フィー先生のポジション
入場してきました、陸奥屋一党鬼組! 引き続き実況は私、ヒカルでお送りいたします!
そして観客席にはトヨムお姉さま率いるトヨム小隊のみなさんが戻って参りました!
「やややヒカル、実況しろよ。アタイの腕にしがみついてないでさ」
「トヨムお姉さま♡ ニャンニャンゴロゴロ♡」
「えー実況にならないので、小隊長は私たちで没収。ヒカルさんはリュウ先生の解説で実況に励んでくださいね?」
あーーっ! マミさんにトヨムお姉さまを取られちゃいましたーーっ!! 仕方ありません、冴えないちょんまげ先生と実況をお送りいたします!
「仕方ありませんじゃないぞ! アタイはどうなるんだーーっ! モガーーッ!!」
さて、トヨムお姉さまの貞操は放っておくとして、解説のリュウ先生です!
「フジオカ先生に何を吹き込まれたんだい?」
いきなりブッ込んできましたね、リュウ先生? ですが私はそんな冴えないオジサンの言葉などには動じません!
「はい! 撃ち合い上等はいいけど、フィー先生の動きを参考にしろといわれました!」
「ほい、フィー先生かい。それじゃあよくよくフィー先生の動きを見て行こうか忍者なんぞは無視してな」
……なんでしょう? この先生はいちいち言うことが癪に触ります。公務員という職業のせいでしょうか?
会社が傾いて苦しんでいるお父さんが言ってました。公務員という人種はそういうものだと。いえ、ヒカルは負けません! 天下の公僕なにするものぞ!
あえてここは質問しましょう!
「ということは、リュウ先生の推しは忍者さんなんですか?」
「ヒカルさん、君に忍者はまだ早い。それよりも試合が始まるぞ、集中集中!」
「え? あ、はい!」
私に忍者さんはまだ早いという言葉の意味を質問する隙無し。士郎先生の無敵甲冑攻略戦です!
敵陣営はフルプレートアーマー四、鎖帷子ニ。鎖帷子の二人は貫頭衣の下に着込んでいるので、かなり動きが素早そうです。
「それとフルプレートアーマーの四人は長得物だから、あれで鬼組のヒットマンを近づけない作戦だね」
事実、そのとおりの展開。槍衾で四人が横一列、足並み揃えて前進してきます。対する鬼組は前衛士郎先生を中心に、ダイスケ兄さんと左右をキョウさんユキさんで固めて……いま、激突!
ダイスケさんと槍のフルプレートアーマーが激しい攻防、ユキさんキョウさんはリーチの差を物ともせず、敵の胴といわず兜といわず当たるを幸い、バッシバシと攻撃を加えています!
そして同じちょんまげでも、こちらはモテそうなちょんまげの士郎先生……いきなりぶっ飛ばしたーーっ!
腹への一撃おもたい拳、まっすぐ突き出した右で相手をはるか後方へ! 後衛で隠れていた鎖帷子の二人を巻き添えに、敵の六人中三人が転倒!
さらに士郎先生、敵の前衛のこる三人も次々とぶっ飛ばす!
「凶猛発勁、まるで八極拳だね。ではヒカルさん、フィー先生はどこかな?」
えっと……あ、もうすでに後衛の鎖帷子、転んでいる一人に斬りつけてます! 忍者さんも一緒になってますね。
「そう、すでにフィー先生と忍者は後衛の二人まで手が届いていたんだ」
ということは? 最初からフィー先生は後衛の二人を狙っていたと?
「そのとおり、そしてフィー先生はいま、フルプレートアーマーをふくんだ三人を釘付けにしている」
でも逃げ出しましたよ、フィー先生。
「フィー先生が逃げれば、無敵防具の三人は追いかけるだろ?
そこを忍者が後ろから襲いかかる。ついでに言えばフィー先生が逃げれば逃げるほど、三人と三人に戦力が分散されるのさ」
あ、振り向いて反撃。また振り向いて反撃してますね。チクチクと嫌がらせしてるみたいです。あ、今度は足を引っ掛けて転ばした。
「敵は完全にフィー先生の術にはまったみたいだね。軽装の鎖帷子はフルプレートアーマーよりもダメージが入りやすい。そのクセ足はフィー先生よりも微妙に遅い」
そして鬼組の前衛は四人、敵は三人。つまりひとり余ります。
「若いキョウちゃん♡が行ったな」
そう、忍者さんは背後から。キョウさんは側面からフィー先生を追い回す三人を攻め込みます!
忍者さんの手の内には寸鉄、葉巻が付いたような指環。つまり取るも掴むも可能! そして打撃も可能な優れ武器!
ただしリーチはありません。その忍者さんが俊足を活かしてフルプレートアーマーに、背後から足払い!
前倒しになった相手に馬乗りになって、狙うは一点。兜の後頭部! マシンガンのように寸鉄を使い突く、突く、突く!
敵は必死に立ち上がろうとしますが、忍者さんの馬乗り体重移動が効いて立ち上がれません! しかし攻撃の手を緩める忍者さん、これは一体どうしたことか!?
「キルのタイミングを考えているんだな。キョウちゃん♡の相手がそろそろ限界だ」
そうです、キョウさんの太刀は風車のごとし! 止まることを忘れたかのように次々と攻撃をヒットさせて……最後は太刀を使っての投げ技!
