王国の刃 柔術編 草薙士郎
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残るふたりの剣士もまた、当て身で苦もなく倒した。その後のトヨム小隊の圧倒ぶりは、もう記しなくともおわかりだろう。
木刀を携えなくとも圧勝の成績を残した私たちは退場。入れ替わるようにして、陸奥屋一党鬼組が試合場に入場した。もちろん士郎さんは小太刀のみを装備。ほかのグローブなどは私とまったく同じように装備していた。
ケンカを売られたな。
そう感じた私を、カエデさんが諌める。
「リュウ先生、冷静な目で見ないといけませんよ? 謎の草薙流柔術、これを見極められるのは、リュウ先生しかいないんですから」
まったくそのとおり、ということで私は感情を捨てることに専念する。さて、草薙の柔術、いかなるものや?
銅鑼。やはりほぼ丸腰の士郎さんに敵は殺到する。今回はそういう趣旨なのか、忍者も直刃の忍者刀を構えていたのだ。
そして草薙流は猛然。やはりというか、入身で身体ごと突撃した。まずは体当たりのような突き。これは無双流と同じ。しかし囲まれてからが違う。上から下から、右から左から車輪のように激しく拳を振り回す。それも相手を押しつぶすように、前進前進また前進でだ。
ワンショットワンキルは、最初の突き一発のみ。振り回した拳は、主に敵を転ばすことに使っていた。それから蹴るのである。ヒザ、ヒジ、首を。この辺りは甲冑柔術なのかもしれない。
転ばす、コカす。これが洋の東西を問わず甲冑武者にとって致命傷なのは、読者諸兄もご存知であろう。鎧が重たくてひとりでは起き上がれないのだ。
さすがにvrmmoゲーム『王国の刃』において、重たいという感覚は無い。しかしあからさまに動きにくいのだ。まして転倒から立ち上がりまでとなれば、その所要時間は倍三倍にもなってしまう。
ここでまたもや蘊蓄タレ之助が登場。
みなさんもアマチュアレスリングはご存知であろう。そして最近ではあまり聞かないかもしれないが、アマレスにはフリースタイルとグレコローマンスタイルが存在する。
通称グレコ。なんじゃそりゃ?
という読者はこの作品を読んでいないことと思うが、グレコローマンスタイルというのは下半身への攻撃、有り体に言えばタックルを禁止したスタイルのレスリング種目である。
なんでやねん、レスの魅力は弾丸タックルやろが。私も昔はそのように思ってました。だがしかし、王国の刃をプレーしてみて初めてわかったのである。あんなクソ重たい甲冑、剣に楯を装備してタックルにいけば、確実に立ち上がれなくなるからだ。それくらいなら、剣と楯の攻防の中で組み付き、敵をひっくり返した方がよほど有効であろう。
技を制限することで戦場から生還する確率を上げる。そうした発想は私には無かったのだ。
試合に戻ろう。草薙流の柔を拝見しているのだが、これを柔に分類して良いものかどうか? 柔というよりも甲冑武術。柔術というよりも拳法のような闘いぶりだ。
とりあえず激しく凄まじい。草薙士郎大暴れである。得物の長短を問わず、彼の者にかかる者は皆倒された。
そして効率を上げるためか、ほかの者たちが倒れた甲冑兵にとどめを刺す。うむ、陸奥屋一党鬼組。有無を言わさぬ戦いぶりである。
そして草薙士郎は大仕事を終え、若者たちは残務処理をし、鬼組の圧勝で試合は終わった。
レヴュー、つまりおさらい。当たり前な話をするならば、草薙士郎は奥伝技はほぼ見せていない。それは私との一騎討ち(柔術編)のために取っておいているのだろう。しかしその真伝は推察できる。猛く激しい草薙流柔術、しかし私は見ていた。手足をいかに激しく振り回そうとも、その体幹はまったくぶれていない。巌のごとき城のような堅牢さで、存在感を表していた。
ということは?
草薙流柔術の奥の技は、頑強な体当たりと見た。体当たりを拳でする、体当たりをヒジでする。体当たりを足でする、といった具合に手足は枝葉。体幹こそが頑強な大樹の幹といった思想。それこそが草薙流柔術と私は踏んだ。
対して柳心無双流柔術。柳の文字が示すとおり、実は柔らかな当て身を極意としている。宛がう、押す、そして一番効いて欲しいところに向かって、どぉぉおん……と。
そして手足は柳の枝が人を引き留めるがごとく、うるさいくらいに絡みついてゆく。豪快な草薙流にくらべるといささか陰湿。そしていかにも柔というような手が信条なのだ。
お、この辺りで少し語っておかなければならないだろう。もしも空手、ボクシング、柔道やレスリングの猛者たちと我々が立ち合ったなら、無双流も草薙流も苦杯を舐める結果になるだろう。
現代格闘技は古流、伝統格闘技を基盤として発達してきたのだ。私たちは乗り越えられなくてはならない。それが本筋だ。ただし、現代格闘技が牙を失っていたら?
