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ゴリゴリ・レッツゴー!

みなさまお待たせいたしました。貴女のリュウが帰って参りました。ハート泥棒キス泥棒、そこが憎いぜ独身貴族。貴女の瞳を奪いに参上。私視点再開です。イベントの準備が進む中、私たちのけ者なおっさんチーム(一人は年寄り)は、プロデビューを目指す二人さくらさんとヨーコさんの指導にあたっておりました。

が、ここでひとつの問題が。

「おう、リュウの字。このボインボインのお姉ちゃん二人よ、あのヒカルって娘っ子とチーム組ませんだろ? チーム名どうすんのよ?」

年寄りにユニットという単語を求めるのはキツイのだろう。しかし、チーム名というのは必要だ。なにしろ彼女らはプロ、お客さんの記憶に残るようなチーム名をつけてやらなくてはならない。

「黒髪……金髪……赤毛……ん〜〜この角度からの攻めは難しいか……」

さっそくフジオカ先生が唸る。

「ノッポ……チビ……グラマラス……ぬう……」

士郎さんも悩んでいた。

「うむ、士郎よ。その角度は悪くねぇぜ。背格好もちょうど大中小と揃ってやがる」

翁は棍と刺叉、それにグランド整備のトンボを持ってきて三人に渡す。

「どうでぇ、西遊記の三人が揃ったぜ」

翁がそう言うと三人は照れくさそうに声を揃えた。

「「「いやぁ、私が徳の高い三蔵法師だなんて……そんなぁ……」」」

黙れ、サルブタカッパ。満更でもなさそうな顔を並べやがって。案外図々しいな、三人とも。一体誰をみてそんな風に育ったものか。きっと士郎さんの影響だな、そうに違いない。


とりあえずさくらさんとヨーコさんのプロテストも合格。三人のユニット名はチーム『GO WEST』ということで登録。

「ではオーナーの私が、徳の高い三蔵法師ということになりますね……」

天宮緋影がほざていたが、別にこの娘がユニットに加わる訳ではない。無視して構わないと私は判断した。では三人とももうプロだ、デビュー戦を飾ってもろうか。

まずは三人戦で出撃だ。大学生と言っていたさくらさんとヨーコさん、二人はそれなりにファイトマネーが欲しいだろう。だがヒカルさんの場合は切実だ。おそらくはヒカルさんが突っ込んで、二人がフォローする側に回ると思う。私もセコンドシートで観戦させていただくとするか。

セコンドには私、士郎さん、フジオカ先生、翁が腰掛ける。それだけで観客席がざわついた。

「お、おい……見ろよ、GO WESTのセコンド……」

「なんだよ、おっさんとジジイが並んでるだけじゃねーかよ」

「バッカ! あのうち三人は『災害認定』されてんだぞ!」

「ええっ!?俺、初めて見たよ!!」

「だけど、あと一人。柔道着の濃い顔したオヤジ、あれ誰よ?」

「俺、運営通信で見たことあるぜ……なんでも武将チャレンジでパーフェクトだしたおっさんらしいぜ……」

「あの地獄コンテンツでかよ!? 頭おかしいんじゃねーの!?」

「それくらい強い、つまり災害認定候補って奴よ……」

「あいつらが鍛えてんのか? GO WESTチームって……」

「やっべ、俺相手チームにベットしてたよ。このゲームは落としたぜ……」


おいおい、まだファイトは始まっていないんだ。すこし先走りしすぎちゃいないかね? 若いから仕方ないだろうけど。

そしてGO WESTの三人は、円陣を組んで頭を寄せ合っていた。

「とにかくヒカルさんの撤退だけは避けましょう。いざとなったら楯になるんですよ、ヨーコさん!」

「まあ、ヒカルちゃんのサポートを条件にミチノックと契約したからね♪ お姉さんたち頑張るから、目一杯やるんだよヒカルちゃん!」

「ハイ! お二人のお気遣いに感激しながら、私頑張ります!」

さりげにさくらさんがリードを取って、ヨーコさんがムードメーカー。熱血女子のヒカルさんが燃え役、という構図。

「ヒカルさん、正面突破しますか? サイドから回り込みますか?」

「みんなで一緒に突撃体勢!」

どうやらゴリ押し作戦。ゴリゴリ・レッツゴーという姿勢を貫くようだ。


センター、ヒカルさん右にヨーコさん左にさくらさんという布陣。敵は新兵、フルプレートアーマーの三人組。三人とも手槍に薙刀にメイスという長得物。やるべきことをやり、備えもカッキリ。装備を見ただけで、優等生的なチームだということがうかがえた。対するチーム『GO

WEST』両サイドの二人は白い稽古着に藍の綿袴。足は地下足袋で固めている。

しかしヒカルさんに関しては赤い乗馬ジャケットのようなブレザーに縞のネクタイ、赤いスパッツを履いてはいるが制服の短いスカートで地下足袋履き。ここだけは少しヴィジュアルを意識してか、白いルーズソックスのような形状である。

そこへ三人お揃いの革防具だ。傍から見ると「本当に勝つ気あるのかよ?」というチームに見えないこともない。しかしさくらさんもヨーコさんも武道の有段者。ヒカルさんは素人だが、毎日部活の時間には自主トレに励み、ゲーム世界道場ではあの草薙士郎に鍛え上げられているのだ。

