ヒカルさんに仲間が
まほろば陸奥屋連合VS万里軍。年末に向けていきなり話題が勃発した。ということで、まずは人数集めに走る。数の上では私たちが不利である、だがしかしその状態をそのままにしておく手は無い。
講習会が開かれるたびに、新兵格をメインに声をかけて回る。私たち……主に女性メンバーが声をかけると、ほとんどすべてのプレイヤーが色よい返事をしてくれた。
そして変わり種も……。
「新兵格、東郷さくらです! プロ志望です!」
「同じくプロ志望の西島ヨーコちゃんでーす! 入門お願いしまーす♪」
ノッポのお姉ちゃんと、マミさんに負けないバストのお姉ちゃんが入ってきた。毎度おなじみの講習会会場である。
ノッポさんがさくらさん、黒髪のどこかポヘッとしたお嬢さん。ボインちゃんがヨーコさん、金髪をツインテールにしている。
二人とも白の稽古着に藍色の稽古袴、手甲脚絆も厳しく固め胴と垂れを着けている。やる気満々スイッチ・オンである。そのスタイルのせいか、どちらも大学生くらいに見えた。
「あら、プロ志望なんだ? 得物は槍と薙刀だね?」
ジムオーナー資格を持つフィー先生が対応した。槍がさくらさん、薙刀がヨーコさんである。
「どれくらい使うのかな?」
ふたりとも有段者であった。ちなみに薙刀は読者諸兄もご存知であろうが、槍道というのも存在しているので興味のある方は検索をお勧めしたい。
と、ここでフィー先生。やおら木製の薙刀を手にすると、「立ち合ってみましょう♪」ときた。
特に審判も立てず、ちょっと手合わせという軽い気持ち。そんな感覚で始まった立ち合いだが、まずはさくらさんから。鋭い突き技、エイッという気合い。ん、確かに有段者だ。しかしあっさりフィー先生の薙刀に押さえられてしまった。どうにかしようともがいているが、フィー先生が薙刀を操作したのだろう。「あっあっあ〜〜っ」と引っ張られていった。別にさくらさんの槍が掴まれているわけでもないのに。というか、薙刀で槍を掴むことはできない。
だがこれは試合ではない、単なる入門前の手合わせだ。ほどほどのところでフィー先生は手を緩める。するとさくらさん、すぐさま槍を構え直し勇敢にも激しくしごき始めた。
突き、突き、打ち、突き。そのすべてをフィー先生は受け流す。それでもかまわぬとばかり、さくらさんは槍をしごく。
カンカンという乾いた音はしない。ただ槍と木製薙刀が擦れ合う、シュッシュッという音がするだけだ。
「はい、オッケー。おつかれさま♪ それじゃあ次はヨーコさん、どうぞ♪」
得物は薙刀、それも本身。それはさくらさんも同じだったのだが、フィー先生はまったくの無傷。二番手で挑むヨーコさんとしては、生唾を飲み込まざるを得ない。
始め! の号令はフィー先生。だからといって意地汚くダッシュで先手を取るようなマネはしない。むしろ下段、待ちの構えでヨーコさんを誘う。
これに対してヨーコさん、中段から八相に構えを変え攻撃姿勢を見せる。そしてドッと出ての袈裟。しかしフィー先生、厳しく刃筋を立てて磨り上げ巻いてこれを落とす。文字にすればトロ臭く思えるだろうが、フィー先生はこれを一瞬でやってのけた。
やってのけたというとフィー先生の評価があがるかもしれないが、これは無双流にもある誘いの手で、ごく初歩的な技にすぎない。そしてフィー先生はそれだけでは済まさず、巻いて落としたあとに刃筋をヨーコさんの首筋につけていた。寸止めでなければ、本身の薙刀であったなら、ヨーコさんの首は落ちていただろう。
「なんのっ! まだまだっ!」
さがってヨーコさんは今度は逆八相。猛然と斬りかかり、石突をとばしてフィー先生を攻めたてる。しかしフィー先生は涼しい顔、シュッシュッという木の柄がこすれる音だけでこれをさばき、「はい、オッケー♪」の声をかけた。
「どうでした、リュウ先生?」
「フィー先生は相変わらずの変態だ」
「もー、そうじゃなくって、ふたりはどうだったかって訊いてるんですよ!」
「うん、困難な状況にも関わらず勇気をもって攻めに出た姿勢。プロとして申し分ないと思う」
「では士郎先生は?」
士郎さんも見ていたようだ。
「うむ、おおむねリュウさんの感想と同じだが、つけ加えるなら有段者としてサビもついていなければ衰えも無い。鍛え甲斐のある現役というところか」
「プロとしてはどうかな?」
私はオッケーサインを出す。士郎さんも大きくうなずいた。
「俺の方から総裁に報告しておこう。プロテストの手続きもしてくれるだろうからな」
「そうなるとヒカルさんとチームってことになるね。どんなシフトが良いかな?」
「おいおい、気が早いぞリュウさん。まだデビュー前だぜ」
「だがしかし、今は興味が湧いてる」
「あぁそうだ、確かめないといけないことがある」
この二人にヒカルさんが、どれだけ闘えるか、だ。
ヒカルさんが呼び出された。さくらさんやヨーコさんと同じく、白の稽古着に藍色の袴だ。そして木製の剣、両刃の剣である。どれだけ闘えるか?
