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サルブタカッパの奮戦記!

無難に三人戦をこなしたチーム『西遊記』のメンバーたちだが、さくらさんヨーコさんの二人は個人戦デビューも果たしている。こちらは復活ありの個人戦。さらには三人で参加した六人制試合。こちらの様子もご紹介しておこう。

まず個人戦、さすがはプロというところか、あるいは実験場の意味合いもあるのか。ヨーコさんの対戦相手は、胸当てと垂れだけが金属製。足軽のように軽装な槍士が現れた。兜すら被っておらず、鉄鉢に鎖を編んだものを垂らしていた。

「腕に覚えがあるんだろうね、そうでなきゃあれだけ防具を外せる訳がない」

「いやいやリュウさん、プロのリングはまだまだ始まったばかり。どの選手も手探りで正解を探してるところなんだろうよ」

というのが士郎さんの見立て。

「フジオカ先生はどう思いますか?」

「まずは戦績を見てみましょう、三十二戦十九勝十三敗。若干の勝ち越し、ただいま五連勝中ということは、あの軽装備で勝ち味を覚えたというところでしょうかな。とはいえあまり強者感というか武術感が漂っていない。ごく普通のプレイヤーなのでは?」

「逆に言えば、まだ層の薄い新兵格のプロリングで、それだけの試合数をこなしているんだ。よほど研究熱心なんだろうか」

「そこは要注意ですな」

ということでゴング。


「ぃヤッフーー♪」

右の八相薙刀担いで、猪八戒ヨーコさんがコーナーを飛び出した。おそらく何も考えていない。

敵は落ち着いたもので、槍を水平に構えてまずは威嚇。そのうえでチョンチョンとフットワークを使う。

ふむ、足取りは軽快だ。そして場馴れ感がある。戦士というよりもプレイヤーとして手強そうだ。つまり、自分の持っているポテンシャルをゲームのステージで遺憾なく発揮できるタイプ、とでも言おうか。

それを見て取ったか、ヨーコさんも猪の突進をやめる。おとなしくこちらも薙刀を水平に構え、剣術で言うところの青眼に構えた。切っ先を合わせようとする、しかし敵はフットワークを使いこれを避ける。

「これまで武道経験者ともやり合ったことがあるんかいな? あくまで自分ペースを維持する積り臭いのぅ」

翁の言葉通り、敵はフットワーク重視。なかなかに出入りがうるさい。そしてチョコチョコと細かい突きを出してくる。

「こういうところは、現代格闘技に似ているな」

士郎さんがもらす。

「ボクシングの動画や総合格闘技の試合を参考にしているかもしれませんな」

フジオカ先生の目も鋭い。

猪八戒ヨーコさんは気圧されたかのように薙刀を引き、脇構えへ移行。


「誘いか?」

私が呟いた瞬間、敵は大きく出てきた。ヨーコさん、左右を入れ替えながらのすくい打ち。槍は空を突いた。そしてヨーコさんの刃は、敵の腕に欠損のダメージを与える。

片腕で槍は扱えない、敵は鉄鉢を割られさらに一撃。ここで撤退。

面白いことに復活してきた敵は、なおも同じ戦法を取り続けてきた。まるで武道経験者から情報を収集するかのように。

「だとしたら、本当に研究熱心な相手だ」

「どこかで化ける相手かもしれない」

私と士郎さんの意見に、翁とフジオカ先生は深くうなずいた。

試合結果を見るならば、三分間の試合時間で5キルを奪ったヨーコさんの勝利。しかしそれ以上にプロプレイヤーの充実を垣間見た一戦であった。


続いてさくらさんの個人戦デビュー。

槍は規定により、自分の背丈と同じものまでと決まっている。あまりに長い槍を使われたら、ゲームとしての面白みもクソもなくなるからだ。

つまりさくらさんは五尺八寸もの槍を使えるのだが、彼女はそれを良しとは思っていないのか、五尺三寸ほどの槍を使う。

「この方が取り回しが良いので」

どこかおとなしそうな顔立ちをはにかみに染めながら、さくらさんは言った。革の鎧に手甲スネ当て、鉄を呑んだハチマキを締めて、さくらさんは試合場に立った。

驚いたことに、今度の相手は同じく革防具の剣士であった。しかも足元はさくらさんとこれまた同じ、地下足袋である。どの選手もやはり研究しているのだ。

ただ、なかなか結果がともなわないだけである。

「こちらの選手は十戦三勝七敗。ですが現在二連勝中。やはり軽装に目覚めたプレイヤーと言えるかもしれません」

「それもそうだけど、この戦績でプロを辞めないという根性が凄い」

「ケガをするような競技じゃないからな。とはいえ不屈の闘志は買おうじゃないか」

「身体はなかなかに出来とるようじゃがのう」

「ただ、格闘技や武道の身体ではありませんね。……おそらくは野球部あたりと思います」

特別に巨漢という訳ではない、そのプレイヤー。果たしてその実力は?


