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二日目の戦い

突撃、吶喊部隊! 葵視点


銅鑼が鳴り響き、二日目開幕。今回の私はアマチュアレスリングのレオタードにオープンフィンガーグローブ。スネには蹴り用のレガース、額には頭突きができる装備品のハチマキです。

つまり単純なレスリングスタイルや柔術というより、かなりえげつない古流のスタイル。あ、そうそう。ヒジヒザにはパット付きのサポーター。必殺の態勢は整っています。

今回の小隊長トヨムさん。駆け出すと同時に彼女はちょっとしたアドバイスをくれました。

「いいか、無敵甲冑攻略のコツは威力よりも数と正確さだ! 慌てず急いで正確に!」

そうか、一発を狙っちゃダメってことね。小さくまとめて素早く、小さくまとめて素早く。

早くも接近してきた東軍英雄格。先頭をゆく小隊長と……接触コンタクト!!

さっそく演出のフラッシュがまたたく。防具破壊はできないけど、エフェクトだけは発生する。

ワンツースリーフォーファイブ! 速い! フラッシュの演出が消える前に次のフラッシュ。さらにフラッシュ。なるほど、その呼吸ですね? 軽く右前手のワン!

フォローの左でツー! 右を伸ばして返しの裏拳でスリーフォー! 軽く伸ばしますよ、左のファイブ!

私の打撃はことごとくクリーンヒット。それで次に引き継ぎます。マミさん、リュウゾウさん、お願いしますね!




本陣、ウィンドウから戦況を眺めるカエデさん


「小隊長、あまりつっこまずに! 後続の抜刀隊や槍組と協力して、ダメージとキルを稼ぎましょう! あくまでも迎撃です、迎撃!」

戦況を眺めていると、どうにも吶喊部隊が突っ込みすぎる傾向にある。主力中の主力だから好戦的になるのもわかるけど、それじゃあ吶喊部隊対英雄格。あるいは小隊長個人対英雄格になってしまう。それでは陸奥屋まほろば連合という軍は機能しない。私たちはあくまでも部隊というひとつの集団なんです。効率的、かつ機能的に活動しなくてはなりません。

「わかったぞ、カエデ! 前線を伸ばすのはここまでだ!」

「いえ、トヨム小隊長。もう少しさがってくれた方が……」

オズオズとマヨウンジャーの拳闘家、赤ブルマーのアキラくんが申し出る。

「なんだよ、もっとさがれってか?」

画面をマップから小隊長中心のものに切り替える。小隊長は足払いで、フルプレートアーマーの敵にヒザを着かせる。バックステップふたつ、今度は槍をかわしてつけ込み、腰を使った投げ技。

サササッと五歩さがる。なにしろベースが柔道、掴んでしまえば小隊長のものだ。そしてコケた敵は動きが鈍い。小隊長を追いかけるなど夢のまた夢。

あっという間にアキラくんや忍者さん、葵さんが防衛線を張るラインまで後退してきた。その後ろにはマミとナンブ・リュウゾウ。うん、四人がダメージを与えた敵にさらなる追い打ちをかける態勢が整いましたね。



そうなると槍や薙刀の長得物チームが前に出て、徹底的に東軍英雄格の脚を狙う。転倒させちゃえ作戦だ。それをフォローして無敵甲冑にダメージを与えるのが、抜刀隊。とどめを刺すのが吶喊部隊。

よかった、小隊長が冷静になってくれて。これでひとまず、英雄格対策は完了。用心棒部隊に目を移してみましょう。

こちらも張り切ってますねぇ。チーム『ジャスティス』、『情熱の嵐』、『迷走戦隊マヨウンジャー』が中心になって、万幸軍の鎧剥ぎ。新兵格熟練格がキルを奪うという戦法。三倍の戦力差にもめげず、状況を維持しています。

「そうなるとだ……」

やることがありません。他の東軍勢力もA陣地を狙っているのでしょうが、それは西軍も同じ。もみくちゃになって押し合いへし合いを繰り広げています。この乱闘はそうそう変化が無いでしょう。

