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そして二日目の終わりへ

本隊護衛 カツンジャーの鬼軍曹


「マイク! ロジャー! エリック! 無事か!?」

小隊メンバーに声をかける。

「エディ、ニック! 殺られてないな!?」

もちろんそんな名前のプレイヤーはいない。だが私は英語名で彼らを呼ぶ。何故なら私は古参の鬼軍曹、ハードマンだからだ。そして私の小隊メンバーは、激闘にも関わらず全員無事だった。

「よく聞け、ゴミ箱野郎ども! 憎き万幸軍の死にぞこないが、向かってレフト! あの辺りで兵をまとめつつある!

我々はここへ討って出て、その作戦行動を妨害する! わかったか!!」

「「「サー・イエッサー!!」」」

新兵格熟練格と、ケツに卵の殻を乗せたヒヨッコどもだが、元気だけは一人前だ。だが、だからこそ危うい。死にたがりが過ぎる傾向にある。私は軍曹、私は小隊長である。よって最後の決戦、最後の突撃命令が出るまでは、なんとしても犬死には抑えなければいけない。

幸いにして、そばには同胞キャプテンハチロックの小隊もある。

「キャプテン、ここいらで協同作戦といかんか?」

「おう、軍曹! あそこでたむろしてる敵の集団だな! 一丁やってやろうぜ!」

話が早い。やはり持つべきものは戦友だ。

「我々が正面からちょっかいを出す! キャプテンたちは脇腹を突いてくれ!」

「おう! 死ぬなよ、戦友!」

「そっちこそ!」


万幸軍の数はかなり減っている。イベント初日こそ五〇〇人ほどまとまっていたが、いまや三〇〇を切るのではないかというくらいになっていた。マップで確認すれば、万幸軍はB陣地やC陣地に点在していて、もはや集団としての機能を失っているようだ。

嫌になったのだろう。A陣地攻略が。元より大将らしい大将がおらず、作戦らしい作戦も無い軍であった。ただ集まっただけの、烏合の衆とも呼べる。いや、彼らは彼らでそれなりのモノをもってはいるようだ。

他所の陣地に出向いて、万里とかいう奴の指揮下を離れた者たちは、いきいきと戦っている。

作戦も指揮官も無い部隊というのは、本当に脆いものだ。

だが私はハードマン軍曹。私の小隊はそのようなことがあってはならない!

「二対一を忘れるな! ショット&ラン、死にたくなければ動き回れ!」

王国の刃においては基本中の基本。嫌というほど、ウンザリするくらいに繰り返してきた戦闘術。その中でも私の役割は、ひとつでも多く敵の防具を破壊する、クリティカルショットを放つこと。それを新兵たちにくれてやることだ。もちろん必ず取れるものではない。欲張れば私がキルを取られてしまう。繰り返す敵への嫌がらせの中で、ここぞというときに、クリティカルが取れれば良いのだ。



本隊護衛 キャプテンハチロック


軍曹が敵の集団にちょっかいを出し始めた。ならば俺たちは横から嫌がらせをして、二面作戦とさせていただく。マップを確認すれば、三々五々とではあるが万幸軍が集結しつつある。

ここはひとつ、漸減邀撃と行かせてもらおう。

あまり緊張感の無い、ともすれば雑談をしているような敵の胴を打つ。パンパン、と二度。一発クリティカルとはいかなかったが、わずか二打で腹の防具を破壊できた。

「キャプテン、ごっちゃんです!」

新兵格のひとりが、剥き出しの腹に追撃。これでひとりキル。今度は熟練格のメンバーが嫌がらせをしている敵の面を、片手サーベルで打ち据える。さらに誘いの胴打ち。敵の兜が派手に吹き飛んだ。その隙に嫌がらせ熟練格が、脳天を叩き潰す。これで2キル。

二人一組の嫌がらせに、俺がしゃしゃり出る。それだけで防具は破壊できたし、キルに繋がった。

「無理はするな! 深追いはするな!」

そう叫んでいる俺に、敵の攻撃。新兵格がそれを受けてくれた。受けたといっても、得物で受けてくれたのだ。俺は素早く小手打ち、防具を弾き飛ばす。そこへ新兵が追撃、欠損発生だ。

