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さてここで疑問が生じた。プロ試合についてである。あまりに多くなり過ぎなきらいのあるプロ選手たちだ。さすがプロという試合を見せてくれるのか? それとも長槍でチョコチョコ突いて、ショッパい試合で勝ちを狙いにいくのか? 断然後者が多いだろう。英雄格へ上がる前に豪傑格で何試合かしたが、ライセンス取得者に限ってみな長得物を手にしている。そう感じてしまったからだ。
「どう思う、士郎さん?」
「そりゃいかんな、リュウさん。せっかく人気の『王国の刃』、プロ化によって人気が落ちるかもしれん」
士郎さんも同意見のようだ。
「どうだろう、ここは総裁に意見して、少し根性無しを減らしてみようかと思うんだが」
「いいのかい、運営にケンカ売るようなもんだぜ?」
「だからよ、スポンサーの一人である総裁に一言申してもらうのさ」
キツイ一発になるだろうな、と士郎さんは笑った。が、やはりプロはプロ。それなりのモノは見せてもらいたいというのが人情だ。そうでなくては私たちも浮かばれない。
ということで、プロ試合のスポンサーとしてさっそく名乗りを上げた鬼将軍のもとへ。
「いかがなさいましたかな、両先生お揃いで?」
「実はプロライセンス取得者に対して、少し申し上げたい問題が……」
「…………………………………………」
鬼将軍はアゴの先にウメボシを拵えて考え込んでいた。
「……リュウ先生、そのお見立てに違いはございませんかな?」
「おそらくですが、間違いなく」
「士郎先生のお見立ては?」
「同志リュウに同じく……」
「して、王国の刃人気を維持するには、いかがすればよろしいか?」
私は口を開いた。
「まずは打ち合い、これは人気が出ます。欲張ったことを言うならば、クリティカルのひとつも取れることが望ましいでしょう」
「新兵格にそれは荷が重すぎではありませんか?」
もちろん荷が重いと言えば重い。しかし現状王国の刃新兵格では、野球経験者と思われる者でもクリティカルを取ったりする。的確に的をとらえて、力一杯振り抜けばクリティカルが取れない訳ではないのだ。
だから私は自信を持って答える。
「そのようなことはありません。新兵格でクリティカルを出しているのは剣道でも古流でもなく、実は野球経験者が多いのですから」
「だからこそ上質のファイター、決してケチ臭く勝ちを狙おうとするものではなく、積極果敢に勝利を渇望する者が求められるのです!」
士郎さんが続いた。
「実際のところ、運営はそうした点は懸念していないのでしょうか?」
もちろんあった、いや無い訳ではなかったと、鬼将軍は答える。
私は士郎さんと顔を見合わせる。
「でしたら総裁、プロ競技前の予告編動画で、俺とリュウさん……同志リュウとで爆弾を落としてみようと思うのですが?」
爆弾、という単語に鬼将軍は反応した。こういう男なのだ、鬼将軍という男は。
「何をやるのかね、先生方?」
「ショッパい試合を目指しているような連中に、ライセンスを返上させようかと」
「運営としてもそれは困るだろう?」
「運営もにトラブルは未然に防ぎたいでしょうから。あとは総裁、お願いします」
鬼将軍、瞑目して考え込む。そしてかなめさんを呼んだ。
「かなめ君、どう思うかね?」
「先生方にお任せしてもよろしいかと。責任を取るのは総裁ですから」
「やはり私が尻ぬぐいかね?」
「草薙先生も和田先生も、品質向上を思っての訴えですので、総裁としてはドンと来い! でなくてはなりません」
厳しいものだな、男というのは……。そう言って鬼将軍は首を縦に振った。そしてかなめさんに、運営へ繋ぎを取らせる。
運営の企画としては、プロテストでクリティカルを出したヒカルさんにスポットを当てたい。もちろん他にも新兵格でクリティカルを出した選手はいるが、そこは人気の出そうな小さい女の子。しかもその指導を私と士郎さん、王国の刃世界で三人しかいない『災害』認定のうち二人がしているのだ。
嫌でもなんでも目立つだろう。
「はじめましての方ははじめまして、そうでない方は俺にキルを取られたかな? 王国の刃で災害認定を受けたひとり、士郎です」
「さあみんな、これから小さくて可愛らしい女の子が出てくるよ。災害認定されたおかげで、最近は得物も持てないリュウです」
「こんな俺たち二人が、なんと今回の予告配信では、期待の新人を取り上げようというのだよ!」
「はい、それはどのような新人さんでしょう?」
「王国の刃レギュラーマッチにさえ出場しない状態でプロライセンスを取得してしまった、ヒカルさんです! はい拍手!」
画面の中にヒカルさんが登場、私たちに頭を下げて、真ん中に座る。
「はじめまして! プロライセンス取得しました、某学園中等部壱年龍組のヒカルです!」
服装はごく普通の黒いニットのハイネックに、デニムパンツ。靴はコンバースの赤いハイカットスニーカーだ。
まずはヒカルさんのプロテスト動画を、あれこれ解説しながら観戦。そしてフリートーク。
「さてヒカルさんは某学園中等部と言っていたけれど、ファイトマネーをどう使うんだい?」
「はい、会社の経営が傾いちゃったお父さんの借金にあてたいと思ってます!」
聞いていた目標通りの返答だ。
「そうなるとかなり稼がないとならないけど、大丈夫かな?」
「はい、そのような契約をスポンサーさんと交わしていただきました!」
「おお、契約社員みたいだね。こりゃあ立派なものだ」
「動画をアップして広告料を、というのとはずいぶん違うね?」
士郎さんも合いの手を入れてくれた。ここから先は、鬼将軍に運営と話をつけてもらっている。
「私はプロ競技といっても、広告収入を待つだけかと思っていたよ」
「リュウさん、そりゃ無い無い。それじゃあ動画サイトの配信者と変わらないよ。契約の仕方は様々だ」
「私は未成年だから、稼いだお金をきっちり管理してもらえる方が良いと思いまして」
「お金を稼いだら税金も取られるしねぇ」
本来そういった金銭管理はジムが行うものだが。今回のジムオーナーたちは、どれだけそれができるものか?
