出稽古
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熟練格での試合をパーフェクトで五戦し、ゴブリン先生や野良の相撲取りたちに稽古をつけていただいていたある日、トヨムが唐突に言った。
「なぁ旦那、アタイたちもそろそろゴブリン相手の訓練じゃなく、格上相手に稽古つけてもらった方がいいんじゃないかな?」
さらなる高みを目指す、か。トヨムらしい意見である。しかし、手頃な稽古相手がいるかどうか。なにしろ私たちは、良くも悪くも試合に出ても熟練格しか相手をしてもらえない。そういうシステムのゲームなので仕方がない。ちなみに、私たちの拠点には旧トヨム組のメンバーしかいない。合併したとはいえ、旧白百合剣士団のみなさんとは同室ではないのだ。
「確かにトヨムの意見はもっともだ。さらに上を目指す、夏イベントに向けて鍛え上げるというのなら、より強い相手と戦うべきだろう」
「しかしリュウ先生、ワシら今んとこ熟練格を総ナメぞい。稽古相手なんかおるんかいのう?」
慢心ではなく、セキトリがもらす。そして事実セキトリの言う通りという現状。ここは大人の私が知恵を絞るべきだ。
「トヨム、まずはシャルローネさんたちと意見のすり合わせをしよう。私たちは全員で『嗚呼!!花のトヨム小隊』なのだからな」
まったく、どういう経緯でこんなクラン名になったものやら。私は南河内出身ではないのだぞ。
しかし私の疑問をよそに、トヨムはシャルローネさんたちと意見交換を始めていた。そして協議はすぐに集結。意見がまとまったようだ。
「旦那、シャルローネたちも同じ意見だ。もうちょっと強い相手に揉まれたいらしいぞ!」
「そいつは頼もしい、じゃあさっそく陸奥屋一党鬼組の士郎先生に訊いてみろ。どこかにお相手はいませんか、とな……いや、文面は私が練る」
ということで文章作成。士郎先生宛てにメールを送り、シャルローネさんたちにもこれこれこういう次第で陸奥屋一党に打診した、とメールを送る。シャルローネさんからは、「出稽古ですね!?」という喜びの返信が入る。そして士郎先生からも。
「よかったら今から来るかい?」
面倒なことを丁寧に述べるが、シャルローネさんたちにも打診。回答は「応!」というもの。そこで士郎先生に「六人でうかがいます」と返信。
ほどなくシャルローネさんたちが私たちの拠点に現れた。
「陸奥屋一党鬼組と稽古ですよね!? どれだけ凄いんだろう?」
シャルローネさんはすでに瞳をキラキラさせている。しかし、士郎先生は「出稽古においで」とは言ったが、相手をしてあげるとは言っていない。私としては誰が相手になるものかと、少々危惧するところではある。
まずは出発。全員で士郎先生の待つ拠点へ。
「こんばんは、失礼します。嗚呼!!花のトヨム小隊です」
「おう、来たか。こっちこっち、リュウ先生」
練習場では、すでに六人の力士が三対三に別れてぶつかり合っていた。立ち合いの稽古か、と私は見た。というか、この六人が私の相手なのだな? と推察する。しかしすぐに、「士郎先生、一丁揉まれに来ましたぞ!」。威勢よく槍の六人が入って来た。ほう、こりゃご馳走攻めかい。と、またまた思う。力士組も槍組も、みんな熟練クラスだ。
力士六人に「稽古止め」の号令がかかる。キョウちゃんの打つ太鼓の音が終了の合図だった。
「力士組のみんな、『嗚呼!!花のトヨム小隊』が来てくれた。一丁稽古つけてやってくれ」
「応!」
力士組のみなさん、どれもこれも西洋甲冑を身に着けて、長柄のスパイクメイスをかかえていた。さて、これを破るには……。私なら足を狙うか。それも開幕初っ端、タンクのセキトリやマミさんが激突する前にだ。トヨムには腹ねらいで速攻キル。シャルローネさんもキルねらいで、こちらは時間をかけてもらってもかまわない。それからの激突だ。ちょうど私が足を奪った力士は、カエデさんが始末してくれるはずである。
「あ、そうそう。リュウ先生は力士組にはもったいない。あとでウチの連中に稽古をつけていただく、ということで外れてください」
なんと、六対五のハンディキャップ・マッチかよ!? 鬼だな、士郎先生!
「ヤバいなぁ……旦那落ちかよ」
「だけど小隊長、出稽古をお願いしたのは私たちですから、イヤとは言えませんよ?」
シャルローネさん、この困難を回避しようという考えは無さそうだ。
「まあ、初撃はまかしとけ。何とかしちゃるわい」
体格で五分、数では不利という状況を察してか、セキトリの言葉にもキレが無い。
とにかく私抜き、五対六のハンディキャップ・マッチが始まる。キョウちゃんの太鼓でハッキヨイ!