敵の得物をサーベルで押しのけて、ヒザ関節に蹴り。崩れ落ちた敵を、新兵が滅多打ちにする。

油断している敵は、面白いように死人部屋送りにできた。

そうこうしているうちに、薙刀を担いだ護衛部隊がやってくる。

「薙刀部隊待てーーぃ! この戦場は俺たちが買ったケンカだ! 参加したいなら増援の死に帰りを相手にしろ!」

もちろん応援してくれることには感謝だ。だが、俺たちは男である。女の助けを借りて敵を駆逐するなど、矜持が許さないのである。くだらぬ見栄というなら言ってくれ。俺たちは、男というものはそのようにしか生きられないのだ。



本隊護衛薙刀部隊 ポニーテール御門芙蓉


ありゃ、キャプテンに怒られちゃった。でもそうだよね、男の人が真剣に取り組んでいる仕事に、女の子が横槍入れちゃいけないさ。

ということで方針変更。

「それじゃあみんな、集団をやっつけるんじゃなくって集まってくる死に帰りを迎え撃つよ! キルを取ったらまた死に帰ってくるから、キルは取らないようにね!」

「……………………………………」

あ、ボブの瑠璃が面白くなさそうな顔してる。ま、そりゃそうだよね。男の人たちを掩護するために駆けつけてきたのに、邪魔者扱いされたんだから。

「怒らないでよ、瑠璃♪ あの仏頂面のキャプテンが、私たちに増援の死に帰りをなんとかしてくれってお願いしてきてんだから」

「…………わかってる。……あの男、ぶきっちょのぶっきら棒……。あんな男、まだいたんだ……」

「そーそー、女の子にモテることなんてこれっぽっちも考えてない、男の子通すだけで一生懸命な不器用さん。昭和だよね〜価値観が」

「死に帰り、来た……。まずは転がす……」

うんうん、瑠璃の機嫌も直ったかな?

それじゃあお姉さんたちは、不器用男子のお手伝いしましょっか。まずは転がして、転がして。死に帰りの数を増やさない。だけど万幸軍の圧力が軽いなぁ?

そんなに深刻なプレッシャーは感じられない。もう万幸軍も嫌気がさしてるのかもね。



万里視点 二度目の死に帰り


おかしい、どうして押せないんだ?

数で三倍、新兵格や熟練格がメインだけど、それでも数は三倍。それが陸奥屋まほろば連合とコンタクトした途端に、軍が瓦解した。

弱っちいクソ雑魚プレイヤーなんて、一人もいなかったはずなのにそれでも崩壊した。

だけどまだ勝機はある。死に帰りでまとまって、敵の牙城へ再攻撃。うん、俺たちは上手くやっていた。まとまった数で突撃したはずだ。それなのに今度は、軍として前に出られない。

みんな転ばされた。そこからチクチクとキルを取られる。手足をもがれるような攻撃が続いた。

俺もそこで二度目の死人部屋。二度目の死に帰りは、兵が集まらなかった。軍の大半があっちで遊び、こっちで遊び。それぞれのチームの同盟や知り合いのところへ『逃げ出して』しまった。

「万里さん、紅同盟が離反しました! あぁっ、鉄血剣士団までっ!」

幸♡兼定の悲痛な声ばかりが届いてくる。そして敵は、正面とサイドから。

「敵は二面作戦を取ってきています! どうしますか、万里さん!?」

どうしますか? って訊かれても、それを考えるのは軍師の仕事だろう! ……いや、カエデはいないんだった。なら、カエデだったらどうするか? を考えれば良い。

『一度後退して、死に帰りのみんなを迎え入れて、まずは数を増やしましょう』

そうだ、カエデならきっとそう言う。

「一度撤退、死に帰りを迎え入れて部隊の再編をはかる!」



本陣で軍師気取りのどじょうヒゲを眺めるカエデ


本陣では必要も無い卓を置いて図面を敷き、それを見下ろしてはクジャク羽根の扇をホッスホッスと揺らしている鏡花さん。まるで孔明気取りのような服装で、つけヒゲまでしています。

