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初日、反省会 SIDE陸奥屋

東軍、陸奥屋一党鬼組の忍者

満点はつけられない、だが失格点でもない。そんな中途半端な成績の初日だった。だからこそ忍びの者としては合格、満点なのかもしれない。今日はイベント中マップを眺めては走り回り、あちこちで友軍の応援。それぞれの戦線で勝ち負けはあったものの、なんとか死人部屋送りは免れた。

なにしろあのリュウ先生に出くわしたのだ。それでいて死んでいない。これは自分を褒めても良いかと思う。

だがしかし、と考える。陸奥屋一党の成績はどうだったであろう。私もイベント中にマップを確認はしていた。しかし成績表目的で眺めていた訳ではない。軍師どのや本陣とは評価や採点は違うかもしれない。

「フィーはどう思う、今日の戦闘は?」

ウィンドウを開いて、フィーは今日の戦闘をダイジェストでチェックしている。

「ん〜〜……まずは新人くんたちね。カエデさんの中隊を相手に、全員生還。これは部隊の目的を果たしているね、合格点。キルはひとつも取れてない……キョウちゃんがふたり葬ってるか……。それでもカエデさん中隊を縛り付けてるから、満点でもいいよね」

次に中堅、ジャスティスなジョージたち。

「これこそ二人一組、ヒット&ランのお手本。特に女の子たちが上手に男性陣をフォローしてるね。すごいすごい、非力でも役に立つ非力でも闘える。それを証明してるんだから女の子たちに満点♪

で槍組と吶喊組。ここは難関、狼牙棒部隊と戦ってたっけ。結果だけで採点するなら『もっとがんばりましょう』だけど、これは敵が悪いよ。爆弾が落ちたと思ったら取っ組み合いに専門家が出てきて、相手をしようかなって思ったらまた爆弾が落ちてくるんだから。それなのに乱闘になったら狼牙棒を三人葬ってるんだから、私的には充分合格点」

「がんばったっていうなら、カツンジャーの連中か。いや、あれはがんばったっていうより予想外だったかな?」

「あれが総裁の隠し玉なのか……だとしたら再試験、赤点レベルだね」

「厳しいな、フィー」

「戦果としては素晴らしい、そしてものすごい戦力になっている。でもね、いずみ。せっかくの隠し玉、こんな序盤でお披露目してどうするの?

もう『まほろば』は、彼らの存在を知っちゃったよ?」

「いや待てフィー、これは上々の隠し玉だぞ!」

私はA陣地を指差した。陸奥屋もまほろばも、東軍も西軍も戦闘に夢中になっている中、空気も読まずに陣地を押さえているプレイヤー……天誅戦隊カツンジャーのリーダー、ビッグスワンだ。


「戦場の空気も読まんでこんなことしてるアホ、陸奥屋以外では考えられん、よって我々の勝利だ!」

「いずみ、勝利条件がまんま総裁だよ? 女の子としてそれはどうなのかなぁ?」

「いやいや待て待て、私はあくまでウチの大将だったらこういうかな、と想定しただけであって、何も私があの変態鬼将軍化しているとか影響されているとか、そういうことは無くてだな……」

あれこれと言い訳をしていると、不穏な気配。私たちに向けられた殺気ではない。だからこそ、敵のいない拠点だからこそ、こうも殺気立つ者が存在する理由がわからない。振り返って確かめてみた。我ら鬼組のリーダー、士郎先生の御息女ユキッペがいた。

「忍者もフィー先生も、楽しそうだね〜〜……私はキルを取られた女……ユキ……」

「ま、待ってユキちゃん。あれは事故! そう、事故なんだから仕方ないよ!」

「そ、そうだユキッペ! 不意討ちだったんだから、不覚も仕方ない!」

とりあえずクソ真面目なユキッペをなだめなければ、真正面から撃ち合ったらこの女、かなり危険な存在でしかない!

