葵ちゃん奮戦記
さて、間もなくチャレンジマッチ開催。試合直前の様子を、今一度中継していただきましょう。
赤サイド、中継は比良坂瑠璃さんですわ。瑠璃さ〜〜ん?
「……………………………………………………………」
あの、瑠璃さん? なにか喋ってくださいまし。
「………………………………………………………………………………………………………………………」
ですから、瑠璃さん? 誰ですの、このような無口な方をリポーターに据えたのは!?
「リポーター代わって、三条歩なのですよ〜♪ 今日のお姉さまは気合十分! ぱんつも勝負ぱんつとばかり、真っ赤なハイレグTバックなのですよ〜♪」
あの、歩さん? 貴女、何を?
「でもでも赤ぱんつを履いていても、お姉さまは遊び慣れてなどしておりません! まだまだ修行中なのですよ〜♪」
ですから、歩さん!
「以上、勝ちたいときにはFカップ♪ 揺れるバストはFカップな三条葵お姉さまのリポーターなのでした〜♪」
よ、ようやく終わりましたわね。歩さん、貴女わたくしの番組をどうしたいんですの?
「な、出雲鏡花? おっぱいデッカイと寝るときはぶらじゃあ付けてんのかな?」
はて? わたくしはCHANELの5番しか身につけておりませんので、よくわかりませんわ。
「そこでセクシーアピールすんなよ……」
続きまして白サイド、リポーターはホロホロさんですわ。ホロホロさ〜ん?
「……ベルキラはHカップあるもん!」
ですからホロホロさん!!
「しかも張りがスッゴイんだから!」
「そ、そんなにスゴイのか……? ……ゴクリ」
小隊長まで!! おっぱいはサイズではなく形でしてよ!!
「なんて話をしてたら、白サイドの選手たちが前かがみになってるんだけど、男ってイヤですねぇ~♪」
ホロホロさん、貴女わかっててやってますわね? そのような話題を振れば、殿方がこうなることを知っていて、煽っておりますわね!
「なー鏡花、なんで前かがみになるんだ?」
ボクシングのクラウチングスタイル、戦闘態勢万全ということですわ。
「アタイはまた、男子諸君が口にはできない状態になったかと思ったよ」
小隊長ーーっ!!
「これ以上こんなトコロにいると赤ちゃんが出来ちゃいそうなので、早々に退散するホロホロのリポートでした!
それでは東京の徳光さんにお返しします、ズーム・イン!」
他局ですわ! 他局のネタで何してくれやがりますの、ホロホロさん!
「いやぁ、なんだか面白い方向に事態が発展しそうだな、出雲鏡花!」
小隊長は世間一般で何が起ころうとも、幸せそうで羨ましいですわ。
それでは赤サイドから、三条葵さん。ようやくの入場ですわ! 入場曲はベビーフェイスを意識しているのでしょうか、総合格闘技を意識しているのでしょうか?
UWFのテーマですわ!
プロレスというにはスタイリッシュ、格闘技と呼ぶには黎明期。日本中を興奮の渦に巻き込み、一大格闘技ムーブメントの火付け役となったUWF。そのテーマ曲で三条葵、いま試合場に……登壇しました!
対しまして白サイド花道、まずはカラテ青年が控えておりますが、入場曲はパワーホール! プロレス界の革命児、長州力のテーマ曲パワーホールで入場です!
七色のカクテルライトに彩られた会場内、その花道を通って無名のカラテ青年が下剋上を狙って……いま、リングインですわ!
トヨム小隊長、両者を比較して、どうでしょう?
「まずはデータを比較だな。カラテくんは身長一八〇センチ体重七五キロ。ちょっとまだ筋肉が足りてないか? 対する三条葵、身長一五七センチ体重不詳のFカップ」
そこに食いつきますわね、小隊長。
「性別差や数字の上では勝負にならないけど、こんなものは数字に過ぎないよ」
あら、数字は絶対ですわよ小隊長?
「闘いはね、気迫。もうこれだけですよ、って昔輪島功一会長も言ってた」
具体的にどのような攻防が予想されますかしら?
「カラテくんは突き放したい、三条葵はくっつきたい」
密着プレイですわね? ハレンチですこと。
「必ずしもそうとは限らないぞ。三条葵にだって突き蹴りの飛び道具はある。おまけに目に指を入れるくらいの芸当はしてくれる」
技の引き出しは葵さんですかしら?
「どんな反則技を見せてくれるか、アタイも楽しみにしてんだ」
極悪ムードも盛り上がってきた会場。交代した主審、緑柳師範の号令で、試合開始ですわ!
グシャ。
お〜〜っと〜〜っ! 試合早々に、葵さんの足刀蹴りが、カラテ青年の膝を砕きましたわーーっ!
「カラテの殺し技のひとつ、関節蹴りだな。カラテじゃ禁じ手になってるから、慣れてないんだろ?」
緑柳師範、試合を止めましたわーーっ! 一戦目、関節蹴りの禁じ手をもって、三条葵さんの勝利! 会場も湧きに湧いておりますわ!
「ま、これくらいやってくれなきゃ三条葵じゃないだろ」
小隊長の中の葵さんは、相当な極悪人なんですのね? さあ、次の生贄……ではなく、挑戦者ですわ! 柔道黒帯の大型選手、現役高校生の入場!
曲はピンク・フロイドの名曲『吹けよ風 呼べよ嵐』ですわ!
さ、両者向かい合って試合開始! 小隊長、今回の注目すべき点はどこでしょうか?
「敵は盛りに盛った純情高校生、こいつを三条葵がどんな下衆い手でイワセるか、だな」
本当に小隊長、葵さんのことが嫌いなのですわね?
