デビュー戦
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城門をくぐると、そこはすでにひとつの街であった。人々が行き交い、市場のように屋台が出ている。もっともその屋台は、武器や防具あるいはそれらを作り出すための素材を売るものであった。
なかにはオート屋という看板を掲げた屋台もある。どうやらそれは必殺技コンボを有償で提供してくれる屋台のようで、なかなか人気の店のようである。
勝手な想像ではあるが、任意発動で自動に技が繰り出される技というものはどういうものかと考えてみた。ひょっとしたら直線道路でスポーツカーやスポーツバイクを加速する快感に似ているのだろうかと。
このゲーム世界では運動や戦闘を疑似体験できる。手の平には打った感触や斬った打ったの感触があるので、爽快感がある。もちろん武器をピッと振った感覚も気持ちがいい。驚くほどの臨場感を売りにしているので、この感覚は大変に重要である。その爽快感をゲーム内通貨で購入できるのだ。人が集まるというものだろう。
これを購入すれば、誰でも漫画やアニメのような格好いい技を繰り出すことができるのだから。
そしてこの街には「大変に格好いい技」が似合いそうな、大変に格好いい人間ばかりが行き交っている。はっきり言って和服にちょんまげ、木刀差しなどというのは私ひとりだ。しかし五周くらい回ってきたら格好いいだろう? という顔で平然と歩くことにする。
そしてあえて描写はしていなかったが、私の進行方向、道の突き当りには巨大な建造物が建っていた。それはどう見ても闘技場にしか見えない。
……中世ヨーロッパ風な世界に、コロシアムである。大変にわかりやすくていいのだが、それでもこのセンスには「なんだかなぁ……」と思わざるを得ない。
まあ、なんにせよ、私の目指す場所はあそこなのだ。迷うことなく一本道を歩く。
そしてコロシアムに近づくにつれて、いかにもという男女が増えてきた。古代ギリシアローマの戦士、あるいはヴァイキングといった風体の男女である。
中には騎士のように全身を鎧兜で固め、長槍を携え楯を備えたものだともいる。かと思えば、装備に金をかけられない初心者なのか、粗末な革の防具に安物の槍、ボロのズボンにくたびれたシャツというものもいる。
いや、むしろそうした初心者風の者が多い。みなゾロゾロと、コロシアムに向かってゆく。ちょっと装備のよろしいものは、立ち止まって情報交換でもしているのか、談笑していたりする。
私は初心者の群れに従った。
入場、いきなり画面が切り替わって、ロビーのような場所に出る。
「いらっしゃいませ~♪ コロシアムは初めての方ですか?」
女性が声をかけてきた。モダンな東京のバスガールとでも言いたくなる、制服姿のオシャレさん、といったところだ。私は、「あぁ、初めてなんだ」と正直に答えた。
「私はリンダ、この闘技場の案内、受付をしています! お見知りおきを♪」
リンダはいきなり選択を迫ってきた。
どうします?
① 戦闘に参加する
② 戦闘を観戦する
私は戦闘に参加するを選んだ。
「回復ポーションはお持ちですか? あ、初期装備で受け取ってますね。チュートリアルで経験していると思いますが、回復ポーションには二種類あります。赤玉は欠損部位や負傷した部位を復活させるもの。青玉は体力が残りギリギリのときに回復させるものです。どちらも一試合で一回しか使えませんから、ここぞ! というときに使って下さいね? なお回復ポーションは闘技場売店で販売してますので、使用後はゲーム内通貨で購入してください♪」
ちゃっかり宣伝までしてくれた。で、次に迫られる選択は戦闘形式であった。
〇 一対一
〇 六人制
〇 十二人制
この世界では六人制がポピュラーのようである。動画サイトの動画でも、それが一番最初にヒットした。つまりツワモノはここに集う、と勝手に思い込み六人制を選択した。
装備の変更はありませんか? と問われ無いと答えた。それではこちらへどうぞ、と招かれドアの前に立つ。
「まずは他の五人と顔合わせ、それから作戦会議です、頑張ってくださいね♪」
視界が切り替わった。プロレスやボクシングの控え室を思わせる部屋だ。そこに甲冑姿の四人の大男と、子供がひとり。子供は男の子か女の子かわからない、やせっぽちで褐色肌。ベリーショートの子供だった。
大男たちは私に一瞥をくれる。そしてひとり、またひとりと消えて行った。
「? ? ?」
キツネにつままれた気分でいると、子供……名前はトヨムと表記してある……は言う。
「あらら、みんな出てっちゃったよ……」
「どういうことだ?」
「おっちゃんが望み薄な中型アバターだってのがひとつ。それから貧弱装備だってのがひとつ。勝ち目が無いと見て、試合放棄したんだね」
「そうか、そりゃあ君には悪いことしたかな?」
「トヨムでいいよ、おっちゃん」
「私もリュウでいい」
リュウは私のプレイヤーネームだ。
