいつも生きるのに不自由しとってな。こんな斬った張ったの世界でないと、生きとられんのじゃ。お前さん方も、そうじゃろ?」


おっしゃる通り。この世に生き飽いたというか、面白きこともなき世を面白くしようとして、剣術にすがった。それが泰然流免許皆伝である俺たちの正体だ。登り詰めれば、その先に道は無し。そのように勝手に思い込んでいた。

ところがどうだ、若者はいる。スマホやネットで情報を得て、その世界に耽溺しているだけかと思っていたら、そのネットを通じてこれだけの若者たちに出逢えたではないか。

若者たちは道を欲している。

そこに与えてやれるだけの道を、俺たちも歩いてきたのだ。そのひと足が自分の歩むべき道と信じて歩き続けていたら、その道は後から続く者たちにとっての道となっていた。

斬った張ったしか考えていなかった剣の道。そればっかりじゃ詰まらないぞ、という翁の言葉。

強いばかりが剣の価値ではない。ここへ来て初めて、それがわかった。

「いい顔になったな、泰然流の兄ちゃんたち。んじゃまあ、もそっと若い連中に稽古つけてやってくれや」

「わかりました」


良い話にまとまったところで、リュウです。ネームドプレイヤーたちが泰然流と遊んでいる間、無敵甲冑の侵略を防いでいるのは、なんと私たち。士郎さんやフジオカ先生と三人で。つまりとても大変な目に遭っています。だからあえて言わせてもらおう!

「サボっとらんで手伝えジジイ!」



トンパチ代表のトヨム


いいね。いいじゃんか! これが免許皆伝って奴なんだな?

ダンナたちほど達人じゃない、だからといって簡単に手の届く場所じゃない。そして、一発でアタイたちを仕留められる技。それが免許皆伝なんだ。

よし、それじゃあ試してみようぜ! どんな技が通じるのか、通じないのか? なんで通じないのか、どうすれば通じるのか? そしてアタイたちとどう違う?

何が違う? そしてダンナたちと比べて、何が足りていないのか?

「さあ、みんな退いた退いた! アタイがもう一丁手合わせ願うぞ!」

「はいはい小隊長、後ろに並んでください。みんな一手ご教授願いますで並んでるんですから」

茶房『葵』の店主に並ばされる。相変わらずのアマレススタイル、両手には総合のグローブ。この格好で古流柔術を使うってんだから、詐欺だよな絶対。しかし……背後からでも見えそうなおっぱい。キュッとくびれたウェスト。桃のようなお尻……。女のアタイでも生唾飲み込んじゃうプロポーションじゃないか…。

「なあ……葵……」

「なんですか、小隊長?」

「本番前に、アタイと一発ヤッてみないか?」

「今の小隊長は目がエッチだからダメ♪ でも、イベントが終わったらプライベートレッスン受け付けおけですよ?」

よし! 忘れるな、葵! 今度は目ン玉えぐられないからな! ……って、ちょっとえっちな話題になるかと思っても、結局どつきあいがメインになるんだよなぁ……。


今年はこれにて更新納め。次回は新春元旦朝8時から更新させていただきます。また昨日午前三時半時点でデイリーランキングVR部門52位に入りました。ご愛読ありがとうございます。

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