破壊された鎖帷子、露出する胸! そこに太刀を深々と突きこんだ!
まずは先制のキル、カウントは1−0。キョウさんは次なる獲物、フィー先生を追いかける鎖帷子に向かった!
「キョウくん、敵の前衛! フルプレートアーマーに向かって、士郎先生の方!」
これはフィー先生の指示、キョウさん指示に従って前衛へと戻ります! その間にも鎖帷子は装備を修復して復活、一直線にフィー先生を目指します!
「ここでフィー先生の進路を実況願えるかな?」
え? フィー先生ですか? おっ、忍者さんの方へ向かってますね。この辺りの解説をお願いします!
「敵は一人死亡、そして復活。というタイミングで、忍者はフルプレートアーマーを撤退に追い込むだろう。そうしたらフィー先生を追いかける鎖帷子と、復活した鎖帷子をフィー先生と忍者で相手をする」
二対二ですよね? なにも嬉しいことは無いと思いますが。
「忍者の相手は鈍足のフルプレート。前線に復帰するには時間がかかる。それにご覧」
士郎先生がいたぶっている鋼鉄ゴリラ……あぁっ、もう耐久力がゼロに近いじゃないですか!
「そう、鬼組はこうやって常に五対六を維持しているんだ。なぜこんなことになっているか、わかるかなヒカルさん?」
ん〜〜……ゴリラよりも強い人たちが戦っているから?
「落第。フィー先生が逃げ回っているからさ」
?????
「逃げるフィー先生は敵からすれば格好の獲物、復活したらすぐに狙いたくなる」
フムフム。
「それを利用してデスゾーンへと引きずり込んでいるのさ、フィー先生は」
デスゾーンとは、士郎先生や忍者さん?
「そう、敵は一人また一人とキルを取られていく。しかし何故こんなことになっているのかは、誰にも理解できない。トヨム小隊ではこれをカエデマジックと呼んでいる」
う〜ん……常に敵は少数、こちらは数的有利。その状況をフィー先生が作り出していると。フジオカ先生は私にこれをやれと?
「カエデさんやフィー先生は、見て考えてこれをやっている。だけどヒカルさんは無理だよね?」
ハイ、できません!
「そう、君は見て考えてやるタイプじゃない。見ただけで、もしくは見なくてもこれができるタイプなんだ。その下地が……」
手つなぎ鬼?
「そう、幼少期からの遊びで刷り込まれている。全体を気にしたり考える、感じる能力が君にはあるんだ」
まるで天才ですね……。
「そこでその単語を使わない。君が天才なんじゃなくて、そう育ててくれた御両親に感謝しなさい」
ハイ、お父さんお母さん! 感謝です!
「それに天才って言うなら、上には上がいる。ウチのトヨム小隊長だ」
おぉっ、さすがお姉さま♡
「もっともアレは作戦能力というよりも、どちらかといえば大将の器。将器というやつなんだろうけどね。いつもみんなのことを気にかけている」
さて試合に目を戻しましょう。まずは忍者さんがフルプレートの大型アバターを撤退に追い込み、フィー先生を追いかけてきた二人の鎖帷子を相手にしているところ。カウントは2−0。
そしてフルプレートが復活、走り出したところで士郎先生が豪快な投げ技でまた一人撤退に追い込んだところ。カウントは3−0。徐々に一方的な展開になってきましたが?
「なにしろ鬼組は前衛を四人で固めていたからね、フルプレートアーマーの三人からはいつでもキルを取れる状態だ。敵にとっては頼みの綱の壁役が、早々に崩壊しているから丸裸も同然さ」
今や敵陣に近いポジションの忍者さんとフィー先生。この辺りが入れ替わってしまっているのも、全体とすれば大きな意味がありますか?
「あるある。復活した敵はみんなフィー先生を追いかけるから、前衛のフルプレートアーマーたちに援軍を出せないでいる。そんなことをしている間に、ほらまた。ユキさんがキルを取った」
はい、まったくそのとおりで、前衛で生き残っているのはダイスケさんと闘うフルプレートアーマーひとりだけ。
ということで、ユキさんとキョウさんがフィー先生と忍者さんへ応援に駆けつけましたね。復活してきたフルプレートゴリラたちの邪魔をしています。足払い、投げ技、本当にこれは足止めらしい足止めです。
「とにかくフルプレートアーマーは動きが鈍い。そのことを利用した戦い方だよ」
勉強になります。
ときにリュウ先生?
同じ古流柔術ですがリュウ先生と士郎先生ではずいぶんと趣きが違うように思いますが。師匠士郎先生は豪快無双、リュウ先生はどちらかというとナヨッとしてるというか……あまり豪快ではありませんが。
「そこは流派の違いだね。士郎さんの剣術は神道流系、私は中条流系。気合と迫力、パワーの士郎さん。技の私と取ってもらってかまわない」
なんですか? そのシントーリューとかチュージョーリューというのは?
「日本剣術の三大系統さ。神道流系から出ている剣術には薩摩示現流や近藤勇の天然理心流がある。いかに気合気迫を大事にしているか分かるだろ?
柳心無双流の属する中条流系からは小野派一刀流、北辰一刀流。赤穂浪士たちが修めていた東軍流がある」
三大系統というからにはもうひとつ流れがあるんですよね?
「それが陰流系統、そこからは新陰流、柳生新陰流、疋田陰流などが出ている」