一般プレイヤーヒナ雄くん、ふたたび……
一日二回更新の二日目、次回更新は夕方四時になります!
みなさんお久しぶり、一般人のヒナ雄です。ただいま現在、あらゆる角度からでもクリティカルを入れられるよう、訓練中です。あらゆる角度……つまり斜めからの打ちでもクリティカルを入れられるように。真上とか真横なら、それなりにクリティカルが取れるんだけど、斜めからの打ちでは、ほとんどクリティカルが取れずにおります。
そこで頼みにした大学の学友デコ助こと、出雲鏡花。こいつの無駄に広い顔とデコで、その筋の専門家に僕の動きを検証してもらっているのだけれど、その相手というのが共通の知り合いである『武士兄さん』。彼を失念していたせいで、僕はデコに回転寿司をおごる羽目になってはいるのだけど、それはまだ良し。
問題はいまだに僕がクリティカルをなかなか出せないでいる点だった。袈裟斬りのコツはダブルチョップ。これをしっかり身につけて、いつでもクリティカルを取れるようにしないと……。
「ダブルチョ〜〜ップ」
ゆっくりと、刃筋をたてたまま、手の内も忘れずに……カカシのかぶる兜目掛けて……ヒット。ガスッ。兜のダメージは、日に日に深くなっていくけれど、これだけではクリティカルにはならない。そしてこんなときこそ、奴からの電話さ。
出雲鏡花、いま僕が頼みとする金持ちのデコ娘だ。
「待っていたぞ、デコ」
「お待たせいたしましたわ、ブタ」
「ブー」
「さて、今回のレクチャーは物打ちから打つ、というものですわ」
「ブー……物打ちから打つ?」
また新しい講義だ。というか武士兄さんからのレクチャーだ。確実に「人を斬るための技術」の伝授なのだろうけど、剣術って一体どれだけポイントがあるんだろ? 果てしない気分になってくるぞ。
「さてブタ雄さん。そろそろ刃筋も立って兜にスパイクが食い込むだろうけど、クリティカルには至らないことにお悩みかとおもいますが」
「ブー」
「そんな貴方に朗報ですわ! 物打ちから打つことにより、得物の威力は倍増! クリティカルも間違い無しのてんこ盛り特典! さあ、今すぐ実践なさいませ!」
「どうやってやるんだブー!」
「鬱陶しいですわ、それはもう結構でしてよ?」
「わかった、どうすればいいんだ?」
「とりあえずクリティカルを取ることが目的、これは間違いありませんわね?」
「おう、その通り。この世のミステリーに挑戦したいだけさ」
でしたら、と出雲鏡花は勿体をつける。
「デコピンの要領だそうですわよ?」
「デコピン? なんじゃそりゃ?」
「御存知ありませんの? 中指の先を親指で押さえて、溜めて溜めて一気にピン! というアレですわ」
「いや、それはわかるけど」
「武士お兄さま曰く、上段に構えた切っ先が見えない指につままれて、発射できない! 溜めて溜めて溜めて……それから振り抜く! だそうですわ」
「どれどれ? ダブルチョップの要領で、溜めて……溜めて……溜めて……撃てっ!」
ドカーーン!! 凄まじい一撃。当然クリティカル、そして兜は消滅。
「やった! やったぞ! とうとう斜め打ちでもクリティカルを出した!」
しかもこのデコピンショット、袈裟斬りでも逆袈裟でもいける。それに胴打ちでも!
スゴイよ、武士兄さん! まるで魔法の杖を手にした気分だ!
「あ、ちなみにですねヒナ雄さん。お兄さまからの伝言では、『これだけでは絶対にウルト〇マンのお姉ちゃんたちには勝てないからな』だそうですわ」
「そーかそーか、シャルローネさんたちには勝てないか。それでもいいや、構わないよ!」
出来なかったことが出来るようになる。夢のような技が出来るようになる。これって凄く嬉しいことで、この喜びをひとにも伝えたくなる。だけどこれは、武士兄さんが僕にだからと教えてくれた技術。決して口外できない。
電話はいつの間にか切られていた。
そして僕は仲間たちと、六人制の試合に出る。……悪くない。今まで苦労していた鎧剥ぎ、割と簡単に出来てしまう。クリティカルの連発で、その日五戦してMVPはすべて僕。勝率もグッと引き上がる五戦五勝。僕としてはホクホクで、新兵レベルを卒業。熟練格へと駒を進めた。
この頃になるとデコピンショットにも磨きがかかり、すれ違い様に水平打ちで胴をいただき、背後から返す刀でキルも取れるようになった。いわゆる僕の必殺技だ。熟練格に上がると、途端に不正者やブッパ野郎が増えたけど、元々僕はその手の輩には強かった。一歩後ろにさがって、打ち終わりを狙うだけで、それだけで十分なんだから、かわいいものだ。
たださすがに、僕一人を狙って囲まれるとどうにもできない。困難はやはり続いていた。そんなとき僕たちのクランに新しい仲間が加わった。蒼魔くんという片手剣の黒騎士だ。始めのうちはヘッポコプレイヤーだったんだけど、立ち回りやポジショニングをどんどん吸収して、いまや僕が囲まれないようにと……ワオ!
