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出稽古の2

「ちっきしょーー!! これでも勝てないのかよっ!!」


 トヨムは地団駄を踏む。


「しかし悪くなかったぞい」

「方向性は当たってたとおもいます〜〜♪」

「実際にファーストキルも取れてたしね」


「小隊長、この方向で発想を変えてゆきましょう♪」

「この方向性?」

「そ、もしかしたら、キルより数。っていうか、総員道化師化作戦」

「そっか! アタイせっかくの二人一組ツーマンセルを忘れてたよ!」




 ということで、今度のシフトは前衛にトヨムとカエデさん。次にセキトリとシャルローネさん、後衛にマミさんという布陣。布陣によって明確に作戦に変化を出せるのは、我が小隊の強みといえよう。世の中にはせっかく布陣を変えても作戦を与えても、それを有効に活かせない者が多いと聞く。


 それに比べれば『嗚呼!!花のトヨム小隊』。みんな自分が何をするべきか、が飲み込めている。だがしかし、この布陣は……? キョウちゃんの太鼓で、トヨムが走った走った。すぐ後ろをカエデさんが追いかけてゆく。トヨムが三人相手にちょっかいを出す。当然足止めになる。


しかしただの足止めではない。すぐに追いついたカエデさん、力士一人の小手を取った。それを手始めにトヨムも鎧に一撃。その力士に、カエデさんの突き技。大きく体力値を削る。

 さて、後ろ三人に力士三人が襲いかかる。まずはシャルローネさんが出て、敵の初弾を誘う。その間にセキトリとマミさんは左右に展開。シャルローネさんは後方に空間を得た。


 敵の初弾をバックステップでかわす。ヘヴィな一発をかわされて、三人の力士は身体が泳いでいる。そこへ左右から、マミさんとセキトリのキツイ一発。胸部装甲、腹部装甲がぶっ飛んだ。そしてキルを取るのはシャルローネさん。まずはワンキル。腹部へのアッパースイングで。




 セキトリの取ったキルは豪快な彼には似合わないと言ったら失礼か? 猛然と襲いかかるのではなく、打ってはさがりさがっては打つ。派手なクリティカルは避けて丁寧にゲージを削り、地力を見せたキルであった。これでツーキル。


 ふたたび視点はトヨムとカエデさんへ。二人が相手にした三人の力士たちは、すでに防具をボロボロに剥がれていた。小手を失い具足を壊され、鎧もボロボロ。兜なんぞはとうの昔。足止めをされただけでなく、完全な劣勢に立たされていたのである。


「さて、カエデ。そろそろ仕上フィニッシュの時間だぜ……」

「わかったわ、小隊長……熱心に……情熱的に……」


 トヨムが動く。行くぞ行くぞとプレッシャーをかけながらステップを踏む。頭を振り、肩の筋肉でフェイントをかけて力士たちの足を縫いとめる。



パンッ!



 カエデさんの剣が走り力士の小手が黒く染まる。トヨムがとびこんだ。スパイクグローブによるボディーブロー! カエデさんも前へ、物打ちの走る斬込みで豪快なキルを奪った。トヨムの拳もいまやナックルを返した有効打に変貌している。ほぼ同時にツーキル獲得である。

 力士組の生存者は、トヨムたちが相手にする一人。セキトリサイドの生き残りが一人。もちろん速やかに、そして芸術的連携プレイで抹殺した。


「……………………」

「どうしましょうかね、リュウ先生?」

「どういうかことですか、士郎先生?」

「実は今日は『嗚呼!!花のトヨム小隊』に、散々苦戦してもらおうと考えて、力士組を当てたんですが……」

「ですが?」


「わずか三戦であっさり抜かれました」

「では士郎先生自ら、若い者をシゴいていただくとか」

「いえ、まだ槍組がいますし剣士組もいます。もう少しおもてなしができるものかと」

「お手数おかけいたします」


 私にとっても予想外であったが、士郎先生にとっても意外だったのだろう。若い連中の成長というものは。そして二人一組という戦法がどれだけ有効であるか?