「会社員だと副業禁止なところも多いからな」
そこもネックである。
「実はね、ヒカルさん。運営としてもあまりに数の多いプロジムとプロ選手の数に不安を感じているんだ。そういった管理がきっちりできず、問題が起きるんじゃないかって」
「はぁ……」
「でもヒカルさんの場合は大丈夫そうだね。いろんな人がサポートしてくれる」
「ありがたいことです! みなさんに感謝です!」
今回プロテストを受けたみんなはどうかな? その辺りの管理体制はバッチリだろうか?
私は視聴者たちに問いかけた。鬼将軍が動いているのだ。この動画がアップされる頃には、ネットニュースで『プロゲーマーの落とし穴』らしき記事も上がってくるはずだが。
「会社勤めをしたくないから、とか働きたくないでござるって理由でプロ活動をするのは、大人の意見として言わせてもらうけど、やめておいた方が良い。基本的に働かないと稼げないし、稼いだら稼いだで面倒もあるもんだ」
「どういうことですか?」
ヒカルさんが食いついてきた。
「ヒカルさんのように目的がある人は良いけど、学生諸君。君たちは大きく稼いでどうするんだい?」
割と肝の話だ。
社会人ならお金なんて右から左、しかし学生……未成年だと実はあまりお金は必要無いものなのだ。そんな金銭を得ても使い道に困るのが関の山。親にバレるのは時間の問題だろう。
親にバレるということは、「あそこに大金を持ったチョロいガキがいる」という目で見てくる奴が現れる。もしかしたら、君の同級生、友人がそういう目で見てくることになるかもしれない。そこは大人の責任で強調しておいた。
とどのつまりは、「本気で稼ぐ積もりが無いなら、プロ活動は辞めた方がいい。トラブルに巻き込まれて人生が終わってしまうぞ」ということだ。
「ウチのメンバーにも釘を刺しておかないとな」
「自分で処理できないような多額の金銭は、身を滅ぼす元だからね」
私も身に覚えが無い訳ではない。若いうちは無闇と金を欲しがったものだ。しかしこの年齢になると少しだけ分かった。
金は上手く稼げる奴の元へ集まるのではない。上手く使える者の元へ集まるのだ。若いうちに金が無いなどというのは、ある意味当然のことでしかないのだ。スマホの使用料金のためとか、ゲームの課金のために稼ぐというのでは、まだまだ金銭には好かれないだろう。
「それにデビューしたところで」
私はヒカルさんの肩を叩く。
「こんな強い娘と闘うことになるんだ。デビュー前でクリティカル出すような娘だよ。不正無しで勝てるかな?」
もしかしたら、この言葉が一番視聴者に響いたかもしれない。
そう、本当に響いてしまったのだ。掲示板という場所で。
以下抜粋。
【あ〜〜……決まっちゃいましたねー
【なにが?
【なに?
【稼げるプロとライセンス持ってるだけのプロ
【ソースは何ですか?
【それやれば議論に勝てると思ってる奴
【ソースは動画
【見てわからんか?
【ヒロ〇キのなりきりは害悪
【スポンサー企業はもう動いている
【有望選手の獲得が始まってる
【やっべ! アタイスポンサーから声かかってねーじゃん!
【ご愁傷様……
【↑2 俺もだ。一緒にハロワ行こうぜ……
【それ貴方の印象ですよね? 印象操作はやめてもらえます?
【なりきりはやめてもらえます?
【俺も声かかっとらんが、何が違ったんかのう?
【プロテストの実技じゃね?
【プロテストの実技が公式配信されてんだ、そこ確だろ?
【俺もプロテストは塩だった。当然声はかかっていない
【なんかバレンタインデーの帰り道みたいな気分だな……
【↑よ、そこの俺
【お前らはまだ良い。俺なんて稼げる前提で会社に辞表出しちゃったもんね♪ テヘペロ(*ノω・*)
【ここに男がおる
【お前こそが無双格の上位、勇者だ
【だけどプロテストなんて基本基礎ができてるかを見るだけだろ? それなのに差をつけるのかよ?
【プロテスト程度でもクリティカルが出てしまう。それこそが真のプロ
【でもワンチャン無くね?
【あるさ、噛ませ犬というチャンスがな!
【塩には噛ませがよく似合う
【噛ませ犬に呼ばれるのは嫌だな
【それな!
【わたくしはライセンスを返上いたしますわ。噛ませ試合に呼ばれてボコられるのは御免ですもの
とまあ、このような流れで、数日のうちにプロライセンスはかなりの数が返上された。ネットニュースによる【注意! プロゲーマーの落とし穴】という記事もかなり効果を見せたようだ。