一発で鎧を剥ぎ取った!
「ふ……ヒナ雄さんが垂直に刃をあてがっているようなのでね、私も真似てみただけさ……」
ただならぬ二人組とみたのか、敵もうかつに囲みには来なくなった。実に頼もしい仲間を手に入れた気分だ。
そして仲間はさらに。蒼魔くんの友人で、爆炎アーカードくんだ。こちらはクールな蒼魔くんとは対照的に、真っ赤に燃える鎧を着込んだ熱い男。思い切りの良さが信条で、悪くいえば勢いでクリティカルを入れている感じ。
「いや、そーじゃねーよヒナ雄。蒼魔の奴、お前が落ちてから俺に特訓してんだぜ」
「爆炎もクリティカルが取れた方が面白かろう……」
「ま、そりゃそーだ。でもあのデコピンショット、あれ良いな!」
「私は正確に打ち込めと指導しているのですが……」
「すごいね、デコピンショットまで会得してるんだ?」
「すべてヒナ雄さんから得たものです」
「ヒナ雄もそろそろメイスから、殺傷能力の高い刃物系の武器にしてみたらどうだ? お前ならできるぜ」
両手剣の爆炎くんは嬉しそうに笑う。……そうか、刃物系の武器か……。考えてもいなかった。確かに武士兄さんが教えてくれたのは、メイスの使い方ではなく「刃物」の使い方だ。
「やって、みようかな?」
不覚にも胸がときめく。爆炎のような両手剣? それとも長得物の薙刀? 槍を使いたいな、って考えてた次期もあった。
「まずはヒナ雄さん。課金をしてアバターをカスタムしてはいかがでしょう?」
あ、まずはそこからだよね?
自分専用のアバター、あのシャルローネさんたちも使っていた。蒼魔くんも爆炎くんも、すでに利用している。なんでもシンクロ率がグッと上がり、動きもキレが良いそうだ。
「ことのついでだ、今のクランを抜けて新しいクランを立ち上げないか!?」
「こら、爆炎!」
「だってよぉ、いまのメンバーって特殊性癖の持ち主みてぇに、男同士でくっつき合ってばっかなんだぜ? こんなクランじゃ勝てねーよ」
うん、それも考えておこう。夢がふくらんでくる。たったひとつの技術のおかげで、未来が開けてゆく。僕の王国ライフは、まさにこれからなんだ!
「よし、新しいクラン名は『魁!ヒナ雄塾』だ!」
「ばかもん、そこは巨匠をたてて『刃にかけろ!』ではないか!」
「俺たちみんな死んじゃうだろ、それ……」
では、どうするか?
「もう少し普通のクラン名にしない?」
「普通の感性があれば苦労はしませぬ!」
「蒼魔は極端だからなー」
いや、爆炎くん。君もたいがいだからさ……。
「ヒナ雄どの、いかがなさる!?」
「どうすんでぇ、ヒナ雄よぉ?」
まだ立ち上げてもいないクランの名前で、なぜか詰め寄られる僕。ほんと、僕が何か悪いことでもしたかな?
とにかく、この二人も納得なクラン名を出さなくては。急いでウィンドウを開いて、刺激的な単語を検索。……ダメだ、英単語しか出て来ない。
「俺は格好いいのが好きだな」
「私は大望をはらんだ名が好みですな」
だから好き勝手言わないの。君たちのせいで僕は悩んでるんだから。
「それじゃあ情熱の嵐ってどうさ?」
「情熱の嵐……?」
「……………………」
なんだよ、その沈黙。と思っていたら思いがけず賛同を得た。
「いいね、熱いよ! その名前!」
「嵐か……私たちが王国の刃に吹き荒れる嵐となるか……」
そして僕たちはクランを脱退。新たな船出を飾ることになった。