表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

312/724

実録!! こけくきカエデ伝!

今回はまたもや登場、実在友人出雲鏡花からの贈り物を披露いたします! カエデ人生劇場『男の星座』……ンな訳ねぇって。

王国の刃に残された最後の良心、たった一人の常識人リュウです。



それは誰かの他愛無い一言から始まった。

奇しくもタイムリーではあったが、軽率な一言であったことは間違いない。

故に読者諸氏にはこの言葉を私から送ろう……



『読者諸君、ノンフィクション!! カ エ デ 劇 場 へ よ う こ そ 』



万幸の剣連合との戦が決まった事が発端だったのだろう。

そう、それは必然ではあった、あったのだが皆は忘れていたんだ。

あのカエデさんの昔語りがまともである筈がないって事を……

誰が発した言葉なのかは記憶は定かではない。



「なあカエデ、万里って奴の話は少し聞いたけどさ、幸♡兼定の方はどんな奴なんだ?」



思えばそんな一言から始まった筈だ。



「あ~、そう言えばこの前はもうお腹一杯だったから話しませんでしたね」



カエデさんは少しばつの悪そうな表情だったが、やはり前のゲームでは色々と思う所があるのだろう。



「ちょうどいい機会ですし、思い出語りでもしましょうか……」





はじめるべ



そう言ってカエデさんは語りだした。



「私が幸♡兼定さんと出会ったのは友人のお願いが事の始まりだったんですよ……」



何でもカエデさんは友人から自分の所属するクランの立て直しをお願いされたらしい。

友人の所属するクランは、あのカエデさんですら控えめに言っても劣悪の一言だったらしい。



「そのクランのマスターは自分が一番じゃないと気が済まないような困った人でして……」



なんでも新人を定期的に叩きのめす事で自分が強いと顕示していたらしい。



「でもさカエデちゃん、そりゃ経験者と新人さんなら新人さんが勝てないのは仕方ないんじゃない?」



それはそうだ、経験者と未経験者ならよほどの事が無い限りは経験者の方が勝つだろう。



「まあ、普通に勝つのなら仕方ないんだけどね、そのマスター、新人には初心者武器持たせて、自分はごりっごりにフル強化した最強武器握ってたのよ」



カエデさんの話しでは、ただの棒を持った新人をマシンガンで経験者が虐殺するようなものらしい、なんだそのゲスは……



「で、新人さんだからその武器の差が解らないでしょう? で、マスターはすごい強い人なんだって誤解するのよ」



こう言っては何だが、カエデさんはなんでそんなゲームをプレイしていたんだろう?

カエデさんから前のゲームの話を聞くたびに下には下がいると言えば良いのか、ゲスを見ればきりがないと言えばいのか……



「で、そんなマスターを師匠に持つのが幸♡兼定さんだったって訳なのよ」



新人をズルして虐めて喜ぶ人物が師匠とかどう頑張っても更生とか不可能じゃないのか?



「一応、幸♡兼定さん自身は善良な人ではあったんですよ」



あれが善良? いくらカエデさんが穏健であってもそれは流石に無理があるんじゃないか?



「どう言えば良いでしょうかねぇ……幸♡兼定さんはそんなマスターに師事した上に心酔してたんですよ。いや、心酔と言うよりは妄信の方がより正確かもですが」



それ救いようがないじゃないか……屑を絵にかいたような師匠を妄信って、どうにもならんだろう。



「不幸は重なるもので、そんな幸♡兼定さんなんですが、圧倒的に足りないものがあったんです」



ああ、人を見る目だろう? 言わなくても分かるさカエデさん。



「こんな事は言うべきではないんですが、幸♡兼定さん……能力が軒並みちょっと残念でして、なのに人一番やる気だけはあるんですよ」



……なあ、それ、一番最悪な奴じゃないのか? 無駄にやる気だけあるダメな奴って……



「そんな幸♡兼定さんが、そのクランでの新人教育係なんて役職を持っていたので、新人さんがもう、それはそれは酷い事になっていまして」



何その地獄? ダメな奴が新人を張り切って育てる。

当然だがその新人が学ぶのはダメな人物だから大成するどころか残念な結果にしかならない。

しかも、教育係が張り切ってるからさらに残念さに加速がかかる。



「友人が私に立て直しを求めるのも納得でしょう?」



納得と言うよりも、いくらカエデさんでも無理難題が過ぎるんじゃないのか?