「で、リュウおじさんは本気でその装備なのかい?」
「あぁ、考えに考えた装備だ」
「ってことは、腕に覚えあり?」
「まあな、そういうトヨムは?」
「アタイはちゃんと装備してるよ?」
ベリーショートの髪型の下、凛々しい眉毛のさらに下の眼力あふれる眼差しを輝かせて、トヨムは拳を突き出した。指無しの革手袋に角が尖っている。トヨムの武器はどうやらふたつの拳のようだ。
「打拳が主武器なのはわかるが、トヨム。お前甲冑は身につけないのか?」
「あんなの邪魔で重たいだけさ! チュートリアルのチユちゃんにも怪訝な顔されたけど、アタイの防御は脚がしてくれるさ!」
なるほど、チユちゃんが私のことを「たまにこういうヤツがいる」とか言っていたが、早速同族に出会ったようだ。私は和服に袴姿だが、トヨムにおいてはさらに軽装。鉢巻にノースリーブの黒シャツ。バミューダのような短パンにバスケットボールシューズのような安全靴からルーズソックスがのぞいているだけ。スピード重視にもほどがあると言いたいが、私にその資格は無い。
「お、リュウの旦那、そろそろブリーフィングタイム終了だぞ? どうする?」
「私たちは二人で六人を相手にするのか?」
「いや、抜けた四人の根性なしのかわりに、NPCが穴埋めしてくれる。もっともこいつら、やられることと試合を成立させることが仕事みたいなカカシなんだけどね」
「なるほど、では制限時間の間に、五人をキルに追い込めば私たちの勝ちか……」
「言うねぇ、旦那。それじゃあそろそろ試合開始だぞ!」
「おう、一丁やってやるか!」
試合場に場面転換。体育館程度の広さの四角い砂地。しかし雰囲気重視なのか、すり鉢状のコロシアム建築である。
私とトヨムは前衛。大柄アバターのNPCたちは後列に並んでいる。
カウントダウン! 3……2……1……銅鑼が鳴った!
向こう正面から六人の西洋甲冑武者が駆けてくる。手に手に長柄の斧、槍、スパイク付きの棍棒を持って駆けてくる。
「トヨム、私の背後につけ、私がしゃがんだら一歩後退しろ!」
「わかったよ、旦那!」
ということで、こちらは私が先頭。トヨムが背後に続き、遅れてNPCの甲冑武者が四人。まずは正面対正面の激突! とはならない。私は鎧を着込んでないのだ。立ち合いの衝突を避けて片膝を着く。そこから抜刀! 向かって右の敵の太ももを抜き打ちで打った。
手には確かな手応え、そして派手な火花を散らしながら、太ももの防具が吹っ飛んだ。返す刀で左の敵にも同じ攻撃を加えた。こちらも同様の結果だ。
柳心無双流居合、奥伝技『片手燕返し』である。左右の敵をひと呼吸で葬る技だ。そして左手も添えて、今度は『諸手燕返し』をお見舞いする。これも手応えあり!
Criticalの文字とともに敵は脚を一本ずつ失った。
「トヨム!」
と叫ぶが早いか、相棒は脚を失って回復ポーションをまさぐる敵の兜にワンツーを叩き込んだ。兜が弾け飛ぶ。見事なCriticalショットだ。そしてさらけだした顔面に、返しの左フック。
敵はあっさりと一人退場。私は脚を失ったもう一人の小手を打ち飛ばし、無防備になった腕を両方とも奪った。
しかし、私たちに襲いかかる敵は大型甲冑武者が四人。残り二人はまったくの無傷。これが片膝着いた私に襲いかかってくる。
私は頭上で木刀を旋回させた。無双流剣術初伝技『旋風』である。これは左右の横面を連続して斬る技だが、私はこれを相手の小手に見舞う。小手、小手、小手、小手!
派手な演出が連続し、手の内にも確かな感触。そして左右2ペアの小手をすべて破壊。さらにしつこく旋風。二人の敵から左右の腕を奪った。
さらに逃げられないように、諸手燕返しの連続で脚を奪い、鎧の胴を破壊し、兜を打ち消した。トヨムはすでに二人目の武者も退場に追い込んでいる。
「トヨム、こちらの二人もまかせたぞ!」
「あいよ! 今いくからな! 待ってて旦那!」
待ってなどいられない。敵の残る二人、どちらも大型武者たちが、ウチのNPC四人を試合場の隅に追い込んで、無体を働いてくれているのだ。ただし、こちらは初心者なのか、防具があまり上等ではない。私は敵の背後から近づき、やはり脚から奪った。
片膝を着く二人の武者、そして回復ポーションをまさぐる。初心者の割に冷静な対応と言えよう。しかし私からすれば、次の動作が透けて見えるというところ。回復ポーションの伸ばした小手を打ち小手を打ちして腕を奪う。それからもう片方の腕を。さらには胴、兜と破壊してボロを着た戦士の姿をさらけだす。
そのうちの一人と目が合った。巌のような、男らしい黒髪の若者だった。その顔面に、スパイクグローブがめり込んだ。Critical!
トヨムの一撃で彼は退場。残る一人もトヨムの連打を浴びて消滅した。
わずか三十秒の惨劇。
私とトヨムは圧倒的な不利を覆し、デビュー戦を勝利で飾った。試合時間をたっぷりと残して……。
今日から三日間日2回更新。次の更新は16時になります。