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カエデさんやんちゃする 後編 バカなネタでごめんなさい。

カエデさんに連れられて来たのは、チームジャスティス拠点。毎週月曜日、悪く言うと私の目を盗んで若手の技術研究会は開催されていたようだ。月曜日の私は、現実世界で道場の指導があるので、どうしてもインが遅くなるのである。

そして開催場所もその日その日で転々とし、士郎さんや緑柳師範もその集結を掴んでいないものと思われる。

「すみませんがリュウ先生、大先生方には内緒の研究会ですから、窓からこっそり覗くだけでお願いしますね♪」

シャルローネさんのおねだり。別に美少女の上目遣いおねだりだからという訳ではないが、私はその言葉に従うことにした。私たちの目の届かぬところで、若者たちがどうしてるのか?

その点に興味があったのだ。

まず若者たちは、撤退の無い形式で伸び伸びと打ち合いをしている。私としてはケッコーケッコーな動きである。

だがしかし?

ジョージ・ワンレッツが吠えた。

「ジョージ・ダイナミック!」

片手で光る剣を振る大技だ。別な言い方をすれば、テレフォンパンチも良いところ。

だが、鎧は一撃で破壊している。


大技の練習? それともクリティカル? いや……なんとも言えない。

すると今度は長ナタを持ったヒナ雄くんだ。下からの斬り上げだが、左右から十文字に豪快な振り抜きを見せる。

「必殺、クロスソード!」

しかしこれは間を取られて躱されてしまった。ん? 必殺……?

そこへカエデさんが入場。研究会参加者が、おぉっ、とどよめく。

「カエデさんだ……」

「雲龍剣のカエデさんだ……」

なぬ? 雲龍剣といえばカエデさんの必殺技だが、カエデさんの評価はそうじゃないだろ。

そしてその評価のためか、カエデさんは死人のような表情だ。そしてカエデさんは上座に座らせる。ふむ、どうやらこの研究会ではカエデさんがとっぷなのか。参加メンバーもまほろばや鬼組といったAクラスではなく、Bクラス以下といった下級メンバーがほとんどだ。

とはいえ、集団の連携などを練習しているでなし、どちらかといえば個々で打ち合いをしている印象が強い。

「ゆくぞっ! 雷神突っ!」

今度はヒナ雄くんのところのメンバー、蒼魔くんだ。怒涛の勢いで思い切り良く突き突き突きの連続技である。これに対するはマヨウンジャーのリーダーマミヤさん。

「なんのっ、円月陣っ!!」

短めのメイスをクルリクルリと回し、突きの連続技を打ち払っていた。


なんとなく分かってきた。無駄な大技、そして打ち出す前に叫ぶ技の名前。そして崇められるカエデさん。もしや、これは……いやまさか……だがしかし……。

道場にシャルローネさんが入る。誰が言うとはなし、打ち合いをしていた者たちが分かれて、見学の位置につく。道場の壁際に並んで正座。その右側に得物を置いている。

シャルローネさんは道場中央。それに対するように、カエデさんが立ち上がった。

腰に、あの斬馬刀を落として。

だからね、カエデさん。斬馬刀なんてものは太刀持ちを従えて、それで抜くんだから。決して腰に差すものじゃないんだよ?

だが、抜いた。

そして斬った。

シャルローネさんは倒れた。

……おい、今なにをやった? このゲームは『王国の刃』。現実世界でできることはすべてできる、が売りのゲームだぞ? それがなんだ? あの斬馬刀居合は?

おかしいだろ!? いや、おかしすぎるだろ!?