「立て直しと言うか新人さんの救出自体は出来たんですが、その結果、幸♡兼定さんには随分と怨嗟を向けられることになっちゃいまして……」



救出してるだけでもすごいと思うのだが、でもどうして新人さんを救出した事でカエデさんが恨まれる事になるんだ?



「最初はある程度友好な関係を築けてはいたんですよ、幸♡兼定さんとその下にいた新人3人の面倒を見ていたんです」



その頃から他人のお世話をしていたのか、何ともカエデさんらしいと言えばいいのだろうか。



「新人さん達3人にはシステムの基礎から武器の見方や使い方、戦闘技術や各種コンテンツのイロハを丁寧に教えたんですよ」



その結果、その新人達は2週間ほどでマスターを返り討ちに出来るようになったらしい。

いや、それで良いのかマスター⁉ カエデさんが2週間教えただけでボコボコに返り討ちにされるマスターってどうよ?

因みに幸♡兼定は1週間程度で新人に敵わなくなったらしい。



「で、幸♡兼定さんは教育係と聞いていたので、新人教育の基礎を教えようとしたんですが……」



あ~、おじさん何となく解ってしまったわ、少なくとも幸♡兼定はカエデさん以上に時間をかけて新人を教えていたんだろう? なのにその新人は一向に育たなかった。

つまり、幸♡兼定自身が教育係とは言えないレベルだった。

そう、幸♡兼定もまた新人だったんだろう?



「それ以前と言うか、基礎基本を何も身に着けていなかっただけじゃなく、明後日の方向に変な技術や知識を身に着けていまして……」



それ新人よりもダメな奴じゃないか……



「幸♡兼定さんから稽古をつけて欲しいと請われた事がありまして、何かの参考になれば良いなと思ってやったんですが……」



後列からの支援攻撃の練習がしたいと聞いたカエデさんは、距離を取って遠距離攻撃を待ち構えていたらしい、後方支援なら妥当な練習方法だろう。

まずは止まっている的に正確に当てる。そして当たる様になれば動く的へ、最終的には戦闘状態で自身も動きながら当てる。段階を踏んで練習するのがセオリーだろう。



「皆さんがイメージしやすいように分かりやすく例えるとですね、後方支援の練習の為に弓を持ってきてるのに、弓を放り投げて、矢を握り締めて突撃するような真似をしたんですよ……」



いやいやおかしいだろう! 例えだとしても、なんで弓持ってるのに矢を握り締めて突撃なんだよ!

弓どこ行った⁉



「本人の弁では 『つい癖で殴りに行ってしまった』 らしいです」



馬鹿だ……カエデさんが後方支援の練習をしましょうって言ったわけじゃないんだぞ? 幸♡兼定が自分で後方支援の練習がしたいって言ったんだぞ?

それなのについ癖で殴りかかりに行くとかおかしいにも程があるだろう。



「当然と言えば当然なんですが、幸♡兼定さんがこんな感じなので、新人さん達は私に懐いちゃいまして……」



ですよねー、と言うかそれでも幸♡兼定に懐いていたらそれはもうなにか患っているだろう。



「それだけなら良かったんですが、幸♡兼定さんの周りにいたクランメンバーがほぼ私に懐いちゃいまして……」



マスターにサブマスター、幸♡兼定の先輩達に、面倒を見ていた新人が軒並みカエデさんに懐いたらしい、いや、当たり前と言えば当たり前なのだろう。

今現在でもカエデさんは秘かに人気者なのだから。



「結局クランは崩壊しちゃったんですよ、無知なメンバーがちゃんとした知識を付けた結果、マスターについて行けなくなったんです」



知識を手に入れた新人達は新天地を目指し、新人の為に残っていた先輩達も新人が旅立つ事で枷が外れたのでクランを去って行ったらしい。

勿論クランに残った者達も居た。だが、それは幸♡兼定からすればどうでもいい者達だったのだろう。

幸♡兼定が懐いていた諸先輩や、面倒を見ていた新人は皆クランから旅立ってしまった。



「その崩壊の切っ掛けを作ったのが私だって幸♡兼定さんは思ったみたいですね」



「え~カエデさんはぁ、何も悪い事してないですよねぇ?」



悪い事をしていないから恨まれない訳じゃない。悪い事をしていないからこそ恨むしかなかったんだろうな。



「その結果、幸♡兼定さんは妄信しているマスター、懐いていた先輩、面倒を見ていた新人を失ってますからね。悪い事をしていないとは言えないですよ。それに何か心の拠り所があの人にも必要だったんでしょうね……それが例え怨嗟であっても」