う〜〜ん、鬼将軍がいらなくピンチを招きたがるのが、なんとなく分かってしまいます。人生はよりドラマチックに。波風なければ自分で起こせ、そんな考えがちょっとだけ理解できちゃいました。

ではリュウ先生方は、今どこに? 東軍拠点前で陣取ってますが、そろそろみなさん『災害認定』の実力がわかったのか、避けられているようです。




最前線、リュウ視点


「なんでぇ、さっきまでは調子こいてかかってきた死に帰り連中がよ、今じゃ見向きもしてくれねぇぜ」

翁がぶつくさと文句をたれる。

「かといって、こちらから手を出せば弱い者いじめにしかなりませんし、困りましたなぁ……」

困りましたとか言いながらも、フジオカ先生は笑っている。

「ところがどっこい、お三方。それだけじゃ終わらないみたいだぜ」

士郎さんの言うとおりだ。東軍最高峰、無双格の連中が動き出した。話し合いでもしていたのか、ようやくのご登場である。

「囲んでくるつもりでしょうかなぁ?」

私はのんきに訊いてみる。

「囲んでくるみたいですな、これが鶴翼の陣という奴ですか」

フジオカ先生の声、それに士郎さんが答える。

「鶴翼の陣にしちゃあ十重二十重と、なんとも厳重な囲み方だ」

「いやいや士郎さん、この広いフィールドで無双格二〇〇人程度。見てくれは寂しいものですよ」

「おう、リュウの字。こいつらもあの無敵甲冑とかってのを着込んでらっしゃるのかい?」

「そう見て間違いないでしょう、三十発叩かなければ、防具は壊れません」

それでは、と翁の策だ。

「転がして乗っけて転がして乗っけて、少しでも数を減らして闘うかい。なにしろオイラたちにゃ援軍ってもんが無ぇからよ」

言ったときには、もう翁は突撃。甲冑兵の足元にしゃがみ込み、最初の被害者を出した。



ワッとおそいかかってくる人数、その刃を躱して一人の小手を取る。少し捻っただけでギャッと声をあげた。そのままとなりの甲冑兵にもたれさせると、二人仲良くバランスを失って転倒。

投げ終わった私に、敵が斬りつけてくる。それは兜の視界を手の平で遮り、迷ったところで足払い、これは単独の転倒。長得物でも短得物でも、とにかく敵は振り回してくる。斬ってくる場所は知れているので、掌で小手を迎えてあげた。そのまま剣で斬る手を作り、刀のように振ってやる。甲冑兵は苦もなく右に左に踊ってくれた。他の甲冑兵を巻き込んで。

王国の刃はフレンドリーファイアが無効のゲーム。

敵の甲冑にダメージは入らないが、動きにくいフルプレートアーマー。衝突を避けることもできず、面白いように倒れてくれた。

敵の得物を奪って反撃。無手の柔を思い出すとき、読者諸兄はそうした技を思い起こすだろう。しかし王国の刃ではシステムのせいか、敵の得物を奪って攻撃してもダメージが入らないのである。かなり初期のころ、描写はされていないがトヨムやセキトリと実験したことがあった。

そんなときには、敵を武器にする。無双流の柔にそうした教えが直接入っている訳ではない。しかしこれは発想というものなのだ。

競技では許されない、敵の得物を奪う行為。競技では存在しないシチュエーション、複数の敵。そうした場合にこそ、この発想というものが光り輝くのだ。



さて、ゴロゴロとコケまくった甲冑兵ども。まずは右手で木刀を抜き、片手でビッシビシと打ち据える。その隙に襲って来ようとする者は、容赦なく転がしてまくる。ようやく三十打ち据えて、一人撤退。コケた敵は積み上げている。上に積み上げられた者はまだしも、下に敷かれて潰された者は、簡単には動けない。積み上げられた者の胴は打てぬ。故に私は頭を狙った。意外にも兜は、鎧よりも脆く十発ほどで破壊。剥き出しになった頭を打ち、撤退させることができた。

