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リュウ先生、語る

その娘が何故、これほどまでに闘争心旺盛なのか?

はっきりと聞いたことのある者はいない。ゲーム内の師匠とされるチームメイト、リュウも「憶測にしかならないから」と、多くは語らない。ベリーショートの髪、短身痩躯の体つき。しかしその眼差しは射るようで、恐れというものを知らない。

嗚呼!!花のトヨム小隊、リーダーのトヨム。痩せっぽちのチビと評される体格だが、パンチ力は思いのほか強く、これまでにワンショットワンキルの山を築いてきた。パンチ力だけではない、筋力も強い。これは柔道経験があり、おそらく実力は黒帯のためと推察される。

ということで私(不特定多数の登場人物)は、リュウ先生にお話をうかがうことにした。


やはりリュウ先生が、小隊長のことを一番ご存知なのですか?

「さあねぇ、トヨムも女の子だ。もしかしたら私の知らない話を、旧白百合剣士団の女の子たちに告白しているかもね」

慎重な物言いですね?

「そもそもがだねぇ」

剣士の細められた目が、鋭く輝く。見る者を威圧する輝きだ。

「他人の過去やプライバシーを、本人の承諾なく根掘り葉掘りほじくり返すのは、良い趣味とは言えないよ?」

心得てます。ですので、私がうかがいたいのはあくまでリュウ先生から見た小隊長のことです。

「まあ、それなら言葉を選んで……ただし、本人のアレコレは推察しないからね?」

心得ています。

では早速、小隊長の第一印象はどのようなものでしたか?

「変わり者、かな。私は登録以降特別な場合を除いて、面小手は着けず得物も木刀のみだったんだ。それでも木刀くらいは装備していた。だというのに、トヨムはスパイクグローブに平服。武器をもってどつき合う王国の刃で、そんな装備で目を輝かせているんだから、変わり者だと思っても仕方ないだろ?」

そこで、力説されたんでしたっけ? 甲冑なんて重たいだけだって。

「トヨムの主張はそうだったね。だけど結果的に、トヨムの意見は私を始めとしたメンバーたちにとっては正しいものだと証明された」

先見の明というものがあったんでしょうか?

「というより、私の印象では本質を見抜く力がある、と思うんだが」

だが?

「そんな能力を持っていたとしたら、トヨムにとってそれは幸いだったのか不幸だったのか」

小隊長のファーストフレンドがリュウ先生だったとうかがってます。だとしたら小隊長は、宝くじを当選するレベルな幸運の持ち主かと。

「いや、違うんだ。そうじゃない……。なんというかな、特殊能力を持つ者は、誰とも仲良くなれない、とでも言おうか……」

リュウ先生には剣術という特殊能力がありますが、なにか面白くないことでも?

「重鎮からは認められるんだけどね、鼻っ柱が強い若い衆なんかからは、随分とケンカを売られたよ」

そこのところを、詳しく。

私が迫ると、リュウ先生は珍しく不快を顕にした。

「剣道の県大会辺りで上位入賞、あるいは優勝なんかすると、自信をつけるんだろうねぇ」

遠くを見る眼差し。それは大人の後悔や希望、その他諸々の想いが詰まった眼差しに見えた。

「ウチの道場に乗り込んで来るんだ。面小手担いで竹刀を提げて。最初の頃は面白いから相手をしてたんだけどね、面倒になっちゃってさ」

なにがどう面倒なんですか?

「県大会優勝の割に、いや、それだからこそ竹刀競技ばっかりでさ。斬れないんだ。斬ってないんだ。斬る気が無いんだ」

先生の使う浸透勁には至らぬと?

「いや、そうじゃない。小手を使って丸い竹刀を持って、斬る手ができますか?

と聞きたいんだ。フィー先生が瑠璃さんを抑え込んだ、にっちもさっちも行かなくした。あれが斬る手なんだよ」

瑠璃さんはそれができていないと?

「結果はもう出てるじゃないか。フィー先生が瑠璃さんに、『それじゃ緋影さんを守れないよ』って教伝しただろ?」

あの抑えっこにはそんな意味が?

「勉強が足らん!」

一気にリュウ先生は怒った。

「死ぬか生きるか、それが剣術というものなのに、古武道というものなのに、君はまったく勉強が足らん!」

ハイッ! すみません! 思わず直立不動。でも、すぐにいつものリュウ先生。

「で、剣道くんをどうしたか? それが肝だよね?」

興味深いです。

「巻藁立ててね、真剣実刀を持ってくるのよ。真剣を見せるだけで、剣道青年はみんなかしこまるんだ。私にはかしこまらないけどね」

はあ……。

「で、斬って見せるのさ。巻藁を、こう……バサーッとね。で、渡すんだ真剣をね。お前もやってみれって」

結果は?

「巻藁が道場の端まで吹っ飛ぶさ! 全然斬れなくってね。それでようやく実力差を認めてもらえるんだ」

結果、そんな若い衆からは、敬意を払われたんですか?