きっとこれはカエデさんの優しさなのだろう。たとえ自身が恨まれる事になっても幸♡兼定がそれを拠り所に出来るのなら……そう思っていたのだろう。

だが現実は過酷で転落を続けるものはその止まる所を知らない物なのだ。



「幸♡兼定さんはクランをマスターから押し付けられるような形で引き継ぐことになったんですよ……」



控えめに言っても出来の悪い幸♡兼定がクランを引き継ぐ……

新人教育もまともに出来ないのに、新人育成クランと銘打って喧伝し、新人を取り込んではゲームから引退させるという愚行を繰り返していたらしい。

無駄にやる気のある出来の悪い人物が動けば動くほど事態を悪化させていくという負のスパイラル。



「クラン運営がもうどうにもならなくなった幸♡兼定さんが次に打った手がとどめになったんです」



勧誘した新人が次から次へと消えていく事態に幸♡兼定が取ったのは他クランとの合併だった。

他所を吸収合併して人員の確保とクランの維持を図ったのだろう。



「合併した方が人数が多かったんですよ……結果は元クランで残ったのは幸♡兼定さんだけでした。クランマスターは幸♡兼定さんのままでしたが、元のクランの面影は消えてしまいました」



自業自得でしかない。すべては幸♡兼定の選択の結果なのだから……

それに、元クランメンバーの先輩達や旅立った新人達、もちろんカエデさんも救済の手は差し伸べていた。その手をことごとく振り払ったのは幸♡兼定自身なのだから……



「前クランマスターを妄信しすぎていて、誰の言葉も届きませんでした。先輩達がお前は騙されているんだ、少し調べればわかるだろう?

今ならまだ受け入れる事も出来る。まだ間に合うんだ! そう説得した方もいたんですよ」



だが現実は優しくなかった。幸♡兼定は自分から滅びの道を歩んだのだ。

何も知らずに騙されていたのなら、それは被害者なのだろう。同情も出来るかもしれない、救済の手も伸びるかもしれない。

だが、幸♡兼定はその先輩の救済の叫びに答えてしまったのだ。最悪な形で……



「幸♡兼定さんの回答は 『知っていますよ』 だったそうです。自分が騙されている事も前マスターが嘘をついている事も知ったうえで信じていたんですよ」



妄信と言っていたが妄信にもほどがあるだろう。幸♡兼定は自分が騙されている事を知って尚マスターを信じていたのだ。

確かに幸♡兼定の身に起こった事は不幸だっただろう。クズなマスターに師事しなければ、そう受け取る事も出来るだろう。

しかしだ、それを自ら望んだのはほかならぬ幸♡兼定なのだ。

一体何が幸♡兼定をそこまで妄信に追い込んだのかは私には解らないし、解りたくもない。

でも一つだけ言えることがある。

貴様の怨嗟は全て見当違いも甚だしい! 総ては貴様自身の問題でお門違いも良い所だ。

カエデさんは幸♡兼定の怨嗟を仕方ない物として受け止めるだろう。

だからこそあのように毎回失礼な態度を取っていても受け流していたのだろうから……



「幸♡兼定さんを助けたかった人は結構いたんですよ。でも、結局誰もが、もうあいつは無理だって諦めちゃったんです」



助かりたくない人を助ける事は出来ないんだ。

幸♡兼定自身が助かる事を放棄したから、その時点で助かる道はもうどこにも無くなったんだよ。



「今から思えば、幸♡兼定さんは父性に飢えていたのかもしれないですね」



今の幸♡兼定を見ればまったく信じられないが、その当時の幸♡兼定は教えてくれる人には懐いていたらしい。



「ただ、やっぱりここでも残念な事に、教えてくれる内容ではなく、教え方に懐いちゃったんですよ」



内容では無く教え方って何よ? と思ったのだが、上から偉そうに教える者に懐いたらしい……

そのゲーム内でカエデさんが要注意認定したものにばかり教えを請うていたそうだ。

勝てば自分の手柄負ければ他人が悪い。そんな人物にまた師事したらしい。



「その後幾度となく戦場で相まみえることがあったんですが……」



それはもう酷い物だったらしい。

カエデさんも最初は導こうとしていたのだが、もう幸♡兼定の目にはカエデさんは憎き怨敵でしかなかったようだ。

1対1に応じても勝てないので、カエデさんが複数の敵に殴られている時に颯爽と現れてブッパでキルだけを取りに来ていたらしい。



「でもまあ、今はあの時よりか幾分かマシですよ」



待て待て待て、あの態度のどのあたりがマシなのだろうか?



