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番外編 カエデさんのちょっと語り 前編

みなさんはじめまして、王国の刃を登録したばかりの初心者プレイヤー、カエデです。

え? あんたもう豪傑格だろ? ですって? それはいま現在、2022年のカエデちゃん。

私は王国の刃に参加したて、新兵も新兵。イン初日のカエデちゃんです。

つまりこれは私の過去語り。あの日あのときあの場所で何が起こったのか? それをちょっとだけ私視点で語らせていただきます。



クラスじゃ陰キャ、おまけに歴女。それも実際に剣士というものを体験してみたいという、腸捻転レベルのこじらせっぷりの私。剣道とか現代武道ではなく、過去に血を吸ったことのある武道を習ってみたくて。それでも日本古武道の道場が近くで見つからなくて、西洋剣術のレッスンを受けていたところ、このゲームを知ったのね。

『王国の刃』。

甲冑を装備して剣や槍なんかでどつき合うヴァーチャルゲーム。しかも現実世界でできる動きが、すべてできますよ、という謳い文句。

こういうゲームに血湧き肉躍るだなんて、女の子としてはしたないですか?

だけど好きなんですよね、新選組とか京都見廻組。映画やドラマでそうした荒いチャンバラアクションが見られなくなって久しいですが、それを擬似体験できるだなんて乙女の鼻息も荒くなるってもんです!


チュートリアルの擬似人格ちゆちゃんとあれこれ話し合って、西洋甲冑を試してみたり槍や剣を試してみたり。とにかく凝りっ凝りにこだわり抜いた武装。軽装な女子鎧、視界を確保するためにトサカつきの半兜。それだけじゃ不安だから丸楯を装備。そうなると攻撃武装は片手剣。で、ここはもうひと工夫。真っ白なつや消し鎧(薄手で軽量なもの)に髪と同じ色の青で模様を入れてみましょう! う〜ん……やはりここは、光の巨人をモチーフにして♪ 私のちょっとした遊び心。

これにて新人プレイヤー、カエデちゃんの爆誕です!

いざ、王国の刃という世界へ。本格的にこの擬似世界に入ってみれば……おぉ、こりゃ世界旅行なんて必要ありませんねぇ。石造りの異国情緒、行き交う人々の武装っぷり。本場のグルメを楽しもうとさえしなければ、お家で異世界旅行が満喫できますわ、こりゃコリャ。

さて、初期装備レベル新兵の私としては、まず試合に出て経験値を稼がないとなりません。いざ、試合場へ!

と勇んで足を進めると、ジッと見てくるなぁ……視線を感じる。

フルプレートアーマーの、あれは女の子だよね? 体格が中型アバターの女子そのもの。おっぱいもまぁ、防具の下で膨らんじゃったりしてんでしょうね。

ですがお嬢さん、貴女は何故にそこまでワタクシヲミツメルノデスカ?

私、初心者。この世界に知り合いはございません。それでも女の子が見詰めてくるとは……よもや、これが百合展開!?

祝福されぬ禁忌の花が、この擬似空間で花開いちゃうんですかっ!?


いや、待て待て私! もしかして前にプレイしていたメンバーか?

不覚にも私、前回プレイしていたゲームと、プレイヤーネームを同じにしちゃったので。……だとしたら、すっとぼけましょう。うん、それが私の平和のためだね。

んを!? そんなこと考えてたらフルプレートアーマーちゃん、私の方に近づいてくる? よし、ここは軽装を活かして引き離しましょう! と、思ったら?

ドン、「あ、ごめんなさい!」、誰かにぶつかってしまった。これもフルプレートアーマー、それも大柄な女の子の背格好。

こんな肉弾戦ゲームなのに、案外いるんだな、女の子。とか考えてたら。

「あー、なるほどー。久保さんですねー♪」

ん? どこかで聞いたことのある、トロくさい喋り方。しかも久保さんというのは私のリアルネーム。

貴様、何奴!? そっとバレないように身構えていると、甲冑女は自分を指さして、「私ですよ、私〜〜♪ わかりませんか〜〜?」ときた。


なに言ってんだ、この女。擬似世界で顔形もデザインが違うのに。それどころじゃない、この女兜の面をかぶったまま喋っているのだ。つまり、わかる訳ねーだろ、という状況。

すると私をジッと見ていた甲冑兵も追いついてくる。

「やっぱそだよね、マミちゃん。私の言った通りでしょでしょ♪」

語尾に『♪』がよく似合う、いかにも陽キャという臭いをプンプン放つ嫌味な女。トロくさいのと陽キャ中の陽キャ。しかもリアルネームを知る二人。

……嫌な予感しかしないわね。目の前の女はマミという女。背後の女はシャルローネ。まさかとは思うけど……。

「ありゃ、カエデちゃん。まだ私たちが誰だかわからないみたいだぁねぇ〜〜♪」

「クラスじゃ賢い女の子で通ってるんですけどね〜〜♪」

クラス!? そなた、クラスと申したかっ!? グッと身体に力を込めた。

「何者かっ!? 名を名乗れっ!!」

「ほらほら私、同じクラスのシャルローネだぁよー♪」

「同じくマミさんですよ〜♪」


だからそれじゃわからないって言ってんでしょうがっ、このアホたれ共がっ!