「まさか、『頭のおかしいオヤジがいる』ってね、どいつもこいつも二度と道場には来なかったよ」

それで心を入れ替えて、無双流に入門すれば美談だったんですが。

「だからね、特殊能力なんて持つものじゃないんだ。トヨムだって真贋を見抜く目を持っていなかったら、もっと同世代の女の子たちと仲良くなれただろうに」

そういえば小隊長の服装って、あまり女の子してませんね。

「一時女の子の集いで影響を受けたのか、違う服装してたけどね。結局元の木阿弥。というかあのときのセンスも酷かったよね?」

ノーコメント。

「酷かったよね?」

ノーコメント。

「酷かったよね? えぇ、おい?」

ハイ。

「結局一番効率の良い服装に戻ったんだ。これは女の子として幸せなことかな?」

先生、今はジェンダーフリーの時代です。

「世間一般の価値観じゃない。トヨム個人にとってそれが幸せであるかどうか? だよ。トヨムの人生に大きく影響を与える立場に立って、考えてみてくれ」

あまり、幸せそうでは……。

「だろ? 師匠としては頭の痛いところなんだ」

小隊長は、なぜそんな風になったのでしょう?

「そんな風に、とはお言葉だね?」

貶めている訳ではありません。お洒落や女の子としての楽しみよりも、勝負を優先したのは何故なんでしょうか?

「さあねぇ、本人からは聞いたことが無いから」

先生の目からは?

「それこそ憶測にしかならない」

……………………。

「ま、それじゃあ会話にならないから、当たり障りのない程度にね。君はトヨムのスペックを知っているかな?」

……具体的には?

「身長と体重さ。トヨムのアバターはリアルスペックに合わせてカスタムされている。だからあの見た目が、本物のトヨムに近い」

……中学生……小学生サイズですか?

「私の見立てでは、身長一四八センチ。体重など四〇キロを切っているだろうね。あれで高校時代は柔道をしていたって言うんだ」

高校時代はって、大学生社会人枠なんですか、小隊長!?

「そう、それであの体格さ。ということは?」

「柔道選手として大会に出られなかったんじゃないかな? 小さすぎて」

柔道競技は体重制です。オーバーして試合に出られないことはあっても、軽くて出られないということはありません!

「必死に減量して最軽量級に出ようとしてる選手に、それが言えるかい? そんな大会に減量無しで出場するような、トヨムだと思うかい?」

……………………。

「おそらく市民大会レベルでは、無敵の強さを誇ったんだろうね。もしかしたらだけど、高体連主催なんかの公式戦には、一度も出ていないと思う」

……………………。

「努力が一度も報われなかった、だから王国の刃でその実力を発揮してるんじゃないのかな?」

……小隊長、そんな過去があったなんて……。

「だからこれは、あくまで私の見立て、憶測さ。だけどね、トヨムがこれほど技術の練磨に打ち込む姿を見ていたら、あるいはね」

なるほど、小隊長には燃えるだけの理由があるんですね?

「その理由が何なのかは、確定じゃないけどね」

現代の風潮では、小隊長のようにガッツいた稽古をする者を、嘲笑う傾向にあると思いますが。

「社会が安定している、さまざまなものを国家が保証してくれている。だから若者はガッツく必要が無いのだろ思う。ちょっと街を歩けばすぐにコンビニがある、そこには食べ物がたくさんある。水道の蛇口を捻れば清潔な水が湧き出てくる。スイッチを入れれば電気が通る」

普通ですよね?

「それが普通なのは日本という国が安定しているからさ。だけど、それが普通にできない国もある。もしかしたらトヨムは、それが普通にできない経験をしているのかもしれない」

まさか……この日本で……。

「だけどあのハングリー精神を、他にどうやって説明する?

本人の告白では、ボクシングや総合のジムに通いたかったけど、そんなお金は無かったって。だから部活で柔道をやってたってね」

……………………。

「家庭の事情というものはある。そしてつい最近まで学生服を着ていたトヨムに、その責任は無い。だからこそ、トヨムに親を責める権利は無い。さらに言うと、トヨムは私の前でそのようなことは一言ももらしてはいない。だから私も、トヨムのことをあれこれと詮索はしたくないのさ」

軽率でした。

「そんなことは無いよ。トヨムも今ではゲーム機械を購入できて、みんなと楽しむことができるようになったんだ。変な気づかいは逆にトヨムに対して失礼というものだ」

その一言に救われる思いです。

「救われているのは私の方さ、トヨムの明るさと力強い生き方にね」

では話を変えて、小隊長は自分から小隊長に立候補したんですか?

「いや、チームを組もうとかの言い出しっぺだったから、私が押し付けた。だけどそれは正解だったね。メンバーの誰が抜けてもトヨム小隊はトヨム小隊だけど、トヨムが抜けるとそうじゃなくなる」

過去のイベントでは、何度か小隊長が抜けてますが、やはりチグハグでしたか?

「その辺りの調整はカエデさんがしてくれるけど、やはり私の側にはアレがいないと、どうにもシマらない」

失礼ながら、リュウ先生が小隊長依存症なのでは?

「そうとも限らないよ。トヨムにはやはり将器がある。生まれつきの親分肌、姉御肌なのさ。初めてのイベントのときにね、カエデさんが囮役を買って出たんだ。チームの勝利のためにね。だけどそれに猛反対したのが、トヨムだったんだ。それじゃあカエデさんが可愛そう過ぎる、戦果にも差が出て不公平だ、そんなのは絶対に認めないぞ!

ってね」

小隊長らしいですね。

まだまだ訊きたいことは山ほどありますが、最後にひとつ。






小隊長とシャルローネさん、どちらが勝つと思いますか?


「君もイヤなこと訊くねぇ、そんなこと分かる訳無いだろ?」

リュウ先生の予想は小隊長、ということにしておきます。

「やめれバカタレ」


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