「トヨム、聞こえるか! 兜は胴より柔い! 頭を狙えば早々に撤退させることができるかもしれんぞ!」

「わかったよ、ダンナ! 聞いたかアキラ! 頭だ、頭を狙えっ!」

するとここでカエデさんの声。

「迎撃隊総員、無敵甲冑の弱点は兜! 鎧よりも兜が柔いです! 連打して撤退させてください!」

これは心強い。東軍英雄格迎撃隊のすべてが、乱打必須とはいえキルを狙える手練となったのだ。

「よーし! まずは甲冑兵士を積み上げろーーっ! 動けなくしたところで叩くんだ!」

トヨムたち無手の者は、右左右左と連打ができるが、剣はひと振り。これで回転の早い連打が打てるのか?

打てる。打てるのだ。剣を上から下へ、その手の内が極まっているからこそ反動で下から剣を跳ね上げることができるのである。




旧狼牙棒部隊 鬼組ダイスケ


軽い革防具に長棒。ナックルやスネにも打撃用の防具を装着した、大男の集団。それが現在の狼牙棒部隊装備。今回俺たちが相手をしなきゃならないのは、無敵甲冑を装備した英雄格だ。だからこうした軽装で二日目に臨んでいる。

「ワシらの仕事は敵をコカして積み上げるこっちゃい! いくぞ、ダイスケどん!」

「おうさ、セキトリ!」

セキトリは元気が良い。大変によろしい。それで良いのだ、男というものは。目標は単純明快、その手段もシンプルイズベスト。これこそが男の生きる道。男を生かす道なのだ。

四の五のといった理屈はいらない。長棒を斜めに抱えた大男が並び、一斉に走り出す。そのまま敵に当たってゆくのだ。蹴散らしながら、なぎ倒すように。王国の刃というゲーム、当たり前のことなのだが、そこで使用されるアバターのほとんどが中型アバターだ。

つまり敵のほとんどを、電車道一本の単純攻撃でひっくり返すことができる。たまに存在する大型アバターの敵、これも数に物を言わせて踏み潰す。あるいは士郎先生から授かった技を見せてコケさせる。ただこれだけだった。俺たち巨艦主義者が通過した後には、大小を問わず不正ツールの生むを問わず、ただ敵がひっくり返っているだけだった。後のことは剣士たちにまかせれば良い。




高みの見物カエデさん


うん、大乱戦だね。今やA陣地は激戦区。陸奥屋まほろば連合がここを確保しているという状況は、他のプレイヤーたちにもマップで伝わっているんだろうね。そのせいか西軍の新兵格熟練格、豪傑格たちなんかがどんどん乗り込んで来ている。お願いしてもいないのに、お味方さんたちが万幸軍の行く手を阻んでくれている。その隙間を縫うようにして、中堅格のみなさんが新兵小隊を率いてキルを奪ってくれている。そしてお味方さんたちにキルを取れる状況を作ってくれている。

こうなるともう、悪いけど万里さんも幸♡兼定さんもお手上げだろうなぁ。いくら五〇〇の人数を自慢したところで、西軍の新兵格熟練格が六〇〇、七〇〇と押し寄せてきてるんだもん。

おまけに部隊統率が取れてないから、死に帰りのみなさんも生き返ってはヤラれ、生き返ってはヤラれ。隊伍を組んで戦おうとはせず、各個撃破されている。おまけに……。

「ジョージさんの小隊はレフト! レフトの守りを固めてください! 蒼魔さん、前線を押し上げて、爆炎さんの小隊を救出してください!」

現場ではホロホロさんが新兵中隊の指揮を執ってくれています。これじゃあもう、逆転の目は出ませんね。チェックメイトです。

ただ問題は、いたずらに東軍の英雄格、無双格を刺激してしまったこと。英雄格の足止めは、陸奥屋まほろば連合のネームドプレイヤーたちが行ってますが、あの面倒くさい連中の尻馬に乗って来られると、まだまだ油断はできません。


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