令和御前試合アホタレ対決、決着! そしてその後……。
ウソくささとインチキ丸出しとはいえ、フラミンゴの構えが封じられてしもうた。どうにも輝夜は本来の実力だ出し切れとらん。それもあの白鳥の首。忍者の股間から生えとる、あの白鳥の首に心を惑わされちょる。
「切っ先で避けようとすればゆらゆら揺れて輝夜を誘い、ガン無視決め込もうにもつぶらな瞳で見つめてくる。ん〜〜こりゃやっかいだねぇ〜……」
「そうは言っても芙蓉さま、このままでは忍者さんのペースなのですよ。どうにかして巻き返さないと、輝夜さまが負けてしまうのですよ」
あまり考えたくないけど、あり得るわね。今の輝夜はペースを乱されて、凡人以下の実力しか出せていない。対する忍者は絶好調、ついにチュチュのスカートから巧無……いわゆる忍者手裏剣を取り出した。
「わかるよな、輝夜ン。王国の刃が認定する唯一の飛び道具、手裏剣だ。これを打ち込まれれば、お前は三秒間動くことができなくなる。……決着だ」
格好良く言ってるけど、バレエコスチュームに白鳥の首を股間から生やしている。こんな変態に正統派剣士(不思議の国のアリスちゃん)が敗れて良いものじゃろうか?
いや、そんなことあってはならん。
しかし忍者は自分のペース。ひと足、またひと足と間を詰めてくる。忍びの足のおかげか、股間から生えた白鳥の首はまったく揺れない。そのかわり、うつろにしか見えない眼差しで輝夜を捕らえている。
「術にはまったらいかん、輝夜! 手ぇ出して、手ぇ!」
「無理だよ、咲夜。いまの輝夜は忍者の術に肩までどっぷり。もう手も足も出せない状態なんだから」
「じゃけんど芙蓉さま! このままじゃ輝夜が負けてしまうじゃろ!」
「とはいってもねぇ、輝夜が自分を打ち破るかしないと、これはねぇ……」
なにか無いか? なんとかして輝夜が術を打ち破る術は無いか!?
「悪いが輝夜ン、今夜は勝利の美酒とさせてもらうぜ」
「フッ……どのような酒にするのか、聞かせてはもらえないか?」
輝夜、アンタ何あきらめたようなこと言ってんのよ!!
「ラム酒をベースにな、コァントローにレモンジュースのカクテルさ……」
「X……Y……Z………」
「そうだ、これでおしまいって酒だよ……」
ゆらり、忍者は手裏剣を構えた。
「ペンギンさん……」
へ? 瑠璃さま、いま何と? ペンギンさん? それが今この場面で、なんの関係が?
しかし試合場の空気は一変した。
「そうだ! 私にはペンギンさんがいるではないかっ!!」
なにっ?? 輝夜の闘志に火が着いた!? どゆこと!?
「忍者敗れたり! いかに白鳥先生が愛くるしくとも、この私はペンギン党!! もはや迷うところは無いわっ!!」
「なにっ!! 輝夜ン、お前にはこの白鳥先生の可愛らしさがわからんのかっ!」
「わかっている! わかっているぞ、忍者! しかし私にはペンギンさんがいるのだ!! 今の私に迷い無し! ただただペンギンさんを愛でるのみっ!!」
「しかし輝夜ン、もう遅いわっ!」
忍者が手裏剣をさらに振りかぶったとき、輝夜の木刀が唸りを上げた。
白鳥のアゴを下から打ち上げる! 返す刀でしたたか、白鳥の頭を打ち据えた! 衝撃で鞭のように撓る首。白鳥先生は物凄い勢いで忍者の股間をくぐり、ピスッ♪
くちばしが何かに刺さる音がした。
今のいままで雄々しくそびえていた白鳥先生は、もういない。命を失ったかのようにうなだれ力尽きていた。そして忍者は……。
「痛ぁぁぁ……くおぉお……」
お尻を押さえて崩れ落ちる。
「面あり一本! 勝負あり!」
緑柳師範の旗があがった。決着だった、忍者に直接触れてもいないのに、勝負は決した。ただ白鳥を叩いただけ。股間から生えた白鳥の頭を叩いただけだったのに、それが一本となってしまう。
「なんじゃろね、この虚しさ」
しかもその一撃が、あの不気味な白鳥を可愛らしくて叩けなかった輝夜が、ペンギンさんの可愛らしさを思い出すことにより生まれた一撃だというのだから、私としてはもうやってらんない。
ただ、私を慰めるかのように、ウサちゃんの着ぐるみを着た瑠璃さまが、ポムッと肩を叩くだけじゃった。こんなんでえぇんじゃろか?