「軽装備、短兵器有りだからといって、甘く見るなよ」

セコンド席から、こっそりと告げる私からの忠告だ。

そしてゴング! 戦闘開始である。


まずは両軍急接近、さくらさんとヨーコさんは両翼に展開。軽装備なのでファーストコンタクトのポジションを好きに取ることができる。敵の両翼もこれを放ってはおけない、それぞれがさくらさん、ヨーコさんに向き合った。

つまりヒカルさん、メイスの巨漢と一騎討ちである。鈍重なフルプレートアーマーに大得物、当然動きは鈍い。そこが付け目、狙い目だ。相手から見えにくい角度へ回り込む。つまり、担がれた敵のメイスに姿を隠して飛び込む。胴に一発、クリティカルで鎧を吹き飛ばした。

上手い、巧者の一撃と呼べる一発だ。

しかし深追いはしない、すぐに相手の正面。間を取って剣を構える。

サイドへ目を移すと、さくらさんは薙刀の相手をしている。上下に打ち分けてチクチクと、時間稼ぎのように攻めていた。敵はうかつに出られない。槍の予想外な働き、出小手を狙われるからだ。

ヨーコさんの薙刀は、すでに槍士の小手をひとつ破壊していた。が、こちらもそれ以上は踏み込まない。突きをあしらい、フットワークで敵をひとり引きずり出していた。派手な攻防に目を奪われがちだが、こうした展開を見せるとは、ヨーコさんも乳だけのプレイヤーではない。


そしてこの展開は、両翼二人が動くのはヒカルさんがキルを取ってから、ということを意味している。そのヒカルさんに、メイスの豪打が振り下ろされた。

ヒカルさん、両刃の剣の下に身を隠す。敵の一撃は棟で受けていた。しかし体力差、重量差がある。切っ先を下へ傾けることにより、これを受け流す。上手い、この辺りは士郎さんの鬼指導が入っているのだろう。

そして滑り落ちるメイスが剣の切っ先からこぼれた瞬間、自由になった両刃剣を頭上で旋回。ヒカルは敵の胴っ腹に斬りつけた。

浅い。

キル判定ならず、ここで師匠の士郎さんが声を出す。

「へそで斬れ、ヒカル! へそで斬るんだ!」

ハイ! という良い返事。ヒカルさんは鋭く踏み込んで深々と胴を斬り放った。

「……深く斬りゃ良いってもんじゃねぇんだよ。踏み込み過ぎだっての……」

厳しい師匠は苦笑いしながらボヤいた。気合、気迫の草薙流だ。本当は満足な踏み込み、闘志だったのだろう。


まずはワンキル、ポイントを先制した。そこでヒカルさんは近場のさくらさんへと応援に。だがさくらさん、敵の小手をペシリと打って防具を奪うと、ヒカルさんにまかせてヨーコさんの応援へと走ってしまった。

そう、ヨーコさんは敵をコントロールして、遠くへと引きずり出していたのだ。つまりそこは、敵の復活ポイントに近い訳であって。復活した敵が二対一でヨーコさんを責め立てる可能性があったのだ。

「かしこいカッパじゃわい」

翁も納得、フジオカ先生も大きくうなずいていた。

そしてさくらさんの読み通りか、はたまた復活した敵が状況を読んだのか、復活したメイス使いはヒカルさんなど省みず、ヨーコさんへと駆け出した。

「なまじ復讐心などにとらわれず、状況を判断する辺りはさすが、若手とはいえ敵もプロですな」

フジオカ先生の言うとおり、王国の刃プレイヤーにはちょっとしたクセがある。自分を殺した相手に報復するというクセだ。

まあ、復活してフルヘルス、防具も修復完了、憎き仇は虫の息と条件が揃っていればそれもよかろう。しかし自分を殺したからには仇の方が上手なはず。ましてそれがさほどダメージを受けていなかったなら、返り討ちは目に見えているはず。

しかしそれでも王国の刃アマチュアプレイヤーは止まらない。走り続けるのだ、キルを献上するために。


それをしない辺り、敵は賢い。ただし、相手がさくらさんでなければの話だが。

ノッポのカッパがメイス使いの行く手を阻む。メイス使いはここでバトルなどせず、とにかく突破を試みる。しかしフルプレートアーマーという難点。動きはさくらさんの方がはるかに良い。

そうこうしているうちに、ヒカルさんが敵の小手を斬り落とした。欠損ポイント獲得である。ヨーコさんももう片方の小手の防具を奪い取る。そして応援のメイス兵は、カッパ女に封じられている。

状況は大きく有利である。そこで猪ヨーコさん、槍士のスネに斬撃一筋。防具を破壊する。ヒカルさんはヒカルさんで、薙刀使いの脇の下へすくい上げるような斬撃。上腕から肩の鎧を吹き飛ばした。

試合時間は残り少ない。ここでついにさくらさんが敵の太ももを打つ。それも、二度連続で。

メイス兵、片脚欠損である。倒れ込んだメイス兵、抵抗も虚しく胴をさらに突かれ二度目の撤退。猪女ヨーコさんは、石突で槍士の胴を砕きとどめの刃を滑り込ませた。三キル目。

そのとき空飛ぶ刃のように、ヒカルさんの剣が頭上で旋回。左からの一刀で兜を砕き、右からの太刀でキルを奪った。これでキルは四つ目。そこで終戦の銅鑼が鳴り響いた。


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