「前のゲームでは私に暴言を吐いた後は一切口きいてくれませんでしたしね」



救済の一環でカエデさんは見かけたら声をかけていたらしい。

簡単な挨拶や、ちょっとした話題振り等、受け入れる用意はあると示していたのだ。

だが、幸♡兼定はそれらの一切合切を無視した上で、かつて懐いていた先輩に告解したらしい。

曰く、『カエデに暴言を吐いてしまった』と……



「私本人に言ってくれれば、気にしてないって言ってあげる事も出来たんですけどね」



いや、なんで先輩に謝罪するんだ? カエデさんにするなら解るが、先輩にしても意味はないだろう……



「なんでも、先輩は信じられるけど、カエデは信用できない。らしいですよ?」



その信用できるといった先輩がカエデさんにクランの立て直し依頼した本人と言う事を幸♡兼定は知ったうえで言い切ったらしい。

解るんだ、頭のおかしな奴の考えが解っちゃいけないって、重々理解してるんだ。

その上で言わせてほしい。

私にはこれっぽっちも幸♡兼定の考えが理解できない。



「いまだに私の事を恨んでいるんでしょうね。だから、私が楽しそうなのが受け入れられないし、私が優遇されたり大事にされているのがきにくわないんだと思いますよ」



「恨んどると言うよりもそれは嫉妬しとるんじゃないんかいのう?」



ありえない話ではなさそうだな。

カエデさんは幸♡兼定が欲しかった物をあっさり手に入れてしまった。

だがそれはカエデさんが悪いわけではない。幸♡兼定が努力をしていた事は認めよう。

師に恵まれなかった事も考慮しよう。

さぞかし幸♡兼定の目から見ればカエデさんはズルく映ったのだろう。

だが私は断言できる。

努力した、頑張った、そう思っている幸♡兼定の想像もつかない努力をカエデさんはしているのだ。

能力の問題もあるだろう。だがそれがどうした?

幸♡兼定は落ちて行った。カエデさんはいまだに歩み続けてる。

歩みを止め、他者を羨み憎み、嘲り罵る。

そんな事しかしていなければ幸せになれる訳がないのだ。

結局はどこまで行っても自分の心の持ちよう一つなのだ。



「私を羨んでも良い事なんて何もないんですけどねぇ」



何時だってカエデさんは自然体だ。だからこそ強い。



「そうそう、父性に飢えていて内容二の次で上から教える人に懐くって言ったじゃないですか?

少し不思議に思ってたんですよ。幸♡兼定さんが万里さんの側に居るのが」



ん? 何も不思議はないだろう? 万里はあの性格なんだし条件に当てはまっているじゃないか。



「万里さんって今では俺様キャラなんですけど、私が出会った頃は子犬系だったんですよ」



はぁっ⁉ あの失礼千万、無礼百出、虚勢が服を着てるあの万里が子犬系?

カエデさん、もうこれ以上の爆撃はいらないんだ。

カエデさんの思い出話はもう対象が一人でも満漢全席レベルなんだ、常人がおかわりを望んだら致死量になるんだよ。



「あの頃はカエデさんカエデさんってじゃれついて来て本当に子犬みたいでしたよ」



知りたくないから! ほんともうお腹いっぱいだから許して。

カエデさんの思い出話は容量用法を守って適切な量でお楽しみください。





なお、いたたまれない気持ちになる。心がなんかぞわぞわする。何を言ってるか理解できなくて不安になる。

等々の症状が出ても当方は一切の責任を持ちません。あしからず……




嗚呼、神よ……。天地宇宙万物の心理を司る神よ……。どうかカエデさんの告白がフィクションである、ウソっぱちの出鱈目であると、そう告げてください……。

そうでなくては、人は人として生きていけなくなります……。


ん? むしろ人臭いのかな? ……………………。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