と最初からヒカルさんの実力を懐疑的に語ったが、実際王国の刃において新兵格の素人が、武道の有段者に勝つことは難しいだろう。
しかしそれでも士郎さんは立ち合いを命じる。
「こちらはヒカル、2MB所属のプロ選手一号だ。俺たちとしては君たちふたりに、ヒカルと組んで三人制試合にも六人制試合にも出てもらいたいと思っている」
「可愛らしいセンパイですね♡」
「あー、観ました観ました! すっごい勢いのある選手ですよね?」
さくらさんとヨーコさんには、ヒカルさんの存在は受け入れてもらえたようだ。
「で、プロとしては先輩だが武道歴はツンツルテンなヒカルを、ひとつ揉んでもらいたいんだが……」
「チームメイトをですか?」
「もしかしたら『新人王トーナメント』なんてイベントも催されるかもしれない。そうなったら同門対決だって起こり得る」
「ほえ〜、やっぱりプロはキビシーですねー」
そんなことを言いながらも、ヨーコさんは稽古用の薙刀を手にした。
「ほんじゃま、一手御指南のほどを……」
ヒカルさんも手甲脚絆の防具を着けている。両者中央で切っ先を合わせる。ヨーコさんのセコンドにはフィー先生、ヒカルさんには士郎さん。そして必要の無い審判には私。特等席での観戦とも言える。
「始めっ!」
私の号令で立ち合いははじまった。いきなり出たのはヒカルさん。剣の棟で薙刀の柄を押し込み、薙刀。切っ先を逸しながら突っ込む。
しかしそこはヨーコさん、有段者である。自分の不利を察知してすぐに一歩後退。しかもお釣りでも払うようにヒカルさんの小手をねらう。ヒカルさんは剣を片手持ち、お腹の前で手首を交差してこれを避ける。気をつけのように足を揃えて停止していた。
ヒカルさん、下からねらう片手斬り。ヨーコさんの小手をすくうようにねらう。これはヨーコさん、八相に構えてスルリと躱す。空振りしたヒカルさんも、切っ先でヨーコさんを牽制してから八相に構えを取った。
八相対八相、得物の間合いではヨーコさん有利。そしてこうした場合の駆け引きでも、経験者のヨーコさんに分があるだろう。しかしそんなお利口さんな計算をするヒカルさんではない。勝負とばかり、一直線に突っ込んだ。
待ってましたとばかり、ヒカルさんの袈裟へ、薙刀が振り下ろされた。
ここからは、描写をうるさくさせていただく。ヒカルさん、木剣の切っ先を垂らすようにして、脇構えに移行。当然身体は半身になっているので、薙刀は紙一重でとどかない。そして脇構えから振り上げの一刀、剣の棟で薙刀を押し飛ばす。そのまま左霞の構え。ふたつの拳を左耳に寄せて、切っ先を相手に付けた構えだ。そのまま突撃、突きをねらう。が、得物の利を活かすヨーコさん。死に体だった薙刀をよみがえらせて、ヒカルさんのスネを打った。スネの防具が吹っ飛んだ。新兵格、事実上の王国の刃デビュー戦で、ヨーコさんのクリティカルである。
武道の競技や試合ならば、ここで一本である。しかしここは王国の刃。立ち合いはまだ続くのだ。防具をくれてやり、防具をいただく。誰が教えたものやら、ヒカルさんはヨーコさんの胴に突き技を入れた。大きくダメージを入れたが、クリティカル判定には至らない。
ならばとヒカルさん、胴から切っ先を抜くとヨーコさんの小手をねらう。
しかしヨーコさん、ここで間を取ってすぐに反撃。防具を失ったヒカルさんのスネをしたたか打ち据えた。
ワンショット決まった、ヒカルさん片スネ欠損。これもまた一本の出来栄えなのだが、まだ立ち合いは続く。
「ヒカル、居合膝!」
士郎さんの檄が飛んだ。その声に応じるヒカルさん、欠損した側の右ヒザを着く。左のヒザは立てていた。
「ヨーコさん、容赦なく!」
フィー先生の声も出る。ヨーコさんもこれに応えた。キビシくヒカルさんを攻め立てた。
しかし、「どこまで鍛えたんだ、士郎さん……」。私が思ってしまうほどのディフェンスをヒカルさんが見せた。ヨーコさんの薙刀を、ことごとく斬ってみせたのだ。つまり、薙刀の柄を剣を棟を使って押し飛ばしまくったのである。ヨーコさんの攻撃はクリーンヒットにはならず。すべて逸らされてしまった。
これ以上の攻防はもう無いか。
そう感じた私は、立ち合いの終了を命じた。士郎さん、フィー先生。どちらも異論は無い。もちろんヒカルさんもヨーコさんも。
「では、次の選手」
さくらさんを見た。はい、という声。槍を小脇に入場してくる。落ち着いているな……。
私は相当の実力者と見た。両者切っ先を交えて、「始めっ!」私は命じた。
ヒカルさん、足は回復している。その足で後方へ、今回はヒカルさんから距離を取った。距離を取る前にヒカルさんの小手があった場所に、槍の打ちが降ってきた。これを読んでのヒカルさんの後退だった。
しかし空振りしたさくらさんも、すぐに構えに戻る。シュッシュッと牽制の突きを繰り出すさくらさん。それに対してヒカルさん。剣を引っ込めて顔を出した。




