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三対一

さて、トヨムひとりとヒカルさんたち三人娘の対決だ。三対一という人数的ハンデはあるものの、これは順当にトヨムの勝ちと私は見る。いかにできるとはいえ、王国の刃では三人はまだまだひよっ子に過ぎない。出来が良いとはいえ、三人の連携はまだまだだ。そしてここがポイント。ここは王国の刃というゲーム世界。

トヨムが全力を出しても罪に問われない世界なのだ。格闘技の試合を観ていると暴力的に育つとか、バイオレンスをふくむ映画を観ていると犯罪者になるとかいう偏見を、私は信じない。

むしろケンカ好きや暴れん坊ども、こうしたゲームに参加して思い切り暴れまわってみろ、と言いたい。

町で目が合っただの肩が触れただのでするつまらないケンカなんぞより、こうしたゲーム世界で目一杯暴れた方がよほど良いだろう。なにしろ誰にも迷惑がかからないのだ。本当に闘った気になって、憂さを晴らすがいい。そして、なかなか越えられない壁というものにぶち当たってみるといい。苦労を体験しろ、世界の広さを知れば良い。

インターネットという世界は『やった気になれる』場所なのだ。戦闘機に乗って敵機を撃墜した気になれるし、軍艦を操縦して敵艦を撃沈した気にもなれる。

活用次第で、君の夢や妄想が叶う世界なんだ。実に楽しく、誰にも迷惑がかからない。素晴らしいことじゃないか。


ということで、トヨム。現実世界でトヨムは人を殴り倒す訳にはいかない。脳天逆落としで人を投げるわけにもいかない。しかし王国の刃ではそれが許される。

そのことをトヨムは、デビュー戦から知っていた。

今の時点で三人娘、それを実感しているのはヒカルさんくらい。さくらさんとヨーコさんは、試合でなれているから手数や威力が出せているだけで、王国の刃プレイヤーとしてはまだまだ発展途上である。それをトヨムが引き出してやれるかどうか?

つまり実力差を思い知らせることができるかどうか? まだまだ上手なだけの二人の野性を目覚めさせることができるか?

暴力的ともいえるストリートファイトで、トヨムはヒカルさんの心に火を着けた。

では、この二人には? ゴングである。今回の審判は私。

まずは三人揃って前に出てきた。さくらさんが突き、ヨーコさんが打ち込む。しかしトヨムはバックステップ、もうそこにはいない。無傷のトヨムはさくらさん側に舵を切る。ヨーコさんからは離れた。自然とヨーコさんとヒカルさんがトヨムを追いかける形になった。

そこへトヨムのカウンターアタック。ヨーコさんの懐に飛び込んで、ボディブロー。ワンショットワンキルの一打で死人部屋送り。

ということで、今度はさくらさんとヒカルさんが追いかけてくる形だ。

まずトヨムは軽量級のヒカルさんを足払いでコケさせて時間稼ぎ。その隙を突いて攻めてくるさくらさんは、相手にしない。スッと間を取った。


復活してきたヨーコさん、接近。挟み撃ちの体勢に持ち込もうとする。しかしトヨムはさくらさんにインファイトを申し込んだ。これを嫌ったさくらさん、石突でトヨムを払おうとする。

だが上手く回り込んで、さくらさんにボディフック。これも一発撤退だ。

あっという間の2キル。状況を覆すためにヒカルさんが出る。その袖をトヨムは簡単に取った。引き落としながら足をかける。またもや足払いで時間稼ぎのコケを奪う。

ようやくヨーコさんが到着、しかしトヨムとの間にはヒカルさんがいた。トヨムがポジションを調整して、ヒカルさんの向こうに隠れたのだ。そして立ち上がろうとするヒカルさんの顔面に回し蹴り。足首を曲げてスネの硬度をあげた、いわゆるカーフキックだ。蹴っているのは顔面だが……。

さくらさん復活、そして接近中。つまりトヨムの前にいるのはヨーコさんだけ。

ここまでの流れで、読者諸兄はお気づきになったであろう。

トヨムは三対一の状況を、二対一。もしくは邪魔者をはさんで一対一にしているのだ。

はて、トヨムはそこまで賢かっただろうか? それとも戦闘スキルの中にこのような知恵が挟まっていたのか? あるいはこれが経験値というものなのか?