「鏡花さま、万幸軍最前線集団。十二時の方向に退却を始めました」

陸奥屋軍師のヤハラさんもノリが良い、片ヒザ着いての報告です。

「あら、十二時方向ですの? そちらには何もございませんことよ」

そう、死に帰りが駆けてくるくるのは二時方向。だけどそちらには芙蓉さんと瑠璃さんの護衛部隊が、死に帰りの合流を阻止している。私ならこれを背後から襲うんだけど、そこが万里さんのクオリティ。割とトンチキな采配ですね。鏡花さんの言うとおり、十二時方向に移動してもなにも良いことはありません。ただ後退しているだけです。

その万幸軍最前線も、キャプテンと軍曹どのの奮戦により、一人キル。二人キルと数を減らしています。

あ、ジョージさんの部隊とマミヤさんの部隊も合流しましたね。これで最前線集団はまたまた崩壊することでしょう。ナンマンダブナンマンダブ……。

「さて、カエデさん。貴女が万幸軍の参謀でしたら、この状況をどのように覆しますかしら?」

無茶を言いますねぇ、ウチのデコちゃんは……。ですがここは的確な返答をしないと、カエデちゃんの名がすたれます。

「基本中の基本ですが、死に帰りを集めてまずは軍、もしくは集団を形成します。その上で捲土重来を計り……」

「肝心の死に帰りさん方、見る見る数を減らして他所へ遊びに出かけてますわよ?」


ハードル上げてくれましたね、鏡花さん。

「それでも最後まで一緒に戦ってくれる人数もいるでしょうから。それに、復帰地点には無双格、英雄格がまだまだ控えています。これらも当てにして、再度の奮起をうながします」

再度の奮起。自分で言っていて嫌になる。例えばそれが鬼将軍さんならば、陸奥屋一党もまほろばも、何度となく軍の再編を試みるでしょう。

だけど、万里さんじゃぁなぁ……。それこそ鬼将軍さんなら、ふんぞり返った無双格や英雄格さえも、どさくさ紛れに乱戦へと巻き込んじゃいますよね、きっと……。

大将あっての軍師、軍師あっての大将。

だけど万里さんにはどちらも無い。なんでこんな戦いに挑んで来たんだろ? 自分が賞品であることを忘れて、考え込んじゃいますね。

「……ですが自軍をまとめることさえままならない万里将軍。これではお味方の英雄格無双格も、応援のしようがありませんわ」

「だから無理矢理東軍の英雄格を引きずり出して、援軍代わりに仕立てたのでしょう?」

「あら、そうでしたわね」

オホホとクジャク扇で口元を隠し、鏡花さんは笑っていました。



対英雄格部隊 トヨム視点


よ、みんな! 久しぶりだな、アタイだよ。トヨム小隊の隊長トヨムだ!

アタイは今、ダンナたちが誘い出して無責任にも放ったらかしてる、東軍英雄格の連中を相手にしている。もちろん一人ボッチじゃないぞ?

『まほろば』の白銀輝夜、鬼組のユキと一緒だ!

「よし、ユキ! 輝夜が一人捕まえた!」

「了解、小隊長! フォローしますよ!」

輝夜が連打で無敵甲冑を捕まえた。その輝夜の護衛はアタイが務める。だけど今回のアタイ、得物がちょっとばっかし回転が遅い。そんなアタイを守ってくれるのがユキだ。

んでもって、回転の遅いアタイの得物。それは……。

「おらっ! 遠くまでぶっ飛べ、鎖手甲チェーンナックルパーーンチっっ!!」

そう、重たい手甲で敵を弾き飛ばす。キル目的じゃない、敵を遠ざけるための手甲。っつーか拳に鎖を巻く装備。鎖手甲……チェーンナックルって装備だ。ただこの装備、キルより敵を弾き飛ばす武器なもんだから、あんまり人気の無い武器だ。それを紹介してくれた、昨夜のカエデ。装備して見せてくれたのは良いんだけど、女の子体型のカエデがゴツいナックルってのは大笑いさせてもらっちゃったよ。だけどそんなカエデよりも華奢なアタイ。

二日目に挑むアタイを見たユキは、明らかに笑いをこらえていた。白銀輝夜なんて、アタイに背中を向けて肩を震わせていた。

その感想がひどいんだぜ。

「……ミニゴリラ……」

「ダメ、ダメですから輝夜さんっ……そんな的確なこと言っちゃ……」

酷い仲間に恵まれたもんだ。


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