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一般プレイヤーヒナ雄の苦労

ブックマーク登録ならびにポイント投票誠にありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

 サル、サル、サル、サル、サル、サル、サル、サル、サル。全部合わせて腐る(九サル)。VRゲーム『王国の刃』で完全に行き詰まり、腐臭を発している一般人プレイヤー、ちょっとゲームは得意なヒナ雄です。はい、自分はゲームが得意だと自負していました。多少の困難に出くわしても、工夫と研究でどうにかなると思っていました。ですがこの脳筋ゲームにおいて、それは通じなかったで御座るよ、というありさま。


 それというのもこのゲームの『クリティカル判定』。ビッグポイントを獲得するためには絶対に必要なクリティカル獲得スキル。そのスキルを磨くのに、『刃筋を立てる』必要がある、とアドバイスを受けました。しかし刃筋を気にすれば威力が弱く、威力を上げれば刃筋が立たず。おかげですっかり自信喪失、僕のオトコも立ちましぇん。


 ゲーム世界で虚ろに過ごしていると、現実世界から電話がかかる。ま、このゲーム。そういうリアルに対応できるように、スマホを連結してるんだけどね。そして電話の相手は『日本の毒婦・出雲鏡花』というところが、さらに僕を抉ってくれる。


「もしもし?」

「ハァイ、悩めるオトコノコの救世主、出雲ラブリー鏡花さんですわよ♪」

「男の子をカタカナで言うな! 不気味過ぎるわ!」

「あら、でしたら男の娘ですの? 悪いことは言いませんので、決して外を出歩いてはなりませんわよ?」

「お前は僕をどうしたいんだ!?」



 ま、戯言はここまで。


「そろそろ煮詰まっている頃かと思い、電話してみましたの」

「あぁ、確かに煮詰まっているよ」

「具体的に申し上げるなら、刃筋を立てれば威力が足りず、威力を上げれば刃筋が立たず。というところでしょうか?」

「よくわかったな」


武士ブシお兄さまが貴方のごとき凡才の苦悩など、十四万八千光年の昔から察しておりましたわ」

「光年は距離の単位だ。時間の単位じゃねぇ」

「……………………」

「訂正しろ、学の無さがバレるぞ」


 ガチャッ……ツーッ……ツーッ……ツーッ……。

切ったか!? 手前ぇから電話かけて来といて、用件も言わずに切りやがったか、あのデコ!!

……とはいえ悩みを抱えているのはこっちだ。仕方ない、折れてやるか。

 メール作成……本文、と。


「申し訳ありませんでした、鏡花さま。以後わたくしめのことはブタとお呼びください」


 送信、と。

 するとすぐにコール。僕も即座に出る。


「ブーと鳴いて餌をむさぼるしか能のない憐れなブタ、ヒナ雄です」

「御自身がよく分かっておりますのね。よろしいですわ、過去のことは水に流してさしあげましょう」

「ブー」

「いま現在ヒナ雄さまは武士お兄さまの予言通りの問題に直面してらっしゃる。ここまではよろしいですわね?」

「ブー」

「鬱陶しいですわ、おやめなさい」


 よし、あのデコ助の心を折ったぞ。ここからは対等だ。


「で、武士兄さんは何と言っていた?」


 武士ブシ兄さんというのは出雲鏡花が僕に紹介してくれた古武道の人。ただし出雲鏡花が語るには「完全に人間がブッ壊れた方」らしい。


「手の内が出来てない。人を斬る手になっちゃいないよ。とのことでしたわ」


 手の内か……素人ではどうにもならない話、というかあれって剣士にしかわからない人類のミステリーだよな。


「ということで、これから天使のように心優しい鏡花さまが、迷える子ブタに手の内を説明してあげますわ」

「ブー」


 しまった、またブタに成り下がってしまった。

 とはいえここで手の内講座が始まった。しかし手の内というのは剣術流派で様々な教えがあるだろうから、具体的なことは割愛。描写を省略させていただきます。

 ……時間経過を表す改行と空白。









「ということで、以上が手の内、人を斬る手の講釈ですわ」

「っつーか出雲鏡花、それ本当に武士兄さんの言葉か?」

「ほぼ丸写しに語りましたが、それがどうかいたしまして?」


「いや……令和の時代にごく当たり前に『人を斬る手』なんて言葉が出てくるとは…」

「だから最初に申し上げたはずですわよ? 完全に人間が壊れている、と」

「いや、だけど助かったよ、出雲鏡花」

「どういたしまして、ちなみに回転寿司でも五〇〇円皿はなかなかイケるお味だそうですわね? ちゃお♡」


 おう、金持ちのご令嬢。そんなに回転寿司の五〇〇円皿食いたきゃ、手前ぇの金で腹一杯食って来いや。貧乏青年にたかるんじゃねぇ……。とはいえ折角の情報だ。試してみるか……。

 ゲシッ! 大して威力が変わらねぇ……。正確さは増したかもしれないけど、まさかガセじゃないだろうな?

いやいや、それにしてはあまりにも手の内講座の内容が具体的すぎた。


おそらく僕の何かが足りないんだろう。もう一度、頭上に振りかぶって……打つ!

 ゲスッ。……またもやクリティカル判定ならず。鎧はそのまま、ちょっと耐久ゲージを削った程度。

 さて、電話を切ってからものの三十秒でまたもや行き詰まったぞ。どうする?