……うむ。……うむ、まあそうだな。結果から言わせていただこう。私を抜いた五対六の稽古試合。我が軍の惨敗である。
まずは立ち合い。私ならばセキトリたちに先んじて敵軍と対し、少しでもダメージを与えておく。可能ならば欠損部位を生じさせ、それが無理ならば防具破壊。それも無理ならば、一人二人を私に引きつけ、五対四もしくは六対四の数的有利を作るだろう。
しかしそれができなかった。まともに六対五で序盤に突入してしまったのだ。
しかもタンク同士の激突、セキトリのメイスによる突き、マミさんの棍棒による突きがことごとくかわされたのだ。ヒョイ、というような具合に。そこへ他の力士の突きが入り身を起こされてしまう。壁役にとってこれは致命的。セキトリとマミさんはボコボコにされてしまった。
壁役崩壊。カエデさん、トヨム、シャルローネさんは最悪なことに、すでに左右へ展開していたのだ。つまり中央突破されての左右展開。それぞれが孤立してしまったのである。まずはシャルローネさん、撃沈。次にカエデさん、沈没。最後まで残ったトヨムも懸命に拳を振るったが、すでに囲まれ滅多打ち。
まともな攻撃すらできずに、『嗚呼!!花のトヨム小隊』は苦杯を舐めさせられたのだ。
「こら! リュウ先生がいないのは最初から分かっていただろう! 何故対処せんか!」
士郎先生の檄が飛ぶ。
「小隊集合!」
トヨムの声で私抜き、円陣が組まれる。
「みんな、言いたいこと言え」
「タンクの数が多すぎじゃい」
「まともに立ち合えませんでした〜〜クスン」
「よし、数はアタイたちでなんとかする。カエデ、シャルローネ、いいな?」
「邪魔は道化師の本領よ、やってやるわ!」
「私は一人を抑えるのが限度かな?」
「じゃあセキトリたちに当たる力士を、アタイがなんとかする。ってゆーか、アタイも前衛だ!」
「無茶言わないでよ、トヨム!」
「心配してくれんのは嬉しいけど、カエデ。アタイは小隊長なんだ。みんなが勝てるようにするのが、アタイの仕事さ」
ということで、変則シフト。前衛は右からトヨム、マミさん、セキトリ。後衛は右にカエデさん、左にシャルローネさん。
「トヨム小隊ーーっ! いくぞ!」
「応!」
「行くぞ!」
「応!」
「行くぞ!」
「応!」
なんだよその掛け声。私がいたときはそんなことしなかったじゃないか。仲間はずれは良くないと思うぞ。というのは冗談。これは私が抜けたからこそ、若者たちだけで団結した証だ。というか、あそこで集合をかけた小隊長、立派な振る舞いだったぞ。
六人制で登録したため、いつもよりも広がった練習場。本当にゲーム世界というのは便利だ。……じゃない。体育館レベルに広がった練習場を観客席から見下ろして、私はほくそ笑む。
「どうですか、リュウ先生?」
士郎先生が訊いてきた。
「まだまだ、この程度の困難では、『嗚呼!!花のトヨム小隊』の芽は開きません」
「リュウ先生は厳しいなぁ。俺から見れば、いますぐにでも大輪の花が開きそうなのに」
「大輪の花だからこそ、開くのに時間がかかるんですよ」
変則シフトで迎える二戦目。キョウちゃんの太鼓!
トヨム走ったーーッ! クラウチングスタートからのほとんど全力疾走。あっという間に間合いを詰める。そこでチョロチョロと動きまくって、とりあえず敵軍をかき乱す。
うまい、これではまともに六人で当たることができない。トヨム小隊は四人、力士組は遅滞が発生し、三人での激突だ、しかしそこはシャルローネさんが上手く攻撃を加えた。パッと敵の面に目潰しのような一発。おかげでセキトリは十分に当たることができた。
マミさんはマミさんで、立ち合いに変化をつけている。先の一戦では自分たちがやりたいことを、敵にやられてしまった。そこで敵を横にいなす。一人転倒。即座に後頭部へ双棍スパイクの乱れ打ち。
やった、ファーストキルはこちら側。しかしすぐにトヨムが撤退。さすがに一人で三人は荷が重かったようだ。トヨムが相手をしていた三人が迫ってくる。そこへ立ちはだかったのは、カエデさんとシャルローネさん。二人で三人を相手にする。二人がかりの攻撃に遭ったカエデさん、玉砕! シャルローネさんは三人を相手にすることになった。人数を考えれば五対三、絶対に勝てない数字になってしまった。
しかし若者たちはくじけない。孤立するシャルローネさんを救出するべく、セキトリは猛然と突進。しかし手が間に合うことはなく、シャルローネさんも沈んだ。五対二の不利。
それで勝負を投げ出すような子供たちではない。
「マミさん、行くぞい!」
「おうさ、セキトリ!」
「ようやく正しく呼んでくれたのう!」
しかし、数の差は絶対。我が軍壊滅。