「おう、リュウの字。覗き見たぁ趣味がよろしくねぇなぁ」

緑柳師範だ。

「なに、最近若い者どもの動きが良くなってるから、俺と師範で探りを入れてたのさ」

士郎さんもいる。

私はいま目にした信じられない居合に口をパクパクさせるしかできない。

「なんでぇ、リュウの字。お前ぇさん見てなかったのけ?」

「なにをですか!?」

ようやく声が出た。

「嬢ちゃんの口元よ。ほれ、も一回いくぜ」

「リュウさん、聴覚を上げるんだ」

またシャルローネさんが立つ、メイスを構えて。カエデさんも居合の手を柄に伸ばす。

カエデさんの小さな唇が動いた。

「……必殺、雲龍剣」

そう呟くだけで何故か斬馬刀は抜けた。そしてシャルローネさんが倒れる。そのときにはすでに、何故か斬馬刀は鞘に納まっていた。

カエデさんには必殺技がある。雲龍剣という必殺技だ。その原理を本人に訊いても、「無我夢中でよくわからないんです」という謎の必殺技だ。私が分析しても、「雲龍剣、相手は死ぬ」としか言えない技である。そしてその技を繰り出すとき、カエデさんは必ず雲龍剣と宣言するのである。

だからといって、そりゃあんまりだろう。


「おう、リュウの字。なにやってんでぇ、お前ぇも入って来いや」

いつの間にか緑柳師範は道場にあり、私たちを手招きしていた。士郎さんなどは、「邪魔するよ」などと、もう上がり込んでいるし。

「お嬢ちゃん、イイモン持ってんじゃねーか。どれ、オイラに貸してみな」

だから師範、それ帯にはさんで腰に落とす刀じゃありませんってば。それでも緑柳師範、シャルローネさんを手招きで呼び寄せて、絶対に斬馬刀の間合じゃないという場所まで近づける。

「いくぜ、シャルローネ……必殺、雲龍剣!」

抜いた!? 斬った!? 納めた!? そしてシャルローネさんは死んでいた!? 冗談にも程があるだろ、オイ!

え〜〜……今回のエピソードはあくまでギャグ回です。本編にからむような設定はほとんどありませんので、このエピソードを信じたりしないでください……。

「おう、士郎。お前ぇさんもやってみな」

相手はマミヤさん。これが柄頭に腹をつけるくらいの位置に立たせ。

「必殺、雲龍剣!」


何故か抜ける。この間合で何故か斬れる。そして物理を無視したかのように、何故かおさまった。そしてやはり、マミヤさんは斃れている。よしよし、そろそろ私も理解を示そうか。確かに今回のエピソードはデタラメだ。フザケているにも程がある。しかしこの王国の刃というゲームには、実際の人間には不可能な動きをさせてもらえる「必殺技」というコマンドがあるのだ。この必殺技を連発する不正者を「ブッパ」とも呼んでいたではないか。カエデさんの雲龍剣もその類いなのかもしれない。ただしこの設定は興ざめも良いところなので、私の推察は本編で活かされることは二度と無いだろう。「雲龍剣、相手は死ぬ」これだけで良いのである。

「いやぁ、楽しいじゃねぇか、王国の刃って奴ぁな、リュウの字よ」

すっかり師範は御満悦。しかし師範、申し訳ありませんがこのデタラメを楽しむには、この和田龍兵まだまだ人間ができておりません。

「おう、これじゃあまだ不足かい?」

師範が訊いてくる。「すみません」と私。「しゃぁねぇな」と言って師範は腰から斬馬刀を外した。左手で鞘を、刃は下向き。そして右手を柄に添えていた。

逆手抜刀、師範は斬馬刀を抜く。

下から走ってきた刃を、私は寸で躱す。しかし抜き放たれた切っ先は、私の顔をねらってピタリと止まっていた。

鬼一法眼が授け、源義経を祖とする京八流。その流れをくむ流派が、この抜き方をよくする。そして源平の時代の太刀は、打刀よりも長い。さらに言えば、この手を持つ幻のような流派が現存していると、二〇年ほど前雑誌で目にしたことがある。

「これで納得いったかい?」

「ごっつぁんでした」

私は眼福の思いで頭を下げた。






あ、どもカエデです。

せっかく私で始まったエピソード。こんなオチで終わったり……しませんよね? もう一丁美少女剣士カエデちゃんがなにかやって終わるんでしょ? そうですよね?

え? 終わり? まさか〜〜本当に終わっちゃうの? 私の出番は? 爆笑の活躍は!? ちょっと、おーい!

……………………。


fadeout


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