もう一丁!
無敵甲冑とはいかなる物か?
その情報を探るために、復活してきた相手に関節技をかけてみる。無防備なヒジ。簡単にポッキリと折れた。では、当てを着けているスネを蹴る。防具にミリのダメージ。さらに防具の無いヒザ関節へ蹴り。これも簡単に折れる。
「リュウ先生! 防具の無い場所! 防具の無い場所へ攻撃して!」
カエデさんの声が届く。ではその『防具の無い場所』とは?
相手の背後へ回り込む。ヒザかっくんを食らわせてからバックブリーカーの要領で担ぎ上げ、飛行機投げ。相手は脳天から真っ逆さま。したたか地面に串刺しとなり撤退。
これでわかったのは無敵甲冑の無い場所は普通に無防備な場所。どんな攻撃も通る。
そして投げ技は効果が大きい。無防備な場所を狙った投げ技は、一発撤退につながりやすい。
そしてこれまでの体験では、無敵甲冑着用部位を攻めた場合、無敵甲冑を破壊しないと撤退には追い込めない。おそらく無敵甲冑に浸透勁を打ち込んでも、撤退には追い込めないのでは?
試してみよう。対戦相手を捕まえて、胸当てに浸透勁。本来なら撤退まで追い込めるはずなのに、胸当てへカスダメが入っただけ。
うん、無敵甲冑を破壊しないと、本体にダメージは入らないようだ。本当なら無敵甲冑ほど敵の本体にダメージを与えやすいはずなのに、ライフはまったく削られていない。このような理不尽を現実のものとするから、不正ツールなのだろう。
では、胸当て部分を痛めつける投げ技はどうだろうか? 引きずり込んで胸から落ちる投げ技。
殴ったときよりもダメージは通った。ゲージがグッと減っている。
だとしたら? 英雄格で無手を選んだ私、かなり有利ですなぁ。だがそれを良いことに投げ技を連発したら、出入り禁止の措置をされそうだ。
投げ技が大きな効果。
浸透勁は入らない。
甲冑を剥いだ場所にのみ攻撃は一発有効。
ざっくりとまとめれば、無敵甲冑の特徴はこのようになった。苦戦をするではないが、正直このくらいのハンデが無ければ、私たちもゲームを楽しめない。
それを証明するように、手刀で首筋に一撃。敵を撤退させたところで終了のゴング。
「どうでした? どうでした? リュウ先生?」
無敵甲冑の良いデータが取れたのか、カエデさんが上機嫌で訊いてくる。
「うん、なかなか死んでくれないというか、色々な技や戦法の研究にはちょうど良い相手だね。ただし、勝ちすぎやりすぎで出入り禁止にならないようにしないといけないかな?」
「あ〜〜そうなりますか……そうなりますよね〜〜……」
私の気がかりは、カエデさんにも通じたようだ。苦笑いを返してくる。
そしてやれやれどっこいしょーと言いながら、「それじゃあこのカエデちゃんが、トヨム小隊のヘボなところを晒して来ましょうかねー」と腰を上げた。いや、なにもそこまでは頼んでいないのだが……。それでもカエデさんはゆく。トヨム小隊が勝ちすぎないように。
ゴング。
敵は仮面のような兜をかぶり、胸当てに鎖の着込み。腰には垂れを下げて、手甲にスネ当て。明らかに機動力を重視した装備であった。そして得物は片手剣を二本。つまり双剣というもの。してこの双剣というもの、一見守るに良し攻めるに良しと考えがちであるが、実はそうではない。打太刀ひと振りの打ち込みをきっちり受けるためには、十字受けしか手段が無い。両手で打つ一刀の斬撃は、片手では受け切れないのである。
そうなると双剣士は、体捌きで両手剣術を凌がなければならない。そう考えると、高度な技術を要求される得物というのがわかるだろう。そして攻めるとなれば、片手剣が二本というだけ。深々ざっくり、一刀両断とはいかないのだ。狙うは関節の内側、あるいは首筋あるいは柔らかい部分。そうした箇所の血管を狙うのがセオリーだ。
そして人間というものは、両手の得物を同時に扱えるほど器用にはできていない。つまり、修練や熟練が必要とされる得物なのである。
そのような相手にカエデさん、いかように立ち振る舞うのか?
