beat it! やっつけろ!
11/22 12時時点でデイリーランキング94位に入りました。みなさまに御愛読いただき感謝の念に絶えません。ありがとうございました。
新兵格のみなさんがいる。そう言うと新兵格の参謀たちは目を丸くしました。そりゃそうでしょうね、イベント初参加のチームもいるのに「君たちの力が必要なんだ!」なんて言われたら、ビックリするでしょう。
「だけどこれが冗談じゃないんだよね♪」
ホロホロさんがすかさずフォローを入れてくれる。するとイベント経験者の新兵参謀も続いてくれました。
「新兵格は新兵格で、敵の足止め役があるんだよ。足止めで役が重いなら、邪魔役ってとこかな?」
「なるほど、そういうことでしたら」
とにかくウチの新兵格は、二人一組や垂直打ちの稽古に励んでいますから、他所に比べて役立つこと役立つこと。これがワラワラと群がって一斉に妨害行動を始めたら。いかに五〇〇の軍勢でも無視はできなくなるでしょう。一五〇のうち半数が新兵、熟練格。それが二人一組で面倒をかけてくる。一見すると大した数じゃなく思えるかもしれませんが、ウチの戦法は新兵でも他所の熟練格を、熟練格でも他所の豪傑格を相手に渡り合える実力があります。そう、倒すのではなく邪魔をするくらいならば、余裕です。
「でも新兵格のみなさん、敵の邪魔をするだけで満足ですか?」
「?」
私の問いかけに、みんな夢からさめたような顔。なんじゃい? という目を向けて来ます。
「新兵格でも防具破壊やキルを取れるんですよ?」
「いや、参謀さん。確かに僕たちは軍師という職種を魔法使いみたいに言いました。そのことは謝ります。ですからそんな無茶は言い出さないでください」
いえいえ、みなさんに無茶なんかさせませんよ? 簡単な方法で、新兵格でもキルの取れるんですから。
「あ、そっか♪ 格上のプレイヤーにくっついて歩けば、取りこぼしの防具破壊やキルが取れますね♪」
チームジャスティス、モニカさん正解! なにも同じチーム、同じレベルで二人一組をするだけじゃないんですよね。
「そーだねー、ウチはアキラくんとベルキラくらいしか、ワンショットキルをねらえないから。サポートが何人か入ってくれるとありがたいかなー?」
マヨウンジャーのホロホロさんが告白する。もちろんモニカさんも、「ウチも女性メンバーがクリティカルやキルを取りにくいから、人数は欲しいところです」と言い出す。
「ウチは飛ばし屋がひとりいるけど、他が穏健派だから。六人まとめて受け入れたいかな?」
情熱の嵐、大矢参謀。
にわかに場の空気が盛り上がる。新兵格から熟練格から、みんなどのチームも必要とされているのを感じているみたい。そう、本当に『君たちの力が』必要なんです!
お味噌なんてプレイヤーはひとりもいません。それが陸奥屋とまほろばの連合軍なんですから。
そうなると、次の問題はいかにして敵軍の背後を取るか? ということになります。
陸奥屋まほろば連合は最高位チームが英雄格ということで、かなり奥まった場所からの出撃となります。熟練格と新兵格しかいない万幸の剣軍団は、比較的浅い場所からの出撃。
総裁鬼将軍は、A陣地で待っているぞ! とか大見得を切ってましたが、実際には万幸の剣軍団が占領しているところへ私たちが乗り込むという形になるでしょう。
もしも、私たちの陣営で豪傑格がA陣地に乗り込むチームがあったとしたら、もしかしたらそのときは……。万幸の剣軍団は大半が蹴散らされているかもしれませんが。
まあ、なんにせよあのゴチャゴチャした場所に乗り込むのですから、無駄な死人は出したくないというのが本音です。特に初参加の新兵格、これが場の空気に飲まれて無駄なバトルを始めたり、防具の無駄な破損という事態は避けたいところ。
で、敵軍の背後を取りたいと言いましたが、これは二日目三日目の話になるでしょう。初日はどちらの陣営も人数満タン。とにかく人が押し寄せてくることが予想されます。万幸の剣軍団の背後を取ったと思ったら、こちらが敵に背後を取られているなんてことになりかねません。
初手はやはり側面からの攻撃になるでしょう。いい気になってウチ陣営の新兵格を相手にしているところへ、思い切り横槍をズブリです。
実際にどのような陣形、どのようなルートでアプローチするかは実際の現場に立つまで未定。
だけど基本形だけは決めておきましょう。まずは狼牙棒部隊、これが先頭。次に控えるは護衛部隊、回転の速い剣や鉄拳を用いたプレイヤーにおまかせです。三番手は長得物を中心に若手たち。四番手には短兵器のみなさんを。この中に情熱の嵐、チームジャスティス、マヨウンジャーの残ったみなさんを混ぜておきましょう。
経験者プレイヤーたちに若手を束ねていただいて、戦力とさせてもらいます。
うんうん、大分戦闘部隊らしい体裁が整ってきましたね♪
「ではフィー先生、このような形の部隊編成になりますので、士郎先生に稽古内容の更新をお願いしますね」
「はい、リュウ先生の方はお願いしますね♪」
と、なると。
今回の参謀会議にひとりとして出席させて来やがらなかった、問題児の集団。陸奥屋まほろば連合において唯一、お勉強ができそうな人間がひとりとしていなさそうな小隊。鬼神館柔道のアホたれどもです。そう、少女マンガの金字塔『生徒諸君!』には悪たれ団なるチームが存在したけど、ナンブ・リュウゾウを筆頭とするならば、あの連中はアホたれ団。
このカエデちゃんがそんな連中にも、わかりやすく噛み砕いて説明する準備をしていたというのに欠席とはいい度胸じゃない、ナンブ・リュウゾウ。
さてどんな方法であのサルに物を教えてやろうか、と考えあぐねていたとき。
「あら、カエデさん。ご機嫌斜めですわね」
参謀長出雲鏡花さんが襖を開きました。
私はこれまでの作戦立案を鏡花さんに手早く報告。決裁を受けた上でナンブ・リュウゾウについての苦情を申し立てる。
「困りましたわね、鬼神館柔道のみなさまも。ですがカエデさん、貴女が立腹する必要などまったくございませんのよ?」
「ホワイ?」
「もしもあのおサルさんがこの席に着いていたら、会議はひとつも進みませんでしたわよ」
納得。
「ああいった方には上意下達、こう決まったからそのように動いてくださいな。だけで充分でしてよ」
むしろフジオカ先生にだけ作戦を伝えておけば良いのでは?