「あー、シャルローネさん? 兜をかぶってたら、久保さんもわかりませんよー?」

「おおぅっ! それもそーかー♪」

兜を外し、流れ出る蜂蜜色のブロンド。そして桜色の長い髪。私の濃い反応を期待する、碧い瞳。

「だから顔形が違うんだから、名乗らないとわからないってば……」

そうは言ったものの、大体の予想はついている。

「わかるかな? 同じクラスの桜庭だよ♪」

「そしてマミさんは相田真奈美さんですよ〜〜♪」

……やっぱり。学年最強の完璧超人、桜庭麗美。それにおっとり巨乳が男子の目を奪う、相田真奈美。クラスじゃ誰彼なく話しかけて、まさに中心的キャラクター勝ち組一直線の二人だ。

その二人が、何をしにこんな汗臭い空間へ? というかアンタら、何故に私と知れた!?

「ん〜〜、歩き方かなぁ? 久保ちゃん……じゃなくって、カエデちゃん特徴的な歩き方するから」

グッ……私、普段から西洋剣術の歩き方をして、技をモノにしようとしてたけど、それを見抜くとはっ!?

「歩き方に『ムムムッ、コヤツできる』感がただよってるからぁねー、カエデちゃんってば」

「それに顔形って言ってましたけどー、カエデちゃんのデザイン、リアルカエデちゃんの面影がありますよ〜?」

そ、そうね。シャルローネもマミも、言われてみれば桜庭麗美や相田真奈美の面影が残っている。


「それで、陽キャでクラスの人気者な二人が、なんでこんなおっさん臭いゲームにインしてる訳?」

そう、そこも大変に気になるところ。

「いやぁ、マミさん中学生の頃は柔道をしてましたがー、時々闘争心がうずいちゃうんですよー♪」

だったら柔道部に入れよ。

「高校に上がると締め技が恐いんですよねー……」

チッ……それが私の個人的な楽しみを邪魔する理由か。

「私はね、近所のおじいちゃんから古流剣術を習っててね、そいつでひと暴れしてみたいかな、って……」

……おい、コラそこの完璧超人。いまなんと言った? 古流剣術? それ私が習いたかったヤツじゃない!

それを西洋剣術で我慢してんのに、美貌も教養も備えておきながら、さらに私の欲しいものを奪うのかーーっ!!

「いや、カエデちゃん。そんなに恐い顔しないで。かわいい顔が台無しだよ?」

学年イチの美少女にンなこと言われても、嫌味にしか聞こえませんってば。

「え? 知らないの? カエデちゃんのボブヘア、すっごくキレイだって評判なんだよ?」

ウチじゃ毎朝ワカメの味噌汁が出ますから。


「で? 二人はこれからどーすんの?」

私が聞くと、二人は顔を見合わせてニマッと笑う。そして死刑宣告文を私に読み上げた。

「「カエデちゃん(さん)とチーム組むっ!」」

「お断りよっ! 私はひとりで遊びたいのっ!!」

「だってだって、クラスじゃあんまりお話の機会が作れませんからー」

「そーそー、私たちすぐ他の人に捕まっちゃって、カエデちゃんとお話したいのにー!」

「なに勝手なこと言ってんのよ!? 私みたいな陰キャなんて、話しても面白くないわよっ!」

「でもカエデちゃん賢いから。その知恵が必要なの。カエデちゃんじゃなきゃ嫌なの!」

う……押してくるわね、グイグイと。

「私たちと、遊んでくれませんかー?」

ハグして来やがりましたか、それも背後から……。

「私たち、カエデちゃんと遊んでみたいんだよ、本気で……」

「あーもーっ、わかったからっ!! まずはその重苦しい甲冑叩き売って来なさい! んで、私みたいな女子用軽量装備にして! そんなの着て男の人と戦ったら、即死よ即死!」

やったーー♪ とか喜んでる二人。そしてマミは、さっそく武器屋に飛び込む。


「貴女は行かないの、シャルローネ?」

「カエデちゃんが逃亡しないように、見張り役。だって私たち、フレンド登録もチーム登録もしてないから♪」

やっぱ学年の才女だわ、この女。……ん? だったら私の知恵なんか必要無いんじゃない?

ま、まさか……本当に私と遊んだり、お話したかったの? あ、ダメだ。顔が熱くなっていく。

「おりょ? どったのカエデちゃん、お顔が真っ赤だよ?」

「ちょ、ダメ! 見ないで、恥ずかしいからっ!」

「お友達にも見せられない?」

お友達……その単語に、熱が出そうになる。

「だからそんなこと言わないっ!」

「謎めいてますなー、カエデちゃんは」

「ミステリーはミステリーのまま、そっとしておいてちょうだい。お願いだから……」

「そだね、きっとカエデちゃんは私たちに打ち明けてくれるようになる。この日の顔真っ赤事件の真相をね」

なぜなら、とシャルローネは自信たっぷりに言い切った。

「私たちはこれからどんどん仲良くなるんだから♪」


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