そのコンビネーションが機能的に働けば、数的不利も覆せるという証明でもあった。




 元々私も二人一組というのは知っていた。近代日本刀戦闘史の教科書とも言える、新選組の対倒幕浪士戦法だからだ。しかしその恐ろしさを実際目の当たりにするのは初めてである。


「士郎先生、この二人一組という戦法は磨くべき技術と思いますが」

「そうですね、陸奥屋一党すべてに研鑽を積むよう、意見しておきます」


 まずは練習場を空けさせる。トヨムたちにさがらせた。


「勝ったぞ、旦那! おなじ熟練レベルのお相撲さん相手に、旦那落ちでアタイたち勝っちゃったぞ!」


 犬耳を生やし尻尾をブンブンと振って、トヨムが飛びついてくる。私はチャトランをあやす動物王国の主のように、トヨム犬を撫でくりまわした。


「よくやった、よくやったな、みんな」


 見ればシャルローネさんまで犬耳に尻尾である。褒めて欲しいのだが、つい最近までクランの長を務めていた身。そんな甘えたところは見せられないのだろう。しかし尻尾はブンブン振っているのだけれど。


「シャルローネも来いよ! 旦那で恥ずかしけりゃアタイが撫でてやるからさ!」

「ま、まあそういうことなら……」

「甘えん坊さんですねぇ、みなさん……」


 マミさんがカエデさんに振った。マミさんに耳や尻尾は生えていなかったが、カエデさんには生えている。トヨムがシャルローネにジャレついていた。私の懐は空いている。ヘイ、カムカム。私はカエデさんを手招きする。


「ちょ、ちょっとだけですよ。リュウ先生……」



 カエデさんは頭を差し出してきた。では、撫で撫で……。カエデさんの尻尾がブンブン振られる。いー子いー子……頬が染まった。ナデリコナデリコ……ポーッとした、甘い空気。


「なあ旦那、いつまでカエデを撫でてんのさ?」

「あれあれトヨム小隊長、私を撫で撫ではもうおしまいですか? では逆に小隊長をナデリコナデリコしてあげますね!」

「うひゃぁ! くすぐったいぞ、シャルローネ!」


 勝利と稽古の成果を喜んでいると、陸奥屋一党鬼組の面々が練習場へとおりてゆく。力士組以外のクランも練習場へ。かなり変則的な稽古のようだ。すでに集結していた槍組抜刀組吶喊組、総勢十八名を相手に鬼組六名で戦うというのである。


「おい、鬼組が出るぞ」


 みなの視線が練習場に落ちる。試合場は人数の折衷により体育館サイズのコート。その辺りの切り替えが、さすがゲーム世界である。


「どれ、そんじゃワシが太鼓役しようかいのう」


 セキトリが太鼓の前に立つ。そうなると私が検分役か。両陣営の支度が整ったのを見て、「始め」の号令、セキトリが太鼓を打つ。まず鬼組の前衛はキョウちゃんとユキさん。この二人がバンバンと防具を破壊して回る。

 そこに巨漢のダイスケくん。小柄なフィーさんという、甲冑コンビが長得物で手足の欠損を生んでゆく。前衛と中堅は入れ代わり立ち代わり、お互いに役割を交換して囲まれるのを防いでいた。



 彼らだけでも十分に強い。それだというのに忍者の娘が敵陣へ斬込み、士郎先生が前面に出てくるのだ。試合経過をあえて実況するならば、陸奥屋連合部隊がひたすら崩壊してゆくだけ、という有り様である。槍組が出ようとする。しかしユキさんとキョウちゃんが早い。槍組が「さあ出るぞ」という気構えを見せたときには、すでに内懐に侵入していたのだ。そしてトヨムのような無手に見える吶喊組。これは小柄なフィーさんの薙刀でいたぶられていた。小柄なフィーさん、意外な強さである。


 そして御存知、士郎先生。木刀に和服の袴、その木刀はまだ腰に落していた。囲むは西洋剣士たち。鋭い切っ先を士郎先生に向けて必勝の気迫。五人で囲み、そのうち三人が斬りかかった。しかし士郎先生、涼しく一歩さがっただけでこれをかわす。しかしかわした先には、残り二人の剣士が待っていた。これを足でヌルリとかわすと、抜きつけからの連打で防具をボロボロ剥ぎ取った。凄まじいな、抜刀からの四連撃は私もやったことはあったが、なかなかどうして士郎先生もやるものだ。



際立った強さこそ見せてはくれなかったが、士郎先生。敵に回すと厄介でしかなさそうだ。


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