 そうだ! こんなときは白百合剣士団の動画を見よう! ぅおっと! 白百合剣士団の新しい動画がアップされてるじゃないか! さっそく視聴視聴♪



 おお、今回のシャルローネさんは個人戦に出場か……ってぅおいっ! シャルローネさん、素顔をさらしてるよ!

 いつものような鉄兜じゃなく、革の防具に衣装チェンジ! こりゃとっても得した気分だね。しかも革防具の下は赤い学校制服、そして男子の注目を集めてやまない赤いスパッツ! 神さまありがとう、今夜はホームランだ!

 そしてシャルローネさんの容姿は、少女から大人へと移り変わるあどけなさと美貌がちょうどよく織り交ぜられた、まさに天使! マジ天使! 今夜は君のための夜だ!



あぁ、少し興奮し過ぎたな。でもよく見ると、ピンクの娘もなかなかに甘々で可愛らしいし、バストてんこ盛りの大盤振る舞い。そして青い娘もいささか地味だけど、こちらも可愛らしいじゃないか。白百合剣士団、ぶらぼー! どの娘をとっても美味しいじゃないか!

 ……ん? よく見ればこの三人、というかシャルローネさんと青い娘。微妙に背丈が違う。


 これはあれか? シンクロ率を上げるという、運営公認の課金カスタム。『オーダーメイド・アバター』というやつか!?

 ということは、シャルローネさんってリアルでもこんな体型……ハァハァ……。いやいや、邪な目で見るまいぞ、ヒナ雄。それは男として禁! 断じて禁なのだ!

 しかしピンクの娘、動くたびに胸が揺れるなぁ……。


 なにを見ておるか、男・ヒナ雄! こんな目なぞ潰れてしまえっ! セルフ目潰し! セルフ目潰し! うおっ! 思ったより痛い!

 まあ、反省の意味を込めた自傷行為はこの辺りでやめておくか。シャルローネさんの勇姿を拝まずに視力を失うなど、人生の痛恨事でしかないからな。



 ということで、試合観戦に戻る。

 ん?

 いつもと動きが違うな。いつものシャルローネさんは華麗な足取りで敵の攻撃をヒラヒラかわして、出す攻撃はすべてクリティカル。それが今回は鍔迫り合いからカスダメを奪うことに終始している。お、ここでクリティカルか。

 思い通りにならない攻防が続いているのか、なかなか思い切った攻勢に出ないシャルローネさん。だけど終わってみれば圧勝のKO勝ち。僕としては釈然としないけれど、思い通りにならない展開でも結果を出しているところがさすがなんだろうね。


 さて、興奮し切ったところで僕の問題だ。依然として手の内の問題は片付いていない。まあ、数をこなして クリティカルのコツを探すとするか。

 今夜もまた、カカシに鎧を着せる僕。




 そしてまた、僕はゲームへイン。初心者用の鎧をカカシに着せて、横面打ちにはげんでいた。

 するとコール。発信者は出雲・毒婦・鏡花である。すぐに出た。

「横面打ちでクリティカルは出せまして、ヒナ雄さん……、いえブタでしたわね?」

 この女、昨日のネタ引きずってやがんな? しかし僕の苛立ちをこいつに知られるのも癪に障る。ここはひとつジェントルに……。


「僕の研究が足りないのかな、なかなか思う通りの結果がだせないんだ」

「『そらそうだべ、ペロッと口で説明しただけで横面打ちができたら、剣士なんぞ必要ねーべや』」

「……………………」

「今のは武士ブシお兄さまのお言葉ですわ」


 確かに、武士兄さんならそう言うだろう。しかしだからといって、これまで出来もしないことをトクトクと説明するという、非合理とも考えられない。


「『コツがあんのよ、コツがよ。まず胸の前で合掌してみ』と申されてましたわ」


 言われた通り、合掌。


「『そっから斜めに振り上げてよ、ゆっくりと袈裟斬りに、ダブルチョ〜〜ップ』」

「ダブルチョ〜〜ップ」

「『今度は逆袈裟に、ダブルチョ〜〜ップ』」

「ダブルチョ〜〜ップ」


 何度も繰り返した。ゆっくりと丁寧に。そして刃筋を立てたコースで。


「武士お兄さまは申しましたわ。『そしたら左手の指先に右手の手首をスライドさせてよ、斬る手を作ってみれ』」


 その手に得物を握らされる。


「『得物を取ったらさっきの要領で、ゆっくりとダブルチョ〜〜ップ』」

「ゆっくりと、ダブルチョ〜〜ップ」


 グスッ……ようやく兜にスパイクが食い込んだ。


「『だべ? そしたらもう一息。最後のコツをよ』」

「教えてくれるのか!? さすが武士アニぃ!」

「次回の講釈をおたのしみに、ですわ」

「教えてくれないのかよ!!」

「回数こなしてしっかり身につけれ、とお兄さまが申してましたの」



 いや、たしかにそうだけどさ。というか、斬るというだけでいろんな要素がありすぎて、僕の脳はバースト寸前よ!?


「そうそうヒナ雄さん。わたくしマグロの解体ショーも見てみたいですわ、ちゃお♡」


 いかなる角度の敵にも刃筋を立たせるには、手の内とダブルチョップの要領。これできっと、シャルローネさんの技に追いつけるはずだ。次回の講釈、本当に使えるものを教えてくれたら、マグロの解体ショーをやる回転寿司に連れてってやるからよ、出雲鏡花。それまでは個人訓練だ。




 げしっ……やっぱり僕ってダメなんだろうか……。


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