すると瑠璃さまは遠くを見る眼差しでポツリ……。
「これで、いいのだ……」
リュウです、お久しぶり。
なにやらちょっとばっかしラブロマンス的なことも演じてしまい、お恥ずかしい限り。
とはいえ、メインイベントも勝敗が決し天宮緋影が鬼将軍に対し大きな顔。しかし自軍の兵が敗れたとはいえ鬼将軍も満足そうな表情。
令和御前試合、出場の叶わなかった者も多数いたが、良いイベントだったと思う。それぞれの戦士が全力を尽くし、互いに力量を見せ合った。ことさらに、エンター・ザ・ファイナル以降の試合は審判お忘れてイチ観客に戻ってしまいそうなほど、私自身が楽しませていただいた。
……これ忍者、騒ぐでない。
ここで出場選手全員に、鬼将軍からゲーム内貨幣ではあるが金一封が参加賞として贈呈される。そしてまた、勝者には勝利者賞が贈られた。
……トヨム、いきなり封を切るのはお行儀が悪いぞ。
そして今回の御前試合は、若者たちの胸の内になにか新たな闘志を宿したようだ。誰もすぐにログアウトしようとはしないのである。試合の感想を語り合い、それぞれの拠点でもう一丁。稽古でもしてやろうじゃないかと意気込んでいた。
いい、実にいい。自ら進んで稽古に臨む。それこそが上達の最短距離なのだ。
ということで、私も稽古に励み、明日を目指さなくてはならない。つまり、六人制試合でいつまでも神棚に飾られている訳にはいかないということだ。みずから積極的に、かつ能動的に。ということで私は士郎さんと話し合い得物を変えてみることにした。
木刀を辞めて、しばらく小太刀を使ってみることにする。というか、柔である。
小具足。
そのような名で残っている技術である。もちろん小太刀脇差しを使った技術というのが前提なのだが、これをトヨムのようなオープンフィンガーグローブ、エルボーにニー、シンガードを着けることにより徒手に近い状態で闘ってみたくなったのだ。
「どうだろう、トヨム。これで私も六人制試合に参加させてもらえないだろうか?」
「いいのかい旦那、旦那は木刀を手にしてこそだろ?」
「奢った言い方になるが、これくらいでちょうどいいハンデになるんじゃないかなってね」
まあ、王国の刃ではすでに怪獣同然、災害に認定されてる私だ。慢じるではなく、本当にこれくらいしないとさすがに退屈してしまう。
ということで六人制試合。
木刀を携えていない私が入場すると、閲覧の観客からおお! と声が上がった。
構わないぞ、どんどん私にかかって来なさい。
対戦相手たちは試合場に上がってからも、なにやら耳打ち。内緒話に余念がない。おそらくは私に集中攻撃、噂のリュウから白星を勝ち取ってやろうぜ、というところか。
よかろう、ならば存分に掛かってくるが良い。ここからは達人柔術編だ。
このお話はしただろうか? 例えば中国武術を上げているみよう。八極拳という門派は接近戦には強いが、アウトレンジの闘いでは遅れを取りがちだ。だからロングレンジ戦闘の壁掛掌を同時に学んだりする。これは不足を補う合理的な考え方だ。
ただし、やはり日本武術というのは徳川二六〇年の平安があったせいか、熟成を重視する。基本的には剣術流派が柔術を取り入れる場合、術理が親しいものを併学するものだ。もしくは術理がまったく無関係な場合、剣の流儀に都合よく柔を解釈して、とにかく関連性をもたせたりする。
そう、中国武術に比べて日本武術は、武器術と徒手に親和性があふれるほどあるものだ。
無いモノをツギハギのように盛りつけるのではなく、ただこの道を信じて突き進め! というのが日本武術の非合理性、精神論につながるのである。
古来日本のシステムは『匠』を生み出すためのものですわね。
したり顔で出雲鏡花が語ったことがある。だがしかし、その意見に私は賛成だ。
そう、昨今の動画サイトでは『ここがスゴイよ! 日本人!』というような動画がもてはやされているが、気をつけていただきたい。
ここがスゴイのはごく一分の匠であって、それ以外は脱落してゆくという現実に。だから皆、自分の価値を求めて努力しているのである。