無敵甲冑攻略戦
ゴング、六人制試合の戦闘開始だ。無敵甲冑がどのようなものかを知り、キルを取りすぎないことまで考慮した上での試合である。
敵はまず壁役三人、フルプレートアーマーの大型アバターが前衛で出てきた。
私たちはセキトリを中心にシャルローネさんマミさん、私の四人で迎え撃つ。トヨムとカエデさんのタッグは左へ回り込んで敵陣後衛を目指す。
前衛では長マサカリを構えたセキトリが、まず強い当たり。よろめいた敵に私が寄りかかり、転倒させた。セキトリをサイドから攻めようとした敵はマミさんがディフェンス。敵の槍をトンファーで受け流していた。シャルローネさんは大鎌をからめて敵の動きを封じている。
「リュウ先生、そっちはまかせましたわい!」
セキトリはシャルローネさんと組み討ちを演じている敵へ、腰の辺りに強烈な一撃を。私はマミさんが相手をしている槍士にからみついて、戦闘の邪魔をする。簡単に投げたり極めたりしては、それこそ出禁になってしまいそうだからだ。
脇差しの柄で突いて、鉄扇で兜を打つ。もちろん無敵甲冑なのでカスダメしか入らない。その隙にマミさんがラリアットのような大外刈りで敵をひっくり返す。その時点で私たちは一度距離をとった。
さてトヨムとカエデさんのタッグ。こちらはまずカエデさんがちょっかいを出す、その隙にトヨムがインファイト。残る二人の敵は、カエデさんが相手をする。相手をするといっても、キルやクリティカルが目的ではない。ただひたすらに敵の攻撃を受けるだけ。いわばカメになっているようなものだ。
ここでトヨムの右拳、鬼手甲(小)が変わっている。鬼手甲(中)というものらしい。ボクシンググローブほどの大きさで、トヨムの顔が隠れていた。鬼手甲(小)はあまりその効果を発揮できなかったが、今回の(中)は威力が上がっている。
ここぞというときにトヨムがボディへストレートパンチを突き込むと、敵は大きく後退した。
その隙に二人を相手にしているカエデさんへと、援護に向かうのだ。左はいつものオープンフィンガーグローブ、これでうるさくジャブを入れる。敵がこちらを向いたなら、もう別の敵へと向かっている。カエデさんと二人で三人の敵を相手にするには、有効な動き方と言えた。
残り試合時間、二分。
「そろそろエンジンをかけていきましょう!」
カエデさんの号令で、私は敵の関節を極めた。そのまま投げを打つ。もちろん脳天真っ逆さまだ。その腹にマミさんがトンファーを握ったフックを打ち込む。トヨムに次ぐ回転数だ、すぐに鎧は破壊され、敵はひとり撤退。セキトリも強い当たりからの長マサカリ右から左から容赦なく攻撃を加える。もう一人のフルプレートアーマーは、マミさんとシャルローネさんで痛めつけていた。
手が空いた私は、トヨムたちが相手にしている三人の鎖帷子を相手にした。トヨムがかなり殴りつけていたのだろう、投げ技ひとつで防具は破壊され脇差しのひと突きで撤退した。トヨムも左右のフックを相手の腹に集めている。今回の得点王はトヨムかもしれない。
ということで、私はカエデさんの相手に後ろからそっと目隠し♡
その瞬間からカエデさんは丸楯で突き込み、片手剣の柄でゲッシゲシと乱暴に殴り始める。いかにキルを気にしないとか、あれこれの難しい仕事を引き受けてくれるとはいえ、カエデさんにもそれなりのストレスは貯まっていたのだろう。敵が撤退するまで暴力的な破壊衝動は止まらなかった。
そら、敵はどんどん復活してくるぞ!
まず復活したのはフルプレートアーマー。これは私が鉄扇で胴体を散々に打ち据えて、投げ技で胸当てにおおきなダメージを与えてから後続にまかせる。次なる相手は鎖帷子の剣士、カエデさんが撤退させた相手だ。今度は後ろへ回り込んで、情けを与えるように羽交い締め。トヨムが腹へ連打連打連打。鎧を破壊したところで次の相手に移った。セキトリが仕留めたフルプレートアーマーだ。思い切り薙刀を振るってくるが、影の足でスルリと背後へ回る。羽交い締めからのドラゴンスープレックス。いかに鬼軍曹山本小鉄といえども、危険視して舌が巻かないようにボールペンを突っ込んで来そうな出来栄えだった。しかし敵は無敵兜、撤退はしない。が、トヨム小隊の前衛はできている。カエデさんが懲らしめるようにして片手剣で斬り刻む。
そこへ追いついてきたのがセキトリ、マミさんシャルローネさんだ。
まだ生きている敵にとどめを刺して、復活者に取り組む。しかしここでゴング。試合終了だ。
判定、七対零の完勝スコアで勝利を納めた。
「ほえ〜〜……無敵甲冑相手でも、圧勝できるんですねーー……」
あ、すみません。観客席のヒカルです!