どれも違う。おそらく陰の操縦者セコンドがいるに違いない。そう、試合場から離れた場所で、闘うトヨムに熱い眼差しを向けるカエデさん。彼女が指示を送っているに違いない。


決戦力で格上のトヨム。それにカエデさんの指揮が付けば、新人三人ではかなり分が悪い。

案の定、23−0のパーフェクトスコアでトヨムが三人を押さえ込んだ。

「どうだった、三人とも?」

士郎さんがヒカルさんたちに声をかける。

「はい、なかなか三人揃わなくて大変でした!」

ヒカルさんが素直に答える。

「三人揃ったときでも一直線に並ばされて、全体攻撃ができませんでした……」

これはおとなしそうなさくらさん。

「いやぁ、やられたやられた! チャンスと思ったら誰かがコケてて、前に出られないんだもん!」

サバサバしているのはヨーコさんだ。

「じゃあ、みんながどんな目に遭っていたか再現するから、第三者視点でよく見ておくんだ」

ということで呼び出された、キョウちゃん♡とダイスケくん。そして忍者。

対する士郎さんは無手。しかしオープンフィンガーグローブにシンガード。身体のあらゆる部位で攻撃できるような装備だけはしている。


もちろん審判は私。そしてこの王国の刃では審判など必要は無い。

始め、の号令で三人はまず距離を置いた。さすが豪傑格の三人である、手慣れていると言えた。しかしそれだけでは、士郎さんを倒すことはできない。まずはメイスを担いだダイスケくんから様子をうかがいに出る。槍のようにしごいて、距離を計った。その間に忍者は士郎さんの背後に回り込む。ダイスケくんと挟み撃ちの体勢だ。

しかしその前に忍者が出た。横から崩すつもりなのだ。同時にダイスケくんが、いやキョウちゃん♡も剣を振るう。しかし三方の攻撃をギリギリまで我慢した士郎さん、一歩だけ誰もいない方向に回避。つまり全員スカを引かされた。

そして士郎さんの二歩目はダイスケくんの方向へ。ダイスケくん、遅れて反応。士郎さんの動きが見えなかったようだ。それもそのはず、士郎さんは軸をぶらさず、頭も揺らさず歩いているのだから。

しかし忍者とキョウちゃん♡にはその動きが見えたようだ。誘われるように前へ出てしまう。士郎さんは、これまた影のような動きで振り向いた。忍者がもう間合いである。抜刀しかけた小手を取り、関節を極めてダイスケくんの方へコケさせる。忍者が邪魔で、ダイスケくんは前に出られない。となると、残るはキョウちゃん♡だけだった。

「どうする?」

忍者を極めたまま士郎さんは訊く。キョウちゃん♡の返答は剣の一撃であった。それを士郎さんは取っていた忍者の小手で受ける。フレンドリーファイアだ、忍者の小手は無傷。しかし忍者は士郎さんの強烈な当て身をもらっていた。忍者、撤退である。


忍者撤退となると、ダイスケくんから見て障害物は無くなっている。キョウちゃん♡から見ると楯にされる物は無くなった。思い切ってキョウちゃん♡が出た、突き技である。ダイスケくんもほぼ同時に出る、こちらも突きだった。いちいち得物を振りかぶっていては、この達人を倒すことはできない。そういった判断なのだろう。しかし突き技は士郎さんがひと足踏み込み、体を半身にしただけでふたつとも躱される。若い二人からすれば、ヌルリと躱されたように思えただろう。

ということは? 士郎さんはすでにキョウちゃん♡を間合いに捕らえていた。

まずは関節蹴り、キョウちゃん♡の逃げ足を殺す。そのうえで振り返った。

背後から間を詰めていたダイスケくんだが、逆に士郎さんの間合いに入れられてしまった。こちらは士郎さん、腕を取って立ち技関節。ひと呼吸で薪のようにダイスケくんの腕を折った。キョウちゃん♡は片脚に欠損、ダイスケくんは片腕を欠損。

士郎さんは忍者の復活と接近を目で確認して、それからダイスケくんを葬った。超至近距離からの当て身。暗勁と呼んでもいいだろう、コンタクトからのフォロースルーに重点を置いた突き技だった。


このように三人いるはずのメンバーが、常に二人しかいない状態の戦闘が続いた。トヨムよりも優れているのは、さすが士郎さん。復活してきた相手が到着する間に、どちらか一人もしくは二人とも欠損部位を発生させて戦闘不能にしていたことだ。

さすがにカエデさんもここまでは考えていなかったのか? それともカエデ作戦に士郎さんが注文をつけたのか? というところだ。

しかし相手をさせられている三人からすれば、たまったものではなかろう。

「キョウちゃん、どうにも上手いこといかんぞ! どうする!?」

「それは分かってるんですが、ダイスケさん! この戦闘モンスターはどうにも止められませんよ……捕まったーーっ!」

「忍者が到着するまで逃げ回れ! ディフェンスに徹するんだ!」

「助けてくれないんですか、ダイスケさん!」

「だって俺もう、脚折られてるも〜〜ん♪」

まあ、こんな調子でお手本マッチは圧倒的スコアで士郎さんの勝ちとなった。ちなみに忍者は試合終盤、「勝てるか、こんな化け物に!」とふて寝を決め込んでいた。


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