そんな風に考えている私は、鬼神館柔道の知能レベルを、かなり低く見ているのかもしれません。ここでご注意を、私はナンブ・リュウゾウ個人の知能指数を疑っているのであって、柔道修行者のみなさんをアホ扱いしている訳ではありません。歴史的に見ても嘉納治五郎先生を筆頭に、講道館という集団はかなりのインテリ揃いであったはず。ホントにもう、ナンブ・リュウゾウは日本柔道の守護神を目指していながら、イメージダウン要素でしかありません。
「ではカエデさん? 新兵格のみなさんまで戦力として狩り出す今回の作戦。どのような稽古を準備いたします?」
「まずは格上プレイヤーに対して二人一組で挑むことで、戦法の意味を熟知していただきます。第二段階では熟練格プレイヤーを交えた三対一の状況でのクリティカルの入れ方、キルの取り方を身につけていただきたいですね。第三段階では小隊対小隊の模擬戦、そして最後は紅白に分かれての仕上げと行きたいです」
「盛りだくさんですわね、イベントまでひと月を切っておりますわよ。怠けている暇はございませんわね」
そうです、冬イベントはもう目の前。そして年末の帰省などを配慮すれば、今年の冬イベントは年末開催とは考え難い。クリスマス前後での開催と踏んでかかるのが妥当でしょう。
「それではみなさま! これだけみなさまに尽くしてくださるカエデさんが、奪われるか居残れるか! 大勝負ですわよ、本宮道場へメンバーを招集してくださいな!」
ラッセーラー!
まるで自衛隊のレンジャー部隊の返答が「レンジャー!」であるかのように、ナチュラルにみなさんねぷた祭りの掛け声で返答。う〜〜ん、陸奥屋カラーに染まってるなぁ、みんな……。
ということで、みんな集まれ本宮道場! マヨウンジャーや情熱の嵐、チームジャスティスの面々が単体で大道場に並んでいます。
「よっしゃ新兵ども! この爆炎さまが相手してやっから、今までの稽古の成果! 存っ分に発揮しやがれ!」
威勢がいいのはチーム情熱の嵐の爆炎さん。うん、この元気の良さは好感が持てますね。情熱の嵐チームは、一度も発言はしてくれなかったけどチームの紅一点、キラさんが参謀会議に出てくれてたし。
で、新兵格たちの稽古会。まずはゴング。一番チョロく死人部屋へ送られたのが、爆炎さんという辺りは御愛嬌。いや、むしろそんな演出がありがたいですね。新兵格のプレイヤーに自信が湧くから。
しぶとく粘っていたのがマヨウンジャーのリーダーマミヤさん。だけどこれは指導を入れながらの稽古だったせい。
「ほら、同時に打ち込んで」「しつこくしつこく追いかけて来なきゃ」「そうそう、追い詰めたら小さく速くまとめて! どんどん打ってくる!」。
こんな指導を見ると、やっぱりマミヤさんあってのマヨウンジャーなんだなぁ、って改めて思ってしまうね。
「二人一組はすべての基本ですから、この稽古はゲップが出るほど繰り返した方が良いでしょうな」
剣豪、白銀輝夜さんが私に囁いてくれました。そのうえでこっそり指差してくれます。
災害認定の三先生、そしてフジオカ先生が恐い顔で稽古の様子を眺めています。先生方の満足いくまで、この稽古は繰り返した方が良いようですね。これはリュウ先生の稽古を体験している立場で言いますが、先生方が満足いったら、先生方が次の稽古に移行を指示してくれるはず。
一戦が予定していた時間に達したところで、隣へ移動を指示。先ほどとは違う熟練格に、新兵格は挑むことになります。
それが熟練格を一周しても、まだ次の稽古、という声は聞けません。四先生の誰ひとりとして、稽古の成果に満足していない様子。そこへヒナ雄さんが思わず「よし、次の稽古に行こうか」と言ってしまったから、リュウ先生の厳しい声が飛びました。
「まだまだ! もっと汗をかけ! 厳しくいけっ!」
こんな声を出すリュウ先生は珍しい。というか、私たちがあまり厳しくされないのは私たちが自分たちで自分の稽古をしてるからなんですよね。きっとそう。可笑しな話かもしれないけど、トヨム小隊のメンバーはみんなリュウ先生を越えようとしている。あの剣豪に一泡吹かせてやろう、乗り越えてやろうと思っている。様々な工夫をして、日々の稽古に挑んでいるのだ。
ゲーム世界での疲労は現実世界でも反映されるのだろうか?
だけど新兵格のプレイヤーに対する熟練格のプレイヤーも、みんなヘトヘトになったところで「次の稽古!」と声がかかった。
ズシャリ……。豪傑格が出る。新兵格と熟練格プレイヤーがチームを組んだ。今夜の稽古はまだまだ熱くなるようです。