「……不覚……不覚悟……世が世なら私、切腹モノじゃないですか……」

「いいから腹を寛げるな! 乙女のヘソは世界の宝だぞ!」

「あぁ……若い素肌が妬ましい……じゃなくって! ユキちゃん、自裁なんてお姉ちゃんが許しませんよ!!」

二人がかりでどうにか取り押さえる。しかし心の痛手が大きいのか、ユキッペは虚ろな眼差しで「不覚者の歌」をくちずさんでいた。


私は〜不覚悟のだらしない女〜〜♪ ガブラッチョは〜ダチョウな〜の〜よ〜♪


いかん、訳のわからん歌詞を口走っている。これは重症だ。

「ユキちゃん、ここであなたが自裁したら(ゲーム内なので死にません)復讐のときは永久に訪れないよ!」

「そうだユキッペ! やられたらやり返す、それが草薙の剣士だろ!!」

「やり返す?」

ユキッペの眼鏡が、あやしく発光した。あきらかに悪いことを企んでいる顔だ。しかしそれに気づいていないフィーが、さらに無責任な煽りを入れる。

「そうだよユキちゃん、ゲーム内ではどれだけジェノサイドしても構わないんだから!」

「ちょ……待て、フィー……」

「失敗は繰り返さないこと、失敗は穴埋めすればいいこと。ね、ユキちゃん♪ 一緒にガンバろ?」

「そうですね、フィー先生……」

柔の手で取り押さえていたのに、ユキッペはヌルリと抜け出た。そして幽鬼のごとく、ユラリと立ち上がる。

「フィー先生の言うとおりでした。この借りは、利子をたっぷりとつけてお返ししなきゃね……」

「だからフィー、あんまり煽るな。ユキッペの様子が変だとおもわないのか!?」

「え? いつもの真面目でおとなしいユキちゃんでしょ?」

「お前の目は節穴だーーっ!!」

「あ、ホントだ。いずみが可愛らしいお嬢さまに見える」

だからお嬢とか姫とか、やめろっつーの。

はてさて、狂戦士ユキッペの誕生だが、これがイベントにどんな影響を与えるやら。



天誅戦隊カツンジャーの面々

「飲むかね、艦長……」

古強者の鬼軍曹は、ウイスキーの瓶を差し出した。

「銘柄を聞いてもいいかな?」

艦長の声は年齢に似合わぬ響きがあるが、若々しさと力強さのある井上真樹夫声である。

「アンドロメダのレッドバーボンだ」

「いただこう……」

艦長はグラスを差し出す。そこに注がれたバーボンは、琥珀色ではなく独特の赤みを帯びていた。そして香りも強く、バーボンらしからぬ辛口である。(注

もちろんゲーム内なので飲酒などできません

グラスの赤い酒を、艦長はグビリとひと口。そして腔内でころがして舌で味わい、鼻腔から抜ける香りを楽しんでからじっくりと飲み込んだ。

「艦長、海賊ならばラム酒じゃないのかね?」

「上陸したときくらいは、楽しみたい酒を楽しむさ」

歴戦の古強者、そして年若いがすでに歴戦の海賊。差し向かい、胡座座りで酒を楽しむ。

それを見ていたセーラー服の娘が、頬をふくらませる。

「いいよな、男ってさ。あれですべてがまかなえるんだからよ」

「ふふふ……サキさん、女の子同士のシチュエーションは、もっとお上品にいきましょうね?」

シスターが懐から出したのは、上物そうなワインであった。

「おいおい、シスターが酒飲んでいいのかよ?」

「サキさん、洗礼のときには舌の上に聖餅を載せてワインを口に含むんですよ?

というか牧師さまもワインくらいたしなみます。ワインにしないと水が飲めない地域もありますから」

「へーへー、じゃあいただきますか。ってその聖餅ってのがこれかい? どう見てもビーフジャーキーなんだけど……」

「あら、サキさんにはそう見えますか? 私には聖餅にしか見えませんが……」

「大人って汚ぇよなーー!」

「ダメですか?」

「いや、アタシはそんなシスターが大好きだけどな」



陸奥屋総裁

総裁鬼将軍は苛立たし気に、盤面の駒を眺めていた。そうであろう、彼の中で思い描いていた初日の戦闘では、すでに『まほろば』前衛くらいはことごとく撤退させ、本陣の天宮緋影を狼狽させるくらいの位置を占めていたはずなのだ。しかしそれがどうであろう、厄介な狼牙棒部隊と面倒なカエデ中隊により、越すに越されぬ田原坂となっている。

大乱戦のどさくさに紛れるかのように、どうにか狼牙棒部隊の一部は討ち取った。しかし戦果はそれだけ。どさくさ紛れだっただけあって、集団でその穴を突破する、などということも叶わずいたずらに時間だけ過ごしてしまった。

「どうかね、ヤハラ軍師どの?」

「怒涛の展開、豪快な戦闘とはなっておりませんが、計画通り。兵はいつでも総攻撃を仕掛けられるだけの数を残しております」

「それは敵軍もそうであろう」

「左様、陣地攻略や要塞攻略というのは、まこと、金と時間がかかるものにございます」

「それで、いつヤルのかね?」

「閣下、かの沖縄決戦では大本営の横槍指導のためいたずらに総攻撃を敢行。有利な要塞を維持出来ぬまでに損耗しました。ここは辛抱です」

鬼将軍、ジッと盤面を見る。

「……ん? 軍師どの、そちらから盤面を眺めさせてもらってもよろしいかな?」

「どうぞ」

私は場をゆずる。

改めて盤面を眺めた閣下、突然の破顔一笑。

「なんだ軍師どの、これでは突撃も総攻撃もならんはずさ!」

「お気づきになられましたか」

そう、まほろばと陸奥屋一党。向きこそ違えど、陣地構成は鏡写し。つまり要塞と要塞がぶつかり合っている状態なのだ。

デスゾーン、つまり絶対にキルを取る場所がまほろばでは狼牙棒部隊とまほろばメンバーたち。ここには陸奥屋一党、鬼組を始めとして精鋭部隊を配置している。そして両翼は隊長が率いる新人中隊と中堅どころの人員。互いに主砲を横から攻められぬよう、堅固に固めている。

口うるさい軍師ならば、「なんのまだまだ、動線がデスゾーンに自ずと向かうような配置でなければ、要塞とは言えませぬぞ!」と来るであろうが、そこまでの人材は『王国の刃』には無い。

しかしここに一般プレイヤーがうっかり足を踏み入れようものなら?

間違いない、やかましい新兵の群れや中堅部隊をかいくぐった先には、デスゾーン……絶対にキルを取るマンが待っているのだ。

「さてそれでは軍師どの、明日はいかなる一手を打ちますかな?」

「彼我ともにがっぷり四つ。ここは思い切った手を打ってみようかと」

軍師は墨で黒々と一筆。

強襲、とだけ書いた。


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