今は熟練格に昇進した鬼神館柔道総帥、フジオカ先生のとなりでベンキョーになる解説を受けながら、トヨム小隊の一戦を観戦中です!
「そりゃそうさ、トヨム小隊は精鋭揃いだ。リュウ先生を筆頭にキルを取れるメンバー、さらには軍師カエデさん。この程度の不正なんぞに負けるものではないさ」
グッドミドル、フジオカ先生はほくそ笑むように答えてくれました。ちなみに、何故フジオカ先生なのかというと、私の師匠である士郎先生は次の六人制試合に臨むべく、ブリーフィングルームで待機中だからです!
「えっと……私にはまだ分からないんですけど、カエデさんってそんなに凄いんですか?」
そう、成績はあまり目立たないし見た目もシャルローネさんやマミさん、トヨムお姉さまにはもう少し届かない。そんなカエデさんが陸奥屋一党とまほろばの重要人物だなんて、あまりピンと来ません。
するとフジオカ先生、ニコニコとおっしゃってくださいました。
「ヒカルさんも六人制試合ではカエデ流の動きをしていたのに、まだピンと来ないかな?」
「はい、お勉強は得意じゃない方なので!」
「勉強も頑張ろうな、そうでないと……」
フジオカ先生が指差します。
「あんな風になるぞ?」
「マミさんや、嗚呼マミさんやマミさんや……」
そこには戦闘のときとはまったくの別人、鼻の下をだらしなく伸ばしたナンブ・リュウゾウさんがいました。勉強も頑張ろう、ヒカル十三歳。決心の秋でした。
「で、ヒカルさん。六人制試合ではカエデさんのような動きをして、どうだった?」
「正面衝突のゴッチンコをしているところに、横から後ろから斬りやすかったです!」
「おかげでキルを稼げた訳だけど、カエデさんは自分でキルを稼ぐために背後へ回る訳じゃない。他のプレイヤーがキルを稼ぎやすいように、背後から攻撃するのさ」
「おぉーー……」
「感心してる振りをしているけど、本当はまだピンと来てないだろ?」
「はい、おっしゃる通りです……」
「じゃあヒカルさんにもわかりやすいように……キルを一度に六人から取ると、六人の敵が一斉に復活してくるよね?」
「はい! そこまではわかります!」
「ところが三十秒に一人キルを取ったら、一人ずつしか復活してこない。まあ、復活してから戦闘に参加するまで三十秒はかからないけど。これがギリギリ間に合わないタイミングでキルを取られ続けたら?」
「いつまで経っても五人で戦わないといけなくなります……なるほど、それを調整するのがカエデさんなんですね!?」
フジオカ先生は大きくうなずいてくれました。それにしてもこんなにわかりやすく説明してくださるとは、きっとフジオカ先生は頭の良い方なのでしょう!
……なのに何故、お弟子さんはああなんでしょう?
「おぉマミさん おぉマミさんやマミさんや……」
……まるっきり、呆けたおサルさんです。
「ただね、ヒカルさん」
フジオカ先生のお言葉はまだ続くようです。
「今は新兵格だからヨシとしても、突っ込み癖は早目に直した方が良いと思うよ?」
「なんでやねん!」
そこにはいない、見えない相方へツッコミチョップ。
「そのツッコミじゃなくて、とにかく前へ、とにかくキルをという戦闘方法だね」
「撃ち合い主義はだめですか?」
フジオカ先生は首を横に振ります。
「ヒカルさんはプロなんだから、撃ち合い上等主義は大いに結構。だけど今は闇雲に撃ち合いを演じているように見えるのさ。もっとこう、『行くときは行く!』『行かないときは行かない!』『退るときは退る!』をハッキリさせた方が良いよ」
「参考になる選手はいますか!」
私が訊くと、フジオカ先生は目を細めて、「おう、師匠たちの登場だぞ」と。
「そうだな、鬼組で見るならばフィー先生かな?」
正直打ち明けると、これも意外な名前。フィー先生は私よりも少し背が高いですが、明らかに小兵の戦士。銀髪で童顔、まるで同級生のような方ですが薙刀の名手です。
「フィー先生のショット&ランに注目して試合を拝もうか」
次回、鬼組対無敵甲冑です!