単なる競技での勝利を目指すだけに成り下がっていたなら? 私たちにもつけ入る隙はあるだろう。
私も士郎さんも、柔で活躍できるのは『王国の刃』だからだ。得物を所持し、甲冑を身につけた者相手だから真価を発揮できるのであった。だから私たちが現代格闘技をコテンパンにのすという場面は、いささかファンタジーが過ぎるものである。
そして鬼組、凱旋。観客席に戻ってくる。
「おう、士郎さん。大暴れだったな」
「へっ、よく言うぜ。手の内をまったく見せなかった男がよ」
「いやいや無双流ではあそこが限界。草薙流には及ばないさな」
「ご謙遜ご謙遜、和田龍兵の実力は俺が一番よく知っているぜ」
と、ここで士郎さんは真顔になる。
「で、リュウさんよ。実際のとこどうよ? 俺たちの柔は現代格闘技に通じると思うかい?」
まさか、と私は笑った。
「古流があった、そこから現代武道が生まれ現代格闘技が育った。新しく生まれた彼らはスポーツという種族だった。だから彼らは普及し、世界中のあちこちで研鑽された。そして洗練され磨き抜かれたんだ。古流という名の老人がヨボヨボと出て行って、『やあやあ我こそは!』なんてやっても、おじいちゃん無理しないで、って笑われるのがオチさ。そんなことを考えるよりも、甲冑得物戦で遅れを取らないことだ」
士郎さんも笑う。
「まったくその通りだ」
そう言って私のとなりに座る。もう、お互いに笑ってはいなかった。
そしてどちらが言い出したか。
「面白くないな」
「あぁ、面白くない」
「そんなお利口さんの理屈で終われるかよ」
「某巨大掲示版サイトの製作者なら、絶対にやろうとはしないだろうな」
「ただ、屁理屈をこねて我々を否定しない立ち位置を取ろうとする」
お互いに顔を見合わせて笑った。ファンタジーを現実に変えてやるのだ。
「しかしリュウさんや、これから俺たちが挑む現代格闘技への勝利。これをファンタジーという言い方というのも、ちと面白くない」
「ふむ?」
「そこで俺は今回の企画を『浪漫格闘』と銘打ってみたいのだが、どうだい?」
「ロマンか……」
「そう、常識で考えれば絶対に不可能。しかしそれを可能にするのは男のロマンだ」
「男のロマンというよりも、少年マンガ的なロマンだけどね」
「少年マンガの何が悪い? 少年はそこで誇張された物語に首まで浸かって憧れや夢を抱いて大人になってゆくものだろう?」
「悪いなんて一言も言ってないさ。だからそこは男のロマンというよりも、男の子のロマンと言った方が良いと思ってね」
士郎さん、苦笑。
「またかなめさん辺りに笑われそうだな」
「かまわないさ、かなめさんなら、嘲笑ったりはしない。むしろ私たちを羨ましそうに微笑んで見ているんだろうぜ」
「じゃあ、決まりだな。俺たちの目標は、浪漫格闘の完成だ」
しかし、現代格闘技は手強い。具体的に何をするか? だ。
「まずはリュウさん、現代格闘技の技で我々に向いていそうな技を確認してみようじゃないか」
それなら心当たりがある。
「おっと待った。ここは試合場の観客席だ。誰かが聞き耳を立てているかもしれん。拠点へ戻って確認しようじゃないか」
ということで、鬼組とトヨム小隊でゾロゾロと退場。試合場では私たちとはまったく関係の無いチームが六人制試合を戦っていた。
そしてもちろんのことだが、ウチのメンバーたちも鬼組メンバーも、私と士郎さんの会話をしっかり耳にしていた。だから話が早い。鬼組拠点にお邪魔したときには、カエデさんがあれこれと検索を済ませて、メンバーたちと情報を共有していたのだ。
鬼組拠点、道場。私も士郎さんも徒手戦闘の装備。メンバーたちは見学の位置である。ただし、ウィンドウを開いたカエデさんだけは道場の中。
「じゃあ、士郎さん。現代格闘技の技で古武道に引用できそうな、私の心当たりだけど……」
それはどのような技か!? 待て、次回!!!