まずはカエデさん、定石通りに丸楯に身を隠し、片手剣の切っ先を敵へ向ける。敵は中国武術のようにヒュンヒュンと双剣を振り回した。
……丸楯で受けて片手剣でカウンターの小手打ち。すぐに敵が素人と知れた。おそらくはカエデさんもそのように見ているだろう。しかしそれは今までの不正者相手の定石。英雄格では無敵甲冑が待っていた。カエデさんはヘボを見せると言っていたが、果たして……。
金属音が連発する。攻めは敵、受けはカエデさん。丸楯と片手剣で連打を防いでいる。その中でペチリとカウンター。無敵甲冑の小手に向かってだ。しかし、効果は薄い。
「カエデ! 小手にカウンターだ! 効いてる効いてる!」
トヨムが声を枯らす。
「楯で押し込め、楯で! 敵が崩れたら攻め放題ぞい!」
セキトリも声援を送った。二人の言葉に、それぞれの得意が表れていて妙だ。トヨムはボクシング風にカウンターを、セキトリは力士らしく相手を崩すことを考えている。
しかし敵は無敵甲冑を良いことにグイグイと攻め込んでくる。
「ああっ! くうっ!!」
カエデさんの革鎧、そして衣服に敵の刃が走る。しかしカエデさんは敵の小手にカウンターを浴びせ続けた。そこしか狙えない、とでも言うかのように。
そして丸楯で押した。敵の刃を受けながら。カエデさん前進、敵の太刀を浴びても浴びても、愚直なまでに前進。そして敵の小手に攻撃を加えながら、無念の撤退。そのときようやく、敵は小手は砕け散ったところだった。
カエデさん復活! 身体のダメージも革鎧のダメージもオールグリーン。万全の状態である。
丸楯に隠れてただ一途に、カエデさんは突撃。しかし今度はショット&ラン。巧みに敵の攻撃を避けながら、反対側の小手を打つ。入る、出る。入る、出る。入ると見せかけて空振りを誘う。空振りしたところでカウンターの一撃。しかしそれにも限界はある。なにしろ何十発も打たなければ、防具は破壊できないのだから。
とはいうものの……。敵も敵でどうしたものだ、あれは?
革鎧しかないカエデさんを、一撃で仕留められないでいるじゃないか。まあ確かに、片手剣を二本持っているのだから攻撃力が落ちるのはわかる。わかるのだがしかし、下手なら下手で両手武器くらい持ってきたまえと言いたくなる。
カエデさんのヒット&ランに敵はなかなか追いついて来られない。なにしろカエデに小手の防具をひとつ奪われているのだ。思い切った攻撃に出られないのだろう。無敵甲冑を装備しているのに。いや、無敵甲冑を装備しているから、なのかもしれない。不正者は不正をはたらいている、故に負けるわけにはいかない。確かカエデさんは以前そんなことを言っていたはずである。
カエデさんの革鎧が破壊されたところでタイムアップ。三分間の試合時間が終了した。
判定は敵に。カエデさんの『わざと殺さない闘い』と、敵のヘボい攻撃が目立った試合となった。
「これで私が小隊のお荷物、穴と見てもらえれば大成功なんですけどね」
「カエデに攻撃が集中するだなんて、アタイは納得しかねるけどな」
憮然としたトヨムの肩を抱き寄せ、カエデさんは親愛の頬ずり。
「でもそのときは、小隊長が助けに来てくれますから♡」
お姉ちゃんから頬ずりされる弟くんのように、トヨムはどこかくすぐったそうな顔をした。
で、マミさん。こちらも精彩を欠いた試合振りをわざと披露。それでもここぞというときは柔道の足払いで相手を転倒させて、ワンツースリー。徹底的に兜を狙い続けた。マミさんもノーキル、しかし打撃回数と兜へのダメージが認められた判定勝ち。辛勝というムードを演出してくれる。
「だけど旦那、もうちょっとこう……暴れ足りないっていうかさ……」
なるほど、トヨムの言うとおりかもしれない。メンバーは五人ともウズウズしている。
「じゃあ今度は、本命の六人制試合。……出てみるかい?」
もちろん都合の悪い者はいない。全員でブリーフィングルームにはいった。
相手チームの情報。三人がフルプレートアーマー、残る三人は鎖帷子に胸当てなどの軽装備。
フルプレートアーマーは長斧に槍に薙刀。鎖帷子の三人は剣を装備。
「まず前提として、相手チームは全員無敵防具の不正がかかっていると想定しましょう。おそらくフルプレートアーマーの方が防御が固く、鎖帷子はそれに準ずる防御力です」
「だとしたら、相手の初手はフルプレートさんたちでゴリ押ししてきそうですねー」
「そうね、マミ。これにはセキトリさんとシャルローネ、マミとリュウ先生で当たってもらいましょう。もしも鎖帷子が先に出てきても、屈強四人衆で慌てず対応をおねがいします」
「するとアタイとカエデでタッグだな?」
カエデさんがうなずく。
「前衛がガッチンコしている間に後ろへ回り込み、背後からの奇襲です」
「ほいじゃあカエデさんが回り込みやすいように、ワシらはワシらで策を講じるかい」
「基本はコカす、だろうな。そうの軽重を問わず、まずは足止めが先決だろう」
とりあえず戦力の漸減だ。それを見込んでのカエデさんの配置だろう。柔の私、柔道とトンファーのマミさん。セキトリの相撲にシャルローネさんの死神鎌。かなりの数をコカせそうだ。