「ツルペタ族からすれば巨乳一族はすべて敵だ」
あら、わたくしも小隊長の敵になりますかしら?
「…………お前はこっち側だろ?」
なにをおっしゃいまして、Aの貧民さん! わたくしBはありましてよ!!
「大きさじゃなくて形だとかホザいてる時点で、お前は貧しく虐げられた民なのだ。ヨ、同志」
仲間にしないでくださいまし! ポミッとか馴れ馴れしく肩に触れないでくださいな!
とか言ってましたら? 葵さんが襟を取られましたわ!
「取られたんじゃない。取らせたのさ」
おっと、葵さんの襟を取った手、そこに葵さんが手を添えただけで、柔道くんが飛び上がりましたわ!
「指への関節技さ。見ろ、三条葵は内懐に入ったぞ」
そのまま脳天真っ逆さま、天地返しのような大技ですわ!
「どこ見てんだよ?
投げる前にヒジ入れてたぞ、三条葵の奴。それにしてもカラテは蹴りで仕留める、柔道は投げて仕留める。三条葵って、ホントやることがエグいよな……」
言われてみればそうですわね。葵さん、今夜は本気のようですわね。
「赤ぱんつ履いてるくらいだからな、気合も入るってモンさ」
小隊長などは勝負下着を所持してまして?
「出雲鏡花、試合に集中しろ」
所持しておりませんのね? 勝負下着。
「試合に集中しろ、出雲鏡花」
さてチャレンジマッチはその後も危ういことさえ無く葵さんがトントントーンと白星を重ね、いよいよ十人目ですわ。
と、なにやら裏方が騒がしいですわね。
「なんだ? 十人目を予定してた選手が、欠場したらしいぞ」
あらあら、葵さんのことが怖くなって仮病でも使われましたかしら? 白サイドのホロホロさん? その辺りどのようになっておられますかしら?
「白サイド控室、ホロホロです。さきほど入念にアップをしていた、総合格闘技の選手なのですが、突如として現れた謎の覆面格闘家によりKOされてしまいました。覆面格闘家は『貴様では三条葵には勝てん、私の出番とさせてもらうぞ!』などと身勝手な発言をして、試合場へと向かってしまいました」
あらあら、突発的なイベントが発生してしまいましたわね♪ どのように思われますか、小隊長?
「いや、悪い予感しかしないだろ、コレ……」
さて、謎のマスクマンの入場ですが、おやおや季節外れのジングルベル。サンタクロースが入場してまいりましたわ♪
チビっ子たちが群がって、サンタさんにプレゼントをおねだりしてますわね。
「が、その覆面を剥ぐと……っ!」
出たーーっ!! 満を持しての登場、鬼神館柔道総帥フジオカ先生その人でしたわーーっ!!
「入場曲もせ〇た三四郎に変わってるぞっ! いいのか運営っ!? ってゆーか旦那、緑柳師範、士郎先生っ! そいつをつまみ出せーーっ!!」
あぁっ、小隊長の願いも虚しく、主審緑柳師範。両者を中央に呼び寄せ、ルール確認に入りましたわ!
「三条葵よ、君の柔に愛はあるかっ!! 夢はあるかっ!! 稽古に励むのだっ、骨が折れるまで! 骨が折れるまでっっ!!!」
一見良いことを言っているように聞こえますが、カレシ無しの修行中な葵さんに、愛を語るとはなんとも酷ですわね。
「へっ、どうせ右の胸を張りには愛を、左の胸には夢を蓄えてるわ、とかいうんだろうよ」
ヒネてますわね、小隊長。胸の貧しきは心まで貧しくさせるのですわね……。
「お前も同族だっつってんだろ」
「謎の柔道家、フジオカ三四郎さん! 私は右の胸に愛を! 左の胸に夢を蓄えてるわ!」
言ったーーっ! 言いましたわね、葵さん! これで葵さんも小隊長と同じレベルですわよーーっ! わたくしはゴメン被りますけどね!!
「しかし三条葵、私がこのテーマ曲で入場したのには訳があるのだ!」
そう、先ほどからサビ部分が執拗に繰り返されておりますわね……これは一体?
「ああっ! フジオカ先生が二人っ!? 四人っ!? 八人十六人、どんどん増えていくっ!!」
増殖するフジオカ先生、その全員が腕を組んで大きな態度! しかし、試合壇からこぼれるこぼれる! その数、日本野鳥の会調べによりますと、実に百人!
百人フジオカの達成ですわ!
さらにみなさま、窓の外をご覧くださいませ! 屋根より高い頭の位置、巨大なフジオカ先生が闘志満々の目つきで試合場を見下ろしてますわ!
「フザケすぎだろ、やり過ぎだ……」
しかも百人フジオカ、一斉に葵さんに襲いかかりましたわっ! さすが日本柔道の名誉を守るためなら、手段を選ばぬ鬼神館柔道! 葵さんは今いずこ!?
暑苦しいフジオカ先生の群れに押しつぶされて、いまや消息不明ですわ!
レスキュー! レスキュー!! 葵さんを救い出してくださいませ!
「百人フジオカ、百本! 勝負ありっ!」
あーーっ!! これでよろしいんですの、令和御前試合! いまここに、百人フジオカ先生の勝利が緑柳師範によって宣せられてしまいましたわっ!!
この世に正義はあるのでしょうか!? 神は滅んだというのでしょうか!? 神も仏もまったく信じていないわたくしが申しても、薄ら寒いだけですわ!
「自分で言うなよ、お前」
とにかく令和御前試合チャレンジマッチ、予想外の幕切れということだけお伝えいたしますわ!
みなさん、さようなら!
「これで終わったらアタイ出番無いじゃん」