ゴング、かかとから着地する足で迫ってくる。対するさくらさんはすり足。ピッと槍を向けると、相手の足が止まった。

敵は八相……に似た構え、さくらさんは左足を前にした青眼。ボクシングで言えばオーソドックススタイルとサウスポーの対戦だ。剣士の目が動く、そして切っ先が引かれた。

狙いは小手だ。

しかしさくらさんのカウンターの方が速い。ストンと胴を突いた。あっさりクリティカルである。剣士の革防具が派手に吹き飛んだ。剣士はそれでも前に出ようとする。しかしさくらさんがそれを許さない。まずはワンキルである。

剣士、復活。その後の展開はまったく同じ。剣士はどうしても切っ先を引くクセが抜けないようだ。

「フルスイングを狙って、タメを作りたいのでしょうね」

フジオカ先生の解説だ。なるほど、野球部員というのならそれが正しいだろう。おそらく彼の勝ち星は、その豪打で得たものに違いない。しかし今回はそれが仇となっている。

良いようにさくらさんはカウンターを浴びせ続けて、終わってみれば剣士は一歩も前に出ることなく苦杯をなめることになった。


「華もなにもない試合になっちまったな」

翁が言う。

「ですが運営は注目の新人としているようです。ほら……」

私は試合場のモニターを指した。パーフェクトマッチ、と書かれている。

「それに、考えてもみれば剣士の戦績。プロ誕生当初は野球経験者が王国の刃で強い、という評価でしたが、今ではそれが通用しなくなっている、とも言えます」

「世の中、ジリジリと変わってきてるのう……」

「進化の速度が著しい、いや、速すぎやしませんか、翁?」

士郎さんの問いかけに、翁は不気味な笑みを浮かべた。

「それでもよ、勝負ってのぁ気迫がすべてさ。こいつだけは動かねぇよ」

おっしゃる通りです。


そして三人組で出撃した六人制試合。他の三選手はいわゆる寄せ集めだ。サルブタカッパの三人娘は、序盤まず壁役に徹していた。

「ヒカルさん、一歩前に出てください!」

「え!? ほ、ほい一歩!」

さくらさんのリクエストに、ヒカルさんは一歩前へ。その狙いが私たち『色男四人衆』には読み取ることができた。囮である。

短兵器、革防具、小兵。弱っちいの3点セットお買い得なヒカルさんが先頭に立ったのだ、敵軍は喜んで襲いかかってくる。しかしヒカルさん、草薙士郎が天塩にかけている弟子。まずはクリティカル1。小手の防具をぶっ飛ばす。そして長兵器のさくらさんとヨーコさん、こちらが胴の防具を破壊して後衛に回す。

「チーム・サルブタカッパ! 敵の後衛を排除します! 突撃っ!」

「さくらちゃん、いつの間にやらすっかりリーダーだねぇ。ブヒブヒ」

「頼りになるお姉さんです! ウッキー♪」

敵の後衛三人も、やはりヒカルさんに殺到する。しかし必殺の刃をケロリとかわすヒカルさん。背後に回って脚の防具を壊し、さらにもうひと太刀。片脚欠損に追い込んだ。

チーム戦というものを心得ている。六人チームの中には勝ち星に恵まれない者もいよう。キルに餓えている者もいるはずだ。そうした一期一会のメンバーにも花を持たせる戦い方。


ここで私は草薙士郎に嫉妬を感じる。

このゲーム空間の中とはいえ合戦、戦さの場において、奴は愛弟子に『慎み』を覚えさせていたのである。

読者諸兄は覚えておいでであろうか? 私は第一話において友人伊藤にむかって、弟子に「慎みを持つこと」の重要性を説いて、全否定されたのだ。

その慎みを、草薙士郎は難なく素人上がりのヒカルさんにさせている。

これは私としては歯ぎしりをしても構わないと思う。そして奴はチラッと私を見て、「どーよ?」とせせら笑うような顔をしているではないか。

「いやいやリュウ先生、あんたの弟子たち、トヨムさんやカエデさんたちには慎みがあるでしょうに」

そうおっしゃる読者もいようが、トヨム小隊のメンバーは『完成品』だったのだ。最初から出来上がっていたのだ。それが集まってきたのは『私の人徳!!!』であることは否定できないのだが、しかし!

まったくの素人を育て上げた草薙士郎と、完成品を相手にしか慎みを教えられない私には、深くて暗い河の流れが横たわっているのだ! ガッ〇ム! サ〇バビッ〇!

私は心の中で、栗塚旭